「入門者向け時代伝奇小説五十選」公開中

 特別企画として「入門者向け時代伝奇小説五十選」(第一期)を掲載しています。
 入門者にとって、間口が広いようで狭いのが時代伝奇小説。何となく興味はあるのだけれど何を読んだらよいかわからない、あるいは、この作品は読んでみて面白かったけれど次は何を読んだらよいものか、と思っている方は結構な数いらっしゃるのではないかと思います。
 そこで今回、これから時代伝奇小説に触れるという方から、ある程度は作品に触れたことのある方あたりまでを対象として、五十作品(冊)を紹介したいと考えた次第です。

 さて、第一期五十選については、膨大な作品の中から以下のような条件で選定しています。
(1) 広義の時代伝奇小説に当てはまるもの
(2) 予備知識等がない方が読んでも楽しめる作品であること
(3) 現在入手が(比較的)容易であること
(4) 原則として分量(巻数)が多すぎないこと
(5) 一人の作者は最大二作品まで
(6) 私自身が面白いと思った作品であること

 そして、その五十作品を、それぞれ五点ずつ以下の十のジャンル・区分で分けています。
1.定番もの
2.剣豪もの
3.忍者もの
4.SF・ホラー
5.平安もの
6.室町もの
7.戦国もの
8.江戸もの
9.幕末・明治もの
10.期待の新鋭

 上記はあくまでも便宜上の区分であり、必ずしも厳密に該当するわけではない(あるいは複数に該当するものも多い)のですが、ご覧になる方に一種の目安としていただくためのものとしてご了解ください。

 この五十選が、楽しい読書の一助となればこれに勝る喜びはありません。

| | コメント (1) | トラックバック (1)

2016.12.03

『仮面の忍者赤影』 第50話「とかげ忍獣じじごら」

 カラスの群れに異変を感じ向かった先で樹から吊された百姓・半助を見つけた赤影たち。魔風から逃れた仲間がいると聞いた赤影は青影を囮に残し、半助の案内で天狗山に向かう。しかし半助の正体は、魔風の不動金剛丸だった。辛うじて金剛丸を退けた赤影たちだが、その前に巨大な影が出現する……

 気がつけばもう残り3話ですが、相変わらず陽炎が連れ去られた敵の本拠はわからぬ状態の赤影たち。と、空を覆うカラスの群れに異変を感じた赤影たちが森の中に向かってみれば、そこには高い木に吊された男の姿がありました。死体かと思って降ろしてみればまだ息のあった男は近隣の百姓・半助。魔風に攫われて強制労働していたところを仲間たちと逃げ出したのですが、自分のみ捕らえられて吊されていたと彼は語ります。
 と、そこで何かを察した赤影と白影が周囲の木々に攻撃を仕掛ければ、木から激しく吹き出す赤い血潮! 青影が目を丸くして見つめる中、周囲の木は全て魔風の下忍に変わるのでした。さらに鉄砲隊が周囲から銃撃してくる中、赤影たちはとりあえず爆発を起こしてそれに紛れて消えます。

 さて、半助から仲間たちが天狗山の洞穴にいると聞かされ、そちらに向かうこととした赤影。筏で川を行く一行ですが、そこにジョーズの背びれの如く水面に突きだした白刃が迫ります。気付いた時には次々と筏の丸太を束ねる綱を切っていく白刃。赤影たちが水中に攻撃を仕掛ければ、水面を赤く染めて浮かび上がる下忍たちの死体……。しかし既にバラバラになった筏を放棄して、一行は大ジャンプで岸に飛び移ります。
 それにしてもうち続く魔風の攻撃。一計を案じた赤影は、青影に後を任せると(本当に軽く任せるのが逆にイイ)、自分たちは天狗山を目指します。一人残った青影は、三人分の藁人形をこしらえると、焚き火を囲む態を装いますが……しばらくは下忍の目をくらましたものの、やはり青影一人がちょこまか動いているのはどう見ても怪しく、下忍の襲撃を受けてしまいます。それを軽々と躱した青影ですが、その前に巨大な影が――

 一方、無事に天狗山の洞穴に到着した赤影たちですが、人の気配が感じられません。それでも中に入ってみれば、そこにも下忍たちが待ち伏せていたではありませんか。撃退して表に飛び出した赤影と白影を待ち構えていたのは半助……いや、魔風十三忍が一人・不動金剛丸! 高みに立ち、二本の野太刀(の鞘という中途半端な場所)から光線を放つ忍法地雷火陣で周囲は大爆発、影一文字で大ジャンプした赤影にも空中で光線が直撃、地上の白影も爆発に飲み込まれます。
 えらく芝居がかった所作と台詞で地上を見回し、勝利を確信する金剛丸。しかしそこに何故か地蔵に化けた(忍法石仏?)赤影参上! 白影ももちろん健在で、二人の攻撃の前に、あっさりと金剛丸は沈むのでした。

 が、突如そこに現れる巨大な影。巨大な一本角と一つ目の怪忍獣ジジゴラであります。ここでなんか唐突な感じで弱点を探ろうと仮面を透視モードに変える赤影ですが……ジジゴラの胃の中には青影の姿が。さしもの赤影も、手出しできずに焦りの表情を浮かべます。
 さらに腕の皮膜で宙を飛びながら、ジジゴラが一眼から破壊光線を連打。追い詰められた赤影たちの耳に響くのは、瀕死の金剛丸の叫び……陽炎と青影を助けたければ地獄谷へ来いというメッセージを残し、金剛丸は爆死するのでした。

 そしてその地獄谷では、柱に縛り付けられた陽炎を満足げに見やる、黄金の仮面姿の雷丸の姿が……


 これまでもそうでしたが、二段三段構えのトラップが印象に残る今回の魔風の攻撃。赤影たちを油断させるため、半死半生でぶら下がっていたこ金剛丸のガッツには脱帽です。
 その金剛丸、ダブル野太刀をひっさげた毛皮のベストというえらくワイルドで格好良い姿だったのですが、意外とあっさり倒されたのは残念でした。


今回の怪忍者
不動金剛丸

 二本の野太刀を武器とする巨漢。太刀の鞘などから放たれる破壊光線・地雷火陣が最大の武器。魔風から逃れてきた百姓に化けて赤影たちを誘導、幾度も下忍たちの罠に誘いこんだが、全て突破された末に自らも敗れ、地獄谷に来いと言い残して死亡する。

今回の怪忍獣
ジジゴラ

 巨大な一本角と一つ目、脇の下の皮膜が特徴的な怪忍獣。皮膜で自在に空を飛び、目からリング状の破壊光線を放つ。単独行動をとっていた青影を捕らえたその正体は……?


『仮面の忍者赤影』Vol.2(TOEI COMPANY,LTD BDソフト) Amazon
仮面の忍者 赤影 Blu‐ray BOX VOL.2<完> (初回生産限定) [Blu-ray]


関連記事
 『仮面の忍者赤影』 放映リスト&キャラクター紹介

| | トラックバック (0)

2016.12.02

宮島礼吏『もののて 江戸忍稼業』第1巻 開幕、逆手の忍びの一大アクション

 「もののけ」ならぬ「もののて」の噂が飛び交う江戸時代の中山道街道筋を皮切りに展開する、何ともユニークな忍者漫画の第1巻であります。旅の少女が出会った長袖の青年の正体とは……(物語の展開に触れることになりますのでご注意下さい)

 襲われた者の身に、巨大な爪の跡を残すと恐れられる「もののて」。医者を目指して諸国を見聞中の少女・おこたは、中山道を旅する中でその怪物の噂を耳にします。
 その彼女がある宿場で目にしたのは、土地の悪党どもに雇われ、容赦なく借金の取り立てを行う長袖の青年・皆焼。その態度に反感を抱いたおこたですが、そこで長袖に隠されていた彼の手を目にすることになります。何とその手は右と左が逆……右腕に左手が、左腕に右手が、それぞれ外側を向いてついていたのであります。

 そしてその晩泊まっていた宿が悪党たちに襲われ、囚われの身となったおこたは、彼らの根城で皆焼に再会することとなります。
 周囲の人間からは異形と忌避され、恐れられる皆焼の逆手。しかしその手を恐れるどころか好きだと言うおこたに心を動かされた皆焼は――


 という第1話の本作、核心に触れてしまえば皆焼の正体こそは「もののて」……正確にはもののてと恐れられる人間。その逆手に幾本もの刃を手にした彼は、通常の剣術の理法などは一切無視した、五体すべてを用いた攻撃を操る忍だったのであります。
(その何本もの刃の攻撃の跡が、獣の爪のように見えるというのが面白い)

 街道沿いの賊を内偵するという任務を受けていた皆焼はおこたの依頼に応えて賊を鎮圧、依頼の費用返済のために彼と行動を共にする羽目になった彼女とともに、街道の行く先々で騒動を引き起こす……というのが、この第1巻の主な物語であります。


 そんな本作の最大の特徴は、言うまでもなく、本作のタイトルでもある皆焼の逆手。その異形が行く先々で人々から差別され、嫌悪されるというのは、いささか危険球で、なかなかに思い切った設定だとは思いますが……それはともかく、ビジュアル的なインパクトは満点。
 見慣れたものが逆についているというのはそれだけで強烈な印象を与えるものだ、ということを今更ながらに知りましたが(作画もかなり大変なのでは……)、もちろんインパクトだけではありません。

 上に述べたとおり、常識離れした剣術(と果たして呼んでよいものか?)を操る皆焼。なるほど、通常の剣術使いが左利きの相手と対峙するだけでも相当苦労すると聞いたことがありますが、これはその比ではありません。
 そしてそんな腕から繰り出される常識外れのアクションが実に面白い。剣を剣とも思わぬその技は、その逆手によるものだけでなく、忍のそれとしてある種の説得力と意外性を持っていますし、何よりも絵として漫画として、実に映えるのであります。

 また、そんな皆焼の逆手をおこたのみが美しいと感じ、それが二人を結ぶ絆となるというのは、これはお約束かもしれませんが、やはり美しい設定でしょう。
 第三話のラスト、戦いを終えて疲れ果てた皆焼に膝枕をしたおこたが、そっと皆焼の手と指を絡め合う場面は、本作ならではの無上の美しさがある……というのはいささか大げさかもしれませんが、この第1巻で一番こちらの胸を打ったことは間違いありません。


 もちろん、これはある程度意図的なものかと思いますし、野暮を承知で申し上げれば、考証的には非常にアバウトであります。また、現代の用語が色々と使われていることには(考証云々よりも純粋に滑っている感があって)やはり違和感はあります。
 こうした点はあるものの、むしろ本作の場合は、上に述べたような長所を伸ばしていくうことこそが重要な作品でしょう。

 第1巻で描かれた物語はおそらく序章、終盤で登場した皆焼の職場、彼の仲間たちがこれからどのように彼に、おこたに絡んでいくことになるのか。忍者アクションとしてはこれからが本番なのでしょうから――


『もののて 江戸忍稼業』第1巻(宮島礼吏 週刊マガジンKC) Amazon
もののて(1) (週刊少年マガジンコミックス)

| | トラックバック (0)

2016.12.01

鳴海丈『廻り地蔵 あやかし小町大江戸怪異事件帳』 怪異に負けぬ捕物帖を目指して

 「おえんちゃん」こと妖怪・煙羅に守られたあやかし小町・お光と、北町奉行所の熱血同心・和泉京之介のカップルが怪奇の事件に挑む連作シリーズも本書で第三弾。謎解きありあやかしとの対決ありと、三つの事件が描かれることになります。

 と、いきなりあとがきの話で恐縮ですが、本シリーズは(というより作者の作品の多くは)文庫書き下ろし時代小説には珍しく、あとがきが収録されています。
 本シリーズでは企画の原点やモチーフになっている作品など、興味深い内容が多いのですが、本書はそこで「変身人間三部作」に言及されているのに驚かされます。

 変身人間三部作とは、60年ほど前に東宝が製作したSF映画……『美女と液体人間』『電送人間』『ガス人間第一号』の三作品。
 この三作の特徴とは、いずれも科学技術によって超常的な能力を得た存在を描きつつも、あくまでもそこで展開されるのは「人間」の犯罪ドラマであり、それ自体に魅力があること……というのは作者の言ですが、確かに三部作で描かれるのは、麻薬密売・連続殺人・銀行強盗と、ある意味実に人間的な犯罪の数々でした。

 そしてこの三部作、特に『液体人間』のように、それ自体が一級の犯罪ドラマとして成立している……この「あやかし小町」シリーズも、そのような作品でありたいと、作者は宣言しているのであります。
 実際のところ、本作の第1話であり、表題作である『廻り地蔵』は、その狙いを体現した作品と感じます。


 ある晩発見された、厨子を背負った男の死体。探索に当たることとなった京之介は、その場から立ち去った男を押さえたものの、殺人犯は別にいることを知ります。
 一方、ある小間物屋で、店の人間全員が食事の際に何らかの毒に当たり、特に主人が人事不省の重体に陥るという事件が発生。さらに、別の店では主人の孫が誘拐されるという事件までもが起きるのでした。

 お光の目撃から、誘拐事件を起こしたのが最初の殺人の下手人と同じ男であることが判明するのですが、果たして連続する3つの事件に共通点はあるのか。最初の事件の厨子に手がかりがあると睨む京之介ですが――

 と、入り組んだ内容の本作ですが、事件の展開といい描かれる人間模様といい、そして明かされる真相の意外性といい、捕物帖としてかなりの水準にあると感じさせられます。
 バイオレンスやエロスという印象の強い作者ですが、しかし決してそれだけではなく、時に極めて王道の、ミステリ色の強い作品を手がけていることは作者のファンであればご存じかと思いますが、本作はまさにそれと言えるでしょう。

 そしてまた、本作はいわゆる「あやかし」色がかなり薄い作品でもあります。お光も要所要所で活躍するものの、あくまでも中心となるのは京之介であり、そして描かれるのは人間の、人間による事件……作者の狙いを体現した作品と呼んだ所以であります。

 もっとも、このあやかし色の薄さも難しいところで、あまり薄いと本シリーズで描く必然性が……となってしまいます。正直なところ本作にもその印象はあり、さじ加減の難しさを感じさせられるところですが、まずはその意気やよし、と言いたいのです。


 そして第2話『紅蝙蝠』では、行き止まりに追い込まれても煙のように消えてしまう怪盗・紅蝙蝠の謎を京之介たちが追うという(どこか『怪奇大作戦』味もある)内容。
 続く第3話『死神娘』は、周囲で常識では考えられないような頻度で人々が死んでいくことから死神娘と噂される豪商の娘にまつわる意外な真実が描かれることとなります。

 どちらの作品も、第三の主人公と言うべき男装の娘陰陽師・長谷部透流が登場、第1話とは逆にあやかし度高めの内容ですが、しかしその根底にあるのは、あくまでも「人間」が起こした事件という点において、変わるところはありません。
(特に第3話のある意味豪快すぎる真相は、人間とあやかしが入り乱れる本作ならではの意外性で必見)


 もっとも、第1話のところで述べたように、まだバランスが難しい点はあります。また、タイトルロールたるお光の存在感が、本書では少々軽い――人間相手では京之介が、あやかし相手では透流が前面に出てしまうため――きらいはあります。

 そうした点はあるものの、作者の志は確かに感じられる本書。その志が目指すようにシリーズの車の両輪たる人間とあやかし、二つの要素がいつか完璧に噛み合えば――そこには素晴らしい傑作が生まれることでしょう。


『廻り地蔵 あやかし小町大江戸怪異事件帳』(鳴海丈 廣済堂文庫) Amazon
あやかし小町 大江戸怪異事件帳 廻り地蔵 (廣済堂文庫)


関連記事
 鳴海丈『あやかし小町 大江戸怪異事件帳』 アップデートされた原点のアイディア
 鳴海丈『鬼砲 あやかし小町 大江戸怪異事件帳』 さらにバラエティに富む怪異捕物帳

| | トラックバック (0)

2016.11.30

野田サトル『ゴールデンカムイ』第9巻 チームシャッフルと思わぬ恋バナと

 偽の刺青人皮を作り出した夕張の変態剥製人・江渡貝くんのおかげで一層混沌とした状況となった黄金争奪戦。杉元・土方・鶴見の三派の争いはいよいよエスカレート……と言いたいところですが、ここで何と杉元一味と土方一味が一時休戦、思わぬ呉越同舟の旅が始まることになります。

 夕張炭鉱で三つ巴の大乱戦を繰り広げることとなった三派。鶴見の目的を追って江渡貝邸を訪れた杉元一味は、そこで土方一味と遭遇。すわ「不死身」と元「鬼の副長」の激突か!? と思いきや、ここでアシリパの腹の虫が時の氏神となり、偽物の人皮の見分け方を巡り、一時休戦を結ぶのでした。

 と、そんなところに証拠隠滅のために第七師団が来襲、それは容易く蹴散らしたものの、偽人皮の見分け方は謎のまま。そこで見分けられる可能性のある男、月形の樺戸集治監に収監された熊岸長庵に会うため、一行は二手に分かれて出発することになります。
 さて、ここでなんとメンバーがシャッフルされ、杉元・アシリパ・牛山・尾形組と、土方・永倉・家永・白石・キロランケ組に分かれることに。それぞれバランスが取れているような取れていないような、不思議な面子ですが……

 さて、ここで思わぬキャラクターに光が当たることになります。それは白石由竹……物語の初期から杉元たちと行動を共にしながら、この巻に至ってようやく表紙をゲットした男であります。

 ここで語られるのは白石の過去ですが、実はそれがこれから会いに行こうとしている熊岸絡みというのが面白い。
 かつて熊岸と同じ監獄にいた白石。熊岸に書いてもらったシスターの(あまりにも微妙な)似顔絵を眺めているうちにシスターに恋してしまった彼は、彼女を求めて各地の監獄を転々とするうちに、いつしか脱獄王の異名を取ることになったのであります。

 そしてついにシスターと出会った白石ですが、彼女は……って何話も使ってこんなオチか!? とひっくり返ること請け合いの展開。
 その後に語られた土方と永倉の過去話――別れと再会に至る話が、土方が今に至るまで生きていた理由も相まって実にイイのですが、その辺りも全てが霞むインパクトであります。(しかし……)

 さて、その一方で樺戸集治監近くのアイヌのコタンを訪れ、そこのアイヌに歓待を受ける杉元一行。しかし彼らの態度に不審を抱いたアシリパは思わぬ窮地に陥ることになります。そしてまたもや始まる大乱戦――
 と、ここで何が起きたのか、そして杉元たちが誰と戦うのかは伏せますが、ここで描かれるのは、アシリパのことになると狂戦士モードになる杉元、もはやその強さは人間の域を超えてきた不敗の牛山、そして無敵のスナイパー・尾形と、戦闘力だけでみれば本作最強の三人の大暴れ。

 特に杉元の暴れっぷりは、彼と長らく行動を共にしてきたアシリパですら引くほどの異常さで、これが後に影を落とさなければいいのですが……この巻の冒頭で比較的サラリと描かれるように、今やアシリパのために戦うと言って良い杉元だけに、気になるところであります。

 と、ギャグにアクションにと相変わらず大車輪で展開しつつも、ラストに至り、一見単なるギャグエピソードに思えた白石の過去話に、全く思わぬ形で意味を与えてみせる辺り、勢いだけでない作者の筆の巧みさというものを感じさせるのです。


 とはいえ、刺青人皮争奪戦には直接の動きなし……と言えなくもないこの巻。ラストでは土方への内通が杉元に露見することを恐れた白石(ここでも直前に描かれた杉元の狂戦士ぶりが白石の恐れに説得力を与える構成がうまい)の行動により、思わぬ方向に物語が転んでいくことを予感させて、次の巻に続きます。


『ゴールデンカムイ』第9巻(野田サトル 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon
ゴールデンカムイ 9 (ヤングジャンプコミックス)


関連記事
 『ゴールデンカムイ』第1巻 開幕、蝦夷地の黄金争奪戦!
 『ゴールデンカムイ』第2巻 アイヌの人々と強大な敵たちと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第3巻 新たなる敵と古き妄執
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第4巻 彼らの狂気、彼らの人としての想い
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第5巻 マタギ、アイヌとともに立つ
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第6巻 殺人ホテルと宿場町の戦争と
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第7巻 不死の怪物とどこかで見たような男たちと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第8巻 超弩級の変態が導く三派大混戦

| | トラックバック (0)

2016.11.29

松尾清貴『真田十勇士 4 信州戦争』 激闘上田城、そしてもう一つの決戦

 真田幸村と猿飛佐助ら勇士たちの戦いを「天下」と「人間」の関係を背景に描く本シリーズは、この巻から第二期がスタート。上田城に依って徳川軍を迎え撃つ真田家の戦いが描かれることとなりますが――しかし、その一方、物語の背後で暗躍してきたあの男の真の狙いがついに明らかになるのです。

 天下人秀吉の死をきっかけに表面化した、諸大名の勢力争い。それに乗じて次の天下人たらんとする家康に対し、真田昌幸・幸村親子は、天下ではなく上田の地――すなわち真田の「一所」を守るために、西軍につくことを選びます。
 関東と近江を結ぶ要衝である上田を目がけ押し寄せるのは、秀忠率いる約4万の徳川本隊。それを迎え撃つのは、わずか数千の真田軍……というわけで、いわゆる第二次上田合戦が、本作の一つのクライマックスとして展開することになります。

 幸村を支えるのは、猿飛佐助・霧隠才蔵をはじめとして、望月六郎、筧十蔵、穴山小助、根津甚八、そして新たに加わった三好清海・伊三兄弟。幸村の指揮の下、彼らが次々と奇策で大軍を翻弄していくのは痛快の一言、真田ものの楽しさの一つがここには間違いなくあります。

 もちろん、関ヶ原の戦の結果は史実と変わるところではないのですが、そこにこの上田城の戦が及ぼした影響を、本作ならではの「天下」という概念を踏まえて示してみせるのが実に面白い。
 史実の上では本隊が参加できなかったとはいえ大勝利を収めた家康ですが、しかし実は……という観点はあまりこれまで見たことのないもので、歴史ものとしての本作の独自性に改めて唸らされた次第です。


 しかしそれ以上に印象に残るのは、この戦の前後にそれぞれ描かれる佐助と才蔵の物語であります。その部分こそは本シリーズの独自性の最たるもの、奇怪な術策でもって「天下」を窺う怪人・百地三太夫にまつわる物語なのです。

 伊賀の乱で焼け出された才蔵を忍び狩りの走狗として操り、おぞましい荼枳尼天の法による奇怪な実験を行っていた三太夫。彼はさらには遙かな時の彼方から淀城に干渉して天下人として転生を目論み、佐助や海野六郎と死闘を繰り広げた、勇士たちにとってまさしく宿敵というべき存在です。

 本作の冒頭で語られるのは、その淀城での戦いで深手を負った後、上田城の戦で二人の入道とともに佐助が姿を現すまでの物語。戦の二年前、蓼科山で神隠しが相次いでいることを知った佐助は、真田忍びたちとともにその探索に向かうのですが……そこで彼が迷い込んだのは、空間が歪み、外に出ることが不可能となった結界の中でありました。

 長い間その結界の中で暮らしてきたという三好兄弟と出会い、この結界がかつて淀城で遭遇した、異界と現世を重ね合わせた世界だと気付く佐助。それほどのとてつもない術を操ることができるのは三太夫のみですが、しかし三太夫は何のためにこの結界を築き、そして人々を引きずり込んでいたのか――

 一方、本作のラストで描かれるのは、上田城の戦が終結した直後に行われたもう一つの決戦……戦の最中に姿を消した才蔵を追う幸村と勇士たちは、才蔵らを前に奇怪な儀式を行う三太夫を目の当たりにすることになります。そして空を無数の管狐が覆い尽くす中、いよいよ三太夫の真の狙いが明かされることになるのであります。

 その狙いとは……もちろんここでは詳細は伏せさせていただきますが、そのあまりのとんでもないスケールと内容にはただただ仰天、最近では珍しいくらいの直球の大伝奇には感動すら覚えるほどです。
 が、そのとんでもない内容が、しかし同時に、家康とは別の意味で――しかしその根底で密接に絡み合い、重なり合う形で――「天下」という本シリーズのキーワードと重なってくるのを何と評すべきか。

 これまで物語の随所で描かれてきたピースの一つ一つ(それにはもちろん上に述べた本作冒頭の佐助の物語も含まれるのですが)の意味が解き明かされ、次々と嵌まっていき、一つの巨大な絵、すなわち三太夫の「天下」という名の野望を描き出していくのはただただ圧巻、本作で幾度か使われたフレーズが、もう一度より恐るべき形で使われるのにも、痺れるほかないのであります。


 真田と天下の戦が終結した後に、もう一つ繰り広げられる真田と天下の戦――絶望的な状況の先に待つものは何か、今一番面白い時代伝奇小説といっても過言ではありません。


『真田十勇士 4 信州戦争』(松尾清貴 理論社) Amazon
真田十勇士〈4〉信州戦争


関連記事
 松尾清貴『真田十勇士 1 忍術使い』(その一) 容赦なき勇士たちの過去
 松尾清貴『真田十勇士 1 忍術使い』(その二) 人間を、自分を勝ち取るための戦い
 松尾清貴『真田十勇士 2 淀城の怪』 伝奇活劇の果ての人間性回復
 松尾清貴『真田十勇士 3 天下人の死』 開戦、天下vs真田!

| | トラックバック (0)

2016.11.28

小松エメル『総司の夢』 鬼と人の間にある夢

 大の新選組ファンとして知られ、これまでも『蘭学塾幻幽堂青春記』で新選組が大きな要素として描き、そして何よりも無名隊士を主人公とした『夢の燈影 新選組無名録』で大きな反響を呼んできた小松エメル。本作は、そんな作者が満を持して放つ長編――あの沖田総司の生涯を描いた物語であります。

 その副題の如く、数ある新選組隊士たちの中でも、確かに実在したにもかかわらず、ほとんど知られぬ隊士たちを主人公とした『夢の燈影』。それに比べ、本作の主人公は有名も有名、新選組と言われればすぐに名前の挙がる人物であります。
 その意味では本作は全く趣向の異なるように感じられるかもしれませんが、しかし本作は単に同じ世界観の物語というだけでなく、歴史の隙間にもがく等身大の隊士を描く点において、前作に通じるものを持つ作品です。

 幼い頃に試衛館に引き取られ、剣士として頭角を現した総司。近藤・土方・井上・山南・永倉・原田・藤堂・斎藤……彼らと共に剣を磨き、賑やかに青春を過ごしてきた総司にですが、そこに浪士組結成の報がもたらされます。敬愛する近藤が、試衛館の仲間たちが、今こそと腕を撫して立ち上がる中、総司は主義思想には関係なく、ただ仲間たちと剣を振るうために加わることを選ぶのでした。

 そして浪士隊結成から清河八郎の離反、新選組結成と、次々と状況が変化する中、総司たちの周囲で、何者かによって脱走者をはじめとして幾人もが斬殺される事件が続発。そんな中、総司は「鬼」を思わせる目をした男・芹沢鴨に興味を抱きます。
 しかし芹沢の中の「鬼」を理解しきる前に彼は粛正の刃に倒れ、近藤たちの組織として動き始める新選組。池田屋事件、禁門の変、山南の切腹、伊東一派の分裂……一番隊隊長として目まぐるしく奔走する総司は、人を次々と屠っていく「鬼」の正体に近づいていくのですが――


 いかにも新選組ファンの作者らしく、主人公たる総司をはじめ、ここに登場する有名隊士たちのほとんどは、初めて見るのに馴染みがあるという、我々が彼らに抱くイメージに忠実な人物像であり、その意味で非常にキャッチーな作品ではあります。
 しかしそれは、彼らが、そして本作の物語が、ファンフィクションとして類型に留まるということでは、もちろん決してありません。本作で描かれるのは、あくまでも本作ならではの、作者ならではの世界であり、そしてそれを代表するのが、言うまでもなく総司なのであります。

 「夢」をタイトルに冠する本作。しかし本作の総司は、「夢」というものを見ない青年として描かれます……二重の意味で。
 夜の眠りにおいて夢も見ず、ただ空虚の中に眠る総司。そんな彼は同時に、未来の希望としての夢もなく、ただ空虚の中に生きているのであります。

 もちろん、彼には命を賭ける剣があります。共に生きる仲間たちがいます。しかし彼にとってはそれだけ……いや、それさえあれば良かった。彼が刃を向ける志士たち、いや肩を並べる仲間たちのように、この時代を生きるための主義主張が、彼にはないのです。

 実は総司という人物は、フィクションの中で空虚な人物として描かれることが少なくありません。どんな時もニコニコとしながら躊躇いもなく人を斬る。ただ近藤に、土方に命じられるままに人を斬る。佐幕や勤王という思想性もなく――
 これは総司が持つピュアなイメージの裏返しというべきものかと思いますが、今はそれは置いておくとして、本作の総司は、こうしたイメージそのままのようでいて、しかし大きく異なる形で描き出されます。

 京で剣を振るい様々な相手を斬る中で、「鬼」を求め追う中で、そしてかけがえのない人々を喪う中で……空虚であった彼の中に、生まれていくもの。それは時に足かせとなり、重石となるものであり、しかし同時に人が鬼ではなく、人であるために背負うべきもの――そう、「夢」なのであります。

 自分には夢がないと知りつつ、それを良しとして生きる。それはひどく虚しいようでいて、しかし青春を生きる者、生きた者にとって、どこか馴染み深い感覚でしょう。そしてそこから人間として成長する中で、得た夢の重みによろめき、苦しむこともまた。
 本作は沖田総司という希代の剣士、新選組という時代の徒花を描きつつも、普遍的な青春の姿を描く作品であり……その苦さは、切なくもどこか好ましく感じられるのです。


 ちなみに、冒頭に述べたように本作は『夢の燈影』とは同じ世界観の物語。前作のあの時、総司はこう考えていたのか、と別の角度から物語を見ることができるのは実に面白く、ぜひ今後も見てみたい趣向であります。


『総司の夢』(小松エメル 講談社) Amazon
総司の夢


関連記事
 『夢の燈影』 影と光と、人間とヒーローと

| | トラックバック (0)

«ことだま屋本舗EXステージ『クロボーズ』を観て(聴いて?)きました