入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎京洛勝負帖』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『曽呂利!』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『大江戸剣聖一心斎』(高橋三千綱)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
87.『警視庁草紙』(山田風太郎)
88.『西郷盗撮』(風野真知雄)
89.『明治剣狼伝』(新美健)
90.『箱館売ります』(富樫倫太郎)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『源平の風』(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と運命の書』(渡辺仙州)



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2017.06.27

戸土野正内郎『どらくま』第6巻 戦乱の申し子たちの戦いの果てに

 あの幸村の子にしてとんでもない守銭奴の商人・真田源四郎と、伝説の忍び・佐助の技を継ぐ忍者である野生児・クモ――相棒なのか宿敵なのか、おかしなコンビが戦国の亡霊たちに挑む物語もこの巻で完結。伊達家の忍び集団に潜み、戦国を上回る混沌をもたらさんとする怪忍・天雄との戦いの行方は――

 怪しげな動きを見せる忍びたちの動きを追って奥州に向かった源四郎とクモ。そこで彼らは、伊達家の黒脛巾組と、元・軒猿十王の一人・天雄の暗闘に巻き込まれることになります。
 クモのかつての仲間であるシカキンとともに天雄を倒したものの、味方と思っていたシカキンと黒脛巾組に捕らえられ、絶体絶命となった源四郎一行。

 そしてさらに悪いことに、替え玉を使って生き延びていた天雄、そして彼と結んでいた黒脛巾組の頭領・世瀬蔵人が正体を現し、そこに天雄を追う大嶽丸、十王の頭・髑髏までが現れて、大乱戦が繰り広げられることに……


 というわけで、この巻で繰り広げられるのは、ほとんど冒頭からラストまで、超絶の技を持つ忍者たち――いや、前巻でついに見せた真の実力をもって、忍者ならぬ源四郎も参戦――の一大バトルであります。

 かくて展開するのは、大嶽丸vs天雄、髑髏vs天雄、シカキンvs蔵人、源四郎vs蔵人、そしてクモvsシカキンと、見応えしかないようなバトルの連べ打ち。
 特に医術薬術を以て、他者のみならず自らの体まで改造して暴れ回る天雄は、まったく厭になるくらいのしぶとさで、この伊達編のラストを飾るにふさわしい怪物的な暴れぶりでありました。


 しかし、そんなダイナミックな死闘の数々を通じて描かれるのが、どちらが強いかという腕比べだけでなく、彼らそれぞれの戦う理由――言い換えれば、戦乱が終わった後の時代を如何に生きるべきか、という問いかけへの答えのぶつかり合いであることは見逃せません。
 何しろその問いかけは、この物語において様々に形を変え、幾度も問いかけられてきたものなのですから。

 長きに渡りこの国で繰り広げられてきた戦乱の時代の、その最後の戦いともいうべき大坂の陣の翌年を舞台とする本作。
 破壊と殺戮が繰り返され、源四郎流に言えば大いなる金の無駄遣いであったその時代に、しかし、自分自身の夢を見た者たちも確かに存在しました。そしてその戦乱の中においてのみその存在を許される者たちも。

 前者を武将、後者を忍者と呼ぶことができるかもしれませんが――いずれにせよ、戦乱あってこその存在であった彼らが、戦乱が終わった後に何を望むのか? 
 本作の主人公の一人である源四郎は、そんな戦乱の申し子たちの想いを見届け、そしてジャッジする存在であったと、この巻を読んで、改めて感じさせられました。

 そしてそれは、己の父・幸村を討つことで戦乱の時代に終止符を打った彼だからこそできる、彼だからこそやらなければならない役目であるとも……


 さて、冒頭でこの巻を以て本作は完結と述べましたが、しかし物語はまだまだその奥に広がりがあることを窺わせます(本作は人物設定等相当しっかりと行われているらしく、ちょっとした描写が後になって伏線とわかったりと、幾度も感心させられました)。
 いわばこの巻は、伊達編の完結とも言うべき内容。ここでの戦いは終結したものの、解消されぬ因縁は幾つも残されています。

 何よりも、戦乱の時代を引きずり、そして戦乱の時代に囚われた者たちはまだまだ数多くいるはず。だとすれば、源四郎とクモの旅路もまた、これからも続くのでしょう。
 ラストにとんでもない素顔(とか色々なもの)を見せた髑髏の存在もあり、いずれまた、源四郎たちの活躍を見ることができると、信じているところであります。


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どらくま 6 (BLADE COMICS)


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2017.06.26

北森サイ『ホカヒビト』第2巻 人に寄り添い、人を力付ける者

 この世ならざるものを見る目を持つ少年・エンジュと、彼を連れて旅することになった女薬師・コタカの道行きを描く、不思議でもの悲しく、そして温かい物語の続巻であります。

 行き倒れた母の胎内から、山に暮らす老婆・オバゴによって取り出され、二人で暮らしてきたエンジュ。しかしある年その地方を飢饉が襲ったことから、土地の人々に忌避されてきた二人は災いの源扱いされた末に、理不尽な襲撃を受けることになります。
 オバゴの犠牲とコタカの助けによって救われたものの、天涯孤独となったエンジュ。コタカとともに旅に出た彼は、往く先々で様々な人と、そして不思議な現象と出会うのですが……


 そんな二人の旅路を描くこの2巻の冒頭で描かれるのは、前巻から続く、エンジュの目にしか見えない妖虫・ツツガムシが跳梁する村の物語であります。
 江戸から明治に変わり、新しい時代となっても重税と病に苦しむ村の人々の中で、病気の祖父を支えて健気に暮らす美少女・ユキと仲良くなったエンジュ。しかしエンジュたちが村を離れている間に、ユキに目を付けた徴税吏によって、彼女は惨たらしい暴力に晒されて……

 というあまりにも救いのないエピソードに続いて描かれるのは、コタカとは幼なじみの青年・リュウジが監督として働く鉱山に現れた、奇怪な幽霊の物語。
 坑道の中に現れ、おれは誰だと訪ねる、体中に包帯を巻いた男という、本作には珍しいストレートな怪物めいた存在の意外な正体とその過去に、コタカとエンジュは触れることになります。

 そしてそこから続いてリュウジがエンジュに語るのは、コタカが「コタカ」となった物語であります。
 不作の年に村から生贄に出された末、狼に育てられて人の言葉を無くし、犬神の使いと呼ばれることとなった少女・ハナ。彼女と、彼女を救おうとするリュウジの前に現れた隻眼の男、旅の薬師「コタカ」は、ハナを捕らえると厳しい態度で接するのですが……


 この巻に収められた三つのエピソードは、それぞれ全く異なる物語ではありますが、そこに共通するものは確かに存在します。
 それは人間の見せる弱さ、悲しさ、醜さ――自分自身の力ではどうにもならぬ理不尽な状況の中で、苦しむ人々の姿であります。

 そんな苦しみの中で、ある者はなす術なく流され、ある者は他者を犠牲にしようとし、またある者は深く傷つき――時には命を、人の身を捨てるしかなかった人々の前に、エンジュとコタカは立つことになります。
 いや、ここまで描かれてきたように、エンジュとコタカ自身が、そんな人々の一人であったのです。

 それでは人間は――そしてエンジュとコタカは――そんな理不尽な苦しみに対して、本当に無力な存在でしかないのでしょうか。
 その答えは、半分は是、半分は否なのでしょう。
 神ならぬ人の力ではどうにもならないことはある。しかし、それでも、人が人として命を全うしようとする限り、それに寄り添い、力づけることはできる――そしてそれこそが、「コタカ」と呼ばれる者の持つ力なのです。

 「コタカ」にできることは、苦しむ者に、命の流れの向かう先を示してやることでしかありません。
 しかし、人が自分一人で生きてるわけではないと知ることが、どれだけの力を生み、救いをもたらすか。本作で描かれるコタカとエンジュの旅路は、その一つの証であると言えます。そしてそれこそが、彼らから世に生きる人々への祝福なのでしょう。


 もっとも、身も蓋もないことを言ってしまえば、そこから生まれるカタルシスは、そこまでに描かれる人間と世界の悲惨さを上回るものではなかった――より厳しい言い方をすれば、そこから予想できる物語の範囲から出るものではなかった、という印象はあります。
 それを考えれば、本作がこの巻で終了というのも、やむなしとも感じますが……

 しかし新たな「コタカ」の誕生を予感させる結末は、人一人のそれを超えて――血の繋がりを超える、心の繋がりを持って――遙かに受け継がれていく(受け継がれてきた)命の流れを感じさせるものであります。
 そしてそれを以て、本作として描かれるべきは描かれたと、そう言ってもよいのではないでしょうか。


ホカヒビト』第2巻(北森サイ 講談社モーニングKC) Amazon
ホカヒビト(2) (モーニング KC)


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2017.06.25

ことだま屋本舗EXステージ『戦国新撰組』

 本日、ESPエンタテインメント東京本館で開催された、ことだま屋本舗EXステージ『戦国新撰組』を観てきました。昨年の冬の『クロボーズ』に続くLIVEリーディングなるこのイベント、観客の前で、声優が漫画のキャラクターの声を当てるというユニークな試みであります。

 今回のLIVEリーディングの題材となっている『戦国新撰組』は、『クロボーズ』と同じく富沢義彦原作の戦国アクション漫画。
 朝日曼耀作画による本作は、以前このブログでも第1巻をご紹介いたしましたが、タイトルから察せられるように、あの新撰組が戦国時代にタイムスリップして始まる奇想天外な物語であります。


 今回のLIVEリーディングで上演されたのは、原作の第8話まで――現在発売されている単行本第1巻は第5話までが収録されていますが、おそらくは第2巻まで収録される辺りまでが今回上演されたことになります。

 池田屋事件後のある日、突如として戦国時代――桶狭間の戦いの直前の尾張にタイムスリップしてしまった新撰組。
 その一人、三浦啓之助は、土方、島田らとともに、織田家に士官する前の木下藤吉郎と蜂須賀小六と遭遇し、捕らえられて信長の前に引き出されることになります。

 その動きを察知した近藤・斎藤・井上・山崎たちは、土方らを救出するために、織田の本陣を急襲。一方、山南・沖田・藤堂は成り行きから今川軍に潜り込み、織田軍と戦うことに……

 という本作は、新撰組のキャラクター数からも察せられるように、かなりのキャラクターが登場する物語。さらにモブが入り乱れる合戦シーンなどもあり、相当賑やかな(?)展開となるのですが――それがこのLIVEリーディングという形式には実に似合っていた印象があります。

 特に物語の中で結構なウェイトを占める合戦シーンは、SEによる効果もあいまって相当の迫力。ここだけでもLIVEリーディングの甲斐があった――というのはさすがに言い過ぎですが、漫画ではさらっと読んでしまうような乱戦部分にも引き込まれたというのは、大きな効果であったと思います。

 そして内容の方も、先に触れたように第8話までと結構なボリュームではあったのですが、しかし駆け足という印象はなかったのは、これは原作自体のスピード感が相当なものであるためでしょうか。

 なにしろ、上で述べたあらすじだけではわからないような驚きの展開の連続である本作。連載の方ではかなりの頻度でショッキングな展開(特に第5話のラストの信長○○にはもう……)が飛び出してくるのですが、それを一気に観ることができたのは、原作読者としても非常に楽しい体験でありました。
(もっとも、このLIVEリーディングにおいては、個人的には第○話、というように分けなくてもよかったのでは……とは思います)

 演者の方も、声優オンチの私でも名前を知っている代永翼の三浦啓之助などはまさにハマり役。原作での、根性なしで、それでいていざとなると何をやらかすかわからない(そしてそんな中に様々に鬱屈するものを抱えた)「現代っ子」ぶりをうまく再現していたという印象があります。
 もう一つ、楠田敏之演じる土方は、声がついてみるとかなりテンパったキャラだったのだなあ……とも(これは演技への感想ではなく、作中での扱いへの感想ですが)


 何はともあれ、前回の『クロボーズ』よりも(物語のテンポなどが異なるとはいえ)より舞台にマッチした内容で、演出等も洗練された印象があった今回のLIVEリーディング。
 流行の2.5次元よりもさらに2次元に近い、2.25次元的な舞台ですが、この形式ならではの面白さをまだまだ見てみたいと思わされる舞台でありました。



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2017.06.24

上田秀人『日雇い浪人生活録 2 金の諍い』 「敵」の登場と左馬介の危険な生活

 幕府を米本位制から金本位制に切り替えるという吉宗の遺命を受けた田沼意次に力を貸すこととなった両替商・分銅屋仁左衛門。その分銅屋に挟まれた日雇い浪人・諫山左馬介の苦闘を描くユニークなシリーズの第2弾であります。早くも現れた「敵」に対し、左馬介と分銅屋はいかに挑むのでしょうか。

 分銅屋仁左衛門に雇われ、分銅屋が買った隣の空き店の片付けをしていた際に不審な帳面を見つけた左馬介。その帳面がきっかけで、二人の周囲には怪しげな連中が出没することになります。
 一方、吉宗がし残した最後の改革として、既に行き詰まりを見せた米本位制を、金本位制に切り替えることを命じられたお側御用取次・田沼意次は、餅は餅屋と、江戸市中の商人を手駒に引き入れることを目論みます。

 かくて交錯することとなった江戸屈指の両替商と、幕府きっての出世頭の運命。そしてその誠実さを見込まれて分銅屋の用心棒となった左馬介も、否応無しに江戸の世を動かす企てに巻き込まれることになって……


 と、一見人情ものめいたタイトルとは裏腹に、やっぱり危険な「生活」を送ることになってしまった左馬介の奮闘を描く本作。
 今回はいよいよ本格的に分銅屋を狙う敵が登場、江戸有数の札差・加賀屋に加え、幕府側にも分銅屋を、いや田沼を敵視する勢力がいることから、状況はいよいよややこしく、上田作品らしくなってきました。

 そしてそんな敵勢力が数々登場する中で重要になるのは、言うまでもなく左馬介の存在なのですが――しかし人柄は申し分なしなれど、腕前の方は少々心許ないのが面白い。
 剣豪ものでは定番の、相手の殺気を背中で感じ取るというスキルがあるはずもなく、そのままでは心配だからとわざわざ剣術道場に通わされるのですから(そんな主人公初めて見ました)、用心棒としてはいささか心許ないキャラクターが、逆に個性的に映ります。

 しかしもちろん全くの役立たずではなく、父譲りの鉄扇術の遣い手というのがユニークで、間合いは狭く、ほとんど完全に防御主体という鉄扇術が果たして実戦でどこまで役に立つのか――と興味をそそられます。
 強すぎる主人公は時に興を削ぐものですが、その辺りをうまくかわし、個性的な殺陣を用意してみせたのは、さすがというべきでしょう。

 そして、これは前作の紹介でも述べたかと思いますが、武士の世界――「権」の世界と、商人(庶民)の世界――「財」の世界、二つの世界を描く本シリーズにおいて、武士と庶民の間の存在である、強すぎない主人公、武士だけれども刀を使えない主人公という設定は、物語のテーマに即したものと言えるでしょう。

 そしてそんな彼と対照的に、ヒロイン(?)のクールビューティーな御庭番の神出鬼没ぶりも楽しく、この辺りの人物配置も、またベテランの技であります。


 さて、こうして「敵」は登場してきたものの、田沼と分銅屋の壮大すぎるプロジェクトはまだまだ始まったばかり。
 帳面を武器に、幕府の財務担当たる勘定吟味役に揺さぶりをかける分銅屋の策は当たるのか。動き出した政敵たちの攻撃を、田沼はかわすことができるのか。

 そしてその中で左馬介の生活はどうなってしまうのか――いよいよ本格化する金の諍いがどこに向かうのか、最新巻の第3巻も近々にご紹介いたします。

『日雇い浪人生活録 2 金の諍い』(上田秀人 角川春樹事務所時代小説文庫) Amazon
金の諍い―日雇い浪人生活録〈2〉 (時代小説文庫)


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2017.06.23

『変身忍者嵐』 第19話「恐怖の人食い! 分身怪人!!」

 ダルマ爆弾を各地に売りさばく使命を受けたキバギツネは、子供たちを催眠術で操り、配下としていた。陰謀を察知したハヤテたちだが、タツマキたちが捕らえられ、分身を駆使するキバギツネに苦しめられる。幾重もの罠を突破してハヤテはキバギツネを倒し、子供たちを助け出すのだった。

 鬼火が漂う墓場で、掘り起こした死体の肉を食らっている(らしい)キバギツネという恐ろしいシーンから始まる今回、キバギツネのエネルギー源は死肉とのことですが、骸骨丸が呼びに来てキバギツネは子供をさらいに出かけます。はい、「恐怖の人食い!」要素終わり。
 そして寺子屋を襲撃したキバギツネは、寺子屋のお師匠さんを牙にかけると、子供をさらってしまいます(あ、もしかしてこの後お師匠さんは……)。と、魔神斎の前にかしこまるキバギツネと骸骨丸の前には大量のダルマという珍妙な絵面に首を傾げていたら、今回の作戦は、気温30度以上になると発火する黄燐を使い、爆薬を仕込んだダルマを全国に売りさばき、暑くなる季節には日本中で爆発して大混乱――という迂遠な作戦。そのダルマを売りさばくために子供たちをさらってきたという相変わらずの泥縄ぶりであります。

 案の定、年末でもない季節外れの時期にダルマを売って回る一団を目撃し、さらにタツマキの仲間の伊賀忍者からの知らせで、硫黄が強奪されたことを知った(そして何故か嬉しそうに、これで火薬が作れるわねというカスミ)ハヤテ一行は、速効でダルマが怪しいと睨みます。
 後を追った一行は、不当なダンピングでダルマを売りさばいていたという商人・黒兵衛が怪しいと睨み、その屋敷に潜入しますが、もちろん黒兵衛はキバギツネ。ハヤテたちが来ると睨んでいたキバギツネの吊り天井の罠でタツマキとツムジは今回も捕らえられ、辛うじて脱出したハヤテの前には、分身の術で二体となったキバギツネが立ち塞がります。

 今回はゲジゲジ魔のように映像で誤魔化さず、ちゃんと二体造形されているキバギツネ(そのせいかデザイン的にはシンプルかも……)は、分身と本体で微妙にずれて喋ったり、互いで会話したりと器用な(?)怪人。そして二体で何をするかと思えば、巨大なU字磁石を取り出して磁石吸い寄せの術で嵐の刀を吸い寄せます。手こずった嵐は、刀を竹光とすり替えるのがやっとで、タツマキたちを助ける間もなくその場から脱出するのでした。

 それでもカスミと二人で屈することなくダルマ爆弾を追うハヤテは、翌日再びダルマ売りを追いますが、カスミに子供たちが群がった、と思えばそれは下忍の変装。下忍の群れに引きずり倒されてもみくちゃにされてなんかマズい絵面になったカスミを救い出したハヤテは、手薄になったであろう黒兵衛屋敷にカスミを行かせると、自分はキバギツネを嵐旋風斬りで倒すのですが――それは分身。屋敷で待ち構えていた本体にカスミは捕らえられ、一家仲良く穴蔵に放り込まれます。
 一杯食わされたとハヤブサオーで屋敷に急ぐ嵐ですが、そこに待ち受けていたのは、キバギツネの命を受けて爆弾を片手に待つ下忍。そして嵐が通りかかるや、下忍は飛びついてもろともに自爆!

 勝ち誇るキバギツネですが、何だかよくわからない理屈で嵐は颯爽と屋敷に見参。救い出したタツマキ一家に囚われの子供たちの救出を任せると、自分はキバギツネとの決戦に望みます。今回もでっかい磁石を取り出すキバギツネですが、嵐は磁石にくっつかない金属の刀にしていたのだ! と何だかよくわからない理屈でこれを突破。奇策は尽きたか珍しく刀を手にして戦うキバギツネは、分身して嵐に襲いかかります。
 一対二の対決もものともせず豪剣を振るう嵐は、秘剣影うつしで敵の本体と分身を見分けてまず分身を倒し、今度こそ本体に嵐旋風斬り炸裂! ついにキバギツネを倒し、血車党の企みを粉砕するのでした。


 相変わらずアバウトな血車党の策(そもそも安売りで押し付けるくらいなら、こっそり置いてくればいいと思う……)といい、真面目に考えていても裏切られるよくわからない嵐の危機突破といい、今回もある意味非常に嵐らしいエピソードですが、しかしその一方で殺陣がえらく格好良いのもまた嵐らしい。
 ラストも二人の敵を相手に一歩も引かぬ立ち回りから、新旧必殺技の連打でキバギツネを倒すのが実に格好良いのであります。


今回の化身忍者
キバギツネ

 人間の死肉をパワー源とする狐の化身忍者。分身の術で二体に分かれ、磁石吸い寄せの術で相手の刀を封じる。ダルマ爆弾を日本中にばらまくため黒兵衛という商人に化け、さらった子供を催眠術で操って配下としていた。ハヤテに作戦を見抜かれ、幾つも仕掛けた罠も突破されて嵐旋風斬りに敗れる。


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変身忍者 嵐 VOL.2 [DVD]


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2017.06.22

渡辺仙州『封魔鬼譚 3 渾沌』 もう一人の封魔の少年と閉ざされた村

 犠牲者の姿はおろか、記憶までも完全に模倣する怪生物・封魔によって生まれ変わった少年の冒険を描く『封魔鬼譚』の第3弾は、もう一人の封魔の少年・楊月を主人公とした一種の外伝。乗合馬車に同乗した客たちと共に、閉鎖空間と化した奇怪な村に閉じこめられた楊月の姿が描かれることになります。

 かつて貧しさ故に売られ、宋国による封魔開発の実験台とされた楊月。その経験故に国に恨みを抱き、福州で封魔を密かに育ててばらまくことで多大な混乱を招こうとした彼は、その犠牲者である李斗との出会いをきっかけに、ひとまずは矛を収めることとして……

 というのが彼の側から見た第1巻の物語ですが、本作はその後の物語。福州を離れるために乗合馬車に乗った楊月ですが、事故で御者が深手を負い、馬車を離れた楊月と乗客たちは、とある村に足を踏み入れることになります。
 無人となって久しいと思われるその村で一行に襲いかかったのは、伝説の妖魔・渾沌を思わせる毛むくじゃらの怪物。人を砂に変えるその怪物に乗客の一人が犠牲となり、慌てて村から脱出しようとした一行は、しかし行けども行けども村の外に出れないことに気付くことになります。

 何者かが村の中の空間をねじ曲げ、自分たちを閉じこめたことに気付き、一癖ありげな数学者や旅の画家を中心に、迷宮と化した空間の法則性を見つけよう試行錯誤を重ねる一行。
 そしてそんな彼らと距離を置く楊月の心に語りかける謎の声が……


 奇妙かつ奇怪な怪物の跳梁と、それが引き起こす一種不可能犯罪めいた怪事件を描いてきた本シリーズですが、本作はその基本を踏まえつつも、何と閉鎖空間ものとして展開。
 謎の空間に閉じこめられ、命の危険に晒された人々が、時に協力し、時に反目しながら脱出を試みるも――というのはホラー映画などでしばしば見る趣向ですが、このシリーズでお目にかかれるとは思ってもみませんでした。

 こうした物語では、利己的な者、冷静な者、狂信的な者、得体の知れぬ者などが入り乱れて様々な人間模様を描き出すのが常ですが、本作においても、それは同様。様々なキャラクターたちが織りなす人間模様は、あっさり目ではあるものの、その様を冷たく見据える楊月の存在もあって、なかなか面白い内容となっております。

 しかしその一方で、楊月の意外な人間性もまた、本作では同時に描かれることになります。物語の途中、楊月が微睡むたびに彼が夢見る過去の風景――それは彼が封魔になる直前の出来事の記憶なのです。
 それは言い換えれば彼が人間であった時代の最後の記憶……文字通り彼が人間の心を持っていた時の姿を描くこのエピソードは、同時に彼の失ったものの大きさを、そして本シリーズにおいて真の悪とは何であるかを考えさせます。

 そしてまた、本作において記憶と人格が同義であるのであれば、その記憶を持ち続ける彼は、たとえ体は封魔に変わろうともやはり以前の彼と変わらぬままの存在ではないのだろうか、とも感じさせるのですが……


 しかしそんなドラマ面と同時に見逃せないのは、超自然的な現象が発生し、超自然的な存在が跳梁する世界であろうとも、その中に一つの法則が――言い換えれば一種の科学的視点が存在することであります。

 本作における超自然現象の最たるものは、閉鎖空間と化した村の存在でしょう。
 閉鎖区間――正確に言えば、村内の道を歩いているうちにいつの間にか別の場所に転移させられているという状況から、どのようにして脱出するのか? そもそも現在位置すらわからぬ状況で……

 と、そこから繰り広げられる脱出劇が、本作の最大の見どころ。観察と分析という、まさに「科学的」というべき思考と方法論に貫かれた行為によって超自然現象を解明し、打破してみせるのは、相手が超自然的なものであるからこそ一層、痛快ですらあります。

 そしてそれは、これまでのシリーズで描かれたアプローチをより推し進めた本シリーズならでの魅力と言うべきでしょう。
 さらにこの視点が、人間の記憶と人格を巡る物語に一定の説得力を与えていることも見逃せません。


 外伝と言いつつも、思わぬところで李斗の物語と絡めるなど(そういえば……! と感心)の趣向も心憎い本作。シリーズは今のところ三部作と表記されていますが、まだまだ李斗の物語も楊月の物語も道半ば、続編を心から希望するところであります。


『封魔鬼譚 3 渾沌』(渡辺仙州 偕成社) Amazon
封魔鬼譚(3)渾沌


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