「入門者向け時代伝奇小説五十選」公開中

 特別企画として「入門者向け時代伝奇小説五十選」(第一期)を掲載しています。
 入門者にとって、間口が広いようで狭いのが時代伝奇小説。何となく興味はあるのだけれど何を読んだらよいかわからない、あるいは、この作品は読んでみて面白かったけれど次は何を読んだらよいものか、と思っている方は結構な数いらっしゃるのではないかと思います。
 そこで今回、これから時代伝奇小説に触れるという方から、ある程度は作品に触れたことのある方あたりまでを対象として、五十作品(冊)を紹介したいと考えた次第です。

 さて、第一期五十選については、膨大な作品の中から以下のような条件で選定しています。
(1) 広義の時代伝奇小説に当てはまるもの
(2) 予備知識等がない方が読んでも楽しめる作品であること
(3) 現在入手が(比較的)容易であること
(4) 原則として分量(巻数)が多すぎないこと
(5) 一人の作者は最大二作品まで
(6) 私自身が面白いと思った作品であること

 そして、その五十作品を、それぞれ五点ずつ以下の十のジャンル・区分で分けています。
1.定番もの
2.剣豪もの
3.忍者もの
4.SF・ホラー
5.平安もの
6.室町もの
7.戦国もの
8.江戸もの
9.幕末・明治もの
10.期待の新鋭

 上記はあくまでも便宜上の区分であり、必ずしも厳密に該当するわけではない(あるいは複数に該当するものも多い)のですが、ご覧になる方に一種の目安としていただくためのものとしてご了解ください。

 この五十選が、楽しい読書の一助となればこれに勝る喜びはありません。

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2009.07.07

「白獅子仮面」 第08話「のっぺらぼうが火をふいた」

 虚無僧に扮したのっぺらぼうの一団により、江戸の油屋から次々と油が奪われていた。敵の超能力に翻弄された兵馬は、虚無僧に扮して敵の懐に入り、敵の目的を探る。江戸に四方から火を放つことだと知るも、時既に遅く、四人に分身して準備を完了していたのっぺらぼうの頭目。兵馬は白獅子仮面に変身、自らも瞬間移動で四カ所ののっぺらぼうを倒し、陰謀を阻むのだった。

 第八話は、江戸を炎に包もうというのっぺらぼうとの攻防戦。
 登場するのは何故か口のあるのっぺらぼうですが、しかしこれが実に強い。まさに番組始まって以来の強敵でした。

 次々と江戸の油屋を襲うのっぺらぼう(普段は虚無僧に扮しているのがイイ)を何とか捕らえんとする兵馬たちですが、その頭目は、稲光を呼び、それと共に瞬間移動するという超能力の持ち主で、さしもの兵馬も苦戦を強いられます。
 しかしこれで引き下がる越前と兵馬ではもちろんなく、江戸に残った油を一ヶ所に集め、皆に配給するという高札を立てて敵をおびき寄せ、そこにやってきた敵の一人とすり替わってしまおうという作戦(敵が虚無僧に扮しているのを逆手にとってしまうのがうまい!)。

 ちなみに本作の妖怪たちは、いずれも剣呑なわりにどこか抜けているらしく、毎回火焔大魔王様に怒られるシーンがあるのですが、今回も怒られるのっぺらぼう。
 紛れ込んだ兵馬にいつまでも気付かず、大魔王様に「悪の世界を何と心得る!」とよくわからない怒られ方をしていました。

 しかしここ一番で発揮されるのっぺらぼう頭目のチート級能力! 何と四分身して江戸の四方に散り、同時に火の手を上げようというのです。
 が、ここで調子に乗った頭目が俺のように稲光に乗って瞬間移動できるのか、と煽ったのが悪かった。「それだ! 貴様のうぬぼれを思い知らせてやる」といきなりエキサイトした白獅子仮面は、自分の抜いた刀の光に乗って瞬間移動という、これぞまさしく神通力と言うべき無茶な秘技を繰り出すのでした。がははは、さすが元・光速エスパー(違

 結局、白獅子仮面がこの荒技で次々と江戸四方に飛び、のっぺらぼう頭目を倒したことで事件は解決するのですが、いや、真面目な話、ヒーローものとして実に愉しい回でした。というのも、単純に敵が強かったというのもあるのですが、白獅子仮面登場にそれなりに必然性があったのが大きい。
 白獅子仮面は実はヒーローとしてはビジュアル面以外にも存外華のないキャラクターで、見ているうちに「兵馬変身する必要ないんじゃね?」という気分になってくるのですが(今回も生身で二人のっぺらぼうを倒してますしね)、今回ばかりは、白獅子仮面に変身しなければありえない展開で、大いに納得できました。

 まあ、今度は「移動シーンだけ変身してればいいんじゃね?」という気もしてきましたが…


<今回の妖怪>
のっぺらぼう

 火焔大魔王の命で江戸を焼け野原にするため、油屋を襲撃して油を奪う。普段は虚無僧に扮しており、天蓋の下の顔の上半分は赤く、下半分は青い。のっぺらぼうといいつつ嘴状の大きな口を持っており、そこから炎を吐き出す。また、先から花弁状に刃が飛び出す尺八を武器にする。
 頭目は強力な超能力を持っており、稲光と共に瞬間移動、遠隔視、催眠術、分身しての同時出現などで奉行所と兵馬たちを苦しめたが、同じく瞬間移動した白獅子仮面に配下もろとも倒された。


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 「白獅子仮面」 第04話「小判の好きな化け猫騒動」
 「白獅子仮面」 第05話「顔なし男が顔を盗る」
 「白獅子仮面」 第06話「妖怪女狐参上」
 「白獅子仮面」 第07話「必殺!! コウモリ男」

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2009.07.06

「信長の忍び」第1巻 忍びから見た信長記

 やはり戦国ブームということなのか、最近は戦国ものの漫画を書店でよく見かけますが、本作「信長の忍び」はその中でもユニークな部類に入るでしょう。
 タイトルの通り、織田信長に仕える忍びを通して、信長とその時代を描いた四コマ連作であります。

 本作のタイトルロールとも言うべき主人公・千鳥は、まだ少女ながらも伊賀有数の遣い手(ただしドジっ子)。
 幼い頃に川で溺れたところを救ってくれた信長に憧れ、望んで信長に仕えることとなった彼女の目を通して、若き日の信長の姿が描かれます。

 四コマギャグ漫画のスタイルに相応しく、本作で描かれるのは、ビジュアル的にもキャラ的にもデフォルメされた信長たち戦国の有名人が巻き起こす騒動の数々。
 しかし注目すべきは、それが単なる滅茶苦茶ではなく、きちんとした「史実」に則りつつ、そこにギャグを交えて四コマを成立させている点でしょう。

 一言で言えば、四コマギャグ漫画のスタイルを借りた信長記――歴史を材料にしてギャグを描くのではなく、ギャグを味付けにして歴史を描いた作品なのです。

 この姿勢は、巻末に記された、作者の「――この漫画は「忍び漫画」ではなく「忍びから見た戦国漫画」です」という言が、何よりも明確に示していると言えます。
 第1巻の解説は、織田時代史研究家の谷口克広氏なのですが、一見無謀とも見えるこの人選ですが、しかしこれほど適役はいないとも思えるのです。


 もちろん、それもこれも、四コマギャグとしての面白さあってこそですが、その点については全く問題なし。
 特に千鳥をはじめとする女性陣のキャラクターが――フィクションの要素を加える余地が大きいためかもしれませんが――実に可愛らしくも可笑しさ一杯で、時々差し挟まれるハートウォーミングな展開も相まって、安心して読むことができます。

 この第1巻で描かれるのは、信長と斎藤龍興との対立まで。まだまだ天下布武への道は遠いですが、その途上で千鳥がどんな活躍を見せてくれるのか、そして何を見るのか――また、先が楽しみな作品が増えました。


 ちなみに本作、登場人物の中に森可成や太田牛一という渋い面子がいるのが嬉しいところ。
 特に後者が漫画に出てきたのは初めて見ましたが、信長の業績を客観的に記した彼の存在は、ある意味本作の象徴なのかもしれません。


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2009.07.05

「魔京」第四篇「石の都府」 信長、時間と空間を夢見る

 織田信長は、立川流を操る乳母・養徳院により、現実を変容させる夢見の力を手にする。さらなる力を求める信長は、今川義元から京魄を奪い、過去と現在を自在に変容させていく。安土に日本の京を置き、その中心に石の城を築くことを夢見る信長は、その夢にあと一歩と迫るのだが…

 雑誌掲載時からだいぶ時間が経ってしまい恐縮ですが、秘呪具・京魄を中心に、都市という存在を描いていく大河伝奇「魔京」の第四篇であります。
 この第四篇「石の都府」で描かれるのは、戦国の魔王・織田信長。信長で石で都といえば、歴史に詳しい方であれば、信長が安土城内の寺に置き、諸人に崇めさせたという「ボンサン」の存在を思い出されるかもしれませんが、本作では信長と石との思わぬ繋がりが描きだされます。

 幼い頃に出会った乳母・養徳院により、人間が聖なる石の夢である――この辺り、火坂雅志の「神異伝」を思い出しますが――と教えられた信長。それと同時に、自らが夢見ることで世界を変容させる力を得た信長は、京魄を手にすることにより、己が夢見る石の都府、神の京都を築かんと目論むことになります。

 …正直なところ、世界観、信長像ともに観念的な部分が多く、信長が存在する時空がしばしば跳ぶこともあり、これまでのエピソードの中で群を抜いて難解なこの第四篇。
 作中で信長が語る時空像に戸惑う周囲の武将たちの如く、私も色々と戸惑いましたが、しかしここに至り、京魄という存在の持つ力の大きさとその意味というものが、いよいよ物語の前面に現れてきた、という印象は確かに受けました。

 これまで、京魄は大いなる力を持つということは語られていたものの、世界を規定するということが何を意味するのか、具体的に物語の中では描き出されていなかったやに感じられます。
 しかし、今回はその世界を規定するという恐るべき力の一端が、信長によりこの上なく明確に揮われます。世界を規定するとは、時間と空間を定めること。それは言い換えれば、時間と空間に干渉し、操る力――自在に過去と現在を書き換え、人の運命、いやその生死、存在の有無まで書き換えるほどの強大な力であります。

 一切の敵対者の存在を無にする、このほとんど反則としか言いようのない力を持った信長が、果たして何故本能寺で滅んだのか…それはここでは伏せますが、まさしく魔王の如き存在であっても、力を揮う上のルールに従わなければならないというのは、魔術研究家としての顔を持っていた作者らしい趣向と感じます。
(なお、戦国武将たちの戦いを「応仁の乱」の延長で戦いを続けているのに過ぎなかったと分析し、それに比して信長の天下統一という概念の異常性を浮き彫りにしてみせるのは、これも作者ならではの視点と感心いたしました)


 それにしても、信長が見た石の都府、神の京都とは何だったのか…まだまだ「魔京」の謎は尽きません。
 次なる物語は、当時世界最大の都となった江戸を舞台としたものですが――果たして?

「魔京」第四篇「石の都府」(朝松健 「SFマガジン」2008年3月号、5月号、7月号、9月号掲載)


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2009.07.04

「新選組刃義抄 アサギ」第1巻 手堅い中に輝きは既に

 最近は戦国ものに押され気味ではありますが、それでも根強い人気のある幕末もの。その中でも人気があるのはやはり新選組…というところでしょうか、ここに新しい新選組ものの作品が登場しました。「新選組!」の時代考証を担当した山村竜也氏が原作を、漫画版「天保異聞妖奇士」「モノノ怪」の蜷川ヤエコ氏が作画を担当した「新選組刃義抄 アサギ」です。
(ちなみに山村氏は「天保異聞妖奇士」の時代考証でもあるのですが…)

 沖田総司を主人公にした本作は、試衛館の面々が、浪士組に加わって京に出ながらも、清河八郎と袂を分かった直後からスタートします。
 関東からやって来た無名の浪人ものたちだった連中が、幕末の京にその名を轟かす存在に登り詰めていくという、いわば新選組の青春時代から語り起こされるわけで、その意味では本作は新選組ものの定番、なかなか手堅い作品という印象があります。

 ちょっと面白いのは、会津候を頼ろうとするも、全く相手にされなかった試衛館組が勝手に陰ながら候の護衛役を務め、その最中で田中新兵衛と岡田以蔵の二大人斬りと対決することとなるという展開。
 もちろん、佐幕方と勤王方の剣士の代表格だけあって、新選組と彼らが対決するという趣向も、決して珍しいものではありません。しかしながら本作では、岡田以蔵を、ある意味沖田総司のネガとして描こうとしていると感じられる点が、なかなか面白いのです。

 幼い頃に両親と死別し、寄る辺を失った総司にとって、剣は己の居場所を勝ち取るための力であり、試衛館そして新選組こそが彼の居る場所であり、己の命を賭けるべき存在――そんな、「思想なき剣」を振るうという点においては、まさに以蔵も総司と等しい存在であり、これからの物語は、この二人の対比が大きな原動力になるのではないかと予感させられます。

 いや、総司に対比される存在が本作にはもう一人――それは、総司の親友であり、試衛館の盟友である藤堂平助です。総司とは年も近く、また純粋な武士の生まれという共通点を持つ平助は、しかしそれだからこそ、心中深くにおいては総司と自分の間の超えられない壁を痛感し、悩むというキャラクターとして描かれます。
 この総司と平助の関係もまた、本作の原動力になっていくのではないでしょうか。


 このように、手堅い中にキャラクター配置の妙を感じさせる本作ですが、それをしっかりと受け止め、ビジュアライズして見せる蜷川ヤエコ氏の筆は今回も絶好調。
 元々画力には定評のある方ですが、本作においても、我々の抱く新選組や幕末の有名人たちのイメージをきっちりとビジュアライズした上で、自分のキャラクターとして動かしている印象があります。
(それにしても驚かされるのは、「天保異聞妖奇士」「モノノ怪」と本作、いずれも全く異なる画風でありながら、一定以上のクオリティを常に維持している点であります。いやこれは大変なことではありますまいか)

 物語的にはまだまだ序章といったところで、これからいよいよ、本作ならではの魅力というものが表れるものかと思いますが、しかし、その輝きは既に現時点から感じられます。
 このまま作中の新選組同様、作品自体が上へ上へ登っていくことを願う次第です。


 …しかし帯の「総司、平助、そして仲間たち、会いたかったぜ!」という山本耕史の言葉は、近年稀に見る殺し文句ではありますまいか。


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2009.07.03

「水滸伝」 第09回「宋江、危機一髪」

 梁山泊に脅威を感じ始めた高求は、新任の禁軍参謀・黄文炳の策により、宋江を利用して林中を誘き寄せようと謀る。父危篤のニセの報せに梁山泊を飛び出して故郷に向かった宋江は、官軍に捕らわれてしまう。裁判の結果江州に流罪となった宋江を奪還しようとした林中らだが、黄文炳の罠が張られていると知り、やむなく見逃す。一足先に江州に入っていた戴宋は、旧友の張順の紹介で牢獄の看守長に収まり、宋江を守護する。しかし黄文炳は宋江に謀反人の濡れ衣を着せ、激しい拷問にかける。宋江の命運や如何に…

 原典での江州篇をベースに展開される今回のエピソードは、このドラマ初(?)の前後編的エピソード。今回は、江州に流刑となった宋江が、罠にはめられ、謀反人として捕らわれてしまうまでが描かれます。

 そんなわけで、ここ数回同様ひどい目に遭わされる宋江は、今回も捕らわれのヒロインポジション。とにかく災難を呼び寄せるのは、もはや体質のように思えてきます。
 原典での宋江の受難は、自業自得的側面もかなりあるのですが、今回は、林中を誘き出すための囮とするためニセ手紙で故郷に呼び出されたり、全く身に覚えのない知事暗殺未遂の罪で謀反人扱いされたり…特に後者は、原典では酔っぱらって謀叛の詩を酒楼の壁に書いたのが元で捕まるという情けない展開なのですが、このドラマ版ではその辺りはばっさりカットされているので、完全に被害者であります。

 そんな宋江迫害の主犯となるのが、今回のエピソードのある意味主役とも言える黄文炳。原典では江州の小悪党でしたが、ここでは禁軍の参謀として登場という大出世(?)であります。
 そしてその黄文炳を演じるのは、ミスター悪代官・川合伸旺。いやー憎たらしい! そしてくどい! もんのすごいもみ上げと目張りで、見ているだけで胸焼けがしてくるような存在感は、さすがとしか言いようがありません。

 それに抗する梁山泊側のニューフェイスは、張順。原典同様、江州の漁師の元締めという設定ですが、かなりべらんめえ調の人物で、渾名の浪裏白跳からはちょっと違うイメージではありますが、しかし、いかにも荒くれ者を束ねる男伊達っぷりが気持ちいいキャラクターです。
 原典での初登場シーンである市場での喧嘩の相手は、鉄牛から武松に変更されていましたが、水の上なら無敵、というのはそのままでした。

 そして、その張順のケンカ友達なのが戴宋。原典ではここで初登場でしたが、ドラマの方では既に梁山泊の一員として登場していたため、わざわざ牢獄の看守になるエピソードが入ったのはちょっと可笑しかったのですが、これまでは脇役的だった印象がここで一変。
 牢獄長を強請った相手を叩きのめしておいて、「この次は人を見て強請るんだよぉ…元気でな」とニコニコ語って去っていく辺り、まだアイパーバリバリだった頃の黒沢年男の、ワイルドかつすっとぼけた男っぷりが実に格好良いのです。
 宋江の入牢時に、賄賂を抜きに百叩きにかけようとする部下たちに、そういう悪い習慣は改めないといかん、地獄の沙汰も金次第は万国共通の原則だ、とすっとぼけたことを言い出すのも楽しいシーンでした。


 さて、上記の通り、宋江が窮地に陥ったままで終わってしまった今回。原典ではここで呉学人の迷采配が炸裂するのですが…あ、ドラマ版は呉学人いないんだった。


 ちなみに今回、宋清が宋江の実家のシーンで地味に登場。青い衣装だけが印象に残る普通の人でした。扈三娘により、父ともども梁山泊に誘われたようです。


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2009.07.02

「平安ぱいれーつ 因果関係」 如月平安伝奇健在なり

 主の藤原純友に従って伊予国へ来た男童・山吹丸。地元の漁師たちに慕われ平和に暮らす純友と山吹丸だが、その漁師たちの裏の顔は海賊だった。しかも彼らの頼みで純友は大頭に就任。山吹丸はいずれも不思議な術を操る小頭四天王に可愛がられながらも、次々と騒動に巻き込まれる。

 ユニークな平安伝奇を発表してきた如月天音先生久々の新作は、あの藤原純友を題材にした作品です。
 純友といえば、海賊の首領として瀬戸内海を騒がせ、平安時代の叛乱者として平将門と並び称される有名人。
 しかし、脇役としての登場は多くとも、物語の中心人物として描かれることは少なかったこの純友に目を付けてみせたのは、作者の工夫というものでしょう。

 しかし本作の純友は、史実から受ける恐ろしげなイメージは欠片もなく、典雅ですらある穏やかな人物。
 都での出世争いに身も細るような思いをした末に、伊予での田舎暮らしを楽しんでいた純友が、思わぬ事から海賊稼業に引っ張り込まれてしまうのですから愉快です。

 その海賊の張本となるのが、ビジュアル・能力いずれも個性的な四人の小頭――ワイルドな灰色の髪の異人(実は…)の黒金、遠くいんぐらんどからやって来たうぃざーどの真朱、舌先三寸で人はおろか海の生き物たちまで操る青鷺、人並み外れた美形にして仏の力でいかなる傷も治す白露。
 一人一人が物語の主人公を張れそうな連中が四人集まるのですから、これは穏やかに済むわけがありません。

 そして、そんな面々を前に悪戦苦闘するのが、本作の主人公・山吹丸少年。
 生真面目なのだけが取り柄で、容姿も十人並み、それでも主を想う気持ちだけは誰にも負けない山吹丸は、実に健気で応援したくなるのですが…しかしややこしいのは、この山吹丸が、小頭四天王、いやその他ある共通点を持つ連中に、モテモテなことであります。
 実にこの山吹丸争奪戦に、あの安倍晴明(如月作品お馴染みの、どんぐり眼のKY晴明)まで加わってしまうのですから…

 この辺り実に如月先生だなあ…と感心しますが、しかしこれが単に女性読者サービスに終わらず、なるほど、と思ってしまうようなロジカルな(?)理由付けがあるあたり、これまた如月先生だなあと感じます。

 最初に述べたように純友を物語の中心に据えたことといい、また平安という時代を地方からの視点で描いてみせたことといい…如月平安伝奇健在なり、と嬉しくなってしまいました。


 しかし史実に従えばあと四年――長いような短いような時間を、いかに山吹丸たちは過ごすのか…やはり気になるところです。


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