「入門者向け時代伝奇小説五十選」公開中

 特別企画として「入門者向け時代伝奇小説五十選」(第一期)を掲載しています。
 入門者にとって、間口が広いようで狭いのが時代伝奇小説。何となく興味はあるのだけれど何を読んだらよいかわからない、あるいは、この作品は読んでみて面白かったけれど次は何を読んだらよいものか、と思っている方は結構な数いらっしゃるのではないかと思います。
 そこで今回、これから時代伝奇小説に触れるという方から、ある程度は作品に触れたことのある方あたりまでを対象として、五十作品(冊)を紹介したいと考えた次第です。

 さて、第一期五十選については、膨大な作品の中から以下のような条件で選定しています。
(1) 広義の時代伝奇小説に当てはまるもの
(2) 予備知識等がない方が読んでも楽しめる作品であること
(3) 現在入手が(比較的)容易であること
(4) 原則として分量(巻数)が多すぎないこと
(5) 一人の作者は最大二作品まで
(6) 私自身が面白いと思った作品であること

 そして、その五十作品を、それぞれ五点ずつ以下の十のジャンル・区分で分けています。
1.定番もの
2.剣豪もの
3.忍者もの
4.SF・ホラー
5.平安もの
6.室町もの
7.戦国もの
8.江戸もの
9.幕末・明治もの
10.期待の新鋭

 上記はあくまでも便宜上の区分であり、必ずしも厳密に該当するわけではない(あるいは複数に該当するものも多い)のですが、ご覧になる方に一種の目安としていただくためのものとしてご了解ください。

 この五十選が、楽しい読書の一助となればこれに勝る喜びはありません。

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2016.08.26

『仮面の忍者赤影』 第36話「忍法石仏」

 ただ一人先に進むという信長を諭し、京で暴虐の限りを尽くす弾正を討つべく同行することを誓う赤影たち。彼らを陰ながら守る伊賀の忍びたちだが、琵琶法師に化けた根来十三忍・魔風刑部の攻防一体の忍法石仏によって全滅してしまう。さらに刑部の魔手は白影を捉え、さらに赤影に襲いかかる……

 前回命を落とした伊賀忍のことを悼んでいたのか、路傍の石仏の前で拝む信長と赤影たち。ついにたった四人になってしまった一行ですが、何と信長はもう誰一人死んで欲しくないとナイーブなことを言い出し、赤影たちの任を解くと告げるのでした。と言っても配下の軍勢がいるわけでもなく、ただ一人で京に乗り込むというのですから、無茶にもほどがあります。当然ながらこれに逆らい、赤影たちは最後まで同行すると宣言します。
 と、ここで石仏の目が動いたと言い出す青影。(いくらアバウトな合成でも)石仏の目が動くはずはないと白影たちは一笑に付すと先を急ぐことになります。しかしその後、石仏が割れて、容貌魁偉な忍びが……

 その後も蛇が出た、根来の下忍が出たとビビリ続ける青影ですが、下忍の狙撃隊は本物。が、これに猛然と奇襲をかけて全滅させたのは三人の伊賀忍びであります。三人? そう、前回仲間を逃がすために下忍の群れに突っ込んで膾斬りとなった市松も加わっていたのですが……これは市松が「そういう忍法」を会得していたと思うことにしましょう。

 さて、一息を付く間に、水鏡に赤影が映し出したのは、弾正に支配された京の有様であります。無辜の民に対し、奪い、襲い、殺し――その有様を酒を食らいながら愉しむ弾正はまさに鬼畜。信長は改めて弾正を倒すために京に向かう決意を固めます。
 と、そこに現れたのは薄汚れた姿の盲目の琵琶法師。赤影に水を与えられ、美味そうに飲み干す姿からは、一片の殺意も感じられないのですが……

 しかし、不審を抱いて後を追ってきた伊賀忍びたちの前で琵琶法師はその正体――先ほど石仏の中から現れた姿を現します。その正体は根来十三忍は第十一の刺客・魔風刑部。相手に名乗るのは必殺の自信がある故かと思えば、なるほど斬られては弾き返し、刺されては受け止めと、ほとんど無敵の体であります(この辺り、単純に堅いというより、芦名銅伯の忍法なまり胴的なものがあるのが面白い)
 そして口から放った白い息によって相手を石化してしまう忍法石仏により、伊賀の猛者たちも次々と石像と化し、最後の一人が必死に放った狼煙を見て駆けつけた白影も、あっさりと首の骨を外された上に喉を石化されてしまうのでした。

 そして倒れた白影を見つけた琵琶法師を装って赤影に接近する刑部。隙を突いて襲いかかる刑部と切り結ぶ赤影ですが、やはり刑部にダメージを与えることが出来ず、そして刑部の忍法石仏が赤影を襲った! と思いきや、そこに転がっていたのは本当の石仏。変わり身の術で回避したものの、なおも攻めあぐねる赤影に対し、刑部は自らを石仏と化して立ち塞がります。
 いかなる攻撃をも跳ね返す石仏。しかしそこで何とか立ち上がった白影が、手甲で水を汲むと赤影に手渡します。その手甲から刑部に向けて放水する赤影。その水の中には石を溶かす溶解液が――敵ながら無惨にも、悲鳴を上げながら刑部は溶けて消えるのでした。

 さて、死闘が決着した頃、二人を待っていた青影と信長を襲う腥い風。それが止んだ後にその場に現れたのは暗闇鬼堂であります。斬りかかる二人を金縛りにした鬼堂の呼びかけに応えて満月をバックに現れたのは、四つの目を持つ巨大な怪猫ジャコーで……というところで次回に続きます。


 ある意味正当派の忍者であった刑部との対決を描く今回、ちょっと展開がバタバタしていたり、唐突に飛び出す溶解液に違和感はありましたが、忍法合戦を中心に据えた内容は、原点回帰したような印象もありました。
 ちなみに刑部との対決中、赤影が自分には読心術があると言い出したのはフェイクかと思いましたが、相手に殺気を見せない刑部の意図は読めないが、その手の内を知った白影の心を読んで反撃したということであれば、これは面白い展開だと思います。


今回の怪忍者
魔風刑部

 相手を石化する忍法石仏の遣い手。刀を弾き、貫かれても平然としている体の持ち主で、自らを石仏に変えることも可能。琵琶法師に化けて伊賀忍者たちを全滅させ、白影を戦闘不能とするが、石仏と化したところにその白影が作った溶解液をかけられて絶命した。


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2016.08.25

上田秀人『禁裏付雅帳 二 戸惑』 政治と男女、二つの世界のダイナミズム

 思わぬことから公家の監察官たる禁裏付に任じられた青年武士・東城鷹矢の苦闘を描くシリーズの第二弾であります。前作は鷹矢が禁裏付に任じられるまでを描いたいわばプロローグでしたが、本作においていよいよ鷹矢は京に赴任し、禁裏付としての道を歩み始めることになります。苦難に満ちた道を……

 公儀御領巡検使に選ばれたことから、運命が大きく変わることとなった鷹矢。本来であれば別の役目となるはずが、公儀御領の担当とされてしまった彼に課せられた任務、それは朝廷側の不正・弱みを探ることでした。
 実はこの時代、今上帝が父・閑院宮典仁親王の太上天皇号を宣下する内意を幕府に示してきたことから、これを阻まんとする時の老中・松平定信の意により、京と全く縁のなかった鷹矢が選ばれたのです。

 帝位になかった典仁親王に太上天皇号を送ることは、神君家康が作った禁中並公家諸法度に反する行い。そしてより直接的には、宣下に伴う諸々の儀式のためにかかる費用が、これから改革の大鉈を振るおうとしている定信にとっては認められない状況なのであります。
 それ故、定信が自分の自由にできる手駒として、鷹矢は送り込まれることになったのですが……もちろん、鷹矢にとっては大きな災難であることは間違いありません。

 何しろ、江戸で、武家の間で暮らしてきた鷹矢にとって、京の、公家の社会は全くの異世界。物理的な力、世俗的な力はほとんど全く持たぬものの、官位は高く、そして何よりも政治と陰謀好きな公家たちは、彼にとっては理解の範疇の外にあります。

 そしてまた、禁裏付という役目自体が、有名無実どころか無名無実。禁裏を、公家を監察し、異変や事件が起きれば所司代に報告するのがその役目ではありますが、この時代にまずそんなことが起きることもなく(そして何よりも官僚制特有の事なかれ主義もあり)、実務は配下の与力同心が行う……
 一見気楽な役目に見えますが、裏を返せば、それはその役目で何かを為そうとすれば、常の何倍もの労力が必要となるということであります。

 そして、そんな禁裏付に、異例の配属ルートで回ってきた鷹矢の存在が、周囲の耳目を集めるのもまた事実。早くも定信の意図を見破った大納言にして五摂家の一つ・二条家の当主である二条治孝は、鷹矢を己の掌中に収め、禁裏側で操ろうといたします。その手段とは……


 古来より誰かをスパイに仕立て上げるための手段でまず使われるのは金。そしてそれと並ぶのが、女であります。
 ここで治孝が使った手段はまさにそれ。下級公家の次女・温子を自らの養女(という名目の手駒)として、鷹矢を籠絡させるべく、送り込んだのであります。

 腕は立つが若く世間知らずな青年武士が、突然政略と陰謀の世界に放り込まれ、権力を巡る暗闘に巻き込まれるという構図が大半を占める上田作品。
 四方八方が敵か自分を利用とする者だらけという世界の中で、主人公たちの数少ない救いとなるのは、男女の愛――最もパーソナルな人間の関係性でありました。

 それが本作においては、それすらも封じられている――いやむしろ利用されようとしているのですから、何ともやりきれない状況ではあります。
 しかし同時に、(このような言い方は誤解を招くかもしれませんが)それだからこそ本作はこの先が楽しみになると感じます。

 「捨て姫」(事がなろうとなるまいと、実家からは捨てられた扱いとなる姫君)という、人を人とも思わぬような、何とも腹立たしい扱いで送り込まれてくる温子。そのある意味「堂々たる隠密」であり、双方に愛情どころか不信感すらある鷹矢と温子の関係性が、どのように変わっていくのか(あるいは変わらないのか)。
 そのある種のダイナミズムが、大いに興味をそそるのです。


 実は本作は、作者の作品としては珍しく剣戟シーンがないのですが(おそらくは次巻冒頭でドッとくるはずですが)、それでも緊張感を持って最後まで読むことができたのは、政治の世界のダイナミズムだけでなく、この男女の世界のダイナミズムがあったからにほかなりません。

 もちろんこの二つの世界の動きは、端緒についたばかり。これからまだまだ様々な動きが待ち受けていることでしょう。現に、ラストにはもう一人……という何とも空恐ろしい状況が待ち受けており、この先の展開にも興味をそそられるのであります。


『禁裏付雅帳 二 戸惑』(上田秀人 徳間文庫) Amazon
戸惑: 禁裏付雅帳 二 (徳間文庫)


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2016.08.24

時海結以『真田十勇士』 作者流の冒険活劇

 今年は真田イヤーということで、これまで幾つも真田ものを紹介してきましたが、児童向け文庫での「真田十勇士」ものはこれで4冊(3作品)目でしょうか。同じレーベルで『南総里見八犬伝』を刊行中の時海結以が、睦月ムンクの挿絵で贈る十勇士伝であります。

 信州の山中で武術の修行に明け暮れていたところを老忍者・戸沢白雲斎に見出され、優れた忍者として成長した猿飛佐助。免許皆伝を受けた後、若き真田幸村を主君と思い定めた佐助は、先に幸村に仕えていた六人とともに、幸村を支える勇士として活躍することに……
 という、真田十勇士ものとしては非常にスタンダードな形で始まる本作。基本的な内容は立川文庫がベースですが、随所に本作ならではの味付けが施されています。

 比較的早い段階でそれが浮き彫りとなるのは、ヒロインである楓と佐助のエピソードであります。
 勇士の一人・海野六郎の叔父の娘で、和歌をはじめとする美貌の才女として家中で知られる楓。彼女から和歌を習おうとしたことがきっかけで知り合った佐助ですが、この楓、相当のツンデレ。何故か気になる佐助に歌を送るも、朴念仁の佐助はろくに読まずに……

 と、ちょっとこそばゆい展開なのですが、対象層の親世代に当たる人間が読んであれこれいうのは野暮というものでしょう。この辺りは、ティーンズ向け作品で活躍する作者ならではの呼吸と言うべきではないでしょうか。
(そしてこの佐助と楓の関係が、ラストに意外な形で立ち上がってくるのですが、これは後ほど)

 そしてもう一点、本作がユニークなのは、霧隠才蔵のキャラクター造形であります。
 実は立川文庫の才蔵は、今のように動の佐助に対する静のキャラ、クールな美形といったようなキャラクターは確立しておらず、佐助のコンパチキャラ的な立ち位置。一方本作においては、まさにクールな美形キャラとして描かれる才蔵ですが、それだけではなく、一段掘り下げた設定が用意されています。

 浅井長政の家来の子ながら、早くに実の両親を失い、屋敷で働いていた養父母に育てられた才蔵。しかし人助けとはいえ、才蔵が侍に手を上げたことがきっかけとなって養い親は殺されたことが、彼の心の中に深い傷となって残っているのです。

 仲間たちにも明かさぬこの才蔵の心の傷ですが、しかしそれが意味を持つのはその後の展開であります。
 幸村の家臣となり、任務で諸国を回る最中に、北条家の家臣であった父が濡れ衣を着せられて殺された少女・春と出会った才蔵。彼は、天涯孤独となった春に自分の姿を見て、彼女に助太刀すべく、仲間たちとともに無数の悪人ばらに立ち向かうのであります。

 このくだりは、ちょっと他の十勇士ものでは読んだことがないように思うのですが、佐助のコンパチキャラではなく、単にクールな忍者でもない、一個の人間としてのキャラクターを与えられた本作の才蔵ならではのドラマとして、強く印象に残るのです。


 さて、その後も佐助と才蔵をはじめとする勇士たちが繰り広げる冒険は続きます。海賊・根津甚八との出会い、かつて山賊だった由利鎌之助の子分たちを助けるための岡山城討ち入り、そして二度の大坂の陣……
(ただし、真田家の晴れ舞台とも言える関が原は、佐助たちが旅をしている間に終結していた、という展開はちと残念)。

 そして戦いの果てに楓と再会した佐助。その心中に去来するものがなんであったか。そしてつて楓が佐助に教えた和歌が示すものとは……
 野放図な冒険絵巻を存分に描きながらも、ラストに漂うこの叙情的な味わいも、また本作ならではの味わいと言えるでしょう。

 先に述べたように関ヶ原の戦いがオミットされていたりと、題材のチョイスが個人的にはちょっと残念な部分もあるのですが、現代に蘇った、作者ならではの立川文庫として、楽しめた一冊でした。


『真田十勇士』(時海結以 講談社青い鳥文庫) Amazon
真田十勇士 (講談社青い鳥文庫)


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2016.08.23

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第7話「魔脊山」

 七罪塔で待つとその場は去った蔑天骸。最初の関門・亡者の谷に辿り着いた一行だが、刑亥の術がうまく働かず、結界からあぶれた殤不患は一人奮闘を余儀なくされる。さらに第二の関門・傀儡の谷でも狩雲霄の矢が通じず、殤不患はただ一人、巨大な傀儡を相手に死闘を演じる羽目に……

 全くキャラが立っていなかった獵魅は本当にあのまま死んでしまったらしく、全く言及もないままスルーされて始まる今回。突然登場した蔑天骸は、流星歩でいきなり丹翡たちの乗る船の上に出現いたします。仇を前に闘志を燃やす丹翡は、ここに集った六人の義士の力で天刑劍を取り戻すと宣言しますが、「義士?(プッ」という感じでこれを嘲笑う蔑天骸。面白い、七罪塔で待つなどと、大物っぽいことを言い残し、呼び出した妖魔の腕に捕まって去っていくのでした(残された連中も慌てて流星歩で消える)。
 鬼鳥は見逃してもらったと言うものの、イベント戦闘もなしに消えられても今ひとつ小物感が拭えないのですが……

 さて、いよいよ明日は魔脊山という晩、念白付きで型の修練に余念がない丹翡のもとに現れたのは捲殘雲。型の流れに不完全な部分があることとその想定される要因、そして丹翡の心の焦りを一目で見抜く辺り、彼もただのお調子者でないことがわかります。そして型を自分流に改めるべきという提案も、それなりに理に叶ってはいるのですが……
 伝統の中で生きてきた丹翡にとっては――ましてや弱点の原因が自分が女であるためと指摘されれば――面白いはずもありません。さらに、子供を産んで云々という捲殘雲の発言に、完全に怒ってしまうのでした。

 そして一行が臨むのは第一の関門、現世に未練を残した亡者が彷徨う亡者の谷。ここはもちろん、死霊術のエキスパートである刑亥の出番であります。丹翡を中心に、捲殘雲と狩雲霄が手にした帯の三角形が作り出す結界の中に守られ、前回も披露した歌声に乗せた術を使う刑亥ですが、しかし術が効かない。この術、死者が死んだ年代によって歌の調子を変えないといけないとのことで、試行錯誤する刑亥ですが……
 ここでモロに割りを食ったのは殤不患。件の結界から外れてしまった彼は、ただ一人亡者に集中して襲われる羽目になってしまったのであります。もちろん亡者相手に引けを取る彼ではありませんが、何しろ相手は無数に近い。結界を維持している三人はともかく、殺無生と鬼鳥は手が空いているはずですが、こいつらが素直に動くはずがありません。鬼鳥などは殤不患の助けを求める声をうるさいという始末で、刑亥の歌に合わせて何か楽しげに指揮を取っております。

 ようやく亡者たちが大戦のあった二百年前の死者とわかり、調律を済ませた歌で亡者を一掃した時には、殤不患は汗みずくに。しかし仲間たちは彼を一顧だにせずに先を急ぐのでした(そもそも、これだけ死者が大量に生まれる可能性が一番高いのは二百年前だとすぐわかりそうなものなのに……)

 そしてあっさりと着いた第二の関門、傀儡の谷を守るのは、身の丈五丈の岩の巨人。首の裏にある弱点を破壊すれば動きが止まるというものの、動き出さなければ弱点も露わにならないため、巨人を動かそうと刺激を与える殤不患ですが……いざ動き出してみれば、弱点を破壊する係の狩雲霄の矢が当たらない。当たらなくても何だか呑気な狩雲霄ですが、殤不患にとってはたまったものではありません。
 動く者だけを狙うという巨人に一人目をつけられ、仲間たちは全く当てにならない状況で、相手が振り下ろしてきた腕に飛び乗るとそのまま駆け上がり、自らの剣で弱点を直接粉砕してのける殤不患。その後、バランスを崩して上から落ちた彼の衣を射抜いて落下を止めたのは狩雲霄ですが、自分の失策を棚に上げて恩着せがましくされても……

 と、自分だけ働かせて余裕こいている連中に対し、俺はピンでやらせてもらう! と殤不患の怒りが爆発したところで次回に続きます。


 その突破のために達人たちを集めたにも関わらず、あっさりと一話のうちに二つもクリアしてしまった七罪塔への関門。てっきり一つ一話ずつかけ、仲間たちが一人ずつ散っていくのかと思えば、拍子抜けであります。
 そして本当に感じの悪い殤不患以外の「義士」たち(特に狩雲霄は前回から株が下がりっぱなし)。余裕こいてますが、刑亥と狩雲霄(あとそもそも役目のない捲殘雲)はいわばもう出番は終わったわけで、いつ惨死させられてもおかしくないのを忘れていませんかね……特によくアクションしていて人形が傷んでそうな捲殘雲。

 と、見ているこちらの性格も悪くなりそうな展開が続きますが、予告を見れば次回はもう七罪塔に到着の様子です。まだ半分を超えたばかりなのですが……ラスボスの座を滑り落ちそうな蔑天骸が心配であります。


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関連サイト
 公式サイト

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2016.08.22

梶川卓郎『信長のシェフ』第16巻 後継披露 信忠のシェフ!?

 強敵・武田家との一大決戦であった長篠の戦いを終え、まずは一息つけるかと思われたケン。しかし信長が織田家の当主を辞めて嫡男の信忠に家督を譲ると宣言し、ケンに信忠の料理人となることを宣言したことから、またもや一波瀾生じることとなります。

 自分自身幾つもの因縁があった武田勝頼との決戦を、自らの命を危険に晒しつつ乗り切ったケン。しかし、信長の命により「信忠のシェフ」を務めることになった彼には、なかなか安息の時は訪れません。そしてこの巻の前半では、その信忠による岩村城の包囲戦を巡る物語が描かれることとなります。

 この岩村城に籠もるのは武田家の重鎮・秋山信友ですが、いかに相手が猛将とはいえ、彼我の勢いの差は歴然。もはや援軍を待つしかない岩村城が落ちるのは時間の問題、しかもそこに信長の料理人であったケンが信忠付きとしてやってきたことで、浮足立つ信忠の家臣団ですが――もちろんこのまま何事もなく済むはずがありません。
 ついに勝頼自らが援軍として進発したにもかかわらず、降伏を申し出た信友。その真意は何か――家臣団が揺れる中、ケンは信忠に意見を求められることとなります。

 今回ほとんど初登場となった信忠ですが、ビジュアル的には眉がそっくりであるものの、その表情はあくまでも穏やかで落ち着いた若者といったところ。
 その印象通りと言うべきか、父のような飛び抜けた力は持たないものの、周囲の意見を聞き、公正な判断を下すことができる人物として描かれているのが興味深いところです。

 信忠については、その最期が印象に残るものの、その人物像自体は今ひとつ定説がないようですが、本作の信忠は、乱世よりも治世において力を発揮する人物として描かれており、それはこの巻の後半の展開にも大きな意味を持つことになるのですが――


 そしてその後半で描かれるのは、信忠の家督相続の宴席。現代の感覚からすれば、家督相続というのは、まあそれなりに儀式として意味はあれど、そこまでも重いものとは思えないかもしれません。
 しかし時は下克上の時代、親から子へ家督を譲ると宣言すれば、それだけでスムーズに相続できるわけでもありません。特に、信長のように己の力で道を切り開いてきた人物の後継ともなれば……

 後継者としての自分の披露の場であり、武士・公家・商人・僧侶等々、各界の一流の人物が集まる外交の戦場に臨むことになった信忠。しかしそこに思わぬ敵が出現することになります。
 それは信長の三男・信孝。その外見のみならず、志向能力もまた、信長に最も近いと言われる青年であります。

 この信孝、信忠どころでなく信長似というか、若いころの信長はこうであろうというビジュアルなのですが、外見はさておき、その行動力は確かに信長譲り。信忠に家督が譲られることに不満を持った彼は、この宴席をぶち壊しにすることで、信忠にその資格なしと衆人の前に示そうとするのであります。

 もっとも、その手段があまりにもアバウトなのは全く信長似ではありませんが、しかし勢いはあるだけに恐ろしい。ある意味合戦以上の危機に陥った信忠を救うことができるのは、もちろんケンなのであります。


 と、信忠と彼の家督相続を中心に描くこの巻は、比較的に地味に思えるかもしれません。が、そこで描かれるものは、上で述べたとおり、戦国の世にあっては決して軽んじることはできないものであります。
 その辺りをきっちりと描くことができるのは、これは「食」という、人が生きる限りあらゆる局面で必要となる行為を中心とする本作ならでは……と言うのは、決して牽強付会ではないでしょう。

 特にこの宴席騒動のその先に、信長の見据えるこの先の世界像と、そこに向けた宣戦布告とも言うべき一大宣言があるとすれば……

 この宣言を受けてにわかに動き出す諸勢力。その一番手となるのは本願寺のようですが、そこには彼女がいるわけで……
 まだまだ信長のシェフはお役御免になりそうにもありません。


 ちなみに岩村城攻めのエピローグ的に描かれるのは、秋山信友の最期。ケンと夏を一緒に甲斐にさらっていくなど、ケンと浅からぬ因縁を持つ人物を救うために、信長との最後の晩餐に臨む彼に、ケンがある料理を作ることになります。
 これもあまりに豪快な作戦でちょっと噴いてしまうのですが、ケンの信友への想いと、信友の男気が感じられるエピソードで、私は気に入っています。


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2016.08.21

ほおのきソラ『戦国ヴァンプ』第1巻 時と世界を異にするパラノーマルロマンス

 戦国時代にタイムスリップするというのは、これは高確率で女子高生と決まっていますが、彼女と出会う戦国武将が織田信長であるのも、またかなりの高確率。本作もそんなタイムスリップ時代劇ではありますが――しかし、他の作品と異なるのは、その信長が吸血鬼であることなのです。

 ある日、幼なじみのはじめと日本史の勉強をしていたところに、不思議な声を聞いた平凡な女子高生・ひさき。その直後、何処とも知れぬ空間に落ち、何者かの手に捕まりかけた彼女は、そこに現れたもう一つ別の手を取るのでした。
 そして意識を取り戻した彼女の前に現れた手の持ち主は、永禄2年の京で権勢を誇る三好家の当主・長慶でありました。

 天下を取るために必要だというひさきを狙った最初の声――今川義元に仕える謎の尼僧からひさきを守るために横取りしたという長慶。しかし突然のことに混乱し、三好邸を飛び出した彼女は、京を訪れていた織田信長とそのお供の「猿」と「犬」に出会うことになります。
 後世の評判とは異なり、物静かでちょっと天然の気もある信長に、成り行きからついていったひさき。しかし信長を狙う謎の刺客との争いに巻き込まれた彼女を庇い、信長は瀕死の重傷を負ってしまうのでありました。

 長慶ならば信長を救うことができるかもしれないと助けを求めたひさき。しかしその願いに応えて長慶がが行ったのは、信長の血を吸うこと。そう、ヴァンパイアの始祖の力を持つ長慶により、信長もまた、ヴァンパイアに――


 冒頭に述べたとおり、女子高生タイムスリップものというか、女子高生が戦国武将と恋愛する作品というのは、決して少なくない作品数、一つのジャンルと言ってもよいようにも感じられます。

 住む世界や時代が異なる、一種の異邦人とのロマンスというものは、やはり人の心を惹きつけるものなのかもかもしれませんが――こうしたパラノーマルロマンスの王道(?)といえば吸血鬼もの。
 ならば、戦国武将+吸血鬼でロマンスを描いてみればどうか……? そのある意味ストレートな試みが、本作と言えます。

 実は信長を吸血鬼とした作品は――特にその後半生の言動から来るイメージかと思いますが――決して皆無ではありません。しかし本作はそこにロマンスを持ち込んだのが面白い。
 さらに信長が吸血鬼となった理由を、三好長慶によるものとしたのは、これはおそらくは本作が初めてに思いますが……信長と長慶を並べているのは、三好家による中央集権的な畿内支配の体制が、一種信長の先駆的なスタイルであった点によるものと思いますし、何よりも、その後没落しゆく名族という三好のイメージに吸血鬼の姿を重ねたのであれば、なかなかのセンスだと感じます。

 もっとも、本作においては、長慶は元長によって三好家に外から迎えられた者であり、元長の子である人間・千熊丸が、長慶の手で吸血鬼となって三好義興を名乗るという、親子関係がいささか錯綜しているのに混乱させられますが……


 さて、本作に登場し、ヒロインを取り巻く男性陣は、信長や長慶、義興だけではありません。信長の供回りとして秀吉(……本作では最初から秀吉)や利家が、京には足利義輝が、そして長慶の側近として松永長頼が登場するのですが、皆タイプの違ったイケメン揃いであります(そして月代を剃っているのはモブ侍のみという思い切ったビジュアル)。
 こういう表現はもいかがなものかとは思いますが、一瞬、乙女ゲームの漫画化であったかと思ったほどであります。

 それはさておき、面白いのは松永長頼の存在でしょう。兄・久秀の悪名に隠れて後世ではあまり目立ちませんが、長頼は武勇に優れ、元々は兄以上に長慶に信頼されていたという人物。本作ではいかにも執事然とした佇まいのクールなキャラとして描かれているのも理解できます。
 しかし、長頼がいるとすれば久秀は……? といえば、これがとんでもない形で登場することとなります。こればかりはここで述べるわけにはいきませんが、いやはや、久秀がこれであればこの先歴史はどうなってしまうのか、と唖然とするばかり。

 そしてもう一人、ひさきを執拗に狙う今川義元の下にいるある武将もまた、同様の形で登場することになるのですが……


 時と世界を異にする男性たちとのパラノーマルロマンス、と思いきや、歴史ものとしても意外な変化球を投げてきた本作。これは当分目が離せそうにありません。


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