入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎無頼控』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号 太閤の復活祭』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『三人孫市』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛 将軍家見聞役元八郎』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』シリーズ(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『鬼船の城塞』(鳴神響一)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』(富樫倫太郎)
87.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
88.『警視庁草紙』(山田風太郎)
89.『西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄)
90.『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『白狐魔記』シリーズ(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)



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2018.09.19

澤見彰『横浜奇談新聞 よろず事件簿』 もう一人の福地、時代の影から物申す


 最近は『ヤマユリワラシ』『白き糸の道』と骨太の作品が続いた作者ですが、軽妙な味わいの(それでいて根底には重いものが流れる)作品も得意とするところであります。本作もその流れを汲む作品――明治初期の横浜を舞台に、生真面目な元武士と軽薄な英国人記者のコンビが怪事件を追う連作です。

 かつて海軍伝習所に学び、その外国語の知識を活かすことを夢見たものの、病で海外行きの機会を逃して以来、鳴かず飛ばずの暮らしを送る青年・福地寅次郎。恩人の勧めで横浜を訪れては見たものの、彼にできることさしてはなく、翻訳の仕事などで食いつなぐ毎日であります。
 そんな中、ついに髷を落とすという決心を固めて訪れた寅次郎は、理髪店で容姿端麗ながら脳天気で軽薄な英国人青年・ライルと出会うことになります。

 奇談怪談ばかりを扱う新聞「横浜奇談」の記者であるライルから、この理髪店で落とされた髷の怨念が夜な夜な怪事件を起こすという噂を聞かされた寅次郎。成り行きから理髪店の店主を助けるために一肌脱いだ寅次郎は、ライルから自分と一緒に「横浜奇談」を作ろうと誘われるのですが……


 おそらくは明治初期、いや幕末の日本において、最も世界に開かれた場所であろう横浜。この開化の横浜を舞台とした作品は数々ありますが、本作の最大の特徴は、その時代と場所、そしてそこに集う人々を描くのに、新聞という新たなメディアを切り口としていることでしょう。
 もちろん、江戸時代にも瓦版はありますが、新聞はそれとはまた似て非なるもの。面白半分のゴシップや奇談だけでなく、社会や政治に対するオピニオンを掲載したその内容は、新たな時代の象徴として、そして欧米から流入した文化の代表として、まことに相応しいと言えます。

 ……もっとも、本作で寅次郎とライルが携わる「横浜奇談」は前者をメインに扱うのですが、しかしそれでも新聞の、記者の魂は変わりません。ワーグマンやベアトといった当時の(実在の)先達に嗤われながらも、地に足のついた、いや地べたから物申すメディアとして、寅次郎とライルは日夜奮闘を繰り広げる――その姿こそが、本作の魅力であります。

 そう、新しい時代が輝かしい文明の光をもたらす一方で、光に憧れながらそれに手が届かない者、その光の輝きに馴染めぬ者、光の中に踏み出すのを躊躇う者――そんな光から外れた影の中に暮らす人々、暮らさざるを得ない人々がいます。
 その一人が、物語が始まった時点の寅次郎であることは言うまでもありません。

 そして寅次郎だけでなく、取材の中で彼とライルが出会う人々もまた、それぞれの形で時代の影に囚われた者たちであり、そんな人々が絡んだ怪事件の数々は、そんな時代の影、時代の矛盾が生んだものであります。
 そしてそんな事件の背後にあるのは、女性蔑視や人種差別といった重く難しい――そして何よりも、今この時代にも存在するもの。その事件を新聞記事として明るみに出すことで、彼らは彼らなりのやり方で、時代に、時代の在り方に挑んでいると言えるでしょう。

 寅次郎とライルを中心にしたキャラクターのコミカルなやりとりを描く一方で、この時代背景ならではの、そして決して我々にとっても無縁ではない「もの」を浮き彫りにしてみせる本作。
 実のところ、描かれる怪事があまり怪事でなかったり、登場人物たちがいささか物わかりが良すぎる印象は否めないのですが――軽く明るく、そして重く厳しい物語内容は、実に作者らしい、作者ならではのものと言えます。
(そして小動物が可愛いのもまた、別の意味で作者らしい)


 ちなみに上に書いたとおり、寅次郎の姓は福地ですが、この時代にはもう一人、新聞記者の福地が存在します。その名は福地源一郎――桜痴の号で知られる彼は、やはり幕末に外国語を学び、明治時代に新聞記者として活躍した人物であります。

 しかし幕末に遣欧使節に加わり、明治時代には役人として活躍した源一郎は、寅次郎とは対照的な存在と言えるでしょう。
 ある意味本作は、明治の光を浴びた福地ではない、もう一人の福地を主人公とすることで、光からは描けないものを描いてみせた物語なのではないか――いささか大袈裟かもしれませんが、そのようにも感じるのであります。


『横浜奇談新聞 よろず事件簿』(澤見彰 ポプラ文庫ピュアフル) Amazon
横浜奇談新聞 よろず事件簿 (ポプラ文庫ピュアフル)

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2018.09.18

福田悠『本所憑きもの長屋 お守様』 連続殺人の影に呪いの人形あり!? どんでん返しの時代ミステリ


 第16回 『このミステリーがすごい! 』大賞の隠し玉作品に選出された本作は、一見妖怪時代小説のようなタイトルでありつつも、その実かなりストレートな時代ミステリ。晴らせぬ恨みを晴らせると噂の人形を巡って起きる連続殺人と、その陰に潜む意外な人の情を描く物語であります。

 江戸で続発する殺人事件。いずれも人から強い恨みを受ける悪党が殺されたものの、被害者同士に繋がりはなく、いずれも達人と思しき相手に一刀のもとに斬られているという謎多き事件であります。
 その調べに当たる岡っ引きの甚八は、殺人が起きる前に、いずれも被害者に恨みのある女性がある人形に願掛けをしていたことを知るのですが――それはなんと、甚八が暮らす徳兵衛長屋の奥の祠に祀られた「お守様」と呼ばれる人形だったのです。

 お守り様に願をかければ天誅が下されるという噂を流している何者かがいると、その後を追う甚八は、やがて自分と姉のおしの、幼馴染の武士の子・柳治郎の子供時代にも、お守様にまつわる事件があったことを思い出します。
 果たしてお守様は呪いの人形なのか、そしてお守様にまつわる因縁とは何か。何故お守り様への願い通りに悪人が殺されていくのか。ついに甚八が掴んだその真相と、犯人の正体とは――

 『このミス』大賞の隠し玉といえば、これまでも『もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ』や『大江戸科学捜査 八丁堀のおよう』といった、時代ミステリも――それも、一筋縄ではいかない作品を送り出してきた枠であります。
 それ故、ジャンルとしては同じ時代ミステリもまた、どんな作品が飛び出してくるか、と身構えていたのですが、これが意外なまでに(といっては失礼に当たりますが)端正で、それでいて一ひねりが効いた作品でありました。

 物語の主な舞台はタイトルどおりに本所の裏長屋、主人公はその長屋に出戻りの姉と暮らす岡っ引きと、いかにも文庫書き下ろし時代小説の王道の一つ、ミステリ風味の人情もの的スタイルですが、丁寧な文体と物語構成で描かれる物語は、やがて少々意外な姿を現していくことになるのです。

 実は本作は、物語の随所に犯人の視点からのパートが挿入されます。個人的にはこの趣向は、直接的ではないものの、犯人の正体や狙いの一端を明かしているようで、最初は違和感があったのですが――しかしやがてこのパートで描かれるものは、こちらがそうであろうと予想していたことから少しずつ離れていくことになります。
 そしてそれが全く異なるもう一つの姿を浮かび上がらせていくことに気付いた時には、もう物語にすっかり引き込まれていたのです。


 正直なところ、犯人はかなり早い段階で予想がついてしまうのですが、その犯人像は、本作が真っ向からの時代小説として成立しているからこそ意外なもの。
 そしてその先に描かれるもの、広義のホワイダニットと申しましょうか――犯人の存在と密接に関わり合う「お守様」誕生のきっかけもまた、なるほどと感心させられます。

 そしてこれらの物語のピースがぴたりぴたりとあるべきところに嵌まっていった末に、物語は結末を迎えるのですが――その先にもう一つどんでん返しが用意されているというのもいい。
 ミステリとしての面白さはもちろんのこと、あるの人物の抱えてきた想いが、その無念のほどが、これでもかと言わんばかりに描かれていただけに、この結末は大きなカタルシスを与えてくれるのであります。


 このレーベルの作品が得意とする(印象もある)大仕掛けがあるわけでもなく、キャラクターたちも少々地味なきらいはあります。先に述べたとおり(その詳細はともかく)、犯人がすぐにわかってしまうのも勿体ないところではあります。

 物語的にも、もう一山ほしかったような印象はありますが――しかし丁寧な物語運びと、そこから生まれるどんでん返しの味わいには、捨てがたい魅力がある作品であります。

『本所憑きもの長屋 お守様』(福田悠 宝島社文庫「このミス」大賞シリーズ) Amazon
本所憑きもの長屋 お守様 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

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2018.09.17

「コミック乱ツインズ」2018年10月号


 今月の『コミック乱ツインズ』は、表紙が『軍鶏侍』、巻頭カラーが『勘定吟味役異聞』。特別読切等はなしの、ほぼ通常運転のラインナップです。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 上に述べたとおり巻頭カラーの本作ですが、主人公のチャンバラは今回なし。というより、今回のエピソードに関わる各勢力の思惑説明回という趣であります。シリーズ名物の上役から理不尽な命を下される(そして聡四郎を逆恨みする)役人も登場、文章で読むとさほどでもありませんが、絵でみるとかなり可哀想な印象が残ります(普通のおじさんなので)。

 さて、今回聡四郎の代りに活躍するのは、相模屋の職人頭の袖吉。これまでも何かと聡四郎をフォローしてきた袖吉ですが、今回は潜入・探索要員として寛永寺に潜入して重要な情報を掴むという大金星であります。すごいな江戸の人入れ屋……


『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)
 久々の登場となった印象のある本作ですが、面白いことに今回の主役は軍鶏侍こと岩倉源太夫ではなく、彼が家に作った道場に通う少年・大村圭二郎。父が横領で腹を切った過去を持ち、鬱屈した日々を追る彼は、ある日、淵で主のような巨大な鯉と出会って……

 と、少年の一夏の冒険を描く今回。周囲の人間とうまく係われずにいた圭二郎が大鯉と対峙する姿を、時に瑞々しく、時に荒々しく描く筆致の見事さは作者ならではのものと言うほかありません。
 師として、大人として、圭二郎を見守る源太夫の立ち位置も実に良く(厭らしい言い方をすれば、若い者に格好良く振舞いたいという読者の要望にも応えていて)、彼の命で圭二郎を扶ける老僕の権助のキャラクターも味わいがあり、良いものを読むことができました。


『カムヤライド』(久正人)
 出雲編の後編である今回は、出雲国主の叛乱に乗じて復活した国津神・高大殿(タカバルドン)との決着が描かれることとなります。
 真の姿を現した高大殿の前に、流石のモンコ=神逐人(カムヤライド)も追い詰められることになるのですが……
 変身ヒーローのピンチ描写では定番の、そして大いに燃えるマスク割れも出て、クライマックス感満点であります(ここでサラリとモンコのヒーロー意識を描いてくれるのもいい)。

 ここでカムヤライドの攻撃も通用しない強敵を前に、モンコが用意する対抗手段も意外かつユニークなのですが、盛り上がるのはそのためにモンコがヤマトタケルを対等の相棒として協力を求めるシーン。自分の王家の血にはそんな特別な力はない、と躊躇うヤマトタケルに対するモンコのセリフは、もう殺し文句としかいいようのないもので、大いに痺れます。
(この出雲編では、冒頭から「王家の血」の存在が様々な形で描かれていただけに、モンコがそれをバッサリと切り捨ててみせるのが、実にイイのです)

 そしてラストでは意外な(?)次回へのヒキも用意され、大いに気になるところであります。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 冒頭のセリフ「酷暑(あつ)い…」が全てを物語る、ひたすら暑い強烈な日差しの下で男たちが過剰に汗を流しながら繰り広げられる今回の主人公は、冒頭のセリフの主である海坂坐望。「仇討」の仇名のとおり、兄の仇を追って長きに渡る旅を続けている坐望ですが……

 川で流されていた少女を助けのがきっかけで、その父である髭浪人・左馬之助と出会った坐望。竜水一刀流の遣い手である左馬之助と語るうちに、かつて主命によって望まぬ人斬りを行い、藩を捨てたという彼の過去を知る坐望ですが、それは彼と無縁ではなく――というより予想通りの展開となります。
 そしてクライマックス、町のヤクザ同士の出入りの助っ人として対峙することとなる坐望と左馬之助。坐望の心の中に既に恨みはなく、左馬之助は坐望の過去を知らず――ただ金のためという理由で向き合う二人の姿は、武士の、用心棒という稼業の一つの姿を示しているようで実に哀しい。

 その哀しさを塗りつぶすかのように過剰にギラギラ照りつける日差しと、ダラダラ流れ続ける汗の描写も凄まじく、息詰まる、という表現がふさわしい今回のクライマックス。
 ラストでちょっと一息つけるものの、これはこれで気になる展開ではあります。


「コミック乱ツインズ」2018年10月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年10月号[雑誌]


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 「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その一)
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 「コミック乱ツインズ」2018年5月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年6月号
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 「コミック乱ツインズ」7月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年8月号
 「コミック乱ツインズ」2018年9月号

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2018.09.16

『つくもがみ貸します』 第八幕「江戸紫」

 近江屋の幸之助から、海苔問屋の淡路屋半助のことを調べて欲しいと頼まれた清次。商売は巧みで容姿端麗、人当たりも良い半助だが、何故か幸之助に良くしてくれるのだという。そこで調べてみれば、海苔問屋を始める5年前より前の経歴は謎に包まれている半助。しかし思わぬところからその手がかりが……

 もう完全にレギュラーになった感のある幸之助から、海苔問屋・淡路屋の主である半助のことを調べて欲しいと依頼された清次。丁度損料屋を探していた半助に出雲屋を紹介してくれたということで、早速半助と対面することになる清次ですが――これがいかにも本作らしい面白デザインのキャラながら、お姫やうさぎ、お紅までも頬を赤らめてしまうほどの美形であります。が、そこで五位だけは、怪訝そうな顔で半助を見つめるのですが……

 それはさておき、今度旦那衆で川下りの遊びをする際に、扮装をするための衣装や小道具を貸して欲しいという半助(現代でいうハロウィンパーティーのようなもの、というナレーションの解説がおかしい)。さらに半助は幸之助と仲の良い清次たちも川下りに誘います。そして綺麗どころを集めて賑やかに始まる川下り、花魁(?)姿のお花、盗人姿のお紅の姿が実に可愛い――というのはともかく、自分を「お大尽」と呼ばせてにこやかに遊ぶ半助は、確かにその名に相応しい姿です。
 その川下りの途中、千住名物だというおばけ櫓――角度によって4つの櫓が2つに見えたり3つに見えたりというどこかで聞いたようなもの――が好きだと語る半助に、何気なく五位のキセルを渡す清次。しかし半助はその模様を見て明らかに表情を変えるのでした。

 そんなことはあったものの、その日は楽しく終わり、清次にも相場の倍の価を気前よく支払う半助。こんなにいただくわけにはいかないと、代わりに店の品物を貸すことにした清次ですが――その中にはつくもがみたちが混じっていることは言うまでもありません。そして情報を聞き込んできたつくもがみたちですが――そこには半助の過去の話は一つもなく、聞こえてくるのは今現在の話ばかり。どこから来たのか、これまで何をやっていたのか、親類縁者の話なども何一つないというのであります。
 5年前に浅草に身一つで現れ、海苔を売り始めて瞬く間に身上を築いたという半助。しかしまるで過去がないように、誰もそれ以前のことを知らない――そんな半助が自分に、自分と縁のあった清次にまで非常に良くしてくれることに幸之助が困惑したことが、今回の依頼のきっかけだったのであります。

 そんな中、つくもがみたちに過去の苦い思い出を語る五位。ある芸者に買われた五位は、彼女が懸想していた妻ある男に贈られ、男は妻を捨てて芸者のもとに走る結果になりました。しかし一時の情熱が冷めた頃、男はかつての妻が食卓に出していた海苔が、どれだけ精魂込めて焼いてあったか気付いたと……
 その出来事が5年と少し前のこと、そして妻の行方は誰も知らないと聞いた清次は、何かに気付いたように、五位を手に半助のもとを訪れます。そしてこのキセルに覚えがあるのではないか、と問う清次を、半助は二人きりで川下りに誘うのでした。

 船の上で、自分が女――あの五位の昔話の夫に去られた妻であることを認める半助。親類縁者に合わせる顔がないと姿を隠し、髪を落として男を装った彼女は、生計のために海苔を売り始めたのであります。しかし親が海苔漁師であったためか商売は大当たり、そんな中で幸之助と出会った彼女は、彼に恋してしまった……
 清次に真実を語った半助は、しかしこの先も半助として生きていくと語ります。半助と清次が見つめるお化け櫓の姿は、その時々で様々に姿を変える半助の姿なのか、あるいは人生の有為転変を映したものか……


 オリジナルエピソードだったものの、全く過去がないというちょっとゾッとさせられるような人物や、その人物が抱えた哀しい過去と屈託の存在など、ある意味これまでで最も原作――というか原作者のテイストが感じられる内容だった今回。
 半助のその後の姿が描かれることなく、二人が黙って川を下る姿で終わるのも、何とも言えぬ余韻を感じさせてくれます。

 しかし、いかに海苔に親しんでいたとはいえ、素人が5年で大店の主にというのはやはり違和感が大きいですし、何よりも今回の物語の象徴であるお化け櫓が、あからさまにお化け煙突――すなわちこの時代に存在しないもの、というのは残念ではありますが……

 ちなみにどう聞いても美青年の声にしか聞こえない半助役は、美青年を演じたら右に出る者がいない女性声優・斎賀みつき。なるほど、と納得するとともに、ある意味ネタバレ的キャストなのがちょっと面白いところです。


『つくもがみ貸します』Blu-ray BOX 下ノ巻(KADOKAWA) Amazon
つくもがみ貸します Blu-ray BOX 下ノ巻


関連サイト
 公式サイト

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 『つくもがみ貸します』 第一幕「利休鼠」
 『つくもがみ貸します』 第二幕「梔子」
 『つくもがみ貸します』 第三幕「撫子」
 『つくもがみ貸します』 第四幕「焦香」
 『つくもがみ貸します』 第五幕「深川鼠」
 『つくもがみ貸します』 第六幕「碧瑠璃」
 『つくもがみ貸します』 第七幕「裏葉柳」

 「つくもがみ貸します」 人と妖、男と女の間に
 畠中恵『つくもがみ貸します』(つばさ文庫版) 児童書版で読み返す名作

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2018.09.15

畠中恵『つくもがみ貸します』(つばさ文庫版) 児童書版で読み返す名作


 現在アニメ放送中の『つくもがみ貸します』、アニメ紹介のためには原作も再読しなければ――と思ったのですが、以前紹介した作品をただ再読してもつまらない、というわけで、角川つばさ文庫版を再読いたしました。

 角川つばさ文庫はKADOKAWAの児童文学レーベル――他社の児童文庫同様、新書サイズの書籍に大きめのフォントとふりがなの本文、豊富なイラストというスタイルのレーベル。オリジナルの作品だけでなく、過去に一般向けに刊行されたSF・推理小説、ライトノベルのリライトも数多く(個人的な感覚では他社の児童文庫よりも多い印象)収録されています。
 それだけにこの『つくもがみ貸します』の収録も特に意外ではないのですが、しかし物語的には男女の関係の機微が中心にあるだけに、大丈夫なのかな――と思えば、ほとんどそのままの内容となっていたのには好感が持てました。(ちなみに対象年齢は「小学校高学年から」)

 ただ一箇所すぐ気付いたところでは、第1話に登場する深川の遊女・おきのの説明が「深川の旅籠で働いている女性」となっていた辺りは、苦労というか限界というかを感じましたが……


 さて、そんなわけで内容的には原著と全く変更のない本書。すなわち、深川の損料屋兼古道具屋・出雲屋を営むお紅と清次の姉弟が、店の気難しくも好奇心旺盛なつくもがみたちとともに、つくもがみや古道具絡みの事件に挑む以下の全5話が収録されています。

 格上の家に婿入りすることになった武士から、先方より譲られた根付けが足を生やして逃げ出したという事件の背後に潜む人の情を描く「利休鼠」
 料理屋を開こうとする男が居抜きで買った家に出没する幽霊。出雲屋のつくもがみ・裏葉柳は、その幽霊が自分の恋人ではないかと言い出して……「裏葉柳」
 お紅に想いを寄せる若旦那・佐太郎が別の女性から譲られたものの、いつの間にか消え失せ、佐太郎がお紅のために売ったと噂になった蘇芳の香炉。その手掛かりを掴んだ清次が、かつての謎を解く「秘色」
 かつて嫁入りしたくば佐太郎に贈られた櫛を使って大店を立て直すほどの金を用意してみせろと、佐太郎の母に挑まれたお紅。お紅と助ける清次、佐太郎の過去が語られる「似せ紫」
 四年ぶりに江戸に帰ってきたものの、お紅の前に現れず、行方不明となった佐太郎を探す清次。煮え切らない男たちに対するお紅の想いの行方が明かされる最終話「蘇芳」

 いずれのエピソードも、人間の起こした事件につくもがみが関わり、そして清次がつくもがみを利用してそれを解決するミステリ仕立ての内容。
 しかし清次とつくもがみが、単純な友人関係ではなく、ましてや使役される間柄でもないというのが、読み返してみても実に面白いところであります。

 あくまでも人間は人間、つくもがみはつくもがみ――両者は厳然と分かたれているものの、しかし同じ世界に住む隣人同士。面倒な間柄をどうクリアして事件の謎を解くか、という関係性の面白さは、そのまま清次とお紅という人間同士、いや男と女の関係性に重なっていくというのが、本作の何よりの魅力でしょう。

 もちろんこの児童文庫版の読者がその構図をストレートに読みとれるかはわかりません。
 しかし単純に妖怪ものとして見ても、身の回りの(もちろん江戸時代の、という限定付きですが)品物がつくもがみとなって動き、話し出すというのはやはり楽しく、一種マスコット的なつくもがみたちのキャラクターを見ているだけで、十分以上に楽しめるのではないでしょうか。

 少なくとも、大の妖怪好きだった(これは現在進行形ですが)子供の頃の自分が読んだらさぞかし夢中になったに違いない――そう感じます。


 ちなみに、本作は全5話のうち、半分以上の3話が、佐太郎と蘇芳の香炉にまつわるエピソード。第2話のラストから蘇芳が登場することを考えれば、物語の大半がこのエピソードに繋がることになります。
 これはもちろん、本作がそういう作品であるということであり、初読の時は全く気にならなかったのですが、今読み返してみると、それだけで終わるには勿体ない設定とキャラクターであったと感じます。

 現在放送中のアニメ版は、かなりのエピソードがオリジナルなのですが、原作の話数が少ないという以上に、原作の可能性を広げるという意味で、これも正しい方向性だな――と再確認した次第です。


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つくもがみ貸します (角川つばさ文庫)

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 『つくもがみ貸します』 第六幕「碧瑠璃」
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2018.09.14

和月伸宏『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚・北海道編』第1巻 再び始まる物語 帰ってきた流浪人! 


 あの『るろうに剣心』の正真正銘の続編――北海道編の第1巻が発売されました。作中の時間軸では前作の5年後、現実世界では1999年の連載終了から18年の時を経て復活した本作が、本当に色々あって――…ようやく単行本の登場であります。

 幕末には人斬り抜刀斎として、そして明治には一人の流浪人として戦い続けた緋村剣心。その戦いは、抜刀斎の罪を償わせんとする者との激突を経て、剣心として闘いの生を全うすることを決意したことをもって終わりを告げ、薫と新しい家庭を築いたところで物語は完結したのですが……

 明治16年、小菅集治監から刑期を終えて出所した少年・長谷川悪太郎と井上阿爛。金もなく行くあてもない二人は、5年前に悪太郎が志々雄真実一派のアジトから持ち出した一本の刀を売り払おうとするも、謎の少女・旭にまとわりつかれた上に、残党に追われることになります。
 追い詰められた二人を救ったのは剣心――かくて神谷道場に引き取られた悪太郎は、明日郎と名乗り、阿爛とともに新たな暮らしに足を踏み出すことに……

 そんな『明日郎前科アリ』をプロローグとして始まった北海道編。この第1巻においては、前半に『明日郎前科アリ』前後編が、後半に北海道編第3話までが収録される形となっております。

 赤べこで、偶然旭と再会した明日郎。旭が属する、志々雄一派とも異なる謎の組織の男と激突した明日郎は、暴走の末に剣心に取り押さえられるのですが――そこで男が残した一枚の写真を見つけます。
 函館で撮られたと思しいその写真に写っていたのは、一人の男。しかしその男が、西南戦争で死んだはずの薫の父・越路郎であったことから、事態は一気に動き出すことになります。

 写真の真偽を確かめるため、北海道に向かうことになった剣心と薫、剣路と、明日郎・阿爛・旭。しかしその頃、函館山では、山頂に立て籠もり警官隊を全滅させた謎の敵に、ただ一人、斎藤一が挑もうと……

 そんな第1話の北海道編ですが、実は剣心たちが海を渡るのは第3話、すなわちこの巻のラストであります。先に述べたように、北海道編本編はこの巻の後半からの収録のためではありますが、しかしこの部分だけでも、『るろうに剣心』の続編の始まりとして、大いに盛り上がるのです。

 そう、続く第2話で登場するのは、新たなる謎の敵。警官隊のみならず完全武装の軍隊までわずか四人(実質三人)で戦闘不能にしてのけたその敵の名は「剣客兵器」!
 その形象は剣客、その本質は兵器という名乗りも格好いいこの四人、正体目的は全く不明ながら、その外連が効き過ぎたビジュアルといい武器といい技といい、紛れもなく『るろうに剣心』の敵。この巻ではその一人と斎藤一との激突が始まったところですが、この先の展開には期待大であります。

 そしてそれとはまた別の意味で本作らしい――そして個人的にはより強く印象に残った――のが、第3話で描かれる、弥彦と剣心の再度の立ち会いです。
 この二人の立ち会いは以前にも描かれ、その時は剣心が弥彦に逆刃刀を譲るという結果になったわけですが――今回はその逆、弥彦が剣心に逆刃刀を返すこととなります。

 剣心から弥彦への逆刃刀の継承という展開は、幕末の剣術から開化の剣道への変化という意味も込めて実に良い展開だと感じていたのですが、それがここで再び剣心の手に逆刃刀が返ってしまったのは、正直に申し上げれば残念なところではあります。
 そもそも前作では新たな時代の象徴であった弥彦。その彼が、さらに新たな時代の人間である明日郎たちに押し出されたように、半ば退場する形となったのには、なんとも言えぬ哀しさがあります(身も蓋もないことを言えば、この先登場しそうな前作キャラも加えれば、味方側のキャラが多すぎるのですが)。

 しかしここで描かれる、再度の立ち会いの末に弥彦が失ったもの、手に入れたものの姿は、その見せ方のうまさもあって実に感動的であり――彼にとってのモラトリアムの終わりという印象があります。
 これはこれで一つの時代の終焉――というのが大袈裟であれば、時代の移り変わりを感じさせてくれるものがあります。少年少女時代に前作を読んでいた読者には、胸に迫るものがあるのでは、というのは言い過ぎかもしれませんが……


 何はともあれ、新たな物語の幕は上がりました。かくなる上は、二度と物語が中断することがないよう祈りつつ、新たな時代に向かう、新たな時代に生きる者たちの姿が如何に描かれるのか――それを胸躍らせながら待つのみであります。


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るろうに剣心─明治剣客浪漫譚・北海道編─ 1 (ジャンプコミックス)


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