入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎京洛勝負帖』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『曽呂利!』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『大江戸剣聖一心斎』(高橋三千綱)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
87.『警視庁草紙』(山田風太郎)
88.『西郷盗撮』(風野真知雄)
89.『明治剣狼伝』(新美健)
90.『箱館売ります』(富樫倫太郎)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『源平の風』(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と運命の書』(渡辺仙州)



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2017.09.21

『コミック乱ツインズ』2017年10月号(その一)

 素晴らしいタッチのかどたひろし『勘定吟味役異聞』を中心に、『軍鶏侍』『仕掛人藤枝梅安』『鬼役』と原作付き作品四作品の主人公が配された、えらく男臭い表紙の「コミック乱ツインズ」2017年10月号。内容の方もこの四作品を中心に素晴らしい充実ぶりであります。

 以下、印象に残った作品を一作ずつ紹介いたします。

『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 来月単行本第1巻・第2巻が同時発売することとなった武村版梅安は巻頭カラー。小杉十五郎の初登場編である「梅安蟻地獄」の後編であります。

 仕掛けの相手である宗伯と見間違えたことで梅安と知り合うこととなった小杉。一方、梅安の仕掛け相手であった伊豆屋長兵衛は宗伯の兄であったことから、協力することとなった二人ですが、相手の側も小杉を返り討ちしようと刺客を放って……
 というわけで梅安・彦次郎・小杉揃い踏みとなった今回。本作では彦さんがかなり若く描かれているだけに、正直小杉さんとの違いはどうなるのかな……と思いましたが、三人が揃って見ると、彦さんはタレ目で細眉のイケメン、小杉さんは眉の太い正統派熱血漢という描き分けで一安心(?)であります。

 などというのはさておき、今回のハイライトは、橋の上で梅安が長兵衛を仕掛けるシーンでしょう。ダイナミックな動きからの針の一撃を描いた見開きシーンは、まさに武村版ならではのものであると感じます。


『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)
 連載第2回となった今回は最初のエピソード「軍鶏侍」の後編。園瀬藩内の暗闘に巻き込まれた隠居侍・岩倉源太夫が、江戸の藩主のもとに家老の行状を記した告発状を届けることになって――というわけで、当然ながら源太夫の前に刺客が立ちふさがることになるのですが、ここで一捻りがあります。

 家老方に雇われた、いかにもなビジュアルの三人の刺客――と思いきや、仲間割れからそのうちの年長の一人が残る二人を斬殺! 実はこの刺客と源太夫の間にはある因縁が……
 と、この辺りは定番の展開ではありますが、しかし既に老境に近づいた源太夫たちの姿をしみじみと描く筆致はさすがと言うべきでしょう。
 物語を終えてのもの悲しくもどこか爽やかな後味も、この描写あってのこと。隠居侍が再起する物語として、相応しいファーストエピソードであったかと思います。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 今回からは幻の豪華列車を巡るエピソード。鉄道技術者として活躍し、九州鉄道の社長を務めた仙石貢が、物語の中心となります。

 ある日、島と雨宮のもとに仙石から舞い込んできた依頼。それは仙石が九州鉄道の社長時代にアメリカに発注した豪華車両のお披露目運転でした。
 輸送力増強のために奔走する島から見れば、豪華列車は仙石が趣味で買ったような代物。そんなものをごり押しで、しかも高速で走らせようとする仙石に反発する島ですが……

 前編で状況の説明と事件の発生を描き、後編でその背後の事情や解決を描くスタイルが定着してきた本作。その点からすれば、次回のキーとなるのは、「豪華さ」と「スピード」の両立を追求する仙石の真意であることは間違いありません。
 主人公が島であることを考えれば、何となくその先はわかるように思えますが――さて。


 以下、次回に続きます。


『コミック乱ツインズ』2017年10月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年10月号 [雑誌]


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 『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』2017年5月号
 『コミック乱ツインズ』 2017年6月号
 『コミック乱ツインズ』2017年7月号
 『コミック乱ツインズ』2017年8月号
 『コミック乱ツインズ』2017年9月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』2017年9月号(その二)

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2017.09.20

芝村涼也『鬼変 討魔戦記』 鬼に化す者と討つ者を描く二つの視点

 先に完結した『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズで大いに伝奇時代小説ファン、時代怪異譚ファンを驚かせた作者の新シリーズの登場であります。鬼と化して凶行に走る者たちと、それを討つ者たちの死闘を、作者ならではの視点から描く開幕編です。

 浪人の子であり、父を亡くした後、商家の小僧となった市松。それなりに平穏だった彼の日常は、店の前で行き倒れた物乞い夫婦が、人の良い主人夫婦に保護された日に一変することになります。
 その晩、眠りこけている店の者たちを次々と刺し殺していく何者かの影。間一髪、それに気づき、押入に隠れた市松は、その影が主人夫婦であること、そして物乞い夫婦に身をやつしていた男女が不可思議な技で主人たちを討つ姿を目撃することになるのです。

 自らも口封じに命を絶たれかけたところを、そこに現れた僧に救われ、彼らと同行することとなった市松改め一亮。
 一方、翌朝事件の発生を知り、惨憺たる店の有様を検めた南町奉行所の臨時廻り同心・小磯は、不可解な状況に尋常ならざるものの存在を感じ取り、独自に捜査を始めることになります。

 そして数日後、僧に伴われ、次なる惨劇の現場に立ち会うこととなった一亮。「芽吹いた」者を討つという僧たちは何者なのか。そして何故一亮は彼らに拾われたのか――いつしか一亮は、江戸の命運を左右するという戦いの渦中に身を置くことになるのであります。


 シリーズ開幕編ということでまだまだ謎の多い本作。敵の――いや彼らだけでなく、それに抗する僧たちも――正体や目的の詳細はわからぬまま、物語は展開していくことになります。

 どうやら敵は、いかなる切っ掛けによるものか、「鬼」に変じた、上で述べたように僧たちの言葉でいえば「芽吹いた」人間、そして僧たちは、遙か過去から鬼たちを討ってきた組織の人間……
 そこまではわかるものの、しかし物語を構成する要素の大半は、未だ謎のベールに隠されたままなのであります。

 しかしそれでも、いやそれだからこそ本作は面白い。そう思わせるのは、作者ならではの巧みな物語構成、そして視点設定の妙によるものでしょう。
 それを生み出しているのは、本作が二つの――一つは一亮の、一つは小磯の――視点から語られていくことによるものと感じられます。

 どうやらある種の特殊能力を持っているらしいものの、今のところはごく普通の少年でしかない一亮。そしてベテラン同心としての感覚で、一連の惨事の陰に何かがあるのを察知したものの、その真相を想像するべくもない小磯。
 彼らに共通するのは、それぞれ真相に対する距離に違いはあるものの、今のところは局外者でしかない点であります。すなわち彼らはヒーローでも魔物でもない、ごく普通の人間であり、本作は怪事に巻き込まれたそんな人々の物語なのです。


 この第1巻の時点で見えてくるものを踏まえて考えれば、本作はいわゆる「退魔師」ものであると想像できます。それも、かなりストレートなスタイルのものであると。
 時代ものといわず現代ものといわず、これまで無数に描かれてきた退魔師もの。そのありふれた題材を、本作は局外者の視点から――それも小磯の方は、いわゆる同心ものとしてのフォーマットをきっちり踏まえた上で、描きます。

 そこから生まれるものは、伝奇ものである以前に、時代ものとしての確たるリアリティ――鬼や超人が跋扈する世界を、我々常人の目からは隠された、しかし確かに我々の世界の隣に存在するものと思わせる手触りであります。

 虚実の皮膜ギリギリで展開する物語――それこそが時代伝奇ものの興趣の源であることは間違いありません。
 かつて『半四郎百鬼夜行』シリーズにおいてそれを見事に成し遂げた作者ですが、その手腕は、本作においてもしっかり健在であると言うことができるでしょう。

 この先、この世界で何が起こるのか、一亮と小磯が何を見ることになるのか――興味と期待は尽きない、新たなる芝村伝奇の幕開けであります。


『鬼変 討魔戦記』(芝村涼也 祥伝社文庫) Amazon
鬼変 討魔戦記 (祥伝社文庫)

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2017.09.19

武内涼『妖草師 無間如来』 帰ってきた妖草師と彼の原点と

 あの妖草師が帰ってきました。常世に芽吹き、人の世に害を為す妖草を刈るエキスパート・庭田重奈雄と、天眼通を持つ美女・椿の冒険を描くシリーズ第4弾であります。短編集形式の本作では、お馴染みの面々に加え、個性的な新キャラクターも登場し、新たな物語が始まることになります。

 この世の植物によく似た姿ながら、この世ならぬ常世に芽吹いて人の心(の負の部分)を苗床に育ち、その超常的な能力で害を為す植物――妖草。

 この妖草に対し、その正体・能力・性質を知り、対処する者たちが妖草師――本作の主人公・重奈雄は、代々京を守ってきた妖草師の家系に生まれながらも、故あって家を飛び出し、市井に暮らしながら妖草の脅威に立ち向かう白皙の青年です。
 その彼を支えるのが、華道滝坊家の娘・椿。生まれながらにこの世ならぬものの気配を察知する天眼通の持ち主である彼女は、愛する重奈雄をその力で助けてきたのでありました。

 そんな二人と宝暦事件の背後で妖草を操り恐るべき陰謀を企んだ怪人との戦いを描いた第3作『魔性納言』刊行後、一旦休止状態にあったシリーズですが、本作でめでたく復活。帰ってきた重奈雄に椿たちの新たな冒険を描く本作は、全5話から構成された短編集であります。
 『赤山椿』『深泥池』『遠眼鏡の娘』『姿なき妖』『無間如来』――いずれも奇怪な妖草の跳梁と、その陰の人の心の在りようが描かれる、その内容については後述するとして、まず見逃せないのは、新たなレギュラーが二人加わったことでしょう。

 一人は妖草師の修行のため、江戸からやってきた男装の美女にして剣士の阿部かつら。前作の事件を経て、妖草師養成の必要性を痛感した幕府が、妖草師の本場である京に派遣したという設定も実に興味深いのですが、その彼女が重奈雄に弟子入りし、長屋の隣の部屋で暮らすというのが、椿の心を乱すことになります。
 もちろん重奈雄は椿一筋、かつらも色気とは無縁のサバサバしたタイプなのですが、ようやく結ばれると思ったら(いや第3弾のラストからすればそう思って当然ですが)お預けのところに、悪い虫が! と一方的に椿をヒートアップさせるのが、本人には申し訳ないことながら実に楽しいのです。

 そしてもう一人は実在の本草学者・小野蘭山。植物や自然の事物に造詣の深い、まずは好漢なのですが――妖草の存在を認めようとしないのが玉に瑕(?)。
 重奈雄を胡散臭い男とみてことあるごとに突っかかる(しかしこういう立場のキャラの常として、妖草の犠牲になりやすい)人物で、決して悪人ではないものの、重奈雄にとっては何ともやりにくい人物なのです。


 そんな個性的な二人だけでなく、曾我蕭白や池大雅といったシリーズのレギュラー陣も健在で、賑やかなキャラ配置の本作ですが――短編集という性質故か、ストーリー的には少々おとなしめ、どちらかと言えば人情譚的側面が強い印象を受けます。
 が、これが本作においては良いアクセントとなっている――というよりも、妖草師の在り方に関わってくるのには感心させられました。

 言うまでもなく妖草を駆除するのがその任務である妖草師。しかし妖草も一種の植物であれば、単に生えたものを刈るだけでは足りません。二度とそれが生えることのないよう、その元を絶つ必要があるのです。
 冒頭に述べたとおり、常世に芽吹き、人の負の心を苗床に育つ妖草。だとすれば元を絶つとは、負の心をなくすこと――すなわち、悲しみや怒り、恐れといった感情に囚われた人々の心を癒やすこともまた、妖草師の任なのです。

 妖草師を志す者を登場させ、そして妖草師の原点を――彼が単に妖草と戦う存在ではないことを改めて示した本作。その物語は、シリーズの再開に相応しい内容と言えるのではないでしょうか。

 と、その一方で、シリーズらしい奇想に富んだ妖草バトルも忘れられてはいません。特に巻末に収められた表題作は、他の作品とは毛色が異なり、妖草の力を得て巨大な野心を抱えた者を相手に、重奈雄が完全武装で挑むアクションシーン満載の物語であります。

 内容的には長編でも良かったのでは――というのはさておき、敵に力を貸す妖草の正体も、ある意味非常にメジャーな、仰天ものの存在で、いやはや本作の物語バリエーションと世界観の豊かさを感じさせます。


 何はともあれ、新たなキャラクターを迎え、シリーズの魅力を再確認させてくれた本作。次はあまり間をおかずに続編に出会いたい――そう思ってしまうのも無理はない一冊なのです。


『妖草師 無間如来』(武内涼 徳間文庫) Amazon
無間如来: 妖草師 (徳間時代小説文庫)


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2017.09.18

吉川景都『鬼を飼う』第3巻 大人サイドと青年サイドで描く二つの奇獣譚

 昭和初期を舞台に、人知を超えた奇妙な生き物――奇獣を巡って繰り広げられる奇妙な物語も、はや3巻目。奇獣に魅入られたかのような帝大生・鷹名を中心とした物語は、時に静かに、時に激しく展開し、次第にその真実の顔を明らかにしていくことになります。

 東京は本郷で無愛想な主人・四王天と美少女・アリスが営む四王天鳥獣商を訪れたことがきっかけで、奇獣と関わり合うこととなった帝大生の鷹名と司。
 奇獣の引き起こす奇怪な事件に次々と巻き込まれる二人ですが、やがて四王天と司は、実は鷹名と奇獣の間のある因縁を知ることになります。

 一方、奇獣関連の事件を扱う特高の特殊部隊・夜叉は、東京で奇獣絡みの事件が続発していることに不審を抱く中で、思わぬ大物の登場に不覚を取ることに。
 一連の事件の背後で糸を引く何者かの影。真意を見せない四王天の謎めいた行動もあり、事態は一層混迷の度合いを深めることに……


 という状況を受けてのこの第3巻は、これまで同様、縦糸となる奇獣にまつわる陰謀の影を描きつつ、基本は1話完結のエピソードで展開していくことになるのですが――この巻においては、それがさらに二つの流れに分かれて描かれることになります。

 その一つは、四王天や夜叉のサイド、奇獣とは付き合いの深い彼らを中心としたシリアスな物語。これまでにも描かれてきた縦糸に近いエピソード――奇獣とその持ち主を時に襲い、時に監視する何者かの正体を追う彼ら、いわば大人サイドの物語が、こちらでは描かれることになります。

 そしてこの大人サイドで今回ついに登場することになるのは、一連の事件の背後に見え隠れしていた謎の軍人・宍戸の姿なのですが――これがまた強烈なキャラクター。
 私は金が大好きなだけと公言して憚らぬ一方で、奇獣の力を試すために、人の命を平然と犠牲にするこの男、飄々とした部分とひどく冷酷な部分を合わせ持った、曲者揃いの本作でもさらに油断のできぬ人物であります。

 この巻では、彼の行動と目的らしきものの一端が描かれるのですが――さてこれがこの先何に繋がっていくというのか。単に金儲けのためとは思えぬ彼の真意は何なのか、この先の物語を大きく左右することになることは間違いないでしょう。


 そしてその一方で描かれるのは、鷹名と司の――青年サイドの物語であります。
 四王天が不在の間に、奇獣絡みの事件の解決を任された鷹名と、彼をフォローする司。奇獣の能力に翻弄されながらも何とか一つ一つ事件を解決していく鷹名ですが、実はその背後には彼自身の秘密と、それを踏まえての四王天の思惑が……

 という裏の事情もあるものの、純粋に登場する奇獣の能力・生態と、奇獣たちに対する鷹名たちのリアクションが実に楽しいこちらのサイド。
 奇獣に対してはほとんど生き字引の四王天に比べれば頼りない二人ですが、しかしだからこそ正体不明の奇獣たちの能力と、奇獣が引き起こす騒動への打開策が一つ一つ明らかになっていく展開が、実に魅力的なのです。

 剣呑な奇獣の登場が多い大人サイドに比べれば、こちらに登場する奇獣は比較的おとなしめ。しかしそれだけにどこか呑気で、時にすっとぼけたような彼らの姿は、時に民俗的な味付けも含めて、作者の作風に非常に良くマッチしているという印象があります。(特に猫又とその飼い主……)

 またこちらは大人サイドでありますが、20年に一度、とある旧家に現れてはその家の男児を取っていく奇獣・アネサマのエピソードも実にイイ。
 変形の座敷童子譚とも言うべき設定自体はさまで珍しくはありませんが、人間のエゴと旧習の不気味さを描くきつつも、ある純粋な想いが招いた因縁の結末には、思わず涙がこぼれそうになりました。


 何はともあれ、派手な伝奇活劇と、時にコミカルで時に感動的な怪異譚と――大人サイドと青年サイドで対照的に描かれる二つの奇獣の物語が魅力的な本作。

 正直なところ、アクション描写については不満がなくもないのですが、ついに黒幕的存在も登場したいま、二つの物語がこの先どのように交わり、どのように展開していくのか――大いに楽しみであることは間違いありません。


『鬼を飼う』第3巻(吉川景都 少年画報社ヤングキングコミックス)


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2017.09.17

『風雲ライオン丸』を見終えて(後編)

 『風雲ライオン丸』の全編を通じての印象の後半であります。決して悪い作品ではない、むしろ評価できる点も多い本作。しかし……

 それでは本作が手放しで絶賛できる作品かといえば、しかし否という必要があるのでしょう。
 残念ながらあまり評価できないのは、むしろ物語構成や人物配置における迷走ぶり(というのは言葉が強すぎるかもしれませんが)というべきもの――ライバルキャラとして登場したはずの黒影豹馬のあっさりした退場、そして代わって登場した虎錠之助のキャラの弱さに代表される部分であります。

 特に虎錠之助/タイガージョーJrは、言うまでもなく前作の人気キャラクターである虎錠之介/タイガージョーの再来を狙ったキャラですが、作中では出自不明(はいいとして)で目的不明、今ひとつ立場がはっきりしないというキャラクター。
 終盤は出番が少なく、最終決戦にも参加しない――いやそれ以前に、初期は錠之介なのか錠之進なのか錠之助なのか、名前が固まらなかったというのは、ある意味このキャラの立ち位置を雄弁に物語っていると感じます。

 そのほかにも、外したり被ったり(さらに言えば、外した次の回にはまた被っていたり)のライオン丸の兜や、突然再登場して前作との関係性をさらにややこしくした快傑ライオン丸、何よりもヒロインの父であり旅する理由であった勘介の作中での扱いなど……
 色々と画面の外での混乱や試行錯誤が窺われる部分が、結果として本作の完成度を削ぐ結果となっているのは、やはり残念と言わざるを得ません。


 結局のところ本作は、言われているほど悪くない、いや瞬間最大風速的には前作を上回る点もありつつも、残念な点も少なくなかった、という評価になるのかもしれません。
 しかしここには本作ならではの、本作でしか見れないものが――傑作であった前作にもないものがあった――それは間違いないと感じます。

 その最たるものは、舞台となる戦国という時代の一つの有り様が、物語から痛いほど伝わってくる点であります。

 前作の敵・大魔王ゴースンに比べれば、その正体等で謎の点も非常に多いだったマントルゴッド。
 もちろんビジュアルインパクトではゴースンに勝るとも劣らない(というより特撮史上に残る)存在だったなのですが、それはさておき、僕はこのマントルゴッドの、マントル地下帝国の正体不明ぶりこそ、この本作の魅力の一つが現れていると感じます。

 ただひたすらに強大で恐ろしく、非情な存在――それを前にした人々は恐れ惑い死んでいくか、あるいは膝を屈してその一部になるしかない存在。
 それはもちろんヒーローに対する悪というものの定番の描写でありますが、本作においてはその正体不明の悪意に満ちた力こそが、舞台となる戦国時代の――個人の力ではどうにもできぬ巨大な時代の流れの象徴、一つの顕れとして感じられるのです。

 そしてまた、獅子丸が戦ってきた相手は、マントル一族だけではありませんでした。彼の前に立ち塞がったのは、同じ人間の無理解や悪意、利己心など――戦国という時代の隙間から吹き出してきた人間の業とも言うべきものもまた、彼を強く悩ませてきたのです。
 マントル一族がなければ、人々が犠牲になることはなかったのか――その数は減ることはあれど、しかしその答えが否であることを、本作の物語は雄弁に語ります。

 今なお語り草である本作の結末――勝ったと叫びながらも笑顔一つなく消えていく獅子丸の姿には、自分が倒したものはこの時代と世界を象徴する「悪」の一つに過ぎなかったことに気付いてしまった(気付かざるを得なかった)者の苦悩を感じる……
 というのは牽強付会に過ぎるかもしれませんが、そこには時代という壁にぶつかったヒーローの姿が確かにあることは間違いありません。

 その意味で本作は、前作でも至らなかった境地に達してしまった、希有の特撮ヒーロー時代劇であったと言えるのではないでしょうか。


 ついつい熱が入りすぎて妙なところまで入り込んでしまった感もありますが、これがそれが僕の大げさな物言いであるかどうか、ぜひとも機会を見つけてご確認いただきたいと、心から願う次第です。


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 『風雲ライオン丸』 放映リストと登場人物

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2017.09.16

『風雲ライオン丸』を見終えて(前編)

 これまで全25話の紹介をさせていただいた『風雲ライオン丸』。その全編を通じての印象のまとめであります。

 特撮ヒーロー時代劇屈指の名作であることは誰もが認めるであろう『快傑ライオン丸』の後番組である本作。しかしライオン丸の名を冠し、主人公「獅子丸」を演じるのは前作と同じく潮哲也――でありつつも、前作の続編というわけではないという少々ややこしい立場の作品です。
 そのためか、本作は前作とは大きく異なる趣向を導入することになります。そう、「西部劇」のテイストを。

 ポンチョ風のコスチュームをまとった主人公、舞台の多くは延々と続く荒野、ライフルや幌馬車といった小道具等々……
 しかしそれが裏目に出て、視聴者や出演者にも違和感を感じさせた、という逸話は、それはそれで納得できるのですが、しかし今回見直してみて、個人的には言われているほど違和感があると感じなかったのは、一つの発見でした。

 そもそも時代劇と西部劇の組み合わせに親和性が高いのは、『用心棒』が『荒野の用心棒』に翻案されたり、その用心棒を思わせるキャラを主人公とした(本作の前後に放映された)三船プロの素浪人ものがあるのを上げるまでもないお話。
 それよりも時折登場する現代的な「超科学」の方がよほど違和感が――というのはさておき、本作の狙い自体は悪くはなかったと感じます。
(そもそも前作終盤にガンマン怪人たちが登場しているわけで……)

 あの時代に馬車や爆弾がゴロゴロしていたかと言えばまあアレなのですが、しかしひたすら砂と埃と岩が続く世界観は、人々の剥き出しのエゴが描かれ、人の命があっさりと奪われていく物語に、実によく似合う。
 さらにまた、第7話「最後の砦」のように、西部劇要素を時代劇に巧みに落とし込んでみせたエピソードもあることを考えれば、これは一種のアクセントとして認めるべきではないか――というのはやはり過大評価かもしれませんが。

 ちなみにある意味「超科学」であり、本作を語る際にネタ的に扱われる弾丸変身ですが、確かにロケットで天高く舞い上がり、戻ってくると変身しているというのは、悪い意味でインパクトが大きいのは否めません。
 しかし作中では精密機器ゆえロケットが故障して危機に陥るエピソードや、ロケットを利用して窮地を脱出する(洞窟からの水平脱出、変身しながらの空中の敵への一撃等)等、バンクシーンだけで終わらせない工夫が印象に残ります。

 特に印象に残るのは、数々の強烈な演出が飛び出した第19話「よみがえれ弾丸変身!!」でのシーンでしょう。苦悩の末に谷底に身を投げたかに見えた獅子丸が、落下途中で変身、大反転して宙高く舞うことでその精神の復活をも高らかに宣言してみせるくだりは、変身シークエンスと物語の盛り上がりを完璧に融合させたものとして、ヒーロー史上に残る変身シーン――あ、これも過大評価ですか。

 いずれにせよネタ的に(ネガティブな点から)取り上げられることも少なくない本作の趣向は、決してそれだけで終わるものではなく、一つ一つの場面、そして何よりも物語と有機的に結びつくことで大きな効果を上げている(ことも少なくない)ことは声を大にして申し上げてもよいでしょう。

 そしてそれが本作のハードな物語展開と噛み合った時、最大限の効果を発揮するものであり――そこに生まれたものは、前作から繋がる豊かなドラマ性を、さらに押し進めてみせたものと言えるでしょう。
 もちろんそれを曇り方面に押し進めすぎたきらいは否めませんが……


 それでは本作が手放しで絶賛できる作品かといえば――以下、次回に続きます。


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