入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎京洛勝負帖』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』(瀬川貴次)
54.『風神秘帖』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『曽呂利!』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『大江戸剣聖一心斎』(高橋三千綱)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
87.『警視庁草紙』(山田風太郎)
88.『西郷盗撮』(風野真知雄)
89.『明治剣狼伝』(新美健)
90.『箱館売ります』(富樫倫太郎)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『源平の風』(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と運命の書』(渡辺仙州)



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2017.05.23

玉井雪雄『怨ノ介 Fの佩刀人』第2巻 復讐の果てに待つ「システム」の姿

 親友と信じていた男に全てを奪われた男・怨ノ介が、人の命を食らう魔刀の化身である美少女とともに繰り広げる、復讐と魔刀狩りの物語の完結編であります。怨敵の潜む地にたどり着いた怨ノ介を待っていた意外な真実――日本刀の起源にまつわる怨念のメカニズムと対峙することとなった怨ノ介の運命は?

 かつてはとある藩の藩主でありながら、親友と信じていた男・多々羅玄地に欺かれて身分を、国を、全てを奪われた末に無残に年老いた怨ノ介。
 死を目前とした時、美しい少女が憑いた謎の刀・不破刀を手にした彼は、怨念により「冥府魔刀」と化した刀とその持ち主を斬ることと引き換えに一時的に若さを取り戻し、その力で以って玄地を追う旅に出ることになります。

 そんな本作の第2巻で描かれるのは、玄地が故郷である津軽に潜むことを知り、決着を着けるために一路北に向かう怨ノ介の姿。
 しかしもちろん、その途中の旅も平穏無事で済むわけがありません。病で倒れたところを不破刀を盗まれ、上意討ちで揺れるさる藩の暗部に巻き込まれ、強者を求めて悪事を働く破天荒な男に絡まれ――と、トラブルの連続であります。

 そんな単発エピソードの連続である前半を経て、後半では、いよいよ怨ノ介と玄地の対峙が描かれることになるのですが――しかし、そこで物語は、思いもよらぬ姿を見せることになります。

 津軽に入る直前、津軽の巌鬼山神社に魔刀を封じるという月山鍛冶の一団と出会い、彼らが奉じる全ての刀鍛冶の祖・鬼王丸こそが多々羅玄地であることを知った怨ノ介。
 しかし神社で彼を待っていたのは、「多々羅玄地」と、不破刀と瓜二つの姿を持つ玄地の娘――ここに至り、物語は怨ノ介個人の復讐行から、日本刀の起源に、そしてそこから始まる恐るべき怨念と復讐の連鎖を語るものへと変貌していくのであります。


 全てを奪われた男の復讐行というのは、古今東西の物語に幾度も現れるモチーフであり、時代劇においても数多く描かれてきたことは言うまでもありません。
 本作もその系譜に属するものではありますが――しかし本作は、その物語のためのガジェットと思われた魔刀の存在に光を当てることで、ある種の歴史ものとしての真の顔を見せることになります。

 そもそも本作において、(一種メタな視点での)最初の、最大の疑問は、何故怨ノ介が老人として登場するのか――言い換えれば、復讐に着手するまでに長いブランクがあるのか、ということでした。
 それはもちろん、怨ノ介が不破刀を手に魔刀使いと戦い、相手の命を奪うための理由付けではあるのですが、しかし本作は怨ノ介が「玄地」と対峙するクライマックスにおいて、長き時間に渡る怨念の存在を、全く意外な形で繰り返し、裏返して見せるのです。

 この壮大などんでん返しは、ぜひ実際にご覧いただきたいのですが、ここで浮かび上がるのは、一種の「システム」とでも言うべきもの。連載時に本作を追ってきた身であっても、その凄まじい構図は、圧巻と言うほかありません。

 そしてそれを踏まえて読み返してみれば、改めて様々な発見がある物語であります。
 たとえば、このクライマックスに至るまでの単発エピソードの多くにおいて描かれてきたのは、形こそ違え「システム」に囚われ、磨り潰されていく者たちであったこと。そしてそれだからこそ、本作のラストを飾る人物は「彼」であるべきことなど……


 わずか2巻という分量にもかかわらず、その中でジャンルの定型を超えた物語を描いてみせた本作。この作者ならではの、精緻な、そして壮大な物語であります。


『怨ノ介 Fの佩刀人』第2巻 (玉井雪雄 リイド社SPコミックス) Amazon
怨ノ介 Fの佩刀人 2 (SPコミックス)


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 玉井雪雄『怨ノ介 Fの佩刀人』第1巻 復讐鬼と刀剣女子の死闘旅……?

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2017.05.22

風野真知雄『歌川国芳猫づくし』 老いたる国芳を通して描かれたもの

 近年では猫を得意とした浮世絵師としてすっかり知名度が上がった感がある歌川国芳。当然、フィクションへの登場回数も高まっているのですが、本作はその中でもなかなかユニークかつ内容豊かな作品。国芳が巻き込まれた様々な事件を通じて、晩年の彼の姿を描く連作であります。

 様々なスタイルの作品を意欲的に書き続けている作者ですが、その中で最も大きなウェイトを占めるのは、江戸の町を舞台にユーモアとペーソス溢れるタッチで描かれるライトミステリであります。本作も当然、その路線に属するもの……と思いきや、それは半分当たり、半分はずれというべきでしょうか。

 まず本作の基本設定を見てみれば、舞台となるのは黒船が来航した嘉永6、7年――国芳の生涯から考えれば晩年というべき時期。
 本作の国芳は既に浮世絵師として確たる名を挙げ、多くの弟子を抱えつつも、病気の妻を抱え、そして何よりも自分自身の絵師としての衰えぬ熱意から、今も絵を描き続ける毎日を送る人物として描かれます。

 体力など自らの衰えを認め、自分がこの世を去る日が遠くないことを予感しつつも、なおも血気盛んで極めて人間臭い、そして相変わらず猫大好きの国芳。本作は、そんな彼の周囲で起きた事件を描く7つの物語から構成されています。

 消えた猫の一匹を探すうちに、国芳の身近な人物の思わぬ秘密が浮かび上がる「下手の横好き」
 かつて描いた金魚の船頭の絵を執拗に欲しがる男に国芳が振り回される「金魚の船頭さん」
 ある日家に転がり込んできた北斎の娘・お栄を巡る切ない物語「高い塔の女」
 持病があると国芳を避ける義母と、国芳の間の複雑な想いを描く「病人だらけ」
 若き日の芳年と円朝が夜毎の下駄の足音に悩まされる姿を描く「からんころん」
 殺人事件に出くわした国芳と広重が思わぬ形で探偵対決することとなる「江ノ島比べ」
 自殺した八代目団十郎の幽霊騒ぎの中で、絵師と役者、それぞれの業が描かれる「団十郎の幽霊」

 ご覧いただければおわかりかと思いますが、ここで描かれる七つの物語は、いずれも「事件」と「謎」が描かれるものの、いわゆるミステリのそれとは少々異なる趣を持ちます。
 事件性が小さい、あるいは「日常の謎」的な内容がほとんどなこともありますが、実は本作で重点が置かれているのは、謎解きではありません(必ずしも国芳が謎を解くわけでもなく、ましてや謎が完全に解けないエピソードすらあります)。本作において描かれるのは、これらの事件と謎を前にして様々な感慨を抱く、老いたる国芳の姿なのですから。

 いかにも江戸っ子らしく喧嘩と火事を愛し、御政道に逆らうような作品を幾つも描いてきた鼻っ柱の強さを持つ国芳。その一方で、自分の周囲にお上の手の者がうろつけば心配になり、義母との複雑な関係に悩んだり、若い女弟子に鼻の下を伸ばしたりと人間としての弱さを同時に持つ人物として、彼は描かれることになります。
 絵師として、人間として、男として……そのゴールが近づく彼の姿を、本作は、一風変わった事件と謎を通じて浮き彫りにするのであります。

 そこに漂うのは、先に述べたとおり、作者ならではのユーモアとペーソス。その二つを味付けに、国芳だけでなく、この世に生きる人間たち全てがついついやってしまう愚行を、ついつい見せてしまう弱さを、作者は優しく描き出すのです。
 そんな作者のまなざしは、作者が得意とするライトミステリにおいて描かれるそれと寸分も違うことはありません。半分当たり、半分外れというのはこうした意味においてのものなのであります。


 国芳という人間臭い男を中心に、お栄や広重、芳年や円朝といった実在の人物、そしてその他の架空の人物を通じて、この時代の空気を描き出す。それと同時に、いつの時代にも変わらぬ人間の世界のほろ苦さと暖かさを描く……
 そしてそれに加え、おそらくは作者自身の姿にも重なり合う、芸術家の業、誇り、そして喜びをも描き出す本作。歴史作家としての作者の地力を感じさせてくれる一冊であります。


『歌川国芳猫づくし』(風野真知雄 文春文庫) Amazon
歌川国芳猫づくし (文春文庫)

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2017.05.21

『髑髏城の七人 花』(その二) 髑髏城という舞台の完成形?

 花鳥風月、この一年に四度上演されるという『髑髏城の七人』の一番手、『花』の紹介であります。前回は配役を中心に触れましたが、今回は脚本を中心に、これまでとの異同について触れたいと思います。

 七年に一度(時に二度)上演され、今回で実に六回目となる『花』。今回の脚本は新規のものですが、それでもベースとなる物語は基本的に変わることはありません。
 それだけでなく、作中の印象的な台詞などは、以前の版からほとんど変えることなく採用されているものも少なくないのですが、その一方で今回はこれまで以上に、細部に手を加えてきた印象があります。

 これは多分に記憶頼りのため、勘違いがあるかもしれませんが、これまでの舞台版と異なる箇所で、特に印象に残ったのは以下の通りであります。
・沙霧ら熊木衆と捨之介の関わり
・蘭兵衛と極楽太夫の関係性
・狸穴次郎右衛門の敵娼
・兵庫と関東荒武者隊の過去

 ご覧のとおり、これらはほとんど皆、キャラ描写を補足あるいは深化するもの。物語を大きく変えるほどのものではありませんが、しかしこのわずかな追加により、キャラクターたちの存在感が、彼らの行動の説得力が、そして物語への感情移入度が、一気に高まったと感じられます。

 この中で個人的に印象に残ったのは狸穴次郎右衛門の敵娼であります。
 歴史ファン、戦国ファンの間では半ばネタ的な意味で熟女好きとして知られる次郎右衛門(の正体)ですが、それを踏まえつつも、後半のある展開を踏まえて、次郎右衛門がよりこの戦いに深く関わっていく要素としても見ることができるのに、感心いたしました。
(そもそも、この展開自体、次郎右衛門の存在を絡めたことでよりドラマ性が深まったように感じます)

 この点からすると、キャストよりも舞台装置よりも、何よりも脚本が、今回の『花』において一番大きな変化を遂げた部分であり、そして大げさに言ってしまえば、『髑髏城の七人』という舞台の完成形に近づいたのではないか……という気持ちとなった次第です。


 もっとも、ネガティブな意味で気になる点がなかったわけではありません。これはもちろん全く個人的な印象ではありますが、今回の捨之介と天魔王にはあまりノレなかった……というのが、正直なところなのです。

 捨之介の方は、確かに言動は格好良く、何よりも非常に威勢の良い人物であり、ヒーローとしては申し分ないと言いたいところですが、しかしそれ以外の人物像、根っ子となるキャラクターが見えない印象(そもそも「玉転がし(女衒)」の設定が語られないので何をやって生きているのかわからない……のはさておき)。
 そして天魔王の方は、非常にエキセントリックかつ卑怯なキャラクターとして描かれており、新感線ファン的に一言で表せば「右近健一さんが演じそうなキャラ」なのです。

 いわばヒーローのためのヒーロー、悪役のための悪役……この二人にはベタなそんな印象を受けてしまったのですが、しかしその印象は、ラストにおいて少々変わることになります。(ラストの展開に少々触れることになりますがご勘弁を)
 天魔王を倒したものの、いわば髑髏党壊滅の証として、その首を差し出すよう徳川家康に迫られる捨之介。全ての因縁にケリをつけた今、安んじて首を差し出そうとした捨之介に対し、仲間たちが首の代わりに家康に差し出したものとは――

 これまで『髑髏城の七人』においては、天魔王や蘭兵衛の過去への執着を示す、いささか悪趣味なアイテムとして描かれていた「それ」。しかしここで「それ」が差し出されることにより、捨之介は自分を縛っていた過去を、真に捨てることができた……本作の結末で描かれるのはその構図だと言えるでしょう。天魔王という空虚な存在、戦国の亡霊とも言うべき存在の象徴を捨て去ることによって。

 いわば本作は、過去という空虚に囚われ、ある者は狂い、ある者は魅せられ、そして共に滅んでいく中、同様に囚われながらも、それを捨てることにより、真に生きる道を手に入れた男の物語だった――
 今頃何を言っているのだ、と言われるかおしれませんが、今回のキャラクター配置・描写には、そんな物語構造が背景にあると考えるべきなのでしょう。


 正直なところ、まだ360度の舞台を十全に使いこなしているという印象ではないのですが、その辺りも含め、これだけの高いレベルでスタートを切ったドクロイヤーがどのようなゴールを迎えるのか……最後まで見届けることができればと思います。



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2017.05.20

『髑髏城の七人 花』(その一) 四つの髑髏城の一番手!

 七年に一度やってくる劇団☆新感線の『髑髏城の七人』再演、いわゆるドクロイヤーですが、今年はそれより一年早い……と思いきや、来年のドクロイヤーに向けて、一年かけて花鳥風月、四つの髑髏城が上演されるというとんでもない仕掛け。その第一弾、『髑髏城の七人 花』であります。

 時は本能寺の変から八年後、突如関東に現れた髑髏城から関東髑髏党を率い、暴力でこの世に覇を唱えんとする謎の魔人・天魔王。
 この天魔王と髑髏党に追われる少女・沙霧を助けたことから、正体不明の風来坊・捨之介、関東荒武者隊を率いる傾き者・抜かずの兵庫、そして色里・無界の里の主・蘭兵衛と極楽太夫らが、死闘に飛び込んでいく姿を描く本作は、冒頭に述べたように七年ごとに再演される新感線の代表作であります。

 1990年の初演以来、1997年、2004年(こちらは二バージョン上演)、2011年と上演されてきたのですが、私は2004年のアカドクロを観て以来の大ファン。ソフト化されている1997年も含め、初演以外は全て観ている身としてはもちろん今回も見逃すわけにはいきません。

 そんな今回の髑髏城は、冒頭に述べたとおり年四回、それぞれ脚本や演出を変えて上演されるという破天荒な企画ですが、上演される劇場もユニークであります。
 本作がこけら落としとなるIHIステージアラウンド東京は、なんと客席の周囲360度に舞台が設けられ、上演中に客席が回転するという仕掛け。さすがに360度を一度に使うことはないのですが、場面転換に合わせ、結構なスピードで客席が回転するのは、なかなか楽しい経験でした。


 さて、肝心の内容の方ですが、メインキャストの配役はといえば、
 捨之介:小栗旬
 沙霧:清野菜名
 蘭兵衛:山本耕史
 極楽太夫:りょう
 兵庫:青木宗崇
 天魔王:成河
という豪華な顔ぶれ。うち小栗旬は、前回も同じ捨之介を演じていますが、それ以外のメンバーは、新感線登場も初めてではないでしょうか。
 その他、謎の狸親父・狸穴次郎右衛門を近藤芳正、そして凄腕の刀鍛冶・贋鉄斎に古田新太! と、脇を固めるメンバーも頼もしいのです(新感線純血の役者が少ないのは残念ですが、今回は脇を固める様子)。

 舞台というのは、(ほぼ)同じ内容を、異なる役者が演じていくのもまた楽しみの一つですが、それはもちろんこの髑髏城も同様。
 後述するように、今回は物語内容的にはこれまでと比べてそこまで大きく変わるものではないのですが、それだけに役者の存在感が大きく影響を与えていたと感じます。

 個人的に今回の配役で一番印象に残ったのは、山本耕史の蘭兵衛でしょうか。
 何処から現れ、関東において一種のアジールとも言うべき無界の里を数年で繰り上げた謎の男である蘭兵衛ですが、常に冷然とした態度を崩さぬ、心憎いまでの色男とくれば、これはもうはまり役というべきでしょう。

 時代劇経験者だけあって、立ち回りの安定感も大きく、もちろん着物の立ち姿も違和感なしとビジュアル的にも素晴らしいのですが、さらに良かったのは中盤以降の演技。
 未見の方のために詳細は伏せますが、中盤で大きな変転を迎える蘭兵衛という人物。それ故にこの人物の行動に説得力を与えるのは非常に難しいのですが、今回は脚本のうまさもあり、まずこれまでで最も説得力のある蘭兵衛であったと感じます。

 また沙霧の清野菜名は、恥ずかしながらお見かけするのはこれが初めてだったのですが、こちらも実に良かった。
 どこまでも真っ直ぐで元気に明るく、しかしその奥に陰と悲しみを抱えた沙霧のキャラクターをきっちり演じてみせたのはもちろんのこと、アクションが実にいい。アクションをきちんと勉強していた方のようですが、後ろ回し蹴りなど、橋本じゅんクラス(大袈裟)の美しさでありました。

 そしてもう一人、全くもって貫目が違うとしか言いようがないのが古田新太。天才刀鍛冶であり、刀を愛しすぎる故に、その刀で自分を斬ってしまうという紛れもない変態の贋鉄斎を、基本的に大真面目に演じ切ってみせたのは、これはもうこの人ならでは(一人称が「僕」なのがさらに変態度を高める)。
 かつての当たり役だった捨之介を譲っての登場は個人的には少々寂しいものがありますが、舞台上でも一歩引いた形で主人公たちをサポートする贋鉄斎と、今の姿は重なるものがあった……というのは言いすぎでしょうか。


 語りたいことが多すぎるため、次回に続きます)


関連サイト
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2017.05.19

『変身忍者嵐』 第12話「地獄の怪人! ゲジゲジ魔!!」

 燃える水を採掘するため、村人を強制的に働かせる血車党。そこから逃げた作左を追うゲジゲジ魔の前に立ち塞がるハヤテたちだが、タツマキとカスミ、作左の子が捕らえられてしまう。さらにドクロ館に潜入しようとしたツムジも捕らえられるも、後を追って嵐が駆けつけ、ゲジゲジ魔を倒すのだった。

 今回も労働力として村人をこき使い、今回も逃げられて追いかけ、今回もハヤテ一行に見つかる血車党。燃える水採掘という血車党の目的は冒頭で語られるのみで、後はひたすらハヤテたちと血車党の攻防戦が描かれるという思い切りのいい構成です。
 その今回の中心となるのはゲジゲジ魔……ゲジゲジという怪人広しといっても珍しいモチーフに、カートゥーンのキャラのような良く言えば愛嬌のあるデザイン、そしてフニャフニャした造形と三拍子揃った化身忍者であります(しかしこのモチーフに改造された忍者、本当にかわいそう)。

 しかし意外と芸コマなゲジゲジ魔、脱走した村人・作左が逃げるところを地を這って走る忍法ゲジゲジ走り(たぶんお腹の下に台車を置いている)で追いかけ、小さなゲジゲジに化けて近づくとガバッと襲いかかるのですが……そこに通りかかったハヤテにチョン蹴りをくらって戦闘開始。
 と思いきや、いきなり刀で自分自身に斬りつけ、体をバラバラに! ドン引きするハヤテたちですが、これはバラバラにされても死なないという下等動物の生命力を活かしての六ツ身分身の術。といっても六体分のゲジゲジ魔が登場するわけでなく、映像処理で流している上に、実際には五体は幻に過ぎず、本物はカスミの鏡の反射を眩しがったためにばれてしまうのでした(あれ、だとしたら自分をバラバラにする必要は……)。

 そしてタツマキ・カスミ・ツムジも加わっての大乱戦となりますが、作左を連れて逃げたツムジもすぐに追い詰められて助けを求め、タツマキとカスミは速攻で敵に捕まる始末。血車党は人質を手に入れて退却していったものの、血車党の魔手は作左の家族に向かい、(妙に綺麗な家に住んでいる)妻と子供の与吉に魔の手が迫ります。
 またもゲジゲジに化けて、病に伏した作左の妻のところに現れ、まずはボサッと突っ立っていた与吉を下忍に運び出させるゲジゲジ魔。そして残る奥さんに迫る魔の手……というところで「表に出て正々堂々と戦え!」とハヤテが微妙な発言をしながら駆けつけて事なきを得ますが、与吉はそのまま連れ去られてしまうのでした。
(ここで体をピンと伸ばして水面を引っ張られていく忍法水渡りで逃げ出すゲジゲジ魔の姿がやっぱりおかしい)

 嘆き悲しむ作左は、ドクロ館に向かおうとしますが、これまでドクロ館に向かう際は目隠しをされていて道がわからない。それならばと目隠しをして道を探ろうとする(えっ)彼の前に、近所の女の子・やよが通りかかります。ドクロ館に向かうというやよと一緒に、女の子に化けて潜入しようとするツムジですが、彼女が谷から落ちかけたところで声を上げたことで、あっさり捕らえられてしまうのでした。
 しかしツムジが目印を撒いていたことでドクロ館へ向かうハヤテ。途中鉄砲で撃たれたりしてツムジを見失いながらも何とか切り抜け、ドクロ館で合流して脱出した忍者一家の笛の合図を受けると、ドクロ館に向かいます。そして火攻めにあっていたタツマキたちを助けたハヤテはドクロ館に突入、思い切りよく爆破! 

 残るゲジゲジ魔も、体から油を吹き出して周囲に火をつけるという奥の手の忍法火炎地獄を、大きな布をかぶせるという嵐の忍法火消し布で破られ、刺股を振り回すも敢えなく影うつしに粉砕されるのでした。


 冒頭に述べたとおり、本当にシンプルな内容だった今回。その分テンポが非常にいい(というかよすぎる)のですが、見終わって頭に残るのは、ゲジゲジ魔の顔のインパクト――。そしてツムジの他にも二人出てくる子役の演技の……ぶりも別の意味で印象に残ります。


今回の化身忍者
ゲジゲジ魔

 燃える水の採掘現場を監督するゲジゲジの化身忍者。ゲジゲジに変身する、地を這って高速移動するゲジゲジ走り、自分の体を切り裂いて分身する六ツ身分身のほか、体から油を吹き出して火を付ける火炎地獄など、多彩な技を持つ。が、刺股を手にしての直接対決ではハヤテに及ばず、秘剣影うつしに敗れる。


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 「変身忍者嵐」 放映リストほか

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2017.05.18

『コミック乱ツインズ』 2017年6月号

 私は本や雑誌の発売日で日にちや曜日をカウントしてしまうところがあるのですが、この雑誌が出れば月も半ば、『コミック乱ツインズ』誌の6月号であります。巻頭カラーは叶精作『はんなり半次郎』、橋本孤蔵『鬼役』が連載四周年とのことですが、ここでは個人的に印象に残った作品を取り上げます。

『エイトドッグス 忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
 死闘の末、四つの珠を取り戻したものの、犬士も残すところわずか四人。しかも村雨姫までもが半蔵側の手に落ちたところで、最強の犬士・犬江親兵衛登場! となった本作。
 いかにも作者らしいイケメンの親兵衛は、最強の名に相応しい破天荒な力の持ち主(もっとも、やはり姫の前では形無しなのですが)。しかし彼をしても、姫が捕らえられてはその力を存分に振るえず――

 という状況で、さらに敵側の奸策により、八珠献上の日が一気に前倒しとなり、絶体絶命となった里見家。しかしここで大角の忍法により信乃が思わぬ人物に姿を変え、そしてついに最後の犬士・犬川荘助登場……と、物語はガンガン盛り上がっていきます。
 ラストページなど、テンションが一気に上がるのですが、さて次回の犬士の活躍は如何に……いよいよクライマックスであります。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 碓氷峠編の後編となる今回、島の説得で国鉄に移籍した凄腕機関士・雨宮が視察に向かったのは、急勾配で知られる日本一の難所・碓氷峠。そこで昔ながらの蒸気機関車で峠を越えることを誇りとする機関手・山村とその息子に雨宮は出会うのですが……

 鉄道という題材を扱いつつも、職人肌の雨宮を主人公の一人とすることで、一種の職人もの、人情ものとして成立している本作ですが、今回描かれる山村を巡る物語はまさにその味わいに満ちたエピソードであります。
 かつて愛妻を峠の列車事故で失いながらも、その妻の魂が見守ってくれると信じて蒸気機関車を走らせる彼にとって、島が計画する電気化は到底受け入れられないもの。しかし息子までもが、電気化に賛成してしまう彼の姿は、時代の流れというもので切り捨てられないものがあります。

 その彼の想いを誰よりも理解しつつも一つの選択を迫る雨宮と、彼らの前に現れる小さな奇蹟と……もの悲しい物語ではありますが、結末に描かれる小さな希望の姿が、その悲しみを癒してくれるのです。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 長かった信長鬼編も(おそらく)今回でラスト。といっても今回の主役は、前回同様、細川珠……そう、細川ガラシャであります。
 自分を討った光秀の血族を苦しめた末に根絶やしにすべく、最後の生き残りである珠のもとに出没し、彼女を鬼に変えんとする信長鬼。辛うじて踏みとどまってきた彼女も、ある事件がきっかけで鬼となりかけて――

 細川忠興に嫁ぎ、彼から深く愛されつつも、その一種偏執的な愛情に苦しみ、キリスト教に救いを求めた珠。この夫婦については、夫からお前はまるで蛇のようだと言われて「鬼の妻には蛇が相応しいでしょう」と答えたという有名な逸話がありますが、本作においては、その「鬼」という言葉に、重い意味が加わることとなります。
 何しろ本作の忠興は、点のように異様に小さい瞳孔という、明らかにヤバげな人物。むしろこちらが蛇なのでは……というこちらの印象は、しかし見事に裏切られることとなります。人であろうと鬼であろうと変わらぬ愛を描き出すことによって。

 しかし鬼の運命はなおも彼女に迫ります。。これも有名なその最期の時、ガラシャを襲ったあまりにも無惨な変化の前に、彼女もついに……と思われた時、さらに意外な展開が描かれることとなります。
 今回もラストで少年が見せる、驚愕と悲しみ、決意と様々な感情が入り混じった表情……それはかつての冷然とした表情とは全く異なるものであります。鬼に抗する人が見せた一つの奇蹟を前に、彼の心は変わっていくのか? 大いに気になるところです。


 そのほか、『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)は今回で最終回。前回の一大剣戟の末、辛うじて勝利を掴んだ聡四郎を待つ者は……ツンデレの恋人、ではなくて続編。再来月から次なる物語が開始とのことで、実にめでたいことであります。

 また、『はんなり半次郎』は、相変わらずの叶節。いくら何でもあれは自分が怪我するのではないでしょうか。どうでもいいですが。


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