「入門者向け時代伝奇小説五十選」公開中

 特別企画として「入門者向け時代伝奇小説五十選」(第一期)を掲載しています。
 入門者にとって、間口が広いようで狭いのが時代伝奇小説。何となく興味はあるのだけれど何を読んだらよいかわからない、あるいは、この作品は読んでみて面白かったけれど次は何を読んだらよいものか、と思っている方は結構な数いらっしゃるのではないかと思います。
 そこで今回、これから時代伝奇小説に触れるという方から、ある程度は作品に触れたことのある方あたりまでを対象として、五十作品(冊)を紹介したいと考えた次第です。

 さて、第一期五十選については、膨大な作品の中から以下のような条件で選定しています。
(1) 広義の時代伝奇小説に当てはまるもの
(2) 予備知識等がない方が読んでも楽しめる作品であること
(3) 現在入手が(比較的)容易であること
(4) 原則として分量(巻数)が多すぎないこと
(5) 一人の作者は最大二作品まで
(6) 私自身が面白いと思った作品であること

 そして、その五十作品を、それぞれ五点ずつ以下の十のジャンル・区分で分けています。
1.定番もの
2.剣豪もの
3.忍者もの
4.SF・ホラー
5.平安もの
6.室町もの
7.戦国もの
8.江戸もの
9.幕末・明治もの
10.期待の新鋭

 上記はあくまでも便宜上の区分であり、必ずしも厳密に該当するわけではない(あるいは複数に該当するものも多い)のですが、ご覧になる方に一種の目安としていただくためのものとしてご了解ください。

 この五十選が、楽しい読書の一助となればこれに勝る喜びはありません。

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2010.08.01

八月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 春先がずいぶんと寒かったと思えば、今度は本当に暑い日の連続。この調子では夏真っ盛りになったらどうなってしまうのかしら…と今から恐れおののいていますが、何はともあれ夏本番。夏休みはクーラーの効いた部屋で読書としゃれ込みたいものです。というわけで八月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 八月の文庫新刊は、七月に比べれば結構なラインナップ。

 新刊の方では、前作からかなりのスピードで続巻登場の上田秀人「赤猫始末 闕所物奉行裏帳合」を筆頭に、前作に付された予告の時点で期待度大だった柳蒼次郎「風の忍び六代目小太郎 風の掟」、このタイミングで微妙なタイトルの如月天音「平安ぱいれーつ 東国神起」、そして無事シリーズ化でめでたい渡瀬草一郎「陰陽ノ京 月風譚」其の弐と、楽しみな作品が目白押しであります。

 旧作の文庫化の方では、ちょっと懐かしい時代ホラーの坂岡真「膝丸よ、闇を斬れ」(旧題「艶書屋又十郎 降魔剣膝丸」)、三ヶ月連続刊行ラストの荻原規子「薄紅天女」、そしてベストコレクションとして待望の登場の山田風太郎「警視庁草紙」が気になるところです。


 漫画の方では、何といってもせがわまさきが山風短編に挑んだ第一弾「山風短 くノ一紅騎兵」が一番の注目作品でしょう。その他、発売が一ヶ月延期になった小竹田貴弘「怪異いかさま博覧亭」5、福田宏「ムシブギョー」2、猪熊しのぶ「雪月記」2、そして矢野隆の原作を漫画化した長田悠幸「蛇衆」1あたりが注目でしょうか。

 おっと、四コマ漫画では重野なおき「信長の忍び」3に大羽快「殿といっしょ」5と、楽しみな作品が同月に刊行です。

 また、復刊・文庫化の方では、先月に引き続き森田信吾作品が復活。戦国忍者ものの名作「影風魔ハヤセ」が登場です。この調子で「慈恩 幕末秘剣」と「御庭番明楽伊織」もぜひ…(と思っていたら「慈恩」は九月発売が決定!)
 その他、これで本宮ひろ志「真田十勇士」4で完結、そして続編も早くでないかな、の高田裕三「九十九眠るしずめ」が文庫化です。


 最後に武侠ものは、小説では文庫化が完結の「天龍八部」8、漫画は白井三二朗の「射ちょう英雄伝EAGLET」4、そして最後に映像で「笑傲江湖」のデジタル・リマスター版DVD-BOXの登場と、金庸先生三連発。
 それにしても他の作家の武侠ものも出ませんかねえ…




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2010.07.31

「一鬼夜行」 おかしな二人の絆が語るもの

 ある晩、小道具屋の若主人・喜蔵の前に落ちてきた小生意気な少年・小春は、百鬼夜行からはぐれたという自称大妖怪だった…が、妖怪も震え上がるほどの強面の喜蔵は、小春のことを恐れようともしない。成り行きからおかしな共同生活を始めた二人の周囲には妖怪がらみの事件ばかりが起こるのだが…

 全くノーマークのところから、思わぬ良作が飛び出してくるというのは、書店巡りの楽しみの一つですが、本作「一鬼夜行」も、主人公の一人・小春のように、突然目の前に転がり込んできたような嬉しい驚きでした。
 明治初頭の江戸…いや東京を舞台に、おかしな妖怪とおかしな人間が繰り広げる一種のバディものであります。

 タイトルにある「一鬼」である小春は、百鬼夜行から東京に落ちてきたという、ちょっとドジな妖怪。
 頭に小さな角があるほかは、人間の男の子と見分けがつかない小春ですが、しかしその実、そんじょそこらの妖怪など文字通り歯牙にかけない大妖怪、なのですが…

 しかし、その小春が転がり込んだ先である小道具屋の主人・喜蔵は、大妖怪もビビるほどの超コワモテで無愛想でおまけに人嫌い。
 小春や、店の小道具が変じた付喪神たちに驚きもせず、それどころか働かざる者食うべからずと、小春をこき使う始末です。

 …と、普通、バディものであれば、読者とより近いサイドに立つキャラの方に感情移入できるように描くものですが、本作はその逆なのが面白い。
 妖怪のくせに妙にお人好しでお調子者で大飯くらいの小春の方が、ほとんど表情を変えようともせず感情の動きも少ない喜蔵の方より、よほど人間的に見えてしまうのですから…

 本作は、そんなおかしな凸凹コンビが、周囲で起きる妖怪絡みの騒動を(嫌々ながら)協力して解決していく姿が描かれます。
 妖怪を妖怪とも思わない(?)喜蔵が、小春を適当にあしらい、小春がその喜蔵にムキになってつっかかり…その様を見ているだけでもおなか一杯になりそうな、キャラクターものとして見ても実に楽しい作品なのであります。


 しかしもちろん、表面に現れたもののみが、その人物のキャラクターを示すわけではありません。
 おかしな共同生活を続け、そして事件を解決していく中で、二人は、お互いの中に、外から見ただけではわからない複雑で繊細な中身を抱えていることに気づきます。

 無愛想…というより人付き合いを拒否してきた喜蔵には、自分の両親や親戚、そして親友から裏切られたという過去の心の傷がありました。
 他人を、他者を信じず、拒否していれば、自分が傷つくことはない…本来はむしろ人に優しい性格であるにもかかわらず、喜蔵は己の殻に閉じこもってきたのです。

 一方の小春は、悩みなどなさそうな脳天気な態度で暮らし、人間の生活(特に食生活)に馴染みながらも、心の底では、百鬼夜行に、仲間たちの元に戻りたいという想いを捨てきれずにいます。

 共同生活を、事件解決を通じ、二人の絆が強まるほど、自分の抱えた孤独を強く感じるようになる…それは一見皮肉なことではありますが、しかしそれも互いが出会ってこそ。そして、その孤独を乗り越えることができるのも、その絆あってこそなのです。

 人は(もちろん妖怪も!)、他者と触れあってこそ成長することができる――そんな当たり前の、しかし大切なことを、本作は軽妙なバディものの形式の中で、力強く語ってくれます。


 終盤の展開がちょっと弱いこと(一種の叙述トリック的演出は面白いのですが)、そして明治初頭という背景を十全に生かしたとは言い難いことなど、残念な部分もあるにはあるのですが、おかしな二人の友情物語としては、小さな瑕瑾でしょう。

 本作は、現代を舞台とした番外編が現在連載されているとのこと。こちらもやはり、大いに気になっているところです。

「一鬼夜行」(小松エメル ポプラ文庫ピュアフル) Amazon
一鬼夜行 (ポプラ文庫ピュアフル)

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2010.07.30

「幕末めだか組」第3巻 めだか組最大のライバル?

 幕末の一時期、神戸に存在した海軍操練所を舞台とした時代漫画「幕末めだか組」の第三巻が刊行されました。
 勝海舟のきまぐれで生まれた癸組…通称「めだか組」に集った、いずれも一癖ある面々の青春群像劇であります。

 幕臣・藩士入り交じり(しかも女性まで混じって!)、一見協調性などまるでなさそうなめだか組も、数々の事件を乗り越えて少しずつ――本当に少しずつですが――結束を強めてきた様子。この第三巻からは、旧式の帆船とはいえ、乗る船を得て、実地訓練が始まります。

 さて、ここで四話収録されているうち、前半の二話は、これまでに引き続き、めだか組の個々のメンバーにスポットライトを当てて、物語が展開されます。

 一話目は、女性である蘭丸が、自分と同じ組なのに反発する秀才だが保守的な佐賀藩士のエピソード、そして二話目は、元・新撰組隊士である柳にまつわるエピソード。
 この一話目は、正直なところベタなお話ではあるのですが、海軍操練所が不逞浪士の巣と睨んだ斎藤一が、柳を動かして操練所の名簿を奪おうとする二話目はなかなか面白い。
 かつて己が属した新撰組のやり方に絶望して隊を抜け、隠れ場所として操練所に入った柳が、果たしてめだか組を裏切るのか――
 こちらも展開自体は予想通りなのですが、柳がめだか組を己の居場所として認め、そのために命を賭ける姿は、なかなかに感動的です。

 一方、後半二話からは、物語が大きく動き始めます。
 操練所周辺で頻発する辻斬りと、勝の周囲を窺う不穏な影…操練所を巻き込んで進行する水戸脱藩の浪士一味の陰謀に、操練所が、めだか組が巻き込まれていくことになります。

 その陰謀の正体は、この巻ではまだ明らかにはなっていませんが、操練所の船を浪士たちが狙っているところを見れば、実行されれば多くの血が流されるものであることは間違いありますまい。
 その陰謀にめだか組がどのように立ち向かうことになるのか――その伏線らしきものは、実はこの巻でも見えているのですが、仮に私の予想通りであれば、大いに盛り上がる展開となりそうであります。

 さて、最後になりますが、この第三巻では、あの人物が、ついに登場することになります。
 勝とともに第三巻の表紙を飾るその人物は、勝海舟の私塾から、海軍操練所とともに生まれた海軍塾の塾頭を勤めた人物。
 そう、才谷さ坂本竜馬、その人であります。

 本作では、ちょっと骨っぽい感じで描かれている竜馬ですが、めだか組の先輩格としての存在感は、やはりイメージ通りであります。
 いやむしろ、竜馬という大スターの存在感に、めだか組の面々が食われないよう…最大のライバルは、むしろこの人かもしれません。

 その辺りも含めて、これからの展開がやはり気になるのです。

「幕末めだか組」第3巻(神宮寺一&遠藤明範 講談社KCデラックス) Amazon
幕末めだか組(3) (KCデラックス)


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2010.07.29

「真田十勇士」第3巻 結集十勇士、そして…

 原作・柴田錬三郎、漫画・本宮ひろ志による漫画版「真田十勇士」もいよいよ後半戦に突入した第三巻。
 残る最後の十勇士・真田大助が登場し、ついに十勇士が勢揃い、そして幸村主従が大坂城入りします。

 第二巻後半で描かれたのは、八丈島に隠された豊臣秀吉の財宝を巡るエピソード。
 この巻の冒頭では、財宝を手にした幸村主従と、それを待ち受ける柳生但馬守率いる大艦隊との決戦が描かれ、冒頭からいきなりクライマックスであります。
(それにしても、専門外の艦隊戦までやらされる但馬守がかわいそう…)

 そのテンションもそこそこに、新たに展開するのは、幸村を狙う謎の忍びの影…その正体は、木曽大助こと真田大助幸綱! そう、幸村の子であります。
 父の幸村も、実は色々とよくわからない人物ですが、その子である大助は、それに輪をかけて来歴がよくわからない人物です。
 本作ではその大助を、かつて幸村を謀ってその情けを受けたくノ一が生んだと設定。父の情けを知らぬ大助は、暴走を繰り返し、十勇士と敵対するのですが――

 しかしここで、その大助に父の情けを教え、改心させるのが後藤又兵衛というのがうまい。
 又兵衛の一子を誘拐した大助は、又兵衛に旧主・黒田長政に手をついて詫びよと迫りますが…ここで又兵衛のとった行動は、無茶苦茶ながらも実に熱く、これぞまさに柴錬武士道というべきものでしょう。

 個人的に後藤又兵衛は大好きな武将なのですが、今回の扱いには満足であります。
(作中では特に語られませんが、又兵衛が浪人となった理由の一つが、長政の子への仕打ちにあったことを思えば、さらに胸に響くのです)

 さて、ついに揃った十勇士ですが、天下の情勢は、あくまでも豊臣方に不利。九度山を脱出し、大坂城に入った幸村も、大坂城に人なきことを痛感し――十勇士に豊臣秀頼の印象を聞かれて、「ブタだっ!」と切り捨てるシーンが凄まじい――ついにある決意を固めます。

 それは、十勇士たちによる家康暗殺――その一番手として、三好清海が立ち上がります。
 石川五右衛門の遺児として、かつて豊臣秀吉を病の床に就かせ、今またもう一人の天下人を狙う清海…その彼の死闘の行方についてはここでは述べませんが、その結末は、本作随一の名場面と言っても過言ではないでしょう。

 本作も残すところはあと一巻。十勇士たちの活躍を、最後まで見届けたいと思います。

「真田十勇士」第3巻(本宮ひろ志&柴田錬三郎 集英社文庫コミック版) Amazon


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2010.07.28

「夕ばえ作戦」第3巻 そして物語は異なる地平へ

 ジュヴナイル+時代活劇の名作「夕ばえ作戦」の漫画版第三巻が刊行されました。
 様々なアレンジを加えつつも、おおむね原作に沿った展開を見せてきた本作ですが、ここにきて物語は大きく異なる様相を見せ始め、果たしてどこに着地するのか、原作ファンにも読めなくなってきました。

 思わぬアクシデントから、風祭陽子とともに現代に戻ってしまった茂。しかし江戸時代には親友の明夫が、そして風魔に囚われの身の高尾先生が残っています。
 かくて、陽子を明夫の実家に預け、茂は再び江戸時代へ…

 という辺りからが第三巻の物語。ここでまず意外な展開を見せるのは、高尾先生と風魔小太郎の関係であります。
 小太郎の気まぐれで側に置かれることになった高尾先生、ここは先生という職業柄か、はたまた年の功(?)か、風魔の頭領として小太郎が内に抱えた孤独と悩みを見つめ、それを受け止めていきます。

 もちろん小太郎も風魔の頭領、そうそう己の中の弱さを認めようとしないのですが…似たもの兄妹ですね、実際。

 一方、高尾先生を何とか取り返そうとする明夫ですが、その言動と、そして何よりも小太郎とうり二つの顔立ちであったことから、次第に地虫兵衛たちの疑惑を招いていくことになります。
 そんな中で高尾先生奪還作戦は成功するのか、そして現代から戻ってくる茂は間に合うのか…


 と、本作は三人の現代人(さらに、現代に残された風祭陽子)それぞれの視点から、物語が展開していきます。

 現代と江戸時代をまたにかけた戦いという点は原作同様ですが、この漫画版ではそれに加え、物語の根幹に関係する大きな謎が設定されています。
 なぜ明夫と小太郎はうり二つの顔なのか(さらに、明夫の祖母と風祭陽子の面影がだぶって見えるのも偶然なのか)、そもそも何故時間の扉が明夫の家にあるのか…

 この謎に迫っていく上で、この巻で用いられたような、複数の目から物語を描いていくというのは有効かもしれません。

 が、その一方で、物語の中心となるべき人物が分散したことにより、個々の描写の掘り下げという点では、ぼやけてきたもの、薄れてきたものがあるという印象もあり(具体的には風祭陽子の出番が足りないとか)、厳しいことを言えば、現代っ子vs忍者の痛快バトルという原作の魅力をいささか損ねた、という印象は正直なところあります。


 さて、この巻の終盤では、それまで以上に原作とは大きく異なる地平に、本作は突入していくことになります。
 果たしてそれが、本作を原作と異なる結末に導いていくことになるのか。そして、そうであるとするならば、それはどんな結末となるのか…

 原作ファンも納得の、もう一つの結末を期待したいところです。具体的には風祭陽子○○ルート。

「夕ばえ作戦」第3巻(大野ツトム&光瀬龍&押井守 徳間書店リュウコミックス)


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2010.07.27

「若さま同心徳川竜之助 片手斬り」 恐るべき因縁の秘剣

 いよいよ風雲急を告げる「若さま同心徳川竜之助」シリーズ第十一巻であります。
 前作ラストで登場し、竜之助のライバル・柳生全九郎を打ち破った謎の剣の正体と、その驚くべき因縁がいよいよ描かれていくことになります。

 前々作ラストで左腕を失い、一時は生死の境を彷徨った竜之助。何とか回復し、前作では一種のベッドサイド・ディテクティブとなった彼も、本書では外の事件に挑むことが可能となりました。

 しかし手は繋がったものの、以前のような精妙な動きはとてもできず、風鳴の剣、そして飛燕十手も使えぬまま。
 もっとも、剣を振るうことを好まぬ竜之助自身は、影響をさほど感じていないようですが…しかし、周囲の状況はそれを許しません。

 本書でも、竜之助が出会う市井の怪事件・珍事件と、それと平行して、あるいは交錯して、葵新陰流を巡る暗闘が描かれていきます。その後者、いわば剣豪小説のパートでは、風鳴の剣、そしてそれと対になるもう一つの秘剣との因縁が、いよいよ語られることになります。

 今回、剣豪小説パートの中心となるのは、先代の風鳴の剣の継承者であり、竜之助の師である柳生清四郎と、意外や意外、かつて風鳴の剣との対決を望みながらついに果たせず、江戸を去った中村半次郎であります。
 それぞれの立場から秘剣の謎を追う二人が知ったのは、もう一つの秘剣・雷光の剣の存在と、それを伝えるのが、剣豪小説ではおなじみのあの家の者であるという事実。
 それ自体は、前作まででほぼ予想がついていたことではありますが、しかし、事実として語られると、いよいよここまで来たか…と、何やら胸に迫るものがあります。

 もっとも、そんな因縁は、竜之助にとっては、迷惑意外のなにものでもありません。
 いまや彼にとっては、剣を取って勝ち負けを決めること自体が無意味なこと。
 彼の望みは、作中での岡っ引きの文治が語る「負けたやつとか、しくじったやつ、うまく生きてこれなかったやつ」に、優しい眼差しを向け、共に生きていくことなのですから。
 さらに言えばこのスタンスは、彼に限らず風野作品の主人公全体に通じるものであり、それ故に、我々は彼らに好感と魅力を感じるのですが――

 閑話休題、そのためには、どれほど迷惑で、避けたいものであっても、彼を縛る因縁の糸を断ち切らなくてはなりません。
 本書のラストでは、ついに竜之助はその一歩を踏み出すのですが…さてその結末はどこに向かうことになるのか。

 そして、半次郎が見つけた絵巻物に記された、意外すぎるにもほどのある、二つの秘剣の因縁(伝奇的にはほとんど爆弾のようなインパクト! 読んだときには笑い転げました)がどのように絡んでいくのか、悔しいですが、今回も続きが気になって仕方ないのです。

「若さま同心徳川竜之助 片手斬り」(風野真知雄 双葉文庫) Amazon
片手斬りー若さま同心徳川竜之助(11) (双葉文庫)


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