入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎無頼控』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号 太閤の復活祭』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『三人孫市』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛 将軍家見聞役元八郎』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』シリーズ(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『鬼船の城塞』(鳴神響一)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』(富樫倫太郎)
87.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
88.『警視庁草紙』(山田風太郎)
89.『西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄)
90.『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『白狐魔記』シリーズ(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)



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2017.11.20

森美夏『八雲百怪』第3巻 還ってきた者と異郷の鬼と

 大塚英志の民俗学三部作の一つが、実に9年ぶりに復活しました。あの小泉八雲を主人公に、明治の世から失われてゆく古きもの――妖怪や神、異界の姿を描く連作シリーズの最新巻の登場であります。この巻でもまた、思いも寄らぬ奇怪な事件に巻き込まれる八雲が、その隻眼で見るものは……

 幼い頃に片目の視力を失い、この世のものならぬものを見る力を持つラフカディオ・ハーン。
 流浪の果て、古きものたちが息づく日本にたどり着き、小泉八雲の名で日本人となった彼は、次々と奇怪な事件に巻き込まれ、その中で常人ならざる者たちと関わりを持っていくことになります。

 額に第三の目を持つ押し掛け弟子の会津八一。普段は目を包帯で覆い、この世と異界を繋ぐ門を封じて回る怪人・甲賀三郎。はじめは三郎と行動を共にし、今は八雲邸に住み着いた生き人形のキクリ様――
 いずれも異界を見る力を持つ者たちとともに、八雲は新しい時代にはあってはならないモノとして消されていく者たちの目撃者となるのです。


 そんな基本設定で展開する本作ですが、この第3巻の前半に収録されているのは、おそらくは単行本のページ数の関係で収録されてこなかったと思われる、9年前に雑誌連載されたエピソード「狢」であります。

 娘を亡くして以来、学校に出てこなくなった同僚の様子を見に行くことになった八雲。男の屋敷には、のっぺらぼうが出没するらしいと聞かされて興味を持ち、キクリさまと共に男の元を訪れた八雲は、果たしてそこでのっぺらぼうと対面することになります。
 古から伝わるという秘術により、遺骨から愛娘を蘇らせたという男。しかし蘇った娘はのっぺらぼうだったのであります。

 一方、変人科学者の土玉が、のっぺらぼうの子供たちを集めていることを知り、彼を脅しつけて、どこからのっぺらぼうがやって来たかを聞き出す三郎。
 子供の親たちが、いずれも何処からか現れた巨大な「鬼」と出会い、その手ほどきによって子供たちを蘇らせたと知った三郎は、鬼を追った末に、同僚の男に監禁された八雲とキクリさまの前に現れるのですが……

 八雲の『怪談』によって広く人口に膾炙することとなったのっぺらぼう=狢。夜道でのっぺらぼうと出会った男が、逃げていった先で出会った夜泣きそば屋にこれを語るも、そば屋の顔も――というお話であります。

 本作はこれを巧みに換骨奪胎し(ちゃんと本物の(?)のっぺらぼうのそば屋も登場するのが楽しい)、新たな物語を生み出しているのですが――いやはや、いつもながら驚かされるのは、伝奇三題噺と言いたくなるような組み合わせの妙であります。

 のっぺらぼうと、○○の秘術と、○○○○○○○○○○の怪物と――未読の方の興を削がないように伏せ字にさせていただきましたが、よくもまあ、この三者を組み合わせたものだと感嘆させられます。
(実は後二者については先駆がないわけではありませんが、本作はさらにその先というか根元に踏み込むわけで……)

 物語的に、娘を蘇らせた男の真実については容易に予想できてしまうのですが、それをきっかけに、異郷の鬼がその真の姿を現すという展開は予想の遙か上を行くもの。
 さらにそこに物語作者としての八雲が絡むことにより、不可思議で、そして何とも切ない余韻が残るのも見事と言うほかありません。

 そして物語的には今回は脇役だった三郎――これまで冷然と異界の門を処分してきた彼が、どこか同情や哀惜めいたものをうかがわせるのも印象に残ります。
 それと同時に、彼が物語の前に「敗北」する姿も……


 そして後半に収録された「隘勇線」は、これまたとんでもない組み合わせが猛威を振るうエピソード。あの八甲田山死の行軍の背後には、伝説のコロポックルの存在があり、さらにそこに日露戦争に備えた軍の極秘の計画が……という展開には、良い意味で開いた口が塞がりません。

 その一方で、八雲の前には台湾からやってきた原住民の少年(伊能嘉矩絡みというのにニヤリ)が現れ、彼もまたコロポックルを求める旅に出ることに――ということになるのですが、この巻に収録されているのはエピソードの途中まで。

 何とも気を持たせる展開ですが、幸い来月には第4巻の刊行が予定されているところ、これまで待たされた分、存分に楽しませていただこうと思います。

『八雲百怪』第3巻(森美夏&大塚英志 角川書店) Amazon
八雲百怪 3 (単行本コミックス)


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2017.11.19

山本巧次 『開化鐵道探偵』 端正な明治ものにしてミステリ、しかし

 ユニークな時代ミステリ『八丁堀のおゆう』シリーズで人気を博した作者が、本来のホームグラウンドというべき鉄道の世界を――それも、明治初期の創成期を舞台に、鉄道工事の妨害工作に挑む元八丁堀同心の活躍を描く作品であります。

 明治12年、京都ー大津間の鉄道建設が佳境にさしかかる中、難所・逢坂山トンネルの工事現場で続発する、測量結果の改竄や落石事故などの不審な出来事。
 政治的にも微妙な状況の中、あるいは妨害工作かと事態を重くみた鉄道局長にして長州五傑の一人・井上勝は、技手見習の小野寺に命じて、元八丁堀同心の草壁賢吾を探偵役に招こうとします。

 八丁堀では切れ者として知られ、その才を評価する者も多いにもかかわらず、新政府からは距離をおいて市井に暮らす草壁。
 しかし井上の熱意に押された彼は、小野寺を助手に、逢坂山の工事現場に向かうのですが――待ち受けていたのは、工事を請け負う藤田商店の社員が鉄道から転落死したという知らせでした。

 早速これが事故ではなく殺人であることを見抜いた草壁ですが、犯人が何者で、何故殺人を犯したかは五里霧中の状態。
 工事現場では線路工夫たちとトンネル工事の鉱夫たちが対立し、さらに鉄道工事に批判的な地元住民との軋轢が強まる中、なおも不審な事件は続き、さらなる殺人までもが……


 そんな本作の印象を表せば、ミステリとしても明治ものとしても、「端正」という一言であります。
 『八丁堀のおゆう』が、タイムスリップで現代と江戸の二重生活を送るヒロインという意表を突いた内容であったのに対し、本作は、あくまでもこの明治初期の鉄道を取り巻く状況を丹念に語り、そしてそこで起きる事件の姿を丁寧に描きます。

 特にミステリ面については、事件の内容もトリックも飛び抜けて意外なものではないのですが、そのいずれもが実にフェアと言うべきもの。
 「名探偵 皆を集めてさてと言い」を地で行くクライマックスで一つ一つ解き明かされていくる真相も、どれも納得がいくものであったと思います。

 また、時代ものとしても、西南戦争直後の、勢力が衰えた薩摩が巻き返しを図っている時期、そして諸外国の影響や干渉下から何とか日本が逃れようとしている時期という時代背景が物語と密接に関わっているのが嬉しい。
 このご時世には受けそうなくすぐりもあり、まず時代ミステリとしてはよくできた作品であると言ってもよいかと思います。


 ……が、残念ながらそれが物語として面白いかといえば、素直に頷けるわけではないと、個人的には感じます。

 物語設定的にはやむを得ないとはいえ、物語がほとんど工事現場とその周辺のみで展開するために、物語に広がりと起伏が感じにくい(ラスト近くまで事件ー聞き込みの繰り返しに見えてしまう)のがまず大きな点ではありますが、キャラクターに魅力を感じにくいのも残念なところであります。

 高官であるにもかかわらず現場で工夫に混じって体を動かす井上勝や、無愛想で強面ながら人間味のある外国人機関手はなかなか面白いのですが、主人公たる草壁がそれほど強烈なキャラクターではないのがつらい。(彼が新政府に出仕しない理由は非常に面白いのですが……)
 助手の小野寺がお供以上の存在感がないのも苦しく、その他の登場人物も、少々数が多すぎるのではないか――という印象があります。


 と、結果としてかなり厳しい評価をすることとなってしまいましたが、先に述べたとおり、光る部分も数多いのは間違いないことでもある本作。

 まだまだ明治期の鉄道は興味深い題材だらけの宝の山であるはず。本作の魅力を踏まえた、更なる作品を楽しみにしたいと思います。

『開化鐵道探偵』(山本巧次 東京創元社ミステリ・フロンティア) Amazon
開化鐵道探偵 (ミステリ・フロンティア)


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2017.11.18

鳥野しの&あかほり悟『御用絵師一丸』 漫画で帰ってきた御用絵師!

 約二ヶ月前に発表された作品にこの表現も恐縮ですが――御用絵師一丸が帰ってきました。あかほり悟(さとる)が白泉社招き猫文庫で発表した時代小説シリーズが、ヤングアニマル誌において、小説版の表紙絵を担当した鳥野しの漫画化されたのです。

 西ノ丸大奥の主・広大院に仕える御用絵師・一丸。御用絵師という身分をありがたがるでもなく、むしろ迷惑げな彼のもう一つの任は、広大院の命により裏の仕置きを行うことであります。
 時あたかも水野忠邦が老中首座に就いていた頃――強引な改革を進める忠邦が、幕府の権力強化のために諸藩を潰そうと配下の鳥居耀蔵とともに巡らす数々の陰謀を粉砕するため、一丸は家伝の「毒」を用いて悪に挑む……


 という基本設定の本シリーズですが、今回は、これまで二冊刊行された小説からの漫画化ではなく、完全新作というのが非常に嬉しいところであります。

 江戸で相次ぐ不審火。その火事が屋敷の周辺で起きたことを口実に大名たちを取り潰そうという動きに、水野の影を感じた広大院は、一丸に犯人の退治を命じます。
 手がかりもないまま探索を続ける中、火事現場で異様な目つきで炎を見つめる男を目撃した一丸は、飲み仲間の絵師から、その男がからくり師の太吉であると聞かされます。

 以前火付けで捕まったものの、何故かすぐに放免されたという太吉。彼こそが火付けの犯人だと確信する一丸ですが、しかし一丸の心の中には……


 恥ずかしながら作画担当の鳥野しのの作品は初めて読むのですが、フィール・ヤング誌などで活躍しているというその絵柄は、柔らかな線でキャラクターたちをくっきりと描いていて好感が持てます。

 実に本作は前後編構成とはいえページ数はそれほど多くはないのですが、原作のレギュラーキャラ――一丸、広大院、一丸の弟の上総ノ介、ヒロインの雅弥と小茶、飲み仲間の芳若と初信、水野と鳥居――を全員登場させているのですが、そのいずれもイメージどおりのビジュアル・描写であったと感じます。
(特にむくれている小茶が猛烈にかわいい)

 もっとも、ゲストキャラの太吉が、初登場時からあからさまに変態めいたビジュアルだったのはひっかかりますし、物語的にもかなりストレートな内容だったという印象はあります。
 しかし――それがかえって、一丸のキャラクターを掘り下げる形となっているのがまた面白いのです。

 絵を生み出す絵師でありながら、同時に人の命を奪う暗殺者という二面性を持つ一丸。
 彼の行う暗殺は、あくまでも正義のために外道を討つというものではありますが、しかし殺人――それも絵師としての己の技を利用した――であることには変わりありません。

 だとすれば、同じく己の技を用いて火付けを行う太吉と彼にどのような違いがあるのか?
 本作はある意味合わせ鏡のようなキャラクターを配置することにより、一丸の立ち位置を問いかけるのです。お前は正義の味方なのか、人殺しの外道なのか――と。
(ここで太吉による火事の炎の姿に、一丸が絵師として心動かされているという描写があるのも面白い)

 もちろん本作はその先にある一つの答えを、希望を提示するのですが――この辺りの巧みな物語構成はさすがは、と言うべきでしょう。


 今回は電子書籍化記念ということで発表された本作。しかし物語も画も、原作ファンを十分満足させるものであるだけに、これだけで終わるのは勿体ないと思います。
 もちろん原作小説の方も含めて、またいずれ一丸と仲間たちに会いたい――そう強く感じた次第であります。


『御用絵師一丸』(鳥野しの&あかほり悟 ヤングアニマル 2017年 No.18,19掲載) No.18 Amazon /No.19 Amazon


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2017.11.17

『コミック乱ツインズ』2017年12月号(その二)

 2017年最後の『コミック乱ツインズ』の紹介の後編であります。今回は特別企画だけでなく、連載陣も相当に充実している印象があります。。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 前回、心を持たないかのような四人の刺客相手に辛うじて勝利を収めたものの、また危ない橋を渡ったと紅さんにむくれられた聡四郎。色々な意味で道場で剣を振るいたくなった彼は、弟弟子の大宮玄馬と立ち会うことになります。

 というわけで、ついに本格的に登場した玄馬との迫力ある立ち会いが見所の今回。聡四郎ほどではないにせよ確かな実力を持ちつつも、見事な体の関係で流派の跡を継げない玄馬を自らの下士として雇ったことで、剣の上では孤立無援だった聡四郎にも頼もしいサイドキックの誕生であります。
 一方、仕事の方ではうるさい白石にせっつかれて吉原御免状の在処を探りに行くことになった聡四郎の前に、何だかビジュアル的にレイヤーが違う刺客が現れて……と、いよいよ物語も佳境に入ってきました。

 しかし玄馬、紅さんの荒くれぶりに目尻を下げている聡四郎に呆れていましたが、君も後々相当な……(これは原作の話)


『鬼切丸伝』(楠桂)
 関ヶ原の戦での大谷吉継を主人公とするエピソードの後編であります。

 病魔に冒され、身は生きながらにして鬼と化しつつも、ただ盟友・三成への友情を頼りに人間に留まっていた吉継。その姿を前に、鬼切丸の少年も、その刃を振るうことを一端は止めることになります。
 しかし三成とともに臨んだ関ヶ原の戦で、小早川秀秋の思わぬ裏切りを受けた吉継は、無念のあまりついに鬼に変化し、無数の人を殺しながらも秀秋に迫るのですが……

 幼い頃から秀吉に振り回され、信長鬼にも匙を投げられる気弱な秀秋の姿も妙に印象に残る今回ですが、やはり面白いのは、鬼と人の間で揺れる吉継の姿と、その彼に対する鬼切丸の少年の態度であります。
 上で述べたように体は鬼となりかけた吉継を一度は見逃し、そして真に鬼と化した彼を容赦なく断罪し――そしてその果てに一つの「救済」を与える少年。随分と上から目線にも見えますが、それは神仏が人間に向けるそれと等しいものなのかもしれません。

 しかしその視線が向けられるのは、人を殺し人を喰らう鬼だけでなく、人を殺し天下を取る武士に対しても同様であります。
 本作の冒頭から通底する、鬼と人間、鬼と武士の間の(極めて近しい)関係性が、ここで改めて示されるのであります。


『鬼役』(橋本孤蔵&坂岡真)
 半年の長きに渡り繰り広げられた日光社参編もついに今回で完結。将軍家慶が江戸を離れた隙に挙兵した大御所家斉との戦いも、ついに決着がつくことになります。

 江戸を掌握し、二千の兵で家慶が籠もる甲府城に攻め寄せた家斉派。この前代未聞の事態に、鬼役・蔵人介らも必死の籠城戦を繰り広げることになります。しかし一気に決着をつけるべく、家斉と結んだ静原冠者の女刺客・斧らが家慶を狙って……
 というわけで思わぬ「合戦」に加えて、アクロバティックな体術を操る刺客との剣戟も展開される今回なのですが、前回ほどではないにせよ、今回もこの一番良い剣戟シーンで作画が乱れるのが何とも……

 ラストにはきっちりいつもの鬼役の裏の勤めも描かれて日常(?)に回帰したところも含め、エピソードの完結編に相応しい盛りだくさんの内容だっただけに、終盤の画的な息切れが残念ではありました。


 次号はやまさき拓味と原秀則の新連載がスタート。再録企画も今後も続くとのことで、楽しみであります。


『コミック乱ツインズ』2017年12月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年 12 月号 [雑誌]


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2017.11.16

『コミック乱ツインズ』2017年12月号(その一)

 表記の上ではもう今年最後の号となったコミック乱ツインズ誌。表紙を飾るのは『仕掛人藤枝梅安』、そして特別企画として小島剛夕の『孤剣の狼 鎌鬼』が収録されています。

『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 単行本刊行に合わせてか、3号連続巻頭カラーの2回目となった今回は、「梅安初時雨」の中編。牛堀道場の跡目争いに巻き込まれ、江戸を売る羽目となった小杉さんと梅安の旅は続きます。

 小杉さんが後継者に指名されたのを不服に思い、闇討ちしてきた相手を斬ったものの、それが旗本のバカ息子であったことから、梅安とともに江戸を離れることになった小杉さん。しかし偶然から二人の居所が知れ、実に六人の刺客が二人に迫ることになります。偶然それを知って追いかけてきた彦さんも加えて、迎え撃とうとする梅安ですが……
 というわけで今回のクライマックスは三対六の死闘。それぞれの得意の技を繰り出しながらの疾走しながらの戦いは、さすがの迫力です。

 しかし今回印象に残ったのは、藤枝で過ごした少年時代を思い出す梅安の姿。かつて自分をこきつかった宿の者たちも、今の自分のことをわからないと複雑な表情を見せる梅安ですが――いや、確かに顔よりも首が太い今の体格になっては、と妙に納得であります


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 我が国独自の鉄道網構築のために奮闘する男たちを描いてきた本作、今回の中心となるのは、これまで幾度か描かれてきた明治の鉄道の最大の問題点であった狭軌から広軌への切り替えであります。

 レールの幅の切り替えに伴い、新たな、日本独自の機関車開発を目指す島。そのために彼は大ベテランの技術者・森に機関車設計を依頼するのですが――補佐につけられた雨宮は、既存の機関車の延長線上のものを開発しようとする森に厳しい言葉を向けます。
 その言葉に応え、奮起した森はついに斬新な機関車を設計するのですが……

 これまでも鉄道を巡る理想と現実、上層と現場のせめぎ合いを描いてきた本作。それがついに表面化してしまった印象の今回のエピソードですが――明らかに現場の人間でありつつも、誰よりも島の理想を理解してきた雨宮の想いはどこに向かうのか。なかなか盛り上がってきました。


『孤剣の狼 鎌鬼』(小島剛夕)
 冒頭に述べたとおり、名作復活特別企画として掲載された本作は、実に約50年前に発表された連作シリーズの一編であります。

 伊吹剣流の達人である放浪の素浪人・ムサシが今回戦うことになるのは、ある城下町で満月になるたびに現れては人々をむごたらしく殺していく謎の怪人。
 奇怪な面をつけ、鋭い鎌を用いて武士や町人、男や女を問わず殺していく怪人の前に、ムサシもあわやというところまで追い詰められるのですが……

 鴉の群れとともに夜の闇に紛れて現れる怪人の不気味さ、義侠心ではなく自分の剣の宣伝のために怪人に挑むムサシなど、独特の乾いたハードさが印象に残る本作。
 しかし何よりも目に焼き付くのは、そのアクション描写の見事さでしょう。都合二度描かれるムサシと怪人の対決シーンは、スピーディーかつダイナミックな(それでいて非常にわかりやすい)動きを見せ、特にラストのアクロバティックな殺陣の画には惚れ惚れとさせられます。

 次回も同じ小島剛夕作品、それも未単行本化作品ということで期待しております。
(しかし何故今この作品の、それも怪人の正体が結構な危険球のこの回を――という印象は否めないのですが)


 充実の今号、長くなってしまったので次回に続きます。


『コミック乱ツインズ』2017年12月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年 12 月号 [雑誌]


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2017.11.15

入門者向け時代伝奇小説百選 中国もの

 入門者向け時代小説百選、ラストはちょっと趣向を変えて日本人作家による中国ものを紹介いたします。どの作品もユニークな趣向に満ちた快作揃いであります。
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)

96.『僕僕先生』(仁木英之) 【怪奇・妖怪】 Amazon
 唐の時代、働きもせずに親の財産頼みで暮らす無気力な青年・王弁。ある日出会った美少女姿の仙人・僕僕に気に入られて弟子となった王弁は、彼女とともに旅に出ることになります。世界はおろか、天地を超えた世界で王弁が見たものは……

 実際に中国に残る説話を題材としつつも、それをニート青年とボクっ娘仙人という非常にキャッチーな内容に生まれ変わらせてみせた本作。現代の我々には馴染みが薄い神仙の世界をコミカルにアレンジしてみせた面白さもさることながら、旅の中で異郷の事物に触れた王弁が次第に成長していく姿も印象に残ります。
 作者の代表作にして、その後シリーズ化さえて10年以上に渡り書き続けられることとなったのも納得の名作です。

(その他おすすめ)
『薄妃の恋 僕僕先生』(仁木英之) Amazon
『千里伝』(仁木英之) Amazon


97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都) 【ミステリ】 Amazon
 デビュー以来、中国を舞台とした歴史ミステリを次々と発表してきた作者が、唐の則天武后の時代を舞台に描く連作ミステリです。

 則天武后の洛陽城に宦官として献上された怜悧な美少年・馮九郎と、天真爛漫な双子の妹・香連。九郎は複雑怪奇な権力闘争が繰り広げられる宮中で、次々と起きる奇怪な事件を持ち前の推理力で解決していくのですが、権力の魔手はやがて二人の周囲にも……

 探偵役が宦官という、ユニークな設定の本作。収録された物語が、いずれもミステリとして魅力的なのはもちろんですが、則天武后の存在が事件の数々に、そして主人公たちの動きに密接に関わってくるのが実に面白い。結末で明かされる、史実との意外なリンクにも見所であります。

(その他おすすめ)
『十八面の骰子』(森福都) Amazon
『漆黒泉』(森福都) Amazon


98.『琅邪の鬼』(丸山天寿) 【ミステリ】 Amazon
 中国史上初の皇帝である秦の始皇帝。本作は、その始皇帝の命で不老不死の研究を行った人物・徐福の弟子たちが奇怪な事件に挑む物語であります。

 徐福が住む港町・琅邪で次々と起きる怪事件。鬼に盗まれた家宝・甦って走る死体・連続する不可解な自死・一夜にして消失する屋敷・棺の中で成長する美女――超自然の鬼(幽霊)によるとしか思えない事件の数々に挑むのは、医術・易占・方術・房中術・剣術と、徐福の弟子たちはそれぞれの特技を活かして挑むことになります。

 とにかく起きる事件の異常さと、登場人物の個性が楽しい本作。本当に合理的に解けるのかと心配になるほどの謎を鮮やかに解き明かす人物の正体が明かされるラストも仰天必至の作品です。

(その他おすすめ)
『琅邪の虎』(丸山天寿) Amazon
『邯鄲の誓 始皇帝と戦った者たち』(丸山天寿) Amazon


99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬) 【ミステリ】 Amazon
 遙かな昔、黄帝が悪を滅するために地上に下したという「銀牌」。本作は、様々な時代に登場する銀牌を持つ者=銀牌侠たちが、江湖(官に対する民の世界)で起きる怪事件の数々に挑む武侠ミステリであります。

 本書に収録された四つの物語で描かれるのは、武術の奥義による殺人事件の謎。日本の剣豪小説同様、中国の武侠小説でも達人の奥義の存在と、それを如何に破るかというのは作品の大きな魅力ですが、本作ではそれがそのまま謎解きとなっているのが、実にユニークであります。

 そしてもう一つ、ラストの中編『悪銭滅身』の主人公が浪子燕青――「水滸伝」の豪傑百八星の一人なのにも注目。水滸伝ファンの作者らしい、気の利いた趣向です。

(その他おすすめ)
『もろこし紅游録』(秋梨惟喬) Amazon
『黄石斎真報』(秋梨惟喬) Amazon


100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州) 【児童】【怪奇・妖怪】 Amazon
 時代伝奇小説の遠い祖先とも言える中国四大奇書。その一つ「西遊記」の作者――とも言われる呉承恩を主人公とした奇譚です。

 父との旅の途中、みすぼらしい少女・玉策に出会って食べ物を恵もうとした作家志望の少年・承恩。しかし玉策の食べ物は何と書物――実は彼女は、泰山山頂の金篋から転がり落ちた、人の運命を見抜く力を持つ存在だったのです。
 玉策の力を狙う者たちを相手に、承恩は思わぬ冒険に巻き込まれることに……

 「西遊記」などの中国の古典を児童向けに(しかし大人も唸る完成度で)リライトしてきた作者。本作もやはり本格派かつ個性的な味わいを持った物語ですが、同時に物語の持つ力や意味を描くのが素晴らしい、「物語の物語」であります。

(その他おすすめ)
『封魔鬼譚』シリーズ(渡辺仙州) Amazon



今回紹介した本
僕僕先生 (新潮文庫)双子幻綺行―洛陽城推理譚琅邪の鬼 (講談社文庫)もろこし銀侠伝 (創元推理文庫)(P[わ]2-1)文学少年と書を喰う少女 (ポプラ文庫ピュアフル)


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 「双子幻綺行 洛陽城推理譚」(その一) 事件に浮かぶ人の世の美と醜
 「琅邪の鬼」 徐福の弟子たち、怪事件に挑む
 「もろこし銀侠伝」(その一) 武侠世界ならではのミステリ
 渡辺仙州『文学少年と運命の書』 物語の力を描く物語

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