入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎無頼控』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号 太閤の復活祭』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『三人孫市』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛 将軍家見聞役元八郎』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』シリーズ(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『鬼船の城塞』(鳴神響一)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』(富樫倫太郎)
87.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
88.『警視庁草紙』(山田風太郎)
89.『西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄)
90.『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『白狐魔記』シリーズ(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)



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2018.11.14

室井大資『レイリ』第5巻 修羅場を超え、彼女が知った意味


 武田勝頼の嫡男・信勝の影武者となった死にたがりの少女・レイリを描く物語も、これではや第5巻であります。織田方による高天神城攻めに対し、命の恩人を救うために単身城に潜入したレイリ。そこで彼女は、若い城兵たちを逃すため決死の任務に挑むことになるのですが……

 信長の命により高天神城を攻める家康軍に対し、救援の兵を送らぬと決めた武田家。しかし城の守将は足軽たちに家族を殺された自分を救い育ててくれた岡部丹波守、恩人を見殺しにすることはできない――と、レイリは単身城に潜入し、丹波守と再会することになります。
 しかしもちろん、如何にレイリが類希なる戦闘力の持ち主といっても、ただ一人で戦況を覆せるわけがありません。そこで丹波守はレイリに対し、若い城兵たちを連れて人一人が通るのがやっとの尾根道・犬戻り猿戻りからの脱出を命じるのでした。

 というわけで、前巻ラストから引き続いてこの巻の前半で描かれるのは高天神城からの脱出作戦。しかし尾根道といっても敵がこれを見逃すはずもなく、味方を逃がす間の時間稼ぎが必要なわけですが――これこそがもちろんレイリの出番であります。

 単身出撃すると、待ち受ける敵兵をある時は刀で、ある時は弓で斃し、そして馬が鉄砲で撃たれればその亡骸を壁代わりにして敵兵をスナイプしていくという恐るべき戦いぶりを見せるレイリ。
 が、しかしそれも所詮は時間稼ぎ、ついに城が落城し、前方だけでなく、後方からも敵兵に挟み撃ちされることとなった彼女は、城兵たちを連れて逃れるものの、文字通り刀折れ矢尽きる形で、雑兵たちに取り囲まれて……


 と、文字通りの修羅場が続いた前半に対し、後半は表向き平和な甲府を中心に、武田家中を舞台とした物語が展開いたします。

 武田を根絶やしにせんとする信長に対し、如何に負けず戦い抜くか――信勝はその策としてなんと籠城を発案、その場として小山田信茂の守る岩殿山をレイリと共に視察することになります。
 ここで信茂の前で信勝が語る策が、ある意味実に壮大で面白いのですが――その合間合間に信勝やレイリが見せる若者としての素の表情もまた面白い。

 本作は戦国ものでありつつも、「派手な」場面はむしろ少な目(来るときはドッと来ますが)という印象ですが、それ以外のいわば「平時」で描かれる人々の姿もまた魅力的であると、今更ながらに再確認させられます。
 もっとも、その「平時」がそう長くは続かないことを、我々は知っているのですが……


 しかしその「平時」を望まない――「死にたがり」だったレイリに、大きな心境の変化が訪れたことが、この後半において示されることになります。

 かつて己の眼前で、自分を庇った家族が惨殺されたのを目の当たりにして以来、早く戦いの中で殺されて家族のもとへと行くことを望むようになったレイリ。
 この主人公の強烈な設定こそが、本作の大きな特徴だったわけですが――しかしここでレイリは、その「死にたがり」を、自らの口から否定するのであります。

 彼らは何のために死んだのか、そして人は何のため戦い、生きるのか――その意味をついに彼女が知った、と文字で書くのは簡単です。しかし恩人である丹波守の死を経験した彼女が語る言葉は、どこまでも重く、そして同時に清々しく感じられるのです。


 そして結末においては、全く思わぬ形で、レイリにもう一つの重大な転機が訪れることになるのですが――死にたがりを止め、そして一つの役目を終えた彼女が、この先如何にして新たな生を生きることになるのか。
 いや、この先の生があるとは限りません。いよいよ信長が武田家殲滅を決定、最後の戦いがいよいよ始まろうとしているのですから……

 おそらくはこの物語もあとわずか、少なくともその時までにレイリが如何に生きるのか、見届けたいと思います。


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2018.11.13

須垣りつ『あやかし長屋の猫とごはん』 少年を広い世界に導くおかしな面々


 この夏に誕生した二見書房のキャラクター文芸レーベル・二見サラ文庫の第2弾ラインナップとして刊行された本作――仇討ちのために江戸に出てきた少年武士を主人公に、「あやかし」「猫」「ごはん」と鉄板の題材3つを贅沢に(?)盛り合わせた、妖怪あり人情ありのお話であります。

 不正を発見した父を殺して逃げた相手を追い、小瀬木藩から江戸にやってきた13歳の少年・大浜秀介。しかし路銀が尽きて行き倒れ寸前となり、もはやこれまでと腹を切ろうとしたその時、彼の前に純白の子猫が現れます。
 寿命が尽きた時に秀介に弔ってもらい、猫又になった今、彼に恩を返すために現れたという猫・まんじゅう(という名前)に導かれ、秀介はまんじゅうの元飼い主が大家を務める長屋を訪ね、成り行きからその住人の一人となるのでした。

 しかしその長屋は、幽霊やら妖怪やらが出没することから、つけられたあだ名が「あやかし長屋」。そんな長屋で秀介は、まんじゅうや隣人の少年職人・弥吉に助けられ、長屋の、江戸の住人として少しずつ馴染んでいくのでした。
 そんなある日、両国で憎き父の仇を見つけた秀介。まんじゅうの止めるのにもかかわらず、単身仇を追った秀介の選択は……


 冒頭に述べたとおり、ライト文芸、いや文庫書き下ろし時代小説鉄板の題材3つをタイトルに掲げた本作。
 なるほど主人公・秀介の住む長屋は妖怪や幽霊が現れるあやかしスポット、彼を助けるのは猫(又。しかし概念的には猫又というより猫の幽霊では――という気も)、そして作中では秀介が様々な江戸の食べ物を口にして――と看板に偽りなしであります。

 その題材通りと言うべきか、非常に気軽に読める本作。深みや重みという点では食い足りない方はいるかと思いますが、こうして楽しくサラっと読める作品も、当然のことながらあってよいと思います。


 しかし本作ならではの魅力もしっかりとあることは言うまでもありません。
 個人的に感心したのは、主人公である秀介が地方の小藩出身の、まだ元服もしていない少年として設定されている点であります。

 特に時代小説にあまり馴染みがない――というよりその舞台となる江戸の文化風物の知識が多くない――方向けの作品として、地方から初めて江戸に出てきた「世間知らず」の人物を主人公として、読者と主人公の視点をできるだけ近づけるのは、これは一つの定番と言えます。
 その意味では本作もそれに則っていることは間違いありませんが、しかしそれだけではありません。本作の秀介はまだ年若く、知識というだけでなく、人としての機微にまだ疎いという、いわば二重に世間知らずの存在なのであります。

 さらに父の仇討ちという武士としてある意味究極の目的を背負ったことで、非常に「堅い」キャラとなっているわけで、そんな(厳しい言い方をすれば)非常に狭い世界に生きていたキャラクターが、一歩一歩人情を、武士以外の世界を知って成長していく様が、本作の魅力と言えるのではないでしょうか。

 しかし秀介を導くのが、ものわかりのいい大人たちであったりすると、何だか説教臭くなりかねないところではあります。
 そこを本作では彼とほとんど同い年ながら、江戸の町人として苦労を重ねてきた弥吉や、見かけは卑怯なくらいに可愛いのに妙に分別臭い(元は享年17歳の老猫なので)まんじゅうという、ちょっとイレギュラーな面々がその役を務めるというのも、また巧みと感じます。


 本作の作者は、幻の(賞は決定したものの刊行されなかった)第2回招き猫文庫時代小説新人賞の受賞者。本作は新作ではありますが、そう言われてみると、あのレーベルの香りが――初心者にも優しく読みやすい時代ものという方向性が――強く漂っている印象があります。

 そんな理由もあって、大いに応援したくなる作者と本作。この先も本作のように、ライトでキャッチーで、それだからこそ新しい読者を惹きつけ、時代小説読者の裾野を広げるような作品を発表していただきたいものです。

『あやかし長屋の猫とごはん』(須垣りつ 二見サラ文庫)

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2018.11.12

賀来ゆうじ『地獄楽』第4巻 画眉丸の、人間たちの再起の時!


 不老不死の仙薬を求め、謎の孤島に送り込まれた十人の死罪人と十人の山田浅ェ門が繰り広げる戦いもいよいよ佳境。この島を支配する天仙たちの恐るべき正体とは、そして彼らに手も足も出ずに敗れ去った画眉丸たちの再起のチャンスは……?

 無罪放免を条件に送り込まれた死罪人の一人・画眉丸と山田浅ェ門佐切のコンビ。死罪人たちや怪物たちとの戦いの末、謎の少女・めいと奇怪な木人・ほうこと出会った二人は、ほうこから、この島が仙薬を持つ天仙なる存在に支配されていることを聞かされるのでした。
 そして仙薬を求めて単身動いた画眉丸は、件の天仙と対峙することになるのですが……

 しかし異常な回復力を持ち、不可視の奇怪な攻撃を放つ天仙にさしもの画眉丸も大苦戦。持てる力を振り絞ってようやく倒せたかと思いきや、奇怪な怪物となって復活した天仙の圧倒的な力にあわやのところまで追い詰められることになります。
 そして時をほぼ同じくして、他の死罪人、他の浅ェ門たちの前にも天仙が出現、次々と犠牲者が出ることになるのであります。


 ……と、思わぬ強敵の前に、惨敗することとなった画眉丸たち。如何に規格外の戦闘力と生命力を持つ彼らであったとしても所詮は人間、紛れもなく人外の天仙の力とは比べるべくもありません。

 この巻の冒頭で、めいの不思議な力によって辛うじて天仙から逃れた画眉丸の前に現れたのは、死罪人の中でもおそらくは最強の剣の使い手・民谷巌鉄斎。
 しかし人間としてはほとんど頂上レベルの画眉丸と巌鉄斎(対峙した際に、壮絶な読み合い=一種のイメトレを繰り広げるのが実に面白い)であっても、やはり天仙の前には及ぶべくもないのであります。……今は。

 想像を絶する強敵を前に手を組み、再び戦いを挑もうとする画眉丸と巌鉄斎ですが、しかし休む間もなく、天仙たちが差し向けた、島を徘徊する怪物たちの上位存在――知性を持ち、そして何よりも天仙と同様の力を操る「道士」が画眉丸たちに襲いかかることになります。
 そして彼らの口から、これまでその存在の一切が謎に包まれていためいの正体が明らかになるのですが……

 ここで語られるめいの正体から浮かび上がるのは、天仙がこの島で行っている所業の一端であり、何よりもめいがそこで背負わされた役割。そしてその悍ましさたるや、これに不快感を感じ、怒らなければ人間ではないというべき、というほどのものであります。
 この誰もが共感できる理由と想いが、非情の忍びであった画眉丸の魂にも(いや彼だからこそ)火をつけ、彼が立ち上がる場面は、間違いなくこの巻のクライマックス、本作きっての名場面と言うべきでしょう。

 が、怒りだけでパワーアップできるのであれば苦労はありません。道士の力に翻弄される画眉丸たちに対して、めいの口から、道士の、天仙の操る力の秘密が語られるのですが――その力は、画眉丸とはある意味正反対のものであることが明らかになります。
 同じ力を、同じ力の使い方を得れば、画眉丸にも勝機があるはずですが、しかし――いや、彼にもその力はあった!

 その力の詳細は伏せますが、画眉丸の中にある――彼の中に佐切が見出した――もの、彼の秘められた人間性を描くと思われたものが(それも物語の初期で描かれた)ものが、ここでパワーアップに繋がっていくのが実に熱い。
 この舞台設定(物語を貫く法則)と、キャラクターの精神的成長、そして物理的なパワーアップが直結する構造の巧みさには、ただ感心するほかありません。


 そして画眉丸とはまた異なる形でパワーアップを(あるいはその萌芽を)見せる死罪人と浅ェ門たち。さらに以前から登場が仄めかされていた者たちの参戦と新たなる浅ェ門の登場……
 と、ここに来て一気に「人間」側が盛り返してきた展開ですが、しかしこれでようやく天仙たちと戦うことが可能になった、というレベルでしかないのでしょう。

 この巻のラストではまた思わぬ展開が待ち受けているのですが、さてそこから物語がどう転がっていくのか――まだまだ予測不能の物語は続きます。

『地獄楽』第4巻(賀来ゆうじ 集英社ジャンプコミックス)

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2018.11.11

12月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 もう11月、気がつけば気温も下がってきて冬が近づいてきたことを感じさせます。2018年も終わりが目前ですが、忙しい年末だけに、刊行される本の数も少ないのではないか――などと心配してみれば、全然そんなことはなかった! というわけで12月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 さて、そんなわけで想像以上に充実の文庫新刊ですが、まず注目は平谷美樹『唐金の兵団』――『鉄の王』シリーズの最新巻ですが、果たして舞台はどの時代なのか、あらすじだけでは謎なのがまた楽しみです。
 そして過去作2作が復刊されたと思えばついに新作も登場! の霜島けい『のっぺら同心 あやかし同心捕物控(仮)』、好調シリーズ第3弾の鳴神響一『江戸萬古の瑞雲 多田文治郎推理帖』とシリーズものの楽しみな新刊が続きます。

 その他、作者初の忍者もの(?)の赤神諒『神遊の城』、乾緑郎のピカレスク『悪党町奴夢散際』、カクヨム発の明治ものである作楽シン『ハイカラ娘と銀座百鬼夜行』、内容は不明ですが作者的に一筋縄ではいかないであろう山本巧次『江戸の闇風 黒桔梗裏草子』と、気になる新作の目白押しであります。
 気になる新作といえば、もう一作、主に児童書で活躍してきた中国ものの名手・渡辺仙州の一般向け作品『三国志博奕伝』も必見です。

 そして文庫化・復刊では、風野真知雄『完本 妻は、くノ一 2 身も心も/風の囁き』、西條奈加『睦月童(仮)』が要チェックでしょうか。


 そして漫画の方では、麻貴早人の異形の平安絵巻『鬼哭の童女 異聞大江山鬼退治』第1巻が登場。また、蜷川ヤエコの『モノノ怪』コミカライズは、ついにラストの『化猫』上巻の登場ですが、合わせて以前全2巻で刊行された『怪 ayakashi 化猫』も、『モノノ怪前日譚』と銘打って1巻本で登場とのことです。

 そしてシリーズの続巻では、この先の展開が色々と心配なTAGRO『別式』第4巻、昆虫忍者の死闘が続く速水時貞『蝶撫の忍』第3巻、相変わらず絶好調の野田サトル『ゴールデンカムイ』第16巻、るねっさんす情熱は健在の寺沢大介『ミスター味っ子幕末編』第3巻と楽しみな作品ばかり。
 その他、原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第12巻、灰原薬『応天の門』第10巻、かどたひろし『勘定吟味役異聞』第5巻、瀬下猛『ハーン 草と鉄と羊』第5巻と、一通り読むだけでも大忙しになりそうな年末であります。


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2018.11.10

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第6章の1『願いの手』 第6章の2『ちゃんちゃんこを着た猫』 第6章の3『潮の魔縁』


 北から来た盲目の美少女修法師・百夜の活躍を描く短編シリーズの第6章前半――第6章の1(第31話)から3(第33話)の紹介であります。今回からは、第6章のゲストキャラクターである傳通院の助次郎親分と博徒・不動の長五郎が登場することになります。


『願いの手』
 傳通院の助次郎が開く賭場に顔を出した左吉。しかし丁半博打が始まった時、盆ゴザが突然動き出し、丸く盛り上がると大年増女の腕に変化するという怪異が起こります。
 長五郎の刀の一撃で斬り落とされた腕はい草に戻ったものの、何故そんな怪異が起きたのかはわからぬまま、その後も毎晩のように女の手は出現。音を上げた助次郎は長五郎を通じて百夜に解決を依頼してきたのですが……

 というわけで助次郎と長五郎の初登場回である本作。やくざの親分でありつつもどこかすっとぼけた男の助次郎と上州無宿のクールな渡世人の長五郎と、いかにも本シリーズらしい個性を持った二人であります(ちなみに助次郎に賭場の場所を貸していた住持の人を食ったキャラクターもいい)。

 さて、今回の怪異はそんな二人にふさわしいというべきか、賭場で起きた不可思議な事件。その怪異を、百夜が快刀乱麻を断つ――いや断たないようにして解き明かす真実は、意外かつ、この設定ならではの異形の人情話となっており、強く印象に残ります。


『ちゃんちゃんこを着た猫』
 助次郎が妾の芸者・梅太郎のところに泊まった晩に現れた、紅いちゃんちゃんこを着た虎縞の猫。梅太郎は猫を飼っておらず、しかも密室にもかかわらず猫が出没するようになって以来、彼女の周囲には変事が続くことになります。梅太郎から依頼を受けた桔梗は、この一件が付喪神によるものと見抜くのですが……

 表紙イラストの、恐ろしくもなんだか可愛らしい猫の姿が実に味わいのある本作。今回も助次郎周りの事件となるのですが、そんな状況でも登場するなり「百夜ちゃん」呼ばわりするところが助次郎のキャラの面白さであります。
 それにしてもどうみても化け猫としか思えない今回の怪異の正体は何なのか、そして何故梅太郎のもとに現れ、彼女を害しようとするのか? 百夜の推理が解き明かすその謎は、本作ならではの奇怪な、しかし一種の論理性を以て語られるのですが――しかし猫好きとしては、クライマックスに登場するこの猫の姿が何とも泣かせます。

 ちなみに今回久々にゴミソの鐵次がゲスト出演。百夜とは相変わらずのぶっきらぼうなやりとりですが、しかしそれが実にらしくて良い感じです。。


『潮の魔縁』
 紅柄党の一人の屋敷で開かれていた助次郎の賭場に顔を出した紅柄党の頭目・宮口大学。そこで宮口から強烈な磯のにおいを嗅いだ清五郎ですが、宮口はそれが霊的なものではないかと考え、百夜のもとに事件を持ち込むのですが――百夜は宮口の実家で何かが起きたのではないかと語ります。
 はたして彼の実家では、父の寝所に奇怪なものたち――伸び縮みする棒、巨大な黒い幼虫、凄まじい水飛沫、黒壁と巨大な目が出没していたのですが……

 『内侍所』事件以来久々の登場となった宮口大学。強面という点ではやくざ顔負けの不良旗本子弟の頭目ですが、百夜の前では形無しというのはこれまで通りであります。
 それはさておき、今回登場する怪異は、奇怪な現象が少なくなる本作においても滅多にないようなもの。謎が解き明かされてみればなるほど、となるのですが、正直に言って百夜は何でも知っているなあ――という印象もあります。

 ちなみに本作のラストで、一旦清五郎が江戸を去り、故郷に帰ることになるのですが――そこで清五郎が何を見るのか、それはまた次回、であります。


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2018.11.09

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第6話「毒手の誇り」

 解毒薬によって復活した殤不患に圧倒される蠍瓔珞と嘯狂狷。蠍瓔珞は嘯狂狷の裏切りによって傷を受けて逃れ、嘯狂狷もその場に現れた鬼鳥(凜雪鴉)の仲裁で撤退する。逃げた蠍瓔珞を追う殤不患と浪巫謠だが、その前に諦空が現れる。諦空と問答を交わした末、不意に襲いかかる浪巫謠だが……

 前回ラスト、浪巫謠と凜雪鴉が不運な竜から奪ってきた角から作られた解毒薬を口にした殤不患。普通こういう薬は効くまで時間がかかるような気がしますが、飲んだと思いきや何かスゴい光ったりしてものすごい勢いで殤不患は回復、毒を調合した蠍瓔珞も、自分でも解毒の方法を知らないのに――と愕然としております(それはそれでどうなのか)。
 しかし同時に、これが蠍瓔珞の魂に火をつけることになります。自分には毒しかない、毒だけに全てを打ち込んできた。その毒を否定されては――と悪役は悪役なりの矜持があることを見せてくれた蠍瓔珞ですが、彼女が放った奥義・毒蠱驟来(毒ガス殺法)も、高速で刀を回転させる殤不患の拙劍無式・黄塵万丈で無効化されてしまいます。さらに卑怯にも後ろから嘯狂狷に鞭でブン殴られて喪月之夜を奪われ、心身ともにボロボロの蠍瓔珞は蹌踉とその場から消えるのでした。

 そして残る嘯狂狷は、殤不患に町人虐殺の濡れ衣を着せて指名手配にしてやったもんね、と煽るものの、殤不患はそれがどうしたと平気の平左。そういえばこの人は好漢にとって大事な面子や名利といったものに、一向に無頓着なのでした――が、結構つきあいは長そうなのにその辺りが全くわかっていなかった、というより自分の物差しでしか人を測れない嘯狂狷には、そんな彼の姿は不可解極まりないのでしょう。
 蠍瓔珞といい、普通に振る舞っているだけで相手の心をへし折る殤不患は、ある意味凜雪鴉なみに厄介な人間なのかも――と思っていたら、そこに思いっきり棒読みで割って入ったのはその凜雪鴉、いや鬼鳥。鬼鳥として嘯狂狷にこの場は退けと語りかける凜雪鴉の姿に悟っちゃった殤不患は、「可哀想に……」という感じで嘯狂狷を見るのでした。

 さて、嘯狂狷は放っておくとしても、魔剣をまだ手にしている(かもしれない)蠍瓔珞を見逃すわけにはいきません。彼女の後を追う殤不患と浪巫謠ですが――その前に飄然と現れたのは、謎の行脚僧・諦空であります。彼に蠍瓔珞の行き先を聞く二人ですが、諦空は例によってそれに何の意味があるのかと問答を開始。諦空がいちいち相手の行動に意味を問うのは、自分自身にとってこの世の何物も意味を持たないからと聞かされた浪巫謠は――次の瞬間、では死ね! と剣モードの聆牙で斬りかかるのでした。

 さすがの殤不患も相棒の突然の凶行にびっくり仰天、さすがに放っておけないと剣を抜いて割って入り、その間に諦空はその場から立ち去ります。そして相棒の行動を問いつめる殤不患ですが――あいつは悪だ、とだけ語る浪巫謠。代わって聆牙が説明するのは諦空の危険性――彼がいま全てに意味を見出せないとして、とんでもない悪事に意味を見出してしまったとしたら? と。なるほど、そうでなくとも彼は、意味さえ聞かされれば、深手を負った蠍瓔珞の行き先を語りかねない雰囲気もありました。何よりも、全てに意味を見出せないということは、善悪の価値基準を持たないということでもあるのでしょう。
 そして倒れた蠍瓔珞を、いつもの納屋に連れてきた諦空。あんなことがあっても相変わらず平然として――いや、己の目的のために戦い、殺し合う蠍瓔珞らがキラキラ輝いてて羨ましい(意訳)とすら語る諦空に引いたのか、あるいは己の来し方行く末に悩んでいるのか、微妙な雰囲気の蠍瓔珞ですが……

 さて刑部に戻ってきた嘯狂狷は、刑部のおじさん官僚に何気ない態で掠風竊塵とは何者なのか尋ねます(殤不患が鬼鳥に何気なく僧呼びかけたのを聞いたのか?)。と、その質問に、刑部のおじさんがあからさまに不自然すぎるオーバーアクトでワナワナ震えるという謎の場面(この辺り、武侠ドラマらしいと言えばらしい)で次回に続きます。


 折り返し地点を過ぎたものの、相変わらず物語の落としどころがわからない本作。既に悪役二人は小者扱いな状況で誰が敵となるのか(やはり諦空……か?)、そして何を以て物語の終わりとするのか。魔剣たった二本を取り戻して終わり、というのは(少なくとも見た目では)あまりにもスケールが……

 という余計な心配をさて置けば、久々の殤不患の活躍が実に痛快だった今回。凜雪鴉との妙な通じ合いも、二人の腐れ縁を感じさせて実に愉快でした。
 そしてそれ以上に印象に残ったのは、己の矜持を粉砕されて嘆き悲しむ蠍瓔珞の姿。『生死一劍』の殺無生が嘆く場面にも思いましたが、派手なアクション以上に人形で感情の表れ――特に悲しみを表現するのは難しいはずで、それをしっかりと見せてくれたのには驚かされました。台湾布袋劇の奥深さを改めて感じさせられた次第です。

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