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2004.06.07

隠猿の剣

 自らの剣に磨きをかけるため修行の旅に出ていた毬谷直二郎。江戸に帰ってきた直二郎を待っていたのは、殺されて堀に投げ込まれた幼女と、足跡のない雪の上で樹上に晒された侍の、二つの死体だった。犠牲者が自分に縁の者であったことから怒りに燃える直二郎だが、事件の背後に隠されていたのは尾室藩の跡継ぎを巡る暗闘だった。藩主の忘れ形見を誘拐し、藩政を壟断せんとする謎の忍術集団に、直二郎は「千手剣」で挑む。

 「三鬼の剣」で登場した青年剣士・毬谷直二郎の活躍を描いた第二弾。物語冒頭で直二郎は「千手剣」なる奥義を会得してパワーアップ、これだったら向かうところ敵なしなんでは…と思ったのも束の間、敵方として登場する三人の個性的な剣士の前に苦戦を強いられますが、その苦戦の仕方に説得力があるのがうまいところ。簡単に言ってしまえば、相手の剣がみな千手剣にとって相性の悪い剣といいますか――なるほど、こういう流派であれば、この技は通じないな、というのが理屈として伝わってくるのです。  剣士たちの操る剣の流派それぞれの長所・短所を的確に描いているからこそ、こうした組み合わせの妙ともいうべき技と技の戦いの世界が描けるわけで、剣豪小説として当たり前といえば当たり前かもしれませんが、やはりこうした基本の部分がキチッと描かれているのは気持ちのいいところです。  そして、今作では味方側も敵側もキャラクターが増えており、一人一人の描写量はそれほど多くはないのですが、しかしそのそれぞれの描写がかなり印象的で、実にキャラクターが立って感じられるのには感心しました。  また、前作には何歩か譲るものの、ミステリとしての側面も健在で、冒頭で示される二つの殺人の謎が物語の背骨となっており、一見、落着したかに見えた事件が、この謎をきっかけに新たな側面を見せ、背後にいた真の黒幕へとつながっていく展開は巧みで、正直、誰が真の黒幕なのか、登場した瞬間にわかってしまうのですが、それもまあ許せてしまう構成の妙でありました。


「隠猿の剣」(鳥羽亮 講談社文庫)


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