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2005.04.27

砂楼に登りし者たち

 第10回創元推理短編賞受賞の作者による、時代連作推理小説。
 室町時代末期、混沌とした世相のなか、牛に乗り、弟子の徳二郎を連れて諸国を旅する伝説的な老医・残夢が、次々と起こる不可思議な怪事件を、あらましを聞いただけで解決していくという、いわゆる安楽椅子探偵ものでありますが、やはり特色はその濃厚な伝奇性でしょう。

 神の末裔を自称する名家の末裔の姫が戦場から忽然と消える「諏訪堕天使宮」、油売りから一代でのし上がった美濃の英傑が堂宇の中で不可思議な死を遂げる「美濃蛇念堂」、奇怪な忍者たちの襲撃に幾度となく命を奪われながらも健在の姿を見せる筒井順興の謎を描く「大和幻争伝」、そして織田家に近づいた邪教・白峰党の女の奇怪な死がある歴史的な事件へとつながる「織田涜神譜」と、いずれも描かれる物語とそのシチュエーションは、実に伝奇的。
 何が起きても不思議でない、存在自体が謎めいた人々や舞台の中で展開される事件の数々は、一歩間違えれば「これは伝奇だから」で非合理的な解釈も許されてしまいそうなものですが、その中で残夢翁が、どこまでも合理的な精神で謎を解き明かしていくのが、取り合わせの妙と言いますか、なかなかに愉快であります。
(これらの事件のほとんどが、人体消失や密室殺人等、「当然あるべき者が消えてしまった世界」を描いているのが、時代背景を考えるとなかなか意味深であるようにも思われます)

 その精神がもっとも良く現れているのは、山風的忍者たちが跳梁する「大和幻争伝」。ほとんど何でもあり状態の忍者たちの襲撃の中「どうやってターゲットは生き延びてきたのか」というある意味逆転の発想が(物語の構成的には今ひとつ座りが悪かったりするのですが)実に面白く読めました。
 もう一つ、これは伝奇者として私が気に入ったのは、ラストエピソードである「織田涜神譜」。崇徳院の怨念を継ぎ、皇統を絶やさんとする白峰党なる怪集団の設定だけでもう嬉しいのですが、その一員に訪れた神罰とも言うべき奇怪な死の謎が描かれる前半と、そこから時は流れて歴史上もっとも有名といえるかもしれない人体消失事件の意外な真相が描かれる後半の構成が、それまで連作短編としての物語のパターンに慣れていた身にとって、意外であり、また嬉しくも感じられました。

 もっとも、ほめるべき点ばかりではなく、残念な部分もあるのはまた事実。推理ものとしても伝奇ものとしても、手堅い線を狙いすぎたか、そのジャンルに慣れた人間が読めば、先読みできる部分が多く、トリックやオチがある程度予想できてしまうのは、このような作品にとっては、正直かなり大きいマイナス点という気がします。

 しかし、作品としての試みは実に面白く、評価できるもの。この先、作者が推理プロパーな作品を書いていくのか、それとも本作のような世界を広げていくのかはわかりませんが、私として是非後者を望みたいところであります。

 よろしければお願いします

「砂楼に登りし者たち」(獅子宮敏彦 東京創元社) Amazon bk1

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