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2005.05.28

御隠居忍法

御隠居忍法
 奥州の小藩を舞台とした、伊賀者の血を引く「御隠居」の活躍を描く連作短編集。
 主人公の鹿間狸斎(しかま・りさい)は、若き日は昌平坂学問所で秀才と謳われながら、御庭番への推挙を断ったために長らく冷や飯食らい、三十歳を過ぎてようやく役が付いても、四十歳を越したらさっさと家督を譲って、娘の嫁ぎ先の奥州笹野藩に隠居所をこしらえて住み着いたという設定で、多分に風狂の化のある人物なのがまず面白いところ。もっとも、まだまだ十分に生臭いところを残した人物で、自分の娘ほどの歳の御手掛けがいるという、まずは世の中のお父さん方が理想としそうな人物であります。

 その狸斎さん、静かに暮らしたいはずが、身の回りで次々と事件が起こる。住んでいるのは中央から離れた小藩であっても――いやそれ故にか、藩の中では不穏の動きがしばしば。そんな厄介は背景を持った事件の数々に、ある時は巻き込まれ、ある時は自ら首を突っ込んだ狸斎先生の活躍が、達者な筆致で描かれていて、派手さはないものの楽しく読むことができました。

 小藩の諍いの中に巻き込まれていく主人公というと、先にこのブログでも取り上げた同じ作者の「眠る鬼」に始まる「鬼悠市風信帖」シリーズが思い浮かびますし、似たような感触があるのですが、決定的にあちらのシリーズと異なるのは、主人公がアウトサイダーであること。鬼悠市は藩の命を受けて動く人間ですが、狸斎は、「御隠居」という身分として動くアウトサイダー。アウトサイダーであるということは、もちろんそれだけ自由な人間ではあるのですが、その一方で自分を庇護してくれる存在を持たない、周囲に完全に信を置くことができないということでもあります。
 作中で狸斎と親しくつき合う目明かしの文次というキャラクターがいるのですが、文次は狸斎に心酔するような格好で物語に関わっていくのですが、その一方で、時として江戸の隠密ではないかと疑われる狸斎に藩の人間として接する立場にある人物。娘の舅であり良き友人である同じく隠居の新野耕民という人物も、息子が藩の重職にあり、かつ自分も藩の様々な秘密を知る者として、狸斎とは一定の距離を置かざるを得ない人物として描かれています。そしてまた、アウトサイダーと言っても、上に述べたように娘が藩の重職に嫁いでいるという義理に縛られることがあるのもまた事実。

 狸斎の年を感じさせぬ活躍がある一方で、こうしたままならぬ現実という苦みが物語を引き締め、深みを与えていると感じられました。

 連作短編ゆえか、描写や展開でやや食い足りない部分もありましたが(特に「不死身の男」の存在は、狸斎の強敵としてなかなか面白いものに出来たと思うだけにいささか勿体ない印象)、まずはシリーズ続刊を楽しみに出来る作品です。


「御隠居忍法」(高橋義夫 中公文庫) Amazon bk1


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