« 勧善懲悪裏稼業アクション PS2「必殺裏稼業」発表 | トップページ | 凶刃対妖刃 「シグルイ」第4巻 »

2005.06.23

無住心剣術の剣戟を堪能 「幻影の天守閣」

幻影の天守閣 無住心剣術の遣い手にして江戸城の天守番・工藤小賢太は、初めての宿直の晩に天守閣に侵入せんとする一団を発見、これをかろうじて撃退する。このがきっかけで大目付・北野薩摩守に見込まれた小賢太は、薩摩守に事件の探索を命じられる。一方、余命幾ばくもない将軍家綱の後継を巡り、幕閣は暗闘を展開。何者かの襲撃を受けた将軍家側室・お満流の方を救った小賢太は、その争いにも巻き込まれていく。明暦の大火で廃墟と化した天守閣に何が潜むのか、そして将軍家後継争いの行方は?

 サルベージシリーズその5。上田秀人先生の光文社文庫での第1作です。
 以前「悲恋の太刀」紹介した際にも述べましたが、この作品もまた、歴史の背後で張り巡らされる権力者の陰謀と、それに立ち向かう個人の剣というモチーフで描かれていると申せましょう。
 この作品のタイトルであり、そして重要な舞台となるのは明暦の大火で焼失した江戸城天守閣。城であれば当然存在すべきものが存在しない――それでいてそれを守るお役目は存在する――というのはなかなかミステリアスであり、それだけで伝奇的な存在であります。それを物語の中心に据えたというのは、作者の着眼点が光ります(ただし、ラスト近くでの秘密の明かし方は、もう少しケレン味があってもよかったかな、と個人的には思います)。
 そして天守閣の謎と平行して描かれるのが、次代の将軍の座を巡る争い。その座を巡って暗闘が繰り返される将軍、すなわち江戸城の頂点に立つ者は、もう一つの「幻影の天守閣」と表してもよいのでしょう。

 そしてこの作品においては、上に述べた仕掛けやテーマ性だけでなく、無住心剣術を操る主人公が、次々と登場する刺客たちと展開する剣戟、つまりチャンバラシーン描写も見所の一つ。
 無住心剣術と言えば、甲野善紀先生が「剣の精神誌」で扱っておられますが、「相抜け」という独特の概念を持った流派。そのためか、どうしても哲学的で浮世離れしたイメージもある剣ですが、この作品における無住心剣術の描写は、そうした流派の特徴を抑えつつも、徹底した超実戦流派として描かれていて実に痛快であります。
 特に後半は剣戟また剣戟とチャンバラシーン満載。ラスト近くで対主人公のために集められた刺客群との連戦のシーンは、敵キャラクターの存在もなかなか面白く、名場面の一つと言えましょう。
 また主人公の兄弟子としてゲスト的に登場する小田切一雲とその弟子・真理谷円四郎の描写も面白い。特に敵の一派が道場を襲撃した際に見せる二人の剣の鮮やかさ、実戦的な行動の数々には、感心すると共に思わず敵の方に同情してしまいました。

 そんな死闘の数々を経て主人公がたどり着いたラストシーンには、一瞬「こんなのあり?」と驚かされましたが、これはこれで一つの幸せな結末なのでしょう。
 何よりも、権力という「幻影の天守閣」に主人公が背を向けることができたことを示す主人公の姿は実に清々しく、気持ちの良いものに思えたことです。

「幻影の天守閣」(上田秀人 光文社文庫) Amazon bk1


この記事に関連した本など

|

« 勧善懲悪裏稼業アクション PS2「必殺裏稼業」発表 | トップページ | 凶刃対妖刃 「シグルイ」第4巻 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/4667692

この記事へのトラックバック一覧です: 無住心剣術の剣戟を堪能 「幻影の天守閣」:

» 幻影の天守閣 [waterbird.jp]
「幻影の天守閣」へのトラックバックを受け付けました。 [続きを読む]

受信: 2005.06.23 00:08

« 勧善懲悪裏稼業アクション PS2「必殺裏稼業」発表 | トップページ | 凶刃対妖刃 「シグルイ」第4巻 »