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2005.07.05

洒脱な大江戸怪異譚 「恋ヶ淵 百夜迷宮」

恋ヶ淵 百夜迷宮
 サルベージシリーズ。札差の若旦那・松太郎、手代の竹二、対談方の侍・梅沢という松竹梅トリオが活躍する洒脱な江戸幻想譚です。
 物語としては、松太郎と竹二が、松太郎の知人で旗本殺しの濡れ衣を着せられた二八蕎麦屋の青年・幸助を救うために東奔西走するというもの。これだけだとごく普通の人情もののようですが、登場人物たちが並みでないのであります。

 松太郎は生まれながらの霊媒体質で、そこらにいる霊や妖怪が見える・憑いてくるのですが、弱ったことに、対抗手段を持っていない。そして新たに松太郎付きとなった竹二の方は、その手の連中を見ることはできないけれども、追い払うことができる体質。そしてそんな二人に渋々と手を貸す梅沢は何と…というところで、このいい意味で何とも出鱈目な三人のやりとりを見ているだけでも十分すぎるほど楽しい。
 そしてもちろん、このトリオが挑む事件であれば真っ当なものであるはずもなく、幸助が巻き込まれた事件もまた、何とも不可思議かつ艶っぽいもの。この作品のイラストは、私も大好きな「雨柳堂夢咄」などを描かれている波津彬子さんが担当されているのですが、まさにその絵柄そのままの、耽美で、そしてどこかユーモラスな世界が展開されています。

 ちなみに、時代小説で物の怪を見ることができる大店の若旦那というと、どうしてもあのシリーズが浮かんでしまいますが、私はあちらに負けず劣らず、この作品が気に入っています。
 主役三人の個性が際だっているというのが一番の理由ですが、なんといっても松太郎のキャラクターが、いかにも世慣れた江戸っ子の若旦那、という感じで気に入っています。
 特に気持ちが良いのは、幸助を救うための奉行所への付け届けに四百両もの大金を使おうという時の「真っ当な金遣いをしちゃァあたしたちは嗤われる。金を貸して嫌われるうえに、しわいのケチの金の亡者のとあざ笑われるているようじゃ、江戸っ子の意地が立たない」という台詞(そしてそれを無心されて「奢られた蕎麦一杯に四百両の返礼とは面白い」と、ポンと四百両出してみせる松太郎の父もまた凄い)。そんな骨っぽさを見せながらも、物の怪に出会うとてんでだらしないそのギャップがまた可笑しい。

 そんなわけで非常に楽しいこの作品、続編にも期待しているのですが、雑誌掲載されたものがある他は現時点では出版されていない様子なのが唯一残念なところです。


 ちなみに作者のたつみや章氏について調べていて、その経歴にひっくり返りましたよ。いやー、この作品はビーンズ文庫の方で本当に良かった。


「恋ヶ淵 百夜迷宮」(たつみや章 角川ビーンズ文庫) Amazon bk1


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