百八星ここに集う 「水滸伝」全8巻完結


この1月から8ヶ月連続刊行された「水滸伝」全8巻のコミカライズが完結しました。
水滸伝のコミカライズは、もちろんこれが初めてというわけではなく、横山光輝先生によるものをはじめとして幾つかこれまでにも刊行されていますが、これまでのものと比べて、今回刊行されたこの「水滸伝」には、特筆すべき特長があります。
これまでに描かれた「水滸伝」コミックはほとんど全て(日本で書かれた「水滸伝」小説の多くがそうであったように)、梁山泊の百八人全てが集うことなく(あるいはいつの間にか百八人集っていて)、百八星全ての顔ぶれが描かれることはなかったのですが、今作では、百八人全てがビジュアライズされ、その梁山泊参入が描かれています。
特に、端折られる率が異常に高かった、大刀関勝・双鎗将董平・没羽箭張清ら終盤参入組がきちんと登場しているのはポイントが高く(張清の最大の見せ場である単騎で梁山泊勢十数人を圧倒した活躍も再現!)、これは一つの快挙と言ってもよいでしょう。
ストーリー的には、百八星が集う原作第七十回までを中心に、招安を受ける辺りまでで完結。描写としては、日本製「水滸伝」らしく、梁山泊の連中が相当「いいもん」に描かれていており、正直、ちょっと気持ち悪さを感じないでもないですが、しかし原作には現代の日本人の目で見て相当違和感を感じる部分があるのもまた事実。そう言った点からすると、こうしたアレンジも、決して否定すべきではないでしょう。
特に、原作では後味の悪さばかりが残った生辰綱を強奪された直後の青面獣楊志の描写が、こちらでは「まさに好漢かくあるべし」というべき実に気持ちの良いものとなっており、強く印象に残りました(まあ、原作の描写も、楊志の人間の出来てなさが活写されていて、これはこれで意味深いものではあるのですが…)
ただし、良い点ばかりでもないのも、残念ながら確かな話。何よりも大きいのは、全八巻の分量で百八人全てを描き、原作の主要エピソードを網羅しようとしているため、非常に詰め込み感が強い点。特にひどいのは、中盤の宋江放浪の辺りと、後半のvs高廉~vs呼延灼辺り。どちらも印象的なキャラクターと出来事が数多く登場する部分だけに、正直に言って非常に勿体ないとしか言いようがありません(その一方で、どうでもよさげなシーンにかなりページ数が割かれている部分もあって、なかなかページ割りについては謎な部分が多い)。また、何ヶ所か、原作を読んでいないとわかりづらい省略・場面転換がされている箇所もあり、その辺りも残念なところです。
そして――確かに百八人全ては登場するのですが、一部メジャーどころを除いて、画的にキャラクターが弱い(要するに、一目では誰が誰だか判別できない人間が多数いる)というのがもう一つの大きな弱点。確かに、原作でも十把一絡げの連中も多いので、その点ではこの漫画を責めるのは些か酷ではあるかもしれませんが、しかし、巻末に付録として収録された正子公也先生の絵巻水滸伝が(原作を離れたアレンジを盛り込みつつも)、百八人のキャラクターをきちんと立てながら魅力的な画として成立させているのを見ると、もう少しやりようはあったのではないかな、という気はするのです。
などと、色々と書きましたが、やはり日本では残念ながら今ひとつマイナーな作品である「水滸伝」が、原作にかなり忠実な形で漫画化され、しかも文庫という手に取りやすい形で刊行されたというのは、一水滸伝ファンとして非常に嬉しく、かつ心強いことであります。
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