真の使い手は誰だったのか? 「秘太刀馬の骨」
今週の金曜(明日だ!)からNHKでTVドラマ化されるというので慌てて読みました。ミステリ的趣もある剣豪小説…とでも言えばよいでしょうか。いかにも藤沢周平先生らしい味わい深い作品でした。
主人公は、さる藩の近習頭取・浅沼半十郎。ある日家老から呼び出された半十郎は、秘太刀「馬の骨」なる秘剣の存在を知らされ、その使い手を探すという家老の甥・石橋銀次郎の介添人を命じられます。かつて暴走する馬の首の骨を一撃で断ったという伝説の秘太刀、その使い手と目されるのは矢野道場の高弟六人ですが、彼らは他流試合は禁止とばかりに技を見せない。そこで銀次郎は、六人それぞれの弱みを探り、それをネタに彼らを強請って立ち合いに持ち込む…というのがあらすじ。
秘太刀「馬の骨」の存在が面白いのはもちろんですが、なんと言ってもこの作品の最大の特徴は、上に書いたように、第二の主人公とも言える銀次郎が、目的達成のため人の弱みを暴いて利用してしまうという何ともダーティな行動を見せる点。半十郎同様、読者である我々も、銀次郎の行動には嫌悪感を禁じ得ないわけですが、しかしそこで描かれる剣士たちの姿がこの作品の最大の魅力でもあるのです。
登場する剣士たちの抱える弱み・秘密・悩みは人それぞれですが、その一つ一つが、現代で生きる我々にとっても、よく理解できるものばかり。彼らは、剣の達人という点では、超人的な存在ではありますが、しかし一度剣から離れればあくまでも人間であり、そこにたまらない人間臭さと、共感を感じてしまうのです。
そしてそうしたものを抱えるのは、六人の剣士のみではありません。半十郎は、子供を失ったショックで鬱になった妻を抱え、これからの夫婦生活に半ば途方に暮れた状態、権力では並ぶところのない家老も、跡継ぎに悩み若い女中に手を出す始末(これはまあ、あんまり共感できませんが)。
秘剣という超人の技と表裏一体の存在として、こうした誰でも持つ弱み・悩みが――すなわち平凡な人間の生の姿が――描かれるという物語の構成・描写が実に面白く、そしてまたその秘剣の名が「馬の骨」というのは何とも示唆的ではないかと思った次第です。
ちなみにこれはネタバレにつながるのであまり詳しくは書けませんが、ラストに登場する秘剣の使い手の正体について、ファンの間で意見が分かれているというのがなかなか面白いところ。確かに、読んだ時には私も「あれっ?」と思うような展開ではありましたが、熱心なファンの方々は、なかなか面白い論考をされているようです(ここではリンクしませんが、作品名で検索してみると色々出てきますよ)。
驚いたのは、雑誌掲載時と単行本で、使い手の正体が異なっているとのことで、果たしてそれが如何なる意図の下によるものかは、もちろん想像の域を出ませんが、私にはそれが、使い手の正体は、実は物語の最重要ファクターではないことを示しているように感じられて何とも興味深く感じられたことです。
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