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2005.08.13

正に妖怪ファン必見 「妖怪文藝<巻之壱> モノノケ大合戦」

妖怪文藝〈巻之壱〉 モノノケ大合戦
 妖怪テーマのアンソロジーを連続三ヶ月、文庫で発行という非常に意欲的かつ冒険的な企画の第一巻であります。
 この巻では、前半は「モノノケ大合戦」のタイトル通り、妖怪モノノケたちが人間と、あるいは同族(?)同士相争う内容の作品を特集し、後半は文藝上に現われたる妖怪たちの数々を集めた「文藝妖怪名鑑」という構成の、徹頭徹尾妖怪だらけの一冊。妖怪好きとしてはよくぞ! という快哉を挙げたくなる一冊となっておりました。

 前半に収められた「モノノケ大合戦」テーマの作品は全部で五編。以下、簡単に紹介いたしますと――

「月は沈みぬ――越国妖怪譚」南條範夫
 美しい人魚を巡って、前半は妖怪たちのおかしな恋のさや当てが、後半はその妖怪たちと海坊主の死闘(?)が描かれるという、まさに「モノノケ大合戦」の劈頭にふさわしい一編。ラストの味わいなど非常に寓話的ですが、それ以上に、先祖の霊威はどこへやら、人魚姫の魅力に骨抜きになった妖怪たちの姿が、妖怪ファンとしてはほろ苦くも非常に愉快に感じられました(この作品を読むと、南條先生、相当の妖怪好きだったんでは…と想像してしまいます)。

「河童将軍」村上元三
 心ならずも河童となってしまった侍崩れの男が、河童たちの頭領となり、河童の領土を侵す水虎たちと対決する羽目になるという一編。河童の生態・精神といったものを、元人間の目から客観的に描くという試みが実に面白いのですが、それと同時に、河童という非人間的である存在を通して、人間というものの本質・業を描き出すという、一種伝奇小説にも通ずる手法に感心させられました。しばしば差し挟まれる時事パロディ的なネタはさすがに時代を感じさせますが、それは些末なことでしょう。

「妖恋魔譚」藤原審爾
 人間と大蜘蛛との死闘に、異類婚姻譚を絡めた名編。神通力を持った妖怪でありながら、生物としてもリアルに描かれた大蜘蛛の活躍(?)シーンは、妖怪ファンだけでなく怪獣ファンも必見かもしれません。この作品が収められた短編集「大妖怪」は、妖怪ファンであれば必読の名作揃いですが、比較的ストレートな対決ものも少なくない作品群から、この作品が選ばれたのは、人間と妖怪の死闘の陰で描かれる哀しい男女の姿が、人間と妖怪のもう一つのつながり方として印象的であるためでありましょうか。

「狐の生肝」石川淳
 ある事件をきっかけに人間たちと対決することとなった江戸の狐たちの姿を描いた不思議なムードのこの一編、人間以上に人間臭い狐たちの評定のシーンが実に面白く、また、何だか人を食ったような味わいでいて、どこか切ない余韻を残す結末が印象的でありました。登場人(?)物たちの問答をメインに展開するこの作品、舞台で上演したらなかなか面白いものになるのでは、と個人的に感じました。

「荒譚」稲垣足穂
 タルホ作品で「稲生物怪録」に初めて触れた、という人は実はかなり多いのではないかと思いますが(かくいう私もその一人)、これもタルホ版「稲生物怪録」の一つ。前半で語られる「稲生物怪録」のエピソードを読んでいると、本当にタルホ先生はあの世界が好きなのだなあ、と愉快な気持ちになれる一編であります。しかし妖怪ファン(というより怪談ファン)的には、町のおッさん訥々と語るお化け話を描いた後半部分が印象に残りました。


 …と、この前半だけでも満足感はかなりのものですが、後半は、小説に留まらず、詩やエッセイ、能や狂言に至るまで、実にバラエティ豊かな媒体に妖怪の姿を求めた、これだけで一冊のアンソロジーにもなりそうな充実ぶり。以下、特に印象に残ったものを挙げますと

「小豆洗い」龍膽寺旻
「からかさ神」小田仁二郎
 どちらも江戸時代の怪談奇談に原典を求めた作品であり、私も原典は既読でしたが、それでも、いやそれだからこそ唸らされた作品二つ。前者は美しい文章で綴られる陰鬱な世界が、どこかユーモラスなイメージのある小豆洗いという妖怪の姿の後ろにある人間の暗い情念を淡々と抉り出していてしばらく読後にひきずるものがありました。
 一方、後者は思わぬことから空を飛び、神として祀られることとなった一本のからくさの心情(!)描写と、すっとぼけたオチの対比が、聖と俗というものの関連を思わぬ角度から描き出しているように思えました。

「すなかけばば」別役実
 メジャー妖怪でありながら、言われてみればその実体がほとんどわからない砂かけ婆を至極真面目に(?)論じた一編。いや、そりゃないだろうとこちらが目を白黒させているうちにとんでもない結論に達する文章は、一種奇術的な味わいですが、しかし冷静に見てみれば、砂かけ婆という固有の妖怪を通して、妖怪全般に対するアプローチ手法を提示しているのが実に面白い。


 以上、メジャーな作品もあれば、一般人の手にはなかなか入りがたい作品、さらには思いもよらぬ変化球ありと、妖怪ファン、妖怪馬鹿予備軍としては、非常に楽しくも嬉しい、正に必見の一冊かと思います。こういうアンソロジーが文庫で出るのだから、世の中まだまだ捨てたものではありません。

 もちろん、残る二巻も非常に楽しみではあるのですが、個人的には次巻の「響き交わす鬼」ってタイトルは本当にどうかと思いますよ。いや、単に私があの作品(TVのほう)好きじゃないだけなのかもしれませんが、なんというかこう、ねェ…


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