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2005.10.19

その熱い涙は何を語るか 「鬼一法眼 鬼刃之章」

 凄腕ながら声を失った剣客・鬼一法眼の復讐行を描いた作品の完結巻。この巻では、若年寄と大商人の癒着事件に夜鷹の女の意地が意外な展開をもたらす「白刃無情の大川端で一文夜鷹の意地を見た」、ある仇討ちを背景に男と女の複雑な色と欲が渦巻く「剣を踏む」、そしてイスパニアに渡った法眼が決闘に次ぐ決闘の果てに遂に怨敵と対峙する「ジパングの狼」の全三話が収められています。

 前巻同様、人間のどうしようもない「業」や「情」が生み出す悲劇を描いたこの巻で、特に印象に残ったのは「剣を踏む」。
 自分の仇討ちのために、自分の肉体を使って周囲の男たちを繋ぎ止め、利用する女性というのは、時代小説ではさほど珍しくないシチュエーションではありますが、この作品では、彼女をはじめとして仇を討とうとする者、仇として狙われる者、そのそれぞれの側の人間たちの生き様を、生臭すぎる部分まで含めて余すことなく提示してみせることにより、残酷で愚かしい、だからこそ読む者の胸に迫る人の姿を描き出すことに成功していると言えます。
 そしてまた、自分もまた仇討ちという大望を抱えているが故に、女の仇討ちの愚かしさを知りつつも、助太刀として、心を通わせた青年剣士と剣を交える法眼が、決闘の後に痛切な慟哭をあげる姿が、強く胸に迫ります。

 そしてラストエピソード、遂に自分自身の仇討ちを遂げた法眼が迎えるのは、読者であるこちらも思わず言葉を失う何とも残酷で皮肉な結末。
 海を越えてまで探し求めた仇の最期に流す法眼の涙の中に込められたものはなにか――考えてみるのも無駄なことではないと思います。


「怨みの刺客 鬼一法眼 鬼刃之章」(神田たけ志&五社英雄 リイド社SPポケットワイド) Amazon


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