白凰坊復活! 「修羅鏡 白凰坊伝綺帖」
朝松健が久々にジュヴナイルを、それも朝日ソノラマで書いた一冊。この朝松健待望の新作は、伝奇時代ファンにとしても、そして朝松逆宇宙ファンとしても非常に感慨深い作品となりました。
何と言ってもこの作品、「現在の」朝松健の伝奇時代小説であるとともに、実に「14年ぶりの」逆宇宙シリーズ最新刊、そして白凰坊復活の書なのですから。
逆宇宙シリーズとは、1986年(約20年前か…)開始の「逆宇宙ハンターズ」全5巻、1990年開始の「逆宇宙レイザース」全6巻を中心とする伝奇ホラーアクションシリーズ。
「逆宇宙」とは、一言で言えばこの世界(宇宙)を一つの「精神」として見た場合の「狂気」とも言うべき世界。物理法則に支配された現実世界の背後に存在する、あらゆる超自然現象や妖術魔術の源となる、混沌と狂気の世界であり、顕在的にせよ潜在的にせよ、朝松健の作品の中核に位置する概念と言えます。。
そして白凰坊、またの名を神野十三郎は、逆宇宙の力に抗い、逆宇宙を招かんとする者を狩る者でありながら、決して正義の味方などではない、善悪を超えたいわばトリックスター。浅黒い肌に純白のスーツを纏い、手には倶利迦羅龍の短刀、常に人を小馬鹿にしたようなニヤニヤ笑いを浮かべ、全ての権威権力に牙を剥くヒーローにしてアンチ・ヒーローであります。
ある時は立川流の流れを汲む邪宗・苦止縷得宗と、またある時はアジアの黒社会を支配する妖術結社・晦幇と死闘を演じてきた白凰坊がスーツを白衣と変えて今回敵とするのは、あの織田信長。
真の世界の覇者となるために奇怪な儀式を行い、「大魔主」と化した信長と配下の西洋魔術師・森蘭丸に、白凰坊が如何なる活躍を見せるか…というのが本作の趣向ということになります(と、現代が舞台のシリーズで活躍していたキャラが何で戦国時代に出てくるの、という点については、作品を実際にご覧下さい)。
正直な話、信長を魔王――比喩ではなく、本当に魔力を備えた存在――として描いた作品は、今では珍しくはないのですが、今作での信長は、その誕生の過程もさることながら、存在自体が世界を変容させ、逆しまの世界――逆宇宙を招来させるという設定が秀逸。
古今の宗教・神話・秘教的要素を混淆させ、新たな驚異・恐怖を生み出してみせるのは、作者の元より得意とするところですが、そこに世界変容の脅威を絡めてくる辺り、例えば「一休魔仏行」とも通底する中世神話的世界観・神話観も感じられて、興味深く感じられた次第です。
などといいつつも、昔からの朝松ファンとしては、やはり白凰坊が、活躍する時代こそ違え、まんまのノリで復活してくれたのが本当に嬉しいところ。「この展開は…あの術が来るな」とか「ここはやっぱりこれだろう」というこちらの期待に悉く応えてくれるかのような白凰坊の活躍は、14年間のブランクなどは全く感じさせない千両役者ぶりでありました。
そしてまた、十兵衛さんが、この世界でのあの人物役だったりと、往年のファン向けサービスも楽しい作品でした。
約一名、えらく便利に使われたキャラがいたのは気になりましたが、それはまあ置いておくとして、ここ最近の朝松時代伝奇とはまた一味違った風味で楽しませてくれたこの作品。逆宇宙シリーズを読んでいた昔の読者の方には是非読んでいただきたいですし、逆に、この作品で初めて白凰坊を知った方には、是非逆宇宙シリーズ(特に「逆宇宙レイザース」)の方も読んでいただきたいな、と思います。
そして何よりも、次の白凰坊の活躍は、あまり待たないでくれたら嬉しいな、と心より祈っている次第です。
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