「龍神剣始末帳 夜叉」 魔剣再び目覚める
天翔る龍を刀身に浮かび上がらせた瑞刀ながら、持つ者を次々と凶行に誘う血に飢えた魔剣・龍神剣の写し出す出す人間模様を描いた連作短編集第二弾。この巻では武士の夫を惨殺された妻が再び目覚めた龍神剣と出会い夜叉と化す「仇討ち無情」、前巻にも登場した尾張宗春が怨敵・吉宗を討つために凄腕の暗殺者を送り込む「将軍暗殺」、残忍非道な盗賊団の頭領に育てられた純真な青年の悲劇「魔剣純情」の全三話が収録されています。
いつものことながら安心して読める城作品、この「夜叉」も、時代エンターテイメントとして一定の水準を保っており、十分楽しめました。
持つ者を凶行に駆り立てる魔剣というのは、時代ものでは珍しいものでは全くありませんが、本来はまれに見る瑞刀でありながら、生まれ落ちる時に人の怨念を吸い、邪悪な魔剣と化したという本作の龍神剣の設定なかなかユニークではないでしょうか。
瑞刀といい、魔剣といい、作り出すのも振るうのも畢竟人間。当たり前のことでありますが、本作を読むとそれが実感されます。
と、かなりヘビーな印象もあるこのシリーズですが、決して沈鬱一辺倒にならず、時代エンターテイメントとして成立しているのは、狂言回しの二人――人が龍神剣の美しさに取り憑かれた研ぎ師の辰と、辰を追う腕利きながら運勢大凶の同心・結城半介の存在があってのこと。
龍神剣を中心に置きながら、その回りでほとんどトムとジェリー並みの追い駆けっこを繰り返す二人の姿は、二人が必死になればなるほど申し訳ないことながら逆に可笑しく、一服の清涼剤…というのは大袈裟かもしれませんが、どこかホッとさせてくれるものがあります。これもまた人間の姿か。
まだまだ龍神剣が始末されしまうには惜しいこのシリーズ。振り回される二人には悪いのですが、末永く続いていただきたいものです。
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