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2005.11.10

「秘剣乱舞 悪松・百人斬り」 感じ取れた主人公の成長


 荒ぶる示現流の豪剣士・大安寺一松の死闘も三作目。前巻ラストで暗雲が感じられたとおり、最愛の恋人が薩摩の手の者に人質に取られ、ただ一人薩摩藩邸に突入、百人もの敵を前に奮闘する一松ではありますが、衆寡敵せず、絶体絶命の危機に陥る、といういきなりクライマックス状態であります。

 結局罠にかかって捕らえられ、凄絶な私刑の前に生死の境をさまよう彼に救いの手を差し伸べたのは、前巻で関わり合いのできた水戸光圀配下の助さん角さん。常人であれば必殺の罠をかろうじてくぐり抜けた一松は、水戸の庇護の元、傷を癒しつつ再び剣を磨くというのが今回の基本的なストーリー。
 残念ながら、薩摩への逆襲は次巻以降という形になっていますが、一松が水戸徳川家と関わり合いになるきっかけとなった事件の背後に、柳沢吉保の暗躍があることも示され、一松の闘いが、単なる私闘に留まらないものとなることが予感されます。

 しかし何よりも今回の収穫は、一松の人間としての成長が、確かに感じ取れたこと。シリーズ第一巻の感想でも触れましたが、弱肉強食を地で行くような一松の生き方は、時代小説の主人公としても、一人の人間としても、どうにも共感しにくかったのが正直なところ。
 ところが――苛烈な死闘の数々を経験してきたゆえか、はたまた流浪のうちに様々な人々に触れてきたゆえか、この巻で一松が見せた言動には、これまでとは違うものが感じられました。
 例えば、旅の道連れとなった老いた女衒と、彼が連れるこれから売られていく娘たちに向ける優しい眼差し。例えば、行動を共にすることになった水戸の若侍に人を斬る覚悟を問うた言葉。そこには、単なるアウトロー、単なる無頼漢にはない、人間の深みというものが感じられました。

 ストーリーだけでなく、一松が人間としてどこに向かっていくのか。先がいよいよ楽しみになってきました。

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