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2005.11.23

「夕映えの剣」 勝者になれなかった男たちの剣


 最近、書き下ろしだけでなく旧作の文庫化などで頑張っているベスト時代文庫ですが、この短編集は十年ほど前に単行本化されたものの文庫化。しかしながら、今読んでも全く古びたところのない味わい深い作品ばかりの剣豪小説集でありました。

 収録されているのは全部で五作。犬法師丸と名乗っていた若き日の佐々木小次郎と師・富田勢源の相克を描く「旋風の剣」、血を分けた肉親でありながら兄・上泉伊勢守信綱に疎まれた上泉主水の姿を描いた「影の剣」、かの大盗石川五右衛門が、実は吉岡憲法の弟子であったという意外史「立つ波の剣」、剣に秀でたが故に流浪する小田切熊次郎(後の空鈍)と老剣士・針ヶ谷夕雲の不思議な交流の物語「浮雲の剣」、そして表題作、浪人の身から上総飯野藩の剣術指南役、そして大道場主になりながらも、幕末に会津軍に身を投じた北辰一刀流・森要蔵の一代記「夕映えの剣」と、様々な時代・流派の剣客の姿が描き出されています。

 ここで各短編で主人公を務める五人の剣客の姿を眺めると、誰一人として、いわゆる「勝ち組」(あんまり好きな言葉ではないですが)がいないことに気づきます。いわば勝者になれなかった男たちの姿を描いたとも言えるこの作品集ですが、しかし、出生や時代の変転といった、個人の思惑を超えたところにある状況に翻弄されつつも、剣を支えに生き抜いた彼らの姿からは、勝敗や善悪といったものを超えたところにある強い何かが伝わってきます。

 個人的に一番面白く感じたのは、「立つ波の剣」。物語の構成自体、石川五右衛門の子孫を名乗る怪僧・石川栄軒が、近松門左衛門に対して己の先祖の事を語るというユニークなものですが、そこで語られるのは、石川五右衛門と吉岡憲法という、同時代人でありながら一見まるで接点のないように思える人物を結びつけた、伝奇的にも実に興趣満点な内容であります。
 特に物語のクライマックス、剣法史上にも残されている、吉岡家にまつわるある事件の真相が意外な角度から描かれているのには感心しました。
 そしてまた、優れたものを持ちながらも呪われた血が凶行を招く石川家と、染物屋でありながら剣を持つ吉岡家の二つの家系の姿は、剣というもの、剣法というものが持つある側面を映し出しているように感じられたことでありました。


「夕映えの剣 日本剣客列伝」(高橋義夫 ベスト時代文庫) Amazon bk1

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