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2005.12.21

「父子十手捕物日記」シリーズ キャラの魅力が心地よい良作


 伝奇ものではないのですが、最近読んだ中でも出色の面白さを持つ同心もの、現在のところ四巻まで発売されている人気シリーズです。

 主人公は駆け出しの同心・御牧文之介。父・丈右衛門はかつて名同心と謳われた存在ですが、文之介自身は美味い物と可愛い女の子に目がないお調子者、しかも近所の悪餓鬼たちからはタメに思われてしょちゅうからかわれているという、ちょっと締まらない人物で、幼なじみで忠実な中間である勇七はいつも頭を抱えている有様です。が、一方でそれは明るく、親しみやすい人物であることの裏返し。
 犯罪の犠牲者のために心から涙を流し、心ならずも犯罪に手を染める子供たちの身を真剣に案じる、そんな青臭くも気持ちのよい好漢です。
 そんな文之介が、様々な難事件に立ち向かいながら少しずつ成長していくというのがこのシリーズ。偉大な父にコンプレックスを感じつつも、自分にできるやり方で少しずつ成長していこうとする文之介の姿は、微笑ましくも、読んでいるこちらも勇気づけられるものがあります。

 剣豪ミステリを得意とする鈴木先生にしては謎解き要素は薄め、剣戟シーンもさほど多くはないこのシリーズですが、鈴木作品のもう一つの特長であるキャラ立てのうまさは健在。
 主人公の文之介はもちろんとして、頼もしい相棒の勇七も、苦み走ったいい男でありながら、女性の趣味は…という愉快なキャラ、さらに普段はひたすら文之介に忠実に仕えながらも、彼がいじけたり、曲がった言動を見せた際には上下の別を忘れて遠慮無くぶちのめす(各巻に一回は出てくるお約束シーン)という熱い人物で実に楽しい。
 頭脳の冴えは未だ衰えずの丈右衛門も、ある事件がきっかけで知り合った美しい寡婦によろめきまくりという可笑しさもあり、また丈之介とは互いに惹かれ合いながらも素直になれないヒロイン・お春、そして丈之介を一途に慕いながらもビジュアル的な理由(ヒント:外谷さん並み)から避けられまくるお克と、レギュラーは、どこか漫画チックながらも明るく親しみの持てるキャラクターばかりなのが嬉しくも心地よく感じられることです。
 特におかしいのはお克さん回りの人間関係。丈之介にアタックをかけまくるお克さんですが、丈之介にはその気は全くなし、しかし勇七はそのお克にメロメロで…という、当事者たちにとっては悲劇、読んでいるこちらにとっては喜劇という、フクザツな関係の描写が、お約束ながら何とも楽しいのです。

 最新刊の「蒼い月」では、そのお克さんがありえない大変身を遂げたりして、この先もますますややこしく、面白いことになりそうなこのシリーズ。肩の凝らない娯楽読み物の良作として、この先も末永く続いて欲しいな、と思う次第です。


「蒼い月 父子十手捕物日記」(鈴木英治 徳間文庫) Amazon bk1

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