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2005.12.14

「海賊奉行」 武芸者、南支那海に翔る


 実は武芸者の小伝のようなものを読むのが昔から好きで、時間があればちょいちょいと拾い読みしているのですが、「気になる武芸者」というのが何人かいます。いずれも万人が知っているような存在ではないですが、その事績や言動、遺した流派がユニークであったりする人物が特に気になるのですが、そのうちの一人が小笠原玄信斎、すなわち本書「海賊奉行」の主人公です。

 小笠原玄信斎は、高天神城主の小笠原家の血縁と伝えられ、奥山休賀斎に神影流を学び、また後に中国大陸に渡り、そこで張良の末孫を名乗る人物から戈の術を学び、それを剣法に応用した「八寸の延金」という術を編み出したという人物。
 正統な剣法を修めつつも、中国武術を採り入れて更なる技を編み出すというところが面白く感じられて、印象に残っていたのですが、さてその玄信斎をこの作品ではどのように描いているかと言えば…

 この作品は、関ヶ原の戦直後の時代が舞台。己の武術に倦み、山に一人隠っていた玄信斎が、長崎奉行である叔父に呼び出されるところから始まります。その叔父から、長崎で明の海賊が跳梁していること、さらに関ヶ原の西軍の残党がフィリピン・マニラに渡り、そこで再起を目論んでいることを告げられた玄信斎は、海賊奉行なる役目を押しつけられて、長崎、そして遥か南支那海にまで旅立つことになる、というお話。

 個人としては優れた力を持った人物が、お偉いさんにいいように使われて東奔西走するというのは、「御隠居忍法」にも見られる高橋義夫先生お得意のパターンと言えなくもないですが、この作品では、それ以上に、己の命を的にしながらも、まだ見ぬ武術、まだ見ぬ強敵に心躍らせてしまう玄信斎の武芸者としての本能が描かれることで、そうした受動的立場を超えた玄信斎の主体性が見えるのが、エンターテイメントとして安心できます。

 とはいえ、難しいことは抜きにして、玄信斎の波瀾万丈の大冒険に手に汗握るのが本書の正しい楽しみ方。本書の後記で作者自らが、海洋冒険活劇小説を企てたと述べているように、時代小説では珍しい…とは言わぬまでもさほど多いわけでもない海洋冒険ものとして、素直に楽しむのが良いのでしょう。


 と、これからは半可通の感想ですが、唯一本書で残念だったのは、冒頭に書いた「八寸の延金」開眼まで辿り着かなかったこと。ものの本によれば、玄信斎が大陸に渡り、かの術に開眼したのは大坂の陣後とのことですので、あるいは続編の構想があるのかもしれません。


「海賊奉行」(高橋義夫 文春文庫) Amazon bk1

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