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2005.12.17

「蘭学剣法 影町奉行所疾風組」 敵は天保の妖怪


 天保時代を舞台とした必殺(というよりこの場合は「影同心」かな。敵味方逆ですが)的味わいのシリーズ第一弾。江戸町第三の奉行所・影町奉行所の中でも法で裁けぬ悪を討つ疾風組の活躍を描いた作品。本作「蘭学剣法」は、タイトル通り蘭学にまつわる悪の蠢動を描いた作品。天保で蘭学といえば、そう、教科書にも出ている蛮社の獄が連想されるかと思いますが、その蛮社の獄を背景に、巨悪と影町奉行所の戦いが描かれます。

 第一作目ということもあってか、主人公となるのは影町奉行所とは(当初)無関係の旗本の三男坊・一条理一郎。蘭学を志す彼と、その恋人で生来青い目を持つ大廻船問屋の娘・お蝶が参加したのは、かの渡辺崋山や高野長英がメンバーとなっていた尚歯会。身分を問わず、蘭学に興味を持つ人々が集まった研究会・同好会というべき尚歯会ですが、そこに弾圧を加えるのが、史実通り天保の妖怪・鳥居耀蔵であります。

 この時代の時代小説で悪の権力者といったらこの人、という感がある鳥居耀蔵ですが、この作品での耀蔵は、己の信奉する朱子学の理想に凝り固まった一種の偏執狂的人物。その彼が、自身が理想とする国家を生み出すための更なる権力として目を付けたのが、江戸の影を統べる影町奉行所というわけで、第一作目からいきなり影町奉行所は存亡の危機に瀕することになります。
 そして、さらに己の力を増すため鳥居が組んだ相手は、陰で悪事を働き放題の廻船問屋。その廻船問屋が乗っ取りを企んだのが、お蝶の実家という展開で、仲間を、師を、親兄弟を失った主人公カップルが、いかに影町奉行所と共に悪と戦うか? というのが本書のストーリーとなります。

 一口に言ってしまえば、必殺ものとしては少しだけ変化球かな、という印象のこの作品。蛮社の獄という史実と絡めることにより、物語の設定・展開にそれなりの厚みが出ていると言えますが、その一方で、許せぬ悪を成敗するはずのチームが最初からその悪に狙いをつけられるのは、物語の爽快感という点からはマイナスかな、と正直なところ思います。
 また、これは冒頭でヒロインを襲う運命が、物語の展開上一応必要とはいえあまりに悪趣味なもので、その点でもあまりスカッとしないものが個人的にはありました。

 とはいえ、まだまだシリーズは開幕編。つい先頃シリーズ第二弾「虹の職人」も刊行されたことですし、天保の妖怪という敵にするには不足のない存在を向こうに回して、如何に影町奉行所の面々が自分たちの正義を貫いていくか、気になるところではあります。


「蘭学剣法 影町奉行所疾風組」(中里融司 廣済堂文庫) Amazon bk1

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