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2005.12.06

「吉原螢珠天神」 天才エンターテイメント作家の初時代小説

 ちょっと恥ずかしい告白になりますが…僕にとって、SFの代名詞が「山田正紀」だった時期が確かにありました。ありました、というのは別にいま氏がそうでない、ということではなくて、単に僕がいまSFを読んでいないだけなんですが、それはともかくとして、とにかく僕が山田正紀というSF作家に絶大な信頼を置いていたことだけは間違いありません。
 意表をついた、そしてセンスオブワンダー(って死語かしらん)に満ちたアイディア、それを包み込んで小説としてきっちりと成立させるエンターテイメント性、そして作品を貫く人間への、人間性への優しい眼差しと、それを傷つけようとするものへの怒り――いずれも僕にとっては非常に好ましく感じられるものであります。

 と、そんな山田正紀氏が書くのが、SFのみではないと知ったのがこの作品集。家康の江戸入りの頃、隅田川に出没する妖怪変化と戦う羽目となった野心家の侍を描く「あやかし」、朝鮮出兵の地獄から帰還して以来キムチ漬けに取り憑かれた侍の物語「辛うござる」、そして表題作、元御庭番の殺し屋が、家康の亡魂が乗り移ったという不可思議な玉を護る謎の黒衣衆と死闘を繰り広げる名作「吉原螢珠天神」…あ、最後の作品は、「SFマガジン」に発表された時代SFではありますが、とにかく氏が、時代小説においても一流の書き手であって――何よりも嬉しいことに、先に述べた氏の作品の好ましい点が、全く変わらずに残っているということを知り、初読の際はやたらと嬉しかったことを覚えています。

 と、そんなイタイタしい個人の感傷は抜きにして、いま読み返しても実に面白いこの作品集、特に表題作。殺し屋(仕事人でも仕掛人でもよろしい)テーマのアクション時代小説としても面白いのですが、重要な登場人物として浅草弾左衛門(実は正体は時代劇でもおなじみのあの人物!)を配置することにより、単純な娯楽作品に終わらない味わいを生んでいますし、何よりもやはり、結末近くで明かされる玉の正体が意表をついていて面白い。むしろ同じ姓の別の作家の作品を思わせるオチも含めて、少々力業に過ぎる観もあるこの玉の存在ですが、しかし普通の時代小説に見えたものが突然ラストでSFの地平に飛翔するのは、いかにも「SFマガジン」の時代SFらしくて、僕は好きだなあ。
 …そしてこれが氏にとって初の時代小説であったと知り、大いに驚かされた次第です。

 と、今回はちょっと個人の思い入れ先行で書いてしまいましたが、時代SFや伝奇時代劇が好きな方にはこの作品集、ぜひ読んでいただきたい…のですが、集英社から出版されていた単行本(この時のタイトルは「あやかし」)、文庫ともに現在は入手困難。うち、「あやかし」は、最近、双葉文庫のアンソロジー「妖異七奇談」に収録されましたが、その他の作品が読めないのはいかにも勿体ない…と思って検索をかけてみたら、なんとe-novelsをはじめとして色々な電子書籍で読むことが可能になっていました。いい時代になったものですね。

 氏の時代小説についてはまだまだ書きたい作品が何作もあるので、今後また色々と採り上げていくかと思います。


「吉原螢珠天神」(山田正紀 集英社文庫) Amazon bk1

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