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2005.12.25

「手習重兵衛 闇討ち斬」 謎の剣士は熱血先生?


 先日紹介した「読んで悔いなし!平成時代小説」で採り上げられているのを見て以来気になっていたこのシリーズ、ようやく第一巻を読むことが出来ましたが、なるほど、実に面白く気持ちのよい時代活劇ミステリーでありました。

 主人公はちと訳ありで国元を出奔してきた青年・興津重兵衛。放浪の果てに行き倒れた彼は、白金村で手習所を営む男・宗太夫に拾われ、そのまま居候になりますが、ある日その宗太夫が何者かに襲われ、背中から一突きに殺されるという事件が起きます。それと時を前後して、さる藩の目付・鳴瀬左馬助は国元から父殺しの犯人を追って江戸に到着。師匠殺しの犯人を追う重兵衛と、父殺しの犯人を追う左馬助、二人の追う事件は意外な交錯を見せ、事件の背後にある真実を浮かび上がらせる…というのが本作のあらすじ。

 さて、本作の魅力・面白さについて考えたとき、第一に浮かぶのは主人公・重兵衛をはじめとするキャラクター造形のうまさでしょう。
 何と言ってもこの重兵衛、「好漢」という言葉がこれほど似合う男もない、というほどの気持ちのいい青年。心優しく折り目正しく、爽やかな美青年でもちろん剣の腕も立つ。もちろん、これだけいい点ばかり揃ったキャラクターはややもすればいやみになりかねませんし、何よりも時代小説には珍しくもないのですが、ここで良いスパイスとなっているのが、手習所の子供たちとの交流。師匠の突然の死で、半ば本意でない形で手習所を継ぐ形となった重兵衛ですが、ここでも彼はその好青年ぶりを発揮、やんちゃ盛りの子供たちと熱血先生、という趣で、子供たちとの授業風景が微笑ましくも心温まるものがあります。
 そしてまた、脇を固めるキャラクターも面白い。本作のもう一人の主人公とも言うべき左馬助もまた、重兵衛に負けず劣らずの好漢。剣の恩師父娘との交流というサブストーリーも微笑ましく、特にラスト近くでの師匠からの粋な餞別には思わずニヤリとさせられました。
そしてもう一人、重兵衛・左馬助と一種のトリオを組むのが、酒に目がない同心の河上惣三郎。宗太夫殺しの事件をきっかけに、二人と知り合うこの同心は、やる気はないは大口は叩くは昼酒は飲むはとかなりダメ人間ですが、それでも憎めないおかしさのある名コメディリリーフといったところでしょうか。

 こうした登場人物のやりとりを見ているだけでも楽しい本作ですが、しかしもちろんキャラの魅力だけに頼った作品ではありません。鈴木作品の二本柱である「ミステリ」と「剣戟」は本作でも健在です。
 前者については、ミステリメインの作品ではないものの「そうくるか!」的ひねりを効かせた謎の配置の仕方がいつもの事ながら面白く、重兵衛の事件と左馬助の事件の意外な関わり、そして遣い手でありながら背後から一突きで殺してのける(まさに「闇討ち斬」)謎の敵の正体など、よいアクセントとなって最後まで楽しむことができました。
 その一方で、主人公である重兵衛自身のキャラクターもまだ謎めいているのが興味をそそるところ。国元で濡れ衣を着せられ、追われるうちに親友を殺めてしまったという過去を持つ重兵衛ですが、その過去にもまだまだ謎と秘密が隠されている様子で、これは今後の楽しみということでしょう。
 また、剣戟についても、回数はさほど多くないものの、要所要所で緊迫感ある剣戟が描かれ、チャンバラファンとしても十分楽しむことができました。特に、ラストの左馬助・重兵衛vs謎の刺客の死闘は、上記の通り敵の正体にも一ひねりあって、満足できました。

 このシリーズ、全六巻ということでまだまだ物語は始まったばかり。この巻で描かれた「闇討ち斬」の事件については、きちんと解決しますが、まだまだ重兵衛自身の謎は未解決。これから先、どのような謎と剣戟が描かれるのか、残りを読むのが楽しみです。


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