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2005.12.12

「SUN-山田浅右衛門-」 心優しき斬首人の物語


 四代山田浅右衛門吉寛を主人公とした少女漫画(!)であります。
 はじめ本屋さんで本のタイトルを見たときには、失礼ながら何かの間違いかと思ってしまいましたが、手に取ってみればなかなかに味わい深い佳品でありました。

 山田浅右衛門と言えば、時代小説・時代劇にもしばしばとりあげられる有名人。徳川将軍家の刀の様斬を務めた浪人(なんですよ。時々誤解されますが)であり、町方の依頼で罪人の首斬りも行ったため、「首斬り浅右衛門」という異名を奉られた方(々)です。
 浅右衛門の名は代々受け継がれ、冒頭に書いたように本作の主人公は四代目吉寛でありますが、しかしまだうら若き美青年である彼は、罪人や刑死体を斬るという「家業」に激しい心の痛みを感じ、人を斬る度に咳き込み、血を吐いてしまう一種の神経症を患っている状態。
 そんな彼が、どのように生き、どのように自分の運命と向き合っていくのかというドラマを、彼を取り巻く人々との交流を描いたのが本作であります。

 基本設定が重い分、登場するレギュラーキャラには面白い人物が多く、
・三代浅右衛門の門弟で吉寛の兄代わりである鉄次(この人はちょっと重いキャラ)
・彼を一途に慕う元気な茶店の娘・おしず
・様斬の縁で彼とは幼なじみ状態、暇さえあれば彼のもとに押しかけてくる若き日の徳川家治(ってあなた)
・生真面目で使命感に燃える医師だが血に弱い杉田玄白
・自分の化粧品の効果を実証するために吉原で花魁に化けたり、吉寛を家業から解放したい一心でギロチンもどきを発明したりある意味最強キャラの平賀源内
などなど、個性的なキャラクターが次々と登場します。

 もちろん、主人公の家業が家業だけに重たいエピソードも多いのですが(何せ第一話からして、吉寛に恋する不幸な境遇の少女が、彼に会いたい一心で火付けをして…という救いのなさ)、常に生と死というものに接する位置にあった彼の生き様を描くことは、そのまま江戸に生き、死ぬ人々の生き様を描くことでもあり、暗さ、苦しさと同時に、暖かさ、力強さ――それこそ太陽のように――があるように感じられます。

 そんな中の個人的なベストエピソードは、将軍家重とその子であり次期将軍たる家治の物語「君萬歳」。
 普段は吉寛の身を案じつつも脳天気に彼にまとわりつく家治も、しかし吉寛同様、重い「家業」を継がねばならぬ身。しかも彼の父・家重は言葉が不自由であり、息子との意思疎通もままならぬという状態にあります(史実)。その父が、子に与えた一振りの刀。銘を消され、「君萬歳」とのみ刀身に刻まれた刀に込められた思いは…
 親から子へ、そのまた子へ。それぞれに重たいものを背負いながらも、それぞれの形で幸せを探していく人間に向けられるこの物語の優しい眼差しには、心温まるものがありました。

 …そして、そんな幾多のエピソードを積み重ねて辿り着いたラストエピソード。その中で吉寛が手にしたもの、選んだ道は、現代人から見ると倫理的に「ええっ」という印象もありますが、それは当時の時代背景からすれば許容範囲ではありますし、何よりも、自分を案ずる者の意を汲み、そのような手段に頼っても(そしてそれは直接的な意味で自分の職業を受け入れることにもつながります)前を向いて生きていこうとする吉寛の覚悟の顕れとして尊重すべきものでしょう。

 そのように吉寛が一歩踏み出したところで第一部完となったこの作品ですが、まだ決着がついていない因縁もあり、やはり物語の続きを読んでみたいと強く感じる次第です。


 最後に台無しな豆知識。「無限の住人」で不死化実験を手伝っていた怪オヤジと、この作品の主人公は同一人物。
 薬が効きすぎたのか、すっかり立派になって…!

 いや全く、「明楽と孫蔵」の伝説の変態公家と「青竜の神話」のシャピロ・キーツチックな兄ちゃんが、同じ岩倉具視ってのと同じくらいショッキングな事実(?)であります。


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