« 八犬伝特集その七 「魔空八犬伝」 | トップページ | 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 さすがに紅虎は泣きすぎと思った »

2006.01.19

「にんにん物語 忍者無芸帳」 情けなくも無邪気な忍者たちを愛せよ


 気がつけば既に十数冊刊行されている双葉文庫の「ひさいち文庫」シリーズですが、以前に発売された「眠れる森の忍者」に続き、「忍者無芸帳」第二弾として「にんにん物語」が発売されました。
 いしいひさいちファンの方であればよくご存じと思いますが、多岐にわたるいしいひさいち作品の中で、決して小さくない割合を占めるのが時代もの――なかんずく忍者ネタでありまして、「忍者無芸帳」はその総称ということになるでしょうか。
 この「にんにん物語」には、全123本の忍者ネタ、時代劇ネタの四コマ漫画が収録されていますが、そのいずれも、時代劇ファンなら「あるある」「わかるわかる」とニンマリしそうなものばかり。天井裏の曲者ネタ(「むっ、曲者」と天井裏に槍をブスッというあれですな)などをはじめとして、時代劇を見ていれば一度は目にするお馴染みのシチュエーションを、何とも情けなくも愛らしい忍者たちが徹底的にパロディにしてみせる――それも本人たちは必死なのがまた可笑しい――のが、本当に楽しい一冊です。

 個人的に、元ネタに対する「毒」と「愛」はいしいひさいち漫画の二大要素と感じていますが、この「忍者無芸帳」シリーズは、特に「愛」の側面が強く出ているな、というのが私の印象。時代ものゆえに風刺という「毒」を混ぜにくいというのもあるとは思いますが(いや、このシリーズの存在自体が時代ものへの風刺ではありますが)、それ以上に時代ものへの作者の「愛」が、どの作品からも強く伝わってきます。
 このシリーズに登場する忍者たちは、忍者とは言いながら、みな実にセコくて間が抜けていて、しかし無邪気な連中。そんな何とも憎めない忍者たちの姿には、よく見てみれば「バイトくん」シリーズの、本当に情けないんだけど何だか凄く共感できるビンボー学生たちの姿とダブって見えてくるものがあります。
 そんな、しょーもない連中の生き様への優しい眼差しが、ここにはある…というと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、時代もの・忍者もののパロディ漫画は様々な漫画家が描いている中で、このシリーズは他の作品とはまた別の――一種心地よく、暖かい――味わいがあるのは、紛れもない真実であります。

 話をこの「にんにん物語」に戻せば、収録作品は「忍者無芸帖」「新忍者無芸帖」「ドーナツブックス」等に収録されたものからのチョイス。そのため、これらの作品集を既読の人間(私わたし)にとってみれば、正直なところ見たことのある作品がほとんどではあるのですが、これらが現在結構入手困難になっている現状を考えれば、こうした形で傑作選が出るのはまことに結構な話ではないでしょうか。少なくとも、今まで「忍者無芸帖」シリーズに触れたことがない方にとっては、格好の入門編であることは間違いありません。


 …そういえば、昔は「忍者無芸帖」なのに、今は「忍者無芸帳」なのですね。


「にんにん物語 忍者無芸帳 」(いしいひさいち 双葉文庫) Amazon bk1

|

« 八犬伝特集その七 「魔空八犬伝」 | トップページ | 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 さすがに紅虎は泣きすぎと思った »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/8227249

この記事へのトラックバック一覧です: 「にんにん物語 忍者無芸帳」 情けなくも無邪気な忍者たちを愛せよ:

« 八犬伝特集その七 「魔空八犬伝」 | トップページ | 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 さすがに紅虎は泣きすぎと思った »