「楓の剣!」 ライトノベル界に女剣士見参!
第5回富士見ヤングミステリー大賞佳作の本作は、ライトノベルの世界ではまだまだ珍しい時代もの。主人公は大身旗本の姫ながら男装の女武芸者・榊原楓。父の転勤(という表現も何ですが)に従い江戸を離れていた彼女が、三年ぶりに江戸に帰ってきたところから物語は始まります。
折しも江戸では、わらべ唄とともに怪火が起こるという「わらべ唄火事」なる怪事が連続。その陰に自分の三年前の悲しい記憶に触れるものを感じた彼女は、許嫁で喧嘩友達の弥比古や菓子屋の若旦那・嘉一と共に事件の謎に挑む…というお話。
ミステリとは言い条、怪事件の陰に合理的なトリック等があるわけでもなく(うわ、何という即物的な判断基準だ)、また誰が黒幕であるか、登場した瞬間にわかってしまうなど、ミステリとしていかがなものかという印象は強くありますが、なぜ黒幕がそのような行動をとったのか、という点には一ひねりあってなかなか楽しめました(一応説明はあるものの、なぜ今頃?という印象はありますが)。
一方、時代小説として見た場合、普段あまり時代考証を気にしない私が見ても、これはどうなのかな…という点がなきにしもあらずでしたが、しかし若い衆にはとかく敬遠されがちな時代ものを、親しみやすく翻訳してみせたと思えばまあいいのかな、と思います。
ただ、冒頭で「半日閑話」の中でも短いながら不気味な物語の一つ、溺死体落下話を引用していていたので期待したのですが、作中の話の呼び水程度にしか使われなかったのは残念でした…って、怪談バカの勝手な感想は置いておいて。
正直な話、主役のWツンデレバカップルよりも、軟弱な若旦那に見せかけて実は…という嘉一とお供の少女・羽瑠のキャラの方が主人公向きではないかなあと個人的には思いますが、文章や物語運びなどはかなりこなれていますし、時代劇の大ファンと思しき作者には、この先も――もちろん時代もので――頑張っていただきたいと大いに期待するところです。本作の続編も歓迎ですよ。
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