« 「書院番殺法帖」 主役設定の妙が光る | トップページ | 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 炸裂サムライブロー »

2006.02.10

「鴉婆 土御門家・陰陽事件簿」 進む道は違えども、挑むは同じ…


 土御門家・陰陽事件簿の第二弾は、大黒党なる陰陽師集団が登場し、波乱含みの展開。
 江戸幕府の庇護の下、全国の陰陽師を体制下に組み入れたかに見える土御門家ですが、その支配を快く思わない陰陽師集団が大黒党。ついには土御門家当主へのテロに走った大黒党の刺客を斬った主人公・笠松平九郎ですが、斬った相手にはあと三人の兄弟がいて…と、市井の事件に加えて大黒党の報復の刃にも目を光らせることになった、というのが今回の基本設定。

 もちろん、基本は陰陽師の視点を通して市井の人間の心の襞を描いたこのシリーズ、突然土御門家vs大黒党の術合戦、剣戟合戦になったりはしないことは言うまでもない話。また、土御門家に反発しているとはいえ、大黒党もまた、人の心の悩みを癒し・救う陰陽師であり、人々を苦しめる許せぬ悪には、平九郎同様、怒りを燃やし、仕置きすることに躊躇うものではありません。
 そんなわけで、本作は平九郎と大黒党の里村三兄弟が、時に対立しつつ、時には協力しつつ、市井の人々の心を悩ます様々な闇に対決を挑むというスタイルになります。

 物語を構成する要素が増えただけに、ややもすると、それぞれの要素が消化不良になりかねないこの展開ですが、しかし本作においてはそれは全くの杞憂。主人公の平九郎と対立する存在が現れたことにより、物語と、そして何よりも平九郎自身のキャラクターに、より一層の深みが生まれたと感じられます。

 と、その一方で、本作を何とも楽しく、味わい深いものとしているのが、タイトルにもなっている「鴉婆」こと、大黒党兄弟の母・お勝婆さんの存在。
 最初は自分の息子を討った平九郎を討つため、素性を隠して近づくお勝さんですが、平九郎のあまりに人を疑うことを知らない優しさと思いやりに触れて復讐を思いとどまることに。元々、夫同様大黒党が土御門家と対立することに反対していたお勝さんは、平九郎の存在に、土御門家と大黒党の架け橋となる希望を見出して、やがては平九郎の理解者かつ頼もしい味方として活躍する、という次第なのですが、このお勝婆さんのキャラクターが何とも良いのです。

 気に入らぬことがあれば、大の男を口で言い負かす…どころかぶん殴りかねない強烈さを持ちつつも、豊かな教養と、強い正義感、そして恩人のためならば自らの命を投げ出しても悔いないほどの人情の篤さを見せるという、実に気持ちの良い人物。さらに、歳はとっても女性として可愛らしい面を見せたり、かと思えば酒に関してはうわばみ並みだったりと、何とも「おいしい」キャラクターであります。
 彼女がいなければ、本作の雰囲気も、展開もまず間違いなく変わっていたでありましょうし、本作のヒロインはまず間違いなくこのお方、と言い切ることができます。

 物語そのものの魅力はいわずもがな、主人公や脇役たちの個性もいよいよ引き立ってきたこのシリーズ、第一作を読んだときにはここまで楽しい作品になるとは思ってなかった、というのが正直なところですが、何はともあれ、既に刊行されているシリーズ第三作を読むのがいよいよ楽しみになってきました。こりゃ文庫化を待っていられないかな。


「鴉婆 土御門家・陰陽事件簿」(澤田ふじ子 光文社文庫) Amazon bk1


関連記事
 「大盗の夜 土御門家・陰陽事件簿」 陰陽師、江戸の世をゆく

|

« 「書院番殺法帖」 主役設定の妙が光る | トップページ | 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 炸裂サムライブロー »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/8587478

この記事へのトラックバック一覧です: 「鴉婆 土御門家・陰陽事件簿」 進む道は違えども、挑むは同じ…:

« 「書院番殺法帖」 主役設定の妙が光る | トップページ | 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 炸裂サムライブロー »