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2006.02.06

「菅原幻斎怪異事件控」 水面に映る彼岸の影


 江戸に暮らす拝み屋・菅原幻斎が、様々な怨霊・変化が引き起こす事件と対峙する連作怪奇短編集です。
 主人公幻斎は、その名字が示すとおり菅原道真公の血を引く霊能力者ですが、しかしいかにも伝奇チックな設定と裏腹に、自身はくたびれた初老の男。その幻斎が住処の近くを流れる川面に不思議な影を感じ取ったときが、奇怪な事件の前触れであり――望むと望まざるとに関わらず、事件の渦中に彼も巻き込まれていく、というのが毎回のパターン。

 と書くと、いわゆるゴーストハンターもの的な活劇ムードを想像されるかもしれませんが、本編から受ける印象は、どこかのどかであると同時にどぎつく、そしてまた陰鬱なもの。これに近いムードのものを探せば、江戸時代の怪談・諸国奇談が挙げられるでしょうか(もっとも、本作に登場する事件・怪奇現象は、いずれもまさに江戸時代の怪談・奇談を含めた古典から引かれているものなので、当たり前といえば当たり前の話なのですが)。

 しかしながら本作、物語の構造としては、それら先行する怪談・奇談と大きく異なってると言えます。そうした作品の主人公・語り手のほとんどが、ごく普通の人間であり、自らや周囲が体験した怪異に怯えるばかりなのに対して、幻斎は霊能力者。言ってみれば、此岸に立ちながらも、同時に彼岸の者の声を聞き、彼岸の者の目で此岸を見ることができるのです。
 つまりは、同じ(ような)事件を扱いながらも、本作では、原典よりも複層的で、多角的な視点からそれを描き出しているのです。

 正直なところ、私は霊能力者を主人公とした物語があまり好きではありません。一般にそうした物語は、主人公がその異能ゆえに、普通の人間であれば当然感じるであろう恐怖心に薄く、その怪異の存在に疑問を持たないという点が物語の興趣を殺いでいるように感じられるのです(あくまでも個人の印象ですよ)。
 その点からすれば、本作はまさに「そうした物語」ではあるのですが、しかし上で述べたように、そのような主人公だからこそ、彼岸から見た此岸の姿に目を向け、その怪異の根本にある人間というものの真実を浮き彫りにすることができるという視点には、なかなか感心させられました。

 すごく面白いか、と聞かれると素直に応とは言いかねるのですが(それはあくまでも上記の僕の個人的な趣味によるのだと思いますが)、しかし何だか不思議と心に残る読後感が印象的なこの作品。続編も最近発売されましたので、こちらも読んでみようと思っているところです。


「菅原幻斎怪異事件控」(喜安幸夫 徳間文庫) Amazon bk1

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