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2006.03.11

「抜け荷百万石」 雄藩を結ぶ黒い糸


 幕末直前の時期に、巨大な抜け荷の陰謀に挑む公儀隠密の姿を描いた南原幹雄先生の伝奇もの。
 南原先生は、何作か経済伝奇ものとも言うべき、大商人の経済活動と政治権力の闇の繋がりを描いた作品がありますが、本作もその一つ。また、隠密である主人公たちが所属するのは、これまた南原作品ではお馴染みの秘密捜査機関・中町奉行所なのも楽しいところです。

 物語は、時の長崎奉行が、長崎貿易会所(幕府の長崎での貿易管理所)の膨大な赤字の責を負って自ら腹を切るシーンから始まります。幕府が一手に握っているはずの対外貿易でこれほどの赤字が出るということは、その裏をかいて抜け荷を行っている者がいるはず――と、捜査に送り込まれたのは中町奉行所の腕利き・神楽八郎太と小金井兵馬。抜け荷の謎を追う二人は、薩摩が対中国輸出品目である俵物(煎海鼠・_干鮑・フカヒレなどの海産物)を大量に抜け荷し、そのため幕府には劣悪な質の俵物しか手に入らず、それが赤字につながっていることを掴みます。
 しかし、俵物の産地は遠く松前。薩摩が松前の海産物を仕入れることは困難極まりなく、その間にはもう一つ、何者かが潜んでいるはず。果たしてその正体は…
 って、タイトルでバレバレではあるのですが、時代小説では常に幕府の敵として登場する薩摩と、天下一の大藩でありながら、極めて幕府に従順であり、陰謀の影とは無縁にも思えるあの藩を結びつけて見せたのはまさにコロンブスの卵。作中の人物たちも、二つの雄藩の意外なつながりに、思わず自分の考えを疑ってしまうシーンがありますが、読者であるこちらも最初は驚き不思議に思い、次いで、そうかその手があったかと唸らされました。

 もっとも、この意外な会盟の始末については、(途中かなり盛り上げていたわりには)少々味気なかったのですが、これはまあ史実の壁ということでしょう。
 個人的には、探索の手がかりを全て失い、万策尽きたかに見えた状況を打ち破ったのが、陰謀の犠牲となった弱き者の恨みの力だったというのは、かなり好みの展開でありました。主人公たちの苦闘を目にしてきただけに、クライマックスはなかなか爽快でありましたよ。


 …ところで、登場人物の台詞回しが妙に説明口調なのがかなり気になったのですが、南原先生ってこういう文体だったかしら?


「抜け荷百万石」(南原幹雄 新潮文庫) Amazon bk1


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