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2006.03.05

「人間勝負」 命を的の人間力勝負


 互いに殺し合うことを課せられた十人の男女が秘宝を巡って争奪戦を展開する、サスペンス色の強い柴錬伝奇。主人公は、凄腕ながらも世をすねた訳ありの無頼浪人というお馴染みのパターンではありますが、しかし物語の主眼はヒーローの活躍というよりもむしろ、群像劇としての色彩が非常に強い作品となっています。

 本作は、出だしからして非常にミステリアス。浪人・旗本の三男坊・忍者・大商人・盗人という五人の男、そして、深窓の令嬢・切支丹の遊女・舞子・くノ一・女掏摸という五人の女という、生まれも育ちも全く異なる人々が、謎の老人・空知庵により集められる所から物語は始まります。
 実は海賊として海外で暴れ回っていたという空知庵は、自分が二十年蓄え、琉球に隠した財宝を江戸まで持って帰ってきて欲しいと十人の男女に語ります。しかし、財宝を持って帰ることを許されるのは男女一名ずつ、しかも琉球に着くまでにその二人が夫婦になっていなければならないという意外の条件つきで。

 かくして、奇怪なバトルロワイヤルの旅に放り込まれた男たち女たちの人間模様がスタートするわけですが、待ち受けるのは莫大な財宝、そして男女が互いに結ばれなければならないとくれば、そこに巻き起こるのは色と欲の絡んだ死闘の数々。単なる知力や体力、戦闘力だけでなく、人間力が勝る者が勝つという、全くもって見事な、そして残酷なゲームのルールを考えるものです(柴錬作品にはこうしたゲーム的展開の作品はさほど無いような気がしますので、その点でも新鮮であります)。

 それだけでも十分に混沌とした情勢ですが、そこに柳生但馬守、土井大炊守、長曾我部家の残党、天草の乱の残党等々、様々な勢力が絡んでくるのがややこしくも面白いところ。そしてまた、主役たる男女たちにもそれぞれ意外の素顔があり、物語の全ての要素が絡まって一つの目的に収斂していく様は、まさに伝奇小説の醍醐味といえるでしょう。
 意外な正体といえば、ゲームマスターたる謎の老人・空知庵の正体には、柴錬ファンならば驚くとともにニヤリとすることでしょう(柴練作品ではお馴染みのあの名将ですよ!)

 また、運命に翻弄されることの多い柴錬ヒロインの中でも、特に数奇な運命を背負わされたのが本作のヒロイン。未読の方のために詳しくは書きませんが、よくぞまあこれほど高貴で、かつまた呪われた血筋を考えたものだとつくづく感心しました。
 そして――彼女が運命と、そして何よりも自らを利用せんとする周囲の思惑に翻弄されていく様を見るに、同様に高貴で、かつ呪われた出自の者がほとんどである柴錬主人公が、一個人として、無頼のままに活躍できるのは、あくまでも彼が己の想いを貫くだけの剣の力を持っているからであり、それがなければ血筋というものは己を縛る鎖にしかならない、ということを改めて気づかせてくれたことです。

 柴錬作品の中では異色作の部類に入るかと思いますが、しかしやはり素晴らしく面白い時代伝奇小説でありました。かなり分量はありますが、一気に読むことができること請け合いであります。


「人間勝負」(柴田錬三郎 新潮文庫全2巻ほか) 上巻 Amazon bk1/ 下巻 Amazon bk1

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