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2006.03.25

「風雲将棋谷」 時代伝奇のお手本的名作


 角田喜久雄の伝奇作品を愛好すると謳っておきながら、明らかに角田分が低いので思い出したように掲載。「妖棋伝」「髑髏銭」と並ぶ角田喜久雄初期三部作の一つ、謎の地・将棋谷を巡って善魔火花を散らす、時代伝奇小説のお手本のような作品です。

 主人公は、神出鬼没の盗賊ながら、決して非道はしない好漢・流れ星の雨太郎と、腕利きの御用聞・仏の仁吉の一人娘で将棋と縄術を得意とするお絹の二人。時は江戸後期の弘化年間、江戸の町では、十九歳の生娘ばかりが次々と何者かに攫われるという事件が続発、囮を買って出たお絹は、蠍を操る謎の怪人に襲われます。危機に陥ったお絹と、彼女を偶然救った雨太郎は、生娘の拐かしが謎の秘境・将棋谷へ至る道を求めてのことであること、そして謎の怪人が、将棋谷征服を狙う怪人、蠍道人・黄虫呵であることを知ります。
 将棋谷の謎を追ううちに惹かれ合うふたり。しかし黄虫呵の邪悪な罠により仁吉は落命、お絹はその犯人が雨太郎と誤解してしまうのでありました。恋い慕う相手が父の仇となってしまったお絹と、何とか身の潔白を晴らし、黄虫呵を倒して将棋谷の謎を解こうとする雨太郎の冒険の行く末や如何に…

 というわけで、実に由緒正しい時代伝奇活劇。秘境・怪人・義賊・恋のさや当てetc.およそ大衆文学の諸要素といえるものを全て投入し、それを煮詰めて作り出したかのような純度の高いエンターテイメントの快作であります。
 確かに、あまりに典型的すぎるという観がなきにしもあらずですが、しかしそこに、行方不明の将棋谷当主探しや、主人公二人を助ける謎の雲水の存在など、推理小説的趣向を巧みに織り込んで――角田作品の中ではこれでも推理色は薄い方ではありますが――、凡百の作品とは一線を画すものとなっています。大衆食堂に並ぶようなメニューであっても、料理人と調理法が超一流であれば、高級料亭にも負けない味になる、ということですね(あまり良いたとえではないかもしれませんが…)

 そして私が個人的にこの作品を気に入っているのは、主人公がアクの強い登場人物の中で埋没しがちな角田作品(まあ、これは角田作品に限ったことでなく、伝奇小説に登場する品行方正な主人公が陥りがちな点ではあるのですが)の中では、かなり主人公・雨太郎が活躍してくれる点。折り目正しい侍ではなく、義賊という設定が、主人公をより活動的なものにしているわけで、そこは設定の妙というものでしょう。
 そしてまた、その雨太郎たちの前に立ち塞がる蠍道人・黄虫呵の造形も楽しい。蠍道人という、いかにもいかにもなネーミングからして楽しいですが、白髪白髯に全身白ずくめ、武器として操るのは真っ赤な毒蠍というビジュアル的にもインパクトのある出で立ち。そして、蠍を操り人を襲わせる時には「蠍子(シェッ)!」と中国語で鋭く叫ぶのがまたおっかなくて良いのです。

 すぐ上で角田作品は主人公が埋没しがち、と書きましたが、その一方で悪役の輝きぶりが尋常ではないのもまた角田作品。角田作品の悪役・怪人と言えば、「妖棋伝」の縄いたち、「髑髏銭」の銭酸漿と、これまたビジュアル的にもキャラクター的にも抜きんでた存在がいますが、本作の蠍道人・黄虫呵もそれには負けていません。そして前二者が、宿命的なものを背負い、主人公とは敵対することもあるものの、単なる悪党ではなかったのと対照的に、こちらは完全なる悪のための悪。邪悪もここまで徹底してくれればいっそ気持ちがよいくらいであります。
 まあ、ぶっちゃけその最期は時代伝奇史上に残るくらいアレなんですけどね…

 何はともあれ、典型的なスタイルでありながら、その典型的な部分が逆に魅力的なエンターテイメント作品として、時代小説ファンであればぜひ一度は読んでいただきたいと思う次第です。

 ちなみに本作、数々の版がありますが、私が一番気に入っているのは富士見時代小説文庫のもの。杉本一文先生の手による、見事に時代がかったカバーイラストがもうたまらんので、もし機会があればぜひご覧になって下さい。結構古本屋さんにありますしね。


「風雲将棋谷」(角田喜久雄 春陽文庫ほか) Amazon bk1

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コメント

はじめまして。最近僕も角田喜久雄を読んでますが、つくづく凄いですねぇ・・・。中でも「舟姫潮姫」「緋牡丹盗賊」が強烈でした。

投稿: 鱧 | 2009.04.20 01:10

鱧様、はじめまして。

角田作品は、お行儀がいいようでいて結構…という感じですね。
「強烈」とは言い得て妙です。「舟姫潮姫」の鬱展開には愕然とさせられたものです。

これからも折に触れて角田作品は取り上げていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

投稿: 三田主水 | 2009.04.21 00:34

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