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2006.03.30

「闇の傀儡師」 闇の中で嗤うもの

 藤沢周平先生というと、どうもまっとうな時代小説界の御大将、おじさんが好きな時代小説の大家というイメージ(あくまでもイメージですよ)があるのですが、本作はその藤沢先生が真っ正面から時代伝奇小説を描いて見せた作品。
 剣術の達人だが浪々の身である主人公が、瀕死の男を助けたことにより世の裏で繰り広げられる陰謀と冒険の世界に誘われるという導入部は、驚くくらい時代伝奇小説の一つの定番パターンで、ちょっと驚いてしまったことです。

 が、さすがは藤沢作品、オールドファッションな時代伝奇の世界を描きながらも、そこに登場する人物造形は実に味わい深く――例えば主人公とその元妻、そしてその妹の関係や、名家の出ながら城勤めを嫌い絵師を目指す親友のキャラ等――、そうした地に足のついたキャラクターを配することで、日常世界の裏に広がる伝奇的世界についても、一定のリアリティを与えることに成功していると言えましょう。

 そしてまた――権力の魔に取り憑かれた人々と、その野望の犠牲となる人々、そしてそれに敢然と異を唱える主人公たち(敢然と、じゃない方もたくさんいますが)と、藤沢節溢れる展開も健在。スケールの大きな伝奇小説だからこそ、その権力の闇の暗さ・深さといったものがより強く描かれているように感じられますし、史実を背景にした展開であるからこそ、必ずしも正しき(という言葉には様々な意味があるわけですが)者が勝つわけではないという冷厳たる現実が引き立つのでしょう。

 そして――主人公の剣が一つの悲劇を防いだ後に、闇の中で哄笑していたのは何者なのか…改めて、タイトルの意味について考えさせられたことです。

 何はともあれ、オールドファッションな伝奇物語+陰影に富んだ人物描写という組み合わせはまさに鬼に金棒。剣戟シーンの迫力も流石と唸らされますし、藤沢ファンでも伝奇ファンでも、同じように楽しむことができる佳品と言ってよいかと思います。
 …NHKの金庸時代劇でドラマ化してくれないかしらん。もちろん主人公はあの人で(十年近く前の正月時代劇でドラマ化されてますが、ちょっと中井貴一が主人公役ってのは、ねえ)。


「闇の傀儡師」全2巻(藤沢周平 文春文庫) 上巻 Amazon bk1/下巻 Amazon bk1

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