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2006.03.23

「魔岩伝説」 荒山作品ここにあり! の快作


 だいぶ以前に読んだにもかかわらず、そして非常に面白く、思い入れも十分にもかかわらず、それ故に感想が書きにくくてしかたなかったこの「魔岩伝説」。いよいよ四月に文庫化ということで、ここに紹介させていただきます。
 荒山徹先生の第三作であるこの作品は、秀吉の時代を舞台にした前二作「高麗秘帖」「魔風海峡」からぐっと時代が下った江戸時代後期を舞台とした作品。主人公は遠山景元、(これは歴史に詳しい方ならすぐわかることなので書いてしまいますが)若き日の遠山の金さんであります。さらにこの作品の景元は、かの音無しの構えで知られた高柳又四郎の愛弟子という設定で、これだけでも嬉しくなってしまいます。

 本作は、前二作が歴史上の事件を背景とした山田風太郎的秘術合戦の色彩が強かったのに比べ、むしろ歴史の背後で展開される事件を描く角田喜久雄的正当時代伝奇ものの香りが強く感じられる展開。
 もちろん、荒山テイスト漂う朝鮮妖術は健在ですが、血気盛んな青年・遠山景元が、ふとしたことから怪事件に巻き込まれ(首を突っ込み)、冒険と死闘を繰り広げていくなかで巨大な謎を解き明かしていくという展開は、定番ながらもエンターテイメントの王道とも言うべきものであります。

 もちろん、荒山作品だからして単なる楽しい娯楽もので終わるわけもなく、景元の冒険と平行して描かれるのは、権力の理不尽の前に泣き、そしてその中から雄々しく立ち上がろうとする朝鮮の民衆の姿。一種モラトリアム期の青年であった景元は、その朝鮮民衆の悲壮な戦いと、そして日朝の歴史の背後に眠る黒い影の存在を知り、悩み苦しみながらも、人間として大きく成長していくこととなります。
 そう、前二作とは時代も物語のテイストも異なりますが、物語を貫くのは、権力の暴威に抗する個人の気高き心。その心の前には、日本や朝鮮といった国家などというものは関係ない(何となれば、権力はえてして国家の形を取って現れるものであるのですから)のであります。
 そしてまた、物語終盤で景元に突きつけられるある「事実」の前に悩み苦しむ彼の姿は、個人がどこまでその想いを貫くことができるのか、また貫くべきなのか、という重い問いを投げかけているかのようにすら感じられます。

 …などと言いつつ、その「事実」ってのが、本ッ当にもう、いい意味で大バカな――冗談が通じない野暮天だと怒りだしかねない――大ネタで、これもまた荒山作品の醍醐味だよなあと、にこにこしながら感じ入った次第です(この作品を読んだ後で、「十兵衛両断」の最終話、あるいは「伝奇城」所収の氏の作品を読むと、また感慨深いものがありますよ)。これだから荒山作品はやめられない。
 ちなみに本作では、以降の作品で荒山作品で欠かせぬファクターとなった「柳生」が初登場。その名も柳生卍兵衛(ばんべえ)という隻眼の豪快児が、景元の好敵手として大活躍してくれます(そのキャラもまた、ある意味朝鮮に対する日本人の一つの典型という感じでなかなか愉快であります)。

 と、あれこれとりとめもなく語りましたが、本作の最大の魅力はエンディングに集約される、と言い切ってしまいたくなるほど見事な結末を迎えるこの物語。
 この長大な物語に心躍らせつつ最後まで読み終えた方であれば、必ずやこのエンディングにはニヤリとして、次にホロリとくるでありましょうし、そしてまた、心の底から続編希望! と言いたくなるでありましょう、と予言しておきます。
 ていうか本当に読みたいよ続編。桜吹雪を背負った景元がアイツやあの人と共に、あの野郎の陰謀に立ち向かったりする話が! …と、ネタバレ寸前の上にイタイタしいことを叫んでこの稿おしまい。


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