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2006.03.29

「将棋大名」 推理小説+時代小説の名品


 角田喜久雄ファンの方に、一番好きな作品を聞いてみれば、大体のところ「妖棋伝」「髑髏銭」「風雲将棋谷」の初期三部作か、久留さんもお気に入りの「半九郎闇日記」などの水木半九郎ものが挙がるのではないかと思うのですが、実は私が一番好き…というか気に入っているのはこの「将棋大名」。
 平賀源内先生とその弟子が、奇怪な連続殺人事件と、その背後の歴史の闇に挑むという、時代伝奇推理小説であります。

 主人公は、平賀源内先生の弟子の好青年・高島春作。二人が仮寓する伊藤宗印(江戸時代の将棋三家元の伊藤家の名人)の娘・お千代が、源内の遠眼鏡で覗いた彼方に、木に吊された裸女の死体が…というのが事件の発端。その死女の胸に留められた「死人詰め」なる謎の詰め将棋を巡り、次々と連続殺人が起こります。事件を探索する源内と春作ですが、謎を解き明かしていくうちに二人は、この事件の背後に隠された、幕府の、徳川家の闇の部分にまつわる秘事を知ることになります。

 ファンの方には言うまでもないことですが、角田先生は、時代小説をものされる以前に、既に探偵小説家として名を上げられていた方。そのため、時代小説であっても、推理色の強い作品が多いのですが、この作品はまさにその好例と言えます。
 一つの謎、一つの事件を巡って、個性的な登場人物たちが入り乱れ、次第次第に物語が収束に向かっていく、というのは伝奇小説の一つのパターンですが、本作はそのフォーマットの中に、謎解きの濃厚な風味を加えて、推理小説としても伝奇小説としても、実にスリリングでサスペンスフルな一級品に仕上がっています。

 そしてまた、他の角田作品同様、悪役造形が際だっている本作。春作の同門にして若衆姿の美青年、そして女に対しては残虐なサディストという妖人・下村松之丞の存在は、他の作品の悪役に比べると、一見悪役然としていないだけに、逆に、より一層の迫力と魅力が感じられることです。
 …それにしても、このキャラクターを評するのに「妖怪若衆」というワードを使って見せた春陽文庫の中の人のセンスは、神懸かっているとしか言いようがありません。
(そんな妖人が跳梁する一方で、平賀源内先生の脳天気なじじいぶりが一服の清涼剤となっているのもまた心憎い)

 いささか分量は多めではありますが、時代小説ファンにも推理小説ファンにも自身を持って勧められる快作であります。


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コメント

初めまして。いつも拝見させて頂いております。

『髑髏銭』と『風雲将棋谷』は読了済みですが、この作品は知りませんでした。
「若衆姿の美青年、そして女に対しては残虐なサディスト」という悪役像が気になるので、読んでみようと思います(笑)。

これからも更新を愉しみにしていますね。

投稿: 冬木夕 | 2006.04.05 11:16

冬木夕様はじめまして。コメントをどうもありがとうございます。
「将棋大名」に興味を持っていただけたようでなによりです。
角田作品は悪役描写に生々しい迫力がありますが、本作はそれが美青年だけに一層インパクトがあります。

楽しんでいただければ幸いです。
これからもよろしくお願いします。

投稿: 三田主水 | 2006.04.09 11:32

さっそく読了いたしました。
どこか暗さのある角田作品にしては珍しく明るい雰囲気で、陽気な平賀源内先生と無垢なお玉さんの存在が印象に残る一作ですね。
ちょっと登場人物が多すぎな気もしますが、「死人詰め」の謎解きはさすがに面白かったです。
下村松之丞のような妖怪若衆は「緋牡丹盗賊」「まぼろし若衆」にも登場しており、どちらも強烈な存在感ですよ。特に「まぼろし...」の高砂蔵人は憎々しさがハンパではなく、その悲惨な末路に溜飲が下がりまくりました(笑)。

投稿: 鱧 | 2009.07.03 23:44

鱧さんこんばんは。
仰るとおり、「将棋大名」は角田作品の中では明るい雰囲気が強い作品ですね。これはかなりの部分、源内に依っていると思います(笑)

そういえば「まぼろし若衆」を忘れておりました…しかし良い言葉ですよね、妖怪若衆って。

投稿: 三田主水 | 2009.07.07 00:04

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