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2006.04.30

「妖霊星」(再掲)

 新進の能楽師・鷹矢は、ある舞台で異様な気配を持つ妖艶な美女を目にする。その女こそは、妖艶な肢体を地獄絵図の打掛に包む、細川勝元の愛妾・地獄大夫だった。この世の全てを呪い、世の騒乱を望む彼女は、白峰の大天狗・相模坊を都に招き、様々な妖術でもって都を混乱に陥れる。更に彼女は、魔王と化した崇徳上皇の復活を目論むが…

 地獄大夫と言えば一休宗純との関わりでご存じの方も多いはずですが、この作品では、この世こそ地獄との想いのもと、世に騒乱を広めるべく暗躍する妖女として造形されていて(しかも細川勝元の愛妾というのが面白い)、このキャラ設定にまず「伝奇魂」を感じさせていただきました。物語の内容はと言えば、応仁の乱前夜というべき世界を舞台に、この妖女が巻き起こす「地獄」の有様が次々と描かれていくというもので(ちなみに主役…というより狂言回しの鷹矢は状況に振り回されるばかり)、一歩間違えると非常に陰惨なだけの物語に成りかねないのですが、それがある種のユーモラスさすら感じられる作品に昇華されているのが面白いところ。これは一重に、物語の中で跳梁する天狗・妖魔・怨霊の類が実に生き生きと、いい意味で人間くさく(つまり現実感を持って)描かれているためであり、それを可能とした作者の筆力と、何よりそうした存在たちに対する愛には感心させられました。

 強いて難を挙げれば、結末が、ある程度予想されてしまう点と少々あっけない点があるかとは思いますが、この作品の持つ魅力の前ではむしろ些細なこと。室町の世に地獄が現出するのはまだまだこれから、地獄大夫には今後も登場願って、天下逆しまの騒乱の中で物の怪が思う様暴れ回るさまをこの先も続けて読みたい…と思ってしまったのは、これは私が物語の毒だか蜜だかに当てられてしまったのでしょうか。

 それにしても、こうしてあちらこちらから室町という時代の持つ豊かな伝奇の鉱脈(私も最近気付いたので偉そうなことは言えませんが)を掘り起こす試みが生まれてくるというのは、読者にとっては実に喜ばしい限りであります。


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