桜と伝奇時代小説
私の職場は周りが桜の樹に囲まれていて、春先にはそれはもう結構な眺めとなります。会議室など窓の外の、手を伸ばせばすぐ届きそうな所に桜の花があるという素晴らしいロケーション。
職場にいながらにして花見ができる…というより桜の花に囲まれて仕事ができるというのは、誠に結構な話であります。
と、桜自慢をしていても仕方ないので、私が桜から連想する伝奇時代小説を長編短編一編ずつ。
まず長編は山田風太郎「柳生忍法帖」。いや別にさくらさんがステキってんじゃなくて、その最終章で印象的に桜の花が描かれているのでいるのであります。
桜、さくら。
蒼空を吹雪のごとく流れ舞ってゆく桜の花びら。
その美しさを、美しいと見た者が何人あったろう。(後略)
この文章から始まる最終章で繰り広げられる死闘とその先の大団円については、(「Y十M」という作品として)ある意味現在進行形の作品だけに詳しくは書けませんが、満開の桜の下を舞台にヒロインたちに迫る運命は、桜の下であるからこそ、より一層美しくも恐ろしく感じられることでありますし、また十兵衛の臨む最後の決闘は、時代小説の決闘シーンとして五本の指に入る見事さでは…と個人的には感じているところであります。
いや、まあ、桜抜きにして小生が「柳生忍法帖」の大大大ファンなだけなんですが。
そして短編は、五味康祐の「桜を斬る」。吹上御殿試合、いわゆる寛永御前試合に出場した二人の居合術の達人、菅沼紀八郎と油下清十郎の対決を描くこの物語は、御前試合ものの伝統に則り(?)、それぞれの剣士が試合に臨むまでの半生が描かれ、そして最後に二人の対決が描かれるのですが、見事なのは、そして桜が登場するのはこの二人の試合の趣向であります。
居合と言えば、本身の刀で行うものですが、二人が居合の達人であれば、その業を競うのもまた、本身で行われるべきもの。しかし――どこぞの狂った殿様はともかく――御前試合で真剣勝負などというのはまずあり得ない話なわけで、さてそれでは如何にして二人がその業を競うのか?
…と、ここでタイトルにつながるわけですが、文庫本でわずか一、二ページであるにもかかわらず、その「試合」は、およそ「美」の表現という点では時代小説史上に残るのではないかと思われるほどの、奇跡のように美しい存在として感じられる次第です。
ちなみに本作が収められている短編集「秘剣・柳生連也斎」は、そのほかに「喪神」「秘剣」「柳生連也斎」「一刀斎は背番号6」といった、五味短編の精華とも言える名品ばかりが収録された名短編集なので、本作抜きにしても一度読んでみることを強くお奨めします。
というところで珍しく季節ネタでした。
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「秘剣・柳生連也斎」(五味康祐 新潮文庫) Amazon bk1
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コメント
こんにちは。烏丸です。
五味康祐の『桜を斬る』が取り上げられていて嬉しかったので、コメントさせていただきます。特にあの、「泣くが如く降るが如くはらはらはらと」散るくだりなど、本当に「美」の「極致」としか言い様のない描写に当時の私は身悶えながら読んだものです。
他にも『秘剣・柳生連也斎』は本当に珠玉の作品揃いですね。
『柳生忍法帖』もそういえばラストシーンを読み返すと桜でしたね(笑)。『Y十M』もそろそろ面白さが加速して来て、今後の展開が楽しみです。
よろしければまた当ブログにもお越し下さいませ。更新楽しみにしております。
では。
投稿: 烏丸十三 | 2006.04.02 13:17
烏丸さんこんにちは。
おお、同士よ!(笑)
私は個人的に五味先生の作品は短編の方が切れ味が鋭くて好きなのですが、「桜を斬る」はその中でも上位に入る見事さかと思います。何度読んでもため息がでますね。
ブログの方、烏丸さんの方も楽しみにしておりますので、お互い頑張りましょう
投稿: 三田主水 | 2006.04.05 00:49