« 「オヅヌ」第1巻 新たなるまつろわぬ民の物語 | トップページ | 今週の「Y十M」 バカ殿布団巻き地獄 »

2006.05.08

「オクタゴニアン」第1巻 陰謀家が集う列車


 大塚偽史・戦後篇たる本作は、戦前、特高警察の指示で共産党に潜入し共産党を壊滅に導いたスパイM(実在の人物。「木島日記」の円盤篇でも大暴れしていましたな)と、天皇ヒロヒトの影武者だった男・菊人のコンビを主人公とした奇怪な作品。
 顔のない男と、あってはならない顔を持った男、戦争の終結により寄る辺なき身になった二人の男が、戦後日本を騒がす謀略の数々に立ち向かうというのが基本ラインであります。

 えらく芸のない感想で恐縮ですが、本作を一読しての第一印象は「よくもまあこんな作品出せたな…」の一言。何せ、菊人は天皇陛下の影武者であったからして、顔は陛下と瓜二つ。その彼が、スパイMと組んでの探偵(という名の何でも屋)稼業、何故か行く先々でトラブルに巻き込まれて、陛下の顔で活劇を繰り広げるインパクトは筆舌に尽くしがたいものがあります。
 しかも本物の陛下も登場、非常に格好いいのですが時々えらくストレートな物言いをなさるので、読者であるこちらの方がハラハラさせられます。さすがは豪腕大塚先生、この人でなければこんな作品は書けません…というより世に出せません。

 いや、こんなわかりやすい表面的なことを騒いでいる場合ではありませんでした。そんな事以上に面白いのはこの物語の構造。
 進駐軍として日本を占領した米軍が、如何に日本を支配するか≒隠然と日本社会をコントロールするかというその目的のために、731部隊、共産党の転向者、民俗学者(またもや登場柳田先生)といった戦前の亡霊たちをかき集め、支配のツールとして利用するために走る列車…それが標題となっている「オクタゴニアン」。

 史上実在したこの列車は、かつて天皇陛下の御用列車でありながら、戦後は進駐軍に徴用され、利用されたという存在。そのオクタゴニアン号が、GHQによる日本支配の陰謀の象徴として東京の闇を走るというのは、何とも皮肉かつ蠱惑的なものがあります。おそらくは大塚先生、オクタゴニアン号の存在を知ったとき快哉を上げたのではないかしらん。
 そしてまた、そのオクタゴニアン号に集い、あってはならない謀略を行う者たちに、己の依って立つところを失った者たちが立ち向かうという構造は、実にスリリングであり、かつ刺激的であると同時に、戦直後の日本直後の伝奇的・象徴的縮図と言えます。

 最初読んだときは、帝銀事件や下山事件といったメジャーな事件が、エピソードのオチ的に使われているのにちょっと違和感を感じたのですが、しかし、オクタゴニアン号に集う者たちの暗躍の結果として日米の闇の部分が結びついていく様を描くことこそが物語の主眼で、怪事件はその結果、と考えれば、むしろこの形となるのは当然の帰結と申せましょう。

 太平洋戦争の敗戦は、一つの時代の終焉であるとと申せましょうが、これまで「北神伝綺」「木島日記」で描かれてきた戦前の暗い闇のわだかまりが、敗戦で終焉を迎えることなく、現代に至るまで、時代の陰で脈々と生き続けてきたということを示すこの物語。今名前を挙げた二作に比べ、かなりエンターテイメント寄りの作品であり、それがまた魅力となっているのですが、それでもやはり大塚作品ならではの昏い輝きを放っていることは間違いありません。


「オクタゴニアン」第1巻(杉浦守&大塚英志 角川コミックス・エース) Amazon bk1


関連記事
 勝手に負けた話
 「木島日記」(小説版) あってはならない物語

|

« 「オヅヌ」第1巻 新たなるまつろわぬ民の物語 | トップページ | 今週の「Y十M」 バカ殿布団巻き地獄 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/9955018

この記事へのトラックバック一覧です: 「オクタゴニアン」第1巻 陰謀家が集う列車:

« 「オヅヌ」第1巻 新たなるまつろわぬ民の物語 | トップページ | 今週の「Y十M」 バカ殿布団巻き地獄 »