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2006.05.30

「天正マクベス」 天才劇作家、戦国を往く

 SF、冒険小説、時代小説、推理小説と、エンターテイメントのありとあらゆるジャンルで活躍する山田正紀先生が、シェークスピアの戯曲を題材に、日本の戦国時代を舞台に(!)描いた時代伝奇推理小説であります。
 織田信長の甥・織田信耀を主人公として、そして彼の友人であり英国より来た修道士シャグスペアを狂言回し役とする本作、「颱風」「夏の世の夢」「マクベス」の三つの短編から構成されており、それが結びついて一つの長編を描くというスタイルとなっています。

 船の難破で孤島に漂着した信耀が、魔法を操る怪老人と出会う「颱風」、信耀の婚礼の晩に奇妙な妖術使いと化外の民が姿を現す「夏の夜の夢」、そして戦国最大の主君殺しである本能寺の変を裏側から描く「マクベス」と、作品の題材と、自身の名前からわかるとおり、シャグスペアこそが、後の天才劇作家シェークスピア。そして彼が日本で経験した怪事件の数々が、彼の戯曲の題材となった、という何とも人を食った展開となっているのが、いかにも山田正紀らしい趣向と言えましょう。

 シェークスピアの戯曲を戦国世界で描き出してみせただけでも驚きですが(特に前二作)、さらにシェークスピア自身を日本に引っ張ってくるというのは(歴史推理ものでは決して珍しい手法ではないものの)、奇想の極みというべきもの。さらにその意外性・伝奇性を逆手に取って、後世の人々を悩ますシェークスピアの「正体」に、独自の解釈を提示してみせるところなど、流石としか言いようがありません。

 正直なところ、(如何に意外性があるとはいえ)題材に縛られて物語自体にダイナミズムが失われている部分、いささか展開に不自然な部分はなきにしもあらずですし、あたかも舞台の緞帳が突然落ちてきたかのような結末には好みが分かれるかとは思いますが、光秀の信長殺しの「動機」の推理が――そしてそこに至るまでに提示される状況証拠(?)も――なかなかユニークであったこともあり、私は十分以上に楽しむことができました。

 個人的には、「夏の夜の夢」のラストにおいて、被害者となった男を追いつめた非人間的な社会制度に怒りを露わにする信耀の姿に、自分の大好きな山田正紀節を見ることができたのが嬉しかったことですよ。


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