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2006.05.29

「カタリベ」 歴史の陰を駆け抜けた少年

 南北朝時代を舞台に、明王朝に滅ぼされた豪族の末裔の少年が、倭寇に村を襲撃されたことをきっかけに、奇怪な海の「神」に導かれて波乱に満ちた旅を繰り広げるという、海洋伝奇冒険もの。作者は「もやしもん」の石川雅之氏です。

 「もやしもん」は以前から読んでいましたが、石川氏が時代漫画を描いていたことを知ったのは、恥ずかしながら最近の話。さらに恥ずかしいのを承知で言えば、本作の存在は、単行本化されるまで知りませんでした。そんな「もやしもん」しか知らぬ状態で読んだ本作は、想像以上に重く、そして黒い黒い世界。

 さらわれた村の民を救うために倭寇を追った名のない御曹司の少年ですが、逆に捕らえられ、引き渡された先は北朝方の「鬼師」のもと。戦乱の中で正気を失った者が変化する狂戦士「鬼」を、人肉でもって操るというおぞましい鬼師たちに、仲間たちを文字通り「食い物」にされ、ただ一人残った少年は、自らもあわやというところを、異形の海神・バハン様と、大海賊のマエカワに救われます。
 半年生きる毎に、死んだ百人の民を一人ずつ生き返らせてやるというバハン様の言葉を信じ、この乱世で生き抜くことを誓った少年は、マエカワから「カタリベ」という名を与えられて、マエカワ一党と行動を共にすることになります。

 誰が味方で誰が敵か、誰が善で誰が悪か、めまぐるしく入れ替わっていく南北朝の動乱の世界は、海の上でも変わらず、その中で翻弄されながらも様々な人々の生き様を見つめていくカタリベ。時としてキツい描写・エピソードも交えつつも、彼の目に映った動乱の世界が、その中でそれぞれの重荷を抱えつつも逞しく生き抜いていく人々が、語られていくことになります。

 というようにストーリー、キャラクターともに非常にユニークで、印象的な本作でありますが、いくつか残念なところがあるのも事実。
 その一つが、「絵」。石川氏の絵自体は、既にこの時点で完成されていると感じられるのですが、あまりに密度が濃すぎて、合戦・乱戦シーンなど、人大杉状態で、何だかギャグっぽくなってしまっているというのが正直なところです。

 さらに、そして最も残念なのは、カタリベの冒険がこれから、とぃうところで物語がばっさりと打ち切りになってしまったこと。当たり前ですが、これが実に残念としか言いようがない。はっきり言ってしまえば、登場して以来やることなすことが裏目に出まくる――あまりに凄いのでギャグの域に達しているというのは流石に非礼に過ぎるとは思いますが、もうそんな印象――カタリベの成長が、あまり見られなかったところで物語が幕になってしまったのは、本当に勿体ない。
 もっとも、これはこれで、歴史の陰を駆け抜けた「カタリベ」の名を持つ少年の物語の結末に相応しいと言えなくもありませんが――

 と、万人にお奨めしがたい部分もある本作ではありますが、不思議と心に残るものがあるのも事実。石川ファンは言うに及ばず、時代伝奇を愛する人であれば、是非一度手にとって、この不思議な味わいを感じて欲しいと思います。


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