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2006.05.10

「巴の破剣 羅刹を斬れ」 第三の剣登場


 最近ではNHK教育TVにも出演されていた牧秀彦先生の最新作は、直参旗本の次男坊で剣の達人・深谷真吾を主人公にした裏稼業もの、つまりいわゆる必殺もの。短編三本が収められた連作短編集の形で、法で裁けぬ悪を討つ主人公たちの活躍が描かれます。

 と、このブログでも牧作品はしばしば取り上げているので、あれ、と思う方もいるかもしれません。実は牧先生の裏稼業ものはこれで三作目。しかも先行する二シリーズとも、基本的に短編三本一セットの形式となっており、版元こそ違え、今回もなの? と思う方もいるかもしれません(…いないかな)。
 が、それでは本作が単なる同工異曲の安直な作品かと言えば、もちろんそんなことはありません。さすがは熱烈な必殺ファン・時代劇ファンでもある作者だけに、その辺りの差別化の仕方は、なかなか巧みなものがあります。

 冒頭に主人公の真吾は直参旗本の次男坊と書きましたが、冷や飯食いとはいえ確たる身分のある彼が最初から裏稼業に手を染めるではなく、物語の中で裏稼業の猛者たちと出会い、争い、そしてうち解けていく様が丹念に描かれているのが本作の見所の一つ。
 もちろん、シリーズ(?)第一作としてそれは当たり前と言えば当たり前の展開ではありますが、しかし本作の独自性は、真吾を
、道場剣法では達人ながら、命のやりとりの実戦では全くの素人として描いている点にあります。まだまだ剣士としても、裏稼業の人間としても未熟な真吾が、果たしてどのように――その真っ直ぐな気性を失わずに――成長していくかという、成長小説の要素も本作は持っているのです。

 また、本作における裏稼業は、公事宿の裏の顔として設定されているのもまた、面白い点であります。公事宿というのは、江戸時代に訴訟のために地方から出てきた者が泊まる施設ですが、同時に訴状の作成や手続きの代行等も行っていたという、現代で言えば司法書士的な性質も持っていた存在。いわば、江戸時代における法律のエキスパートですが、そんな彼らでもどうにもならない法の裏道を行く者に泣かされた被害者の恨みを果たす役割を、公事宿が果たすというのは、物語的にも面白いですしある種合理的ですらあります。

 も一つ、牧作品は、剣戟描写を丹念にしようとするあまり、些か描写が生硬になるきらいがあるように個人的には思うのですが、その辺りが本作ではうまくこなれていたのも評価点ですな。

 何はともあれ、真吾と仲間たちの物語はまだまだ始まったばかり。おそらくはシリーズ化されるであろうこの作品、この先を見守りたいと思います。


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