「伝奇城」の荒山徹先生
「伝奇城」については、いずれ一編一編きちんと紹介しようと思いつつ、何故だか果たせないでいるのですが、「柳生雨月抄」のおかげで熱病の如くプチ荒山徹ブームが内外で荒れ狂っているので、もしかして作品の存在自体知られていないんじゃ…と不安になったりもする「伝奇城」の荒山作品を紹介。
「伝奇城」とは、一年以上前に光文社文庫で刊行された書き下ろし伝奇時代小説アンソロジー(全く以て僭越ながら小生もちょっと企画ものを手伝っています)なのですが、収録作品のトリを務めているのが荒山先生。もちろん朝鮮を題材とした作品を、それも三編も掲載されているのですが、ごく短いながらもそれぞれにこれまでの作品とは少し違った趣向が凝らされていて実に面白いのです。以下、一編ずつ紹介。
「柳と燕――暴君最期の日」
柳と燕と言えば、風流で美しいものの取り合わせでありますが、本作の「燕」とは、「柳生雨月抄」などでも何度か言及された朝鮮史上最悪の暴君「燕山君」。燕山君の暴虐の陰に在ったある力を描いた本作。「燕」が燕山君ならば「柳」は――というお話ですが、三編の中でこの作品がいわゆる荒山作品っぽいかな。
「黒鍬忍者の密訴」
前作から時代はぐっと下って時代は徳川第五代将軍綱吉の時代。徳川の黒い血が目覚めたか(何せ荒山ユニバースでは家康がアレですから)、朝鮮ラヴの余りに将軍就任にあたって「日本を朝鮮にする」と言い出した綱吉に、幕閣は大弱り。悩んだ果てに、一人の黒鍬忍者に解決策を講じさせるのですが――もうね、オチの破壊力は長短編合わせても荒山作品一と言っても過言ではないでしょう。荒山先生以外の人間がこれをやったら怒られること必至の、ある意味非常に荒山作品らしい作品です。
「其ノ一日」
さらに時代は下って19世紀半ばのある一日に川のほとりで交わされる、ある人物と従者たちの何の変哲もない会話を描いた本作。特に大きな事件が起こるわけでもなく、静かで穏やかな空気の中に終わる一編なのですが、それでもなおかつ強烈に時代伝奇小説の、時代伝奇小説家の何たるかを謳いあげた作品で、私の大好きな作品です(NGワード:先生それ自分自分!)。
このアンソロジーの掉尾を飾る一編として、誠に相応しい作品と感じた次第。
と、この三編の前には「作者口上」として、作者自身の時代伝奇小説観と、時代伝奇小説家としての己の目指すところが掲げられており、これもまた非常に興味深いものがあります。
以上、掌編ながら実にユニークな作品ばかりですので、未読の方は、是非。もちろん他にも面白い作品ばかりですので、読んで損はないですよ。あと巻末の変な年表とか…
| 固定リンク

コメント
「荒山徹ブーム」…いい言葉だ!
という感慨が当方の脳をグルグルと。
つか、何気に荒山先生、微妙に知られてませんしのう。
mixiでも荒山徹コミュがなかったので、
仕方がないので自作したり。
「荒山作品はこんなに面白いのに
皆は知らないという…」
てな塩梅で砂。
伝奇城は僕らの宗矩くんが出てきたので、
それだけで当方満足です。
投稿: 神無月久音 | 2006.05.07 01:45
宗矩くん、さぞかし黒い笑いを浮かべていたのだろうな…と少し愉快な気持ちになりました。
しかし「荒山徹ブーム」を支える我々は、まだまだ規模で言えば朝鮮柳生くらいだと思いますので、何か手を打たないといけないですね。
とりあえず集団ノッカラノウムとか(入れ替わってどうする)
投稿: 三田主水 | 2006.05.08 22:48