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2006.06.17

「外法陰陽師」第1巻 最強の外法使い登場

 平安時代を舞台とした陰陽師ものの異色シリーズ第一巻。
 それこそ陰陽師ものといえば、これまで相当の数が出版されているわけですが、その多くに共通するのは、主人公がクールでひねくれた天才陰陽師で、その相棒となるのがごく普通の人間たるお人好しの貴族or武士というパターン。本作もその例外ではないのですが、しかしそれでもなお私が本作を「異色」と呼ぶのは、その強烈なまでに個性的な主人公のキャラクター造形に因ります。

 主人公・漢耿星は、京の無法地帯に一人住まう人嫌いの陰陽師で、本朝の陰陽道とも、中つ国のそれとも異なる術を操る彼は、人から外法陰陽師と呼ばれ敬遠されているという設定。ここまでは良いのですが、しかしとんでもないのは彼の正体――彼こそは、かつて中つ国においてその美貌と術を武器に、唐を滅ぼし、五代十国の滅亡にも関わったという半人半妖の魔人。太上老君より、その所業に対する罰として、人の世で静かに暮らす、という定めを課せられて、今は不承不承平安京に暮らす彼ですが、通常であれば主人公というよりも、主人公の強力な敵役ともなるべき存在であります。

 そんな彼にも苦手なものが二つ。太上老君からのお目付役として付きまとう黒猫の妖・羅々(の告げ口)と、何故か彼を恐れず友達として振る舞う青年貴族・藤原行成。特に、まるで子供のように無垢な心を持つ――というよりド天然という言葉が相応しい――行成は、人間を憎んでいるとすら言える耿星が、不思議と拒めない存在というのは、お約束と言えどもなかなか楽しいものがあり、この耿星の設定でもって、本作は他より一歩抜きんでたと言っても過言ではないでしょう。

 本作は、時の関白・藤原道隆にかけられているという呪詛を打ち破って欲しいという行成の依頼に応えて(そして道隆が死んで国が乱れたら耿星のせいと言いつけるという羅々の脅しもあって)耿星が重い腰を上げる、というのお話。
 時の帝の寵愛を集めた中宮定子をバックに権勢を振るった道隆の晩年と、その死の直後の藤原氏内の暗闘(そしてその後の藤原道長の台頭)は、比較的平安もので扱われることの多い題材ですが、本作ではその暗闘を後宮の、中宮周辺から描くというのが工夫かと思います。

 なのですが…そこで何故主人公が平然と女装して潜入しますか。しかも行成がそれと知らずにその女装に一目惚れしてしまうという邪悪なお約束展開。いやはや、隙がありません(?)。
 と、そんな連中はさておき、シリアスに邪悪な動きを見せるのは、本作の敵役の外道陰陽師・蘆屋清高。その姓が示すとおり、蘆屋道満の門下である清高は、奇怪な蟲を操る蠱毒の法を操って暗躍、そしてそのおぞましい術の生贄として目を付けたのが行成で――というわけで、クライマックスは、「べ、べつに人間(行成)のことなんて気にしてないんだからねっ!」と(口調はともかく、本当にこんな感じで)鬼神の如きツンデレっぷりを発揮した耿星が大暴れすることになります。

 なにはともあれ、人間を――自分自身の血の半分も――嫌い、時に憎みながらも死地に赴く耿星の姿はなかなかに魅力的で、キャラクターものとしての面白さはなかなかのものかと思います。個人的には、行成の魅力があまりはっきりしないのと、清高の術が生理的にあまりに厭すぎるのを除けば(一つ目は、本作の設定上、一歩間違えると命取りになりかねない点ではあるのですが…)、十分以上に楽しむことができました。
 本作は全三巻とのこと、あと二冊も楽しみに読むことにします。

 なお、作者には、本作にも登場した安倍晴明&賀茂光栄の青年時代を舞台にした「平安陰陽奇譚」シリーズもあり、こちらもいずれ読んでみたいものです。


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