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2006.06.24

「水妖伝 御庭番宰領」 水面に浮かぶ水妖の貌

 新レーベル「二見時代小説文庫」創刊ラインナップの一つである本作、先日紹介した「幻の城 遠国御用」の続編であります。前作で己の過去と訣別した主人公・鵜飼兵馬が、もう一つの消せない過去であるかつての愛人の行方を追ううちに再び暗闘の世界に巻き込まれていくという内容です。

 物語の始まりは前作で死闘を繰り広げた弓月藩から、再び兵馬が江戸に帰還するところから始まります。御庭番宰領と並ぶ彼の生業である用心棒稼業を再開した彼の元に舞い込んだのは、呉服商葵屋の店主・吉兵衛からの依頼。兵馬のかつての愛人であるお蔦を囲っていたという、何とも複雑な関係にある吉兵衛ですが、彼の回りで次々と殺人事件が起き、彼もまた何者かに命を狙われているという訴えに、しぶしぶ用心棒を引き受ける兵馬ですが、それは、ある日突然彼の前から姿を消したお蔦の過去にまつわる奇怪な事件の始まりに過ぎなかったのでした。

 本作のヒロインというべきお蔦は、「幻の城」にも登場していますが、さして出番のないうちに「あたしは、水のあるところから来たの。そして水のあるところへ帰ってゆくわ」という謎の言葉と連れ子の少女・小袖を残して、彼の前から、そして物語から消えてしまったキャラクター。
 「幻の城」では、その後に展開された本筋を追うのに夢中ですっかり忘れていましたが、本作では、彼女が何故姿を消したのか、そして彼女が何者だったのかが、ミステリタッチで描かれていくことになります(ということは、前作の段階から本作の構想はあったということなのでしょう)。

 本作で兵馬を取り巻く人物は、小袖や御庭番の倉地、兵馬を慕う侠女・始末屋お艶に、兵馬と因縁浅からぬ地回りの駒蔵と、前作でもお馴染みの面々。兵馬を含めて、相変わらず一癖も二癖もある人物ばかりで、物語の雰囲気もこれまた相変わらずの乾いたタッチのギスギスフィーリングですが、謎解きあり剣戟ありと、やや文庫書き下ろし時代小説的展開に軸足を移しつつある本作においては、それがかえって特長として感じられます。

 果たして一体誰が味方で誰が敵なのか、雇い主であり仲間であるはずの倉地に対しても疑いの目を向けざるを得ないほどの窮地に追い込まれた兵馬が、苦闘の末に掴んだ真実への鍵は、関東の怨念を背負って生き続ける水妖の一族という実に伝奇的な存在であり(さすがに「怨泥沼」という強引な当て字はどうかと思いましたが)、そしてそれがまた御庭番宰領の任務につながっていくという終盤の展開には、ラストの妖剣使いとの死闘も含めて、大いに唸らされました。

 かつての愛人の行方という、もう一つの過去の軛から解放された兵馬ですが、彼の現在の生はまだ続きます。彼を主人公としたさらなる続編の登場に期待する次第です。

 なお本作、冒頭に記した通り「幻の城 遠国御用」の続編でありますが、それがどこにも記載されていないのが、どちらも面白い作品であるだけに残念であり、事情はあるのでしょうが些か不親切に感じられます。もちろん独立して楽しめる作品ではありますが、できれば先に「幻の城」を読んでいただきたいというのが正直なところです。というか「幻の城」も文庫化希望。


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