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2006.06.27

「楚留香 蝙蝠伝奇」 暗闇の魔境に希望の光を

 さて楚留香の「蝙蝠伝奇」の本編であります。上巻のラストで登場した彼の親友にして痛快男児・胡鉄花がもたらしたある知らせを聞いた楚留香が、その謎を追ったことにより、思わぬ謎と陰謀の大冒険に巻き込まれることになります。

 胡鉄花がもたらしたもの…それは、厳格をもって鳴らす華山派の女総帥・枯梅大師が、還俗したという知らせ。一見、何でもないことのようですが、世俗から隔絶した中で武術を磨く老女侠が、今頃になって世俗に還るというのは、江湖や武林においては(すなわち作中世界においては)大事件。好奇心を刺激された二人はその謎を追おうとしますが、その前に現れるのは、秘伝のはずの華山派の奥義を操る少女、海賊の頭領、謎の鞄を持つ軽功の達人等々、曰くありげな面々で、こうなると古龍の面目躍如といった感があります。

 そしてあれよあれよというまにストーリーは進み、楚留香一行は海賊船に乗り、この世のあらゆる謎と秘密が売買され、歓楽の限りが尽くされるという蝙蝠島を目指すことになります。しかしながら船の中には、あたかも彼らの運命を予告するかの
ように六つの棺が…そして次々と船中で引き起こされる惨劇の数々。
 と、この辺りの怪奇色の強いサスペンスタッチは、古龍の面目躍如たるものがありますし、同時に、本シリーズを語る上でよく引き合いに出されるルパンものに通じる雰囲気もあります。

 そして幾多の死の罠と怪事件の果てにようやくたどり着いた蝙蝠島は、謎の男・蝙蝠公子に支配された光なき暗黒の世界。圧倒的不利な状況下で、果たして楚留香の運命は!?――と、ここまで来るとルパンというよりは、戦前の冒険小説か黄金期のジャンプの漫画みたいなノリですが、そういうのが大好きな人間にとってはたまらない作品となっています。

 もっとも、楚留香のキャラクターが(他の古龍作品の主人公と比べると)普通に格好良すぎるので、古龍お得意の、希望とか愛とか信念とかの連呼が鼻につくところがなきにしもあらずですが、しかし、このストレートさがかえって気持ちいいのも事実。
 何よりも印象的だったのは、物語の後半、蝙蝠島に潜入してからの一シーンであります。仲間たちとはぐれ、孤立無援の状況で島に潜入した楚留香。その彼の眼前で、文字通り暗黒の中で肉の地獄に囚われた女性が、最後に残された人間性の一片までも踏みにじられそうになった時、彼は我が身の危険も省みずに飛び出して外道を叩きのめし叫ぶ!「忘れるな、この女たちも人なんだ!」
 その後、彼と合流した他のキャラクターたちが――悪人に至るまで――彼女にさりげなくも暖かい心遣いを見せるシーンも含めて、ベタではありますが実に熱く、かつ気持ちのよい侠気であったことです。

 正直なところ、超展開(さすがに終盤のジェノサイドっぷりには驚きましたよ)とどんでん返しの連続には――いつものことながら――好みが分かれるだろうとは思いますが、やはりこの一作で終わるにはあまりにも勿体ないシリーズかと思います。陸小鳳シリーズの翻訳が終わったら、次はこちらのシリーズを! と心から祈る次第です。


 以下おまけ。本作の中で、扶桑の甲賀から伝わったという「大拍手」なる技が披露されるシーンがあります。これ、要するに真剣白刃取りのことなのですが、古龍ユニバース中の扶桑=日本が、どのように設定されているのか、非常に気になるところであります。
 ちなみに楚留香シリーズの他の作品には伊賀忍者も登場するようで…き、気になる!


「楚留香 蝙蝠伝奇」(古龍 小学館文庫) 中巻 Amazon bk1/下巻 Amazon bk1


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