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2006.06.08

八犬伝特集その十の五 「聖八犬伝 巻之五 妖怪城の逆襲」

 「聖八犬伝」もいよいよ最終巻。玉梓が怨霊に、そして動乱の関東にどのように八犬士が対峙していくか、注目の第五巻であります。
 前巻ラストで捕らえられた荘助を救うため、刑場破りをしてのけた五犬士(物語も終盤にさしかかってこのエピソードが入るというのも面白い)。唯一仲間になっていなかった毛野もほどなく合流することとなり、八犬士勢揃いというところで、この第五巻もいよいよ本筋に突入、という展開ですが――

 副題にある通り、八犬士たちの前にまず立ち塞がるのは、玉梓が怨霊の力を手にした妙椿尼と結び、難攻不落の要塞、人呼んで妖怪城に籠もる蟇田素藤。原作通り里見家の嫡子を手中に収め、里見家を危機に陥れますが…しかし、八犬士の前に存外あっさりと敗北。
 てっきり、素藤・妙椿との決戦が本作のクライマックスかと思っていたので、肩すかしを喰った気分ですが(まあ、原作でも親兵衛のデビュー戦の噛ませと言えなくもなかったですが…)、しかし大事なのはその戦いが終わった後。

 本作における里見義実は、原作の如き仁者善人ではなく、権謀術数でもって安房を手中に収めたくせ者として描かれます。伏姫の悲劇により、一度はそうした修羅の世界と距離を置いた義実ですが、年を経るに従いかつての魂が甦ったか、関東の動乱の中で己の勢力を伸ばすべく、周囲を虎視眈々と窺うようになった矢先に、妖怪城との、玉梓との戦いが起きることとなったのです。
 が――玉梓の怨念、そして何よりも、それに抗するために現れた伏姫の姿が義実を変えます。今度こそ争いの虚しさを思い知った義実と里見家。しかし動乱の世の中でその虚しさを、どのように平和への力と変えていくか? それこそが本書の真のクライマックスとして描かれます。

 原典の終盤は、里見軍が、管領たちの連合軍を散々に打ち破り、一種の理想郷を築くという、史実とはかけ離れた展開を見せますが、当初から一貫して史実に沿った物語を展開してきた本作は、ここでも史実に則しつつ――しかし同時に原典の精神を受け継いだ王道楽土の理想の世界を、安房に描き出すという離れ業を見せてくれます。
 詳しくはここでは述べませんが、現実の歴史の中で、虚構の物語の魂を再構築してみせるという、見事な虚実合一の境地には、心から感服いたしました。

 優れた八犬伝物語として、優れた時代伝奇小説として――機会があれば是非手にとっていただきたい名品であります。


「聖八犬伝 巻之五(鳥海永行 電撃文庫) bk1


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