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2006.07.07

「カーマロカ 将門異聞」 奇跡など起きない世界で

 実は関東で死んでいなかった平将門と、彼を追う者たちが死闘を繰り広げる時代伝奇アクションの快作である本作。「本の雑誌」で採り上げられるなど評判は高かったものの、なかなか読めずに今まで来てしまったのですが、ようやく読むことができました。激しく後悔しましたとも。今まで読んでいなかったのを。

 物語は、豪放な武人・鬼王丸、菅原道真の子を名乗る青年・菅原景行、そして異貌の美女・柊の三人が甲斐国に現れるところから始まります。何者かに追われるように旅を続ける彼らこそ、実は生きていた平将門とその腹心たち。そして、如何なる理由においてか甲斐から諏訪に入った彼らを追うのは、天台宗の不死身の暗殺僧・愚彊、異能を誇る甲賀一族を束ねる望月三郎兼家、天才の名を欲しいままにする若き陰陽師・賀茂保憲、かろうじて逃げ延びた将門の娘・夜叉姫、そして将門の従兄弟であり藤原秀郷と共に将門を「殺した」平貞盛――かくて、敵も味方も強者揃いの錚々たる面々が、それぞれの想いを胸に激突することとなります。

 何だか最初っから最後まで戦いっぱなしという印象もある本作ですが、しかし、その中にもきちんと登場人物それぞれの戦う理由、言い替えればそれぞれの存在理由が描き込まれているため、退屈することはありませんし、大味という印象も全くありませんでした。…いやむしろ、己の命を賭けた戦いという、ある意味、人が最も己をさらけ出す場を数多く描いているからこそ、善も悪もなく、ただ己の信念を貫くために戦う登場人物たちが、それぞれに魅力的で、生きた存在として感じられるのでしょう。

 と、もちろん、アクションシーンがきちんと描き込まれているの本書の魅力の一つ。個性的な登場人物それぞれが、またそれぞれに己の戦闘スタイルを、特殊能力をもって暴れ回るため、戦いの一つ一つの展開が全く予想が付かず、なかなかに刺激的です(個人的には、物理的な戦闘術としての陰陽道という、ありそうでなかったアイディアには唸らされました)。
 また、本書の特長の一つとして「奇跡が起きない」という点があります。これはすなわち、一見どれほど人間離れした術に見えても――例えばその最たるものと思える保憲の陰陽道、方術でも――その裏には必ずきちんとしたロジックが、種があるということなのですが、簡単に戦況をひっくり返すことのできるご都合主義が存在しないため、アクションシーンにも更なる緊張感が生まれていると感じました。

 その一方で、伝奇ものとしても光るものを持つ本作。将門が生きていた、という発端部分、基本設定からしてもちろんその最たるものですし、将門と道真公との意外な繋がりも実に興味深かったのですが、何よりも、なぜ将門は立ち上がったのか、なぜ討たれねばならなかったのかという、将門という人物の本質、天慶の乱という事件の本質に踏み込んで一定の伝奇的解答を出しつつ、そしてそれがまた登場人物たちの行動原理と密接に関わってくるという構成に感心した次第です。

 そして――「奇跡が起きない」はずの本作で、たった一つ最後に起きた、素晴らしい奇跡。奇跡それ自体は、まあドラマ的に予想できるものではありましたが、しかしそこに至るまでの重く哀しい物語からすれば、大いなる救いとして実に気持ちよいものでありましたし、そして何よりも伝奇的に、思わず「やりやがった!」と叫びたくなるくらいにインパクトのある、見事な幕切れでした。

 個人的には将門のキャラクターが今ひとつ響いてこないように感じた点もあるのですが、それは個人の感覚というべきもの(も一つ、ある人物の設定に、伊藤勢の「ラゴウ伝」の影響を強く感じたのですが、これもマニアの穿った見方以外の何ものでもないでしょう)。
 何はともあれ、ドラマ的にもアクション的にも伝奇的にも実に内容の濃い、骨太の魅力に富んだ本作。作者の三雲岳斗氏のホームグラウンドはライトノベルのようですが、これからもこのような作品を書いていっていただけたら、と心から期待する次第です(いや、ライトノベルで保憲とあいつが活躍するお話でももちろん大いに歓迎いたします)


「カーマロカ 将門異聞」(三雲岳斗 双葉社) Amazon bk1

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