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2006.07.09

「からくり東海道」 ユニークかつトリッキーな物語の妙

 泡坂妻夫先生の奇想横溢な時代伝奇ミステリ。どこかノスタルジックな角兵衛獅子のシーンから始まり、尾張藩下屋敷の不思議なからくりの数々を覗いたと思えば、時間は跳んで十年後、舞台は小田原・箱根に移り、かの大久保長安の埋蔵金を巡って、様々な人物と謎・からくりが複雑に入り乱れる不思議な味わいの作品となっています。

 物語の始まりは尾張徳川家の江戸下屋敷、その広大な庭園に招かれた角兵衛獅子の一座の文吉とおみつが不可思議なからくり仕掛けを見せられ、そしてその直後に思わぬ惨劇が起きるという導入部から、時は流れて十年後、それぞれの道を歩んでいた市次(文吉)とおたか(おみつ)が再会し、おたかの弟分の美少年・又十と三人で、大久保長安の残したという莫大な埋蔵金探しに乗り出すことになります。

 大久保長安と言えば、武田家から徳川家に鞍替えし、金山奉行として徳川に莫大な富をもたらすも、その死後に私腹を肥やし、謀反を企んだとして、一族郎党が罰せられたといういわく付きの人物。そんな人物だからして古今の伝奇時代劇にもしばしば登場するのですが…その長安の遺産が、箱根山中に眠っているというわけで、なるほどタイトルの通り東海道を舞台に埋蔵金探しの物語が繰り広げられるのかと思いきや、そこはさすがにマジシャン泡坂妻夫先生。事態は全く予想外の方向に転がりまくり、舞台と物語は二転三転。長安の埋蔵金のみならず、十年前の惨劇の真相から、尾張徳川家の戸山からくり庭園の謎、さらには又十のとんでもない出生の秘密まで――あれよあれよという間に物語は海を越えて遙か異境の地まで広がりを見せるのでありました。

 自身のどの作品にも、独自の趣向を凝らして我々読者を楽しませると同時に煙に巻いてしまう泡坂先生の作品らしい、ユニークかつトリッキーな物語の妙を存分に楽しませていただきました。

 なお、本作は全編文章が「ですます」調というユニークなスタイル。「ですます」調と言えば、野村胡堂先生が思い浮かびますが、ここではこの一風変わった文体が、この物語の一種浮世離れした、磨りガラス越しに向こう側を眺めているかのような不思議な物語の感触を、より強めている印象があります。

 ラストのすっぽ抜けぶりも、賛否あると思いますが、一つの物語がまたからくり仕掛けの物語に化けてしまったかのような、いかにも泡坂先生らしい人を食った結末のように感じられて、私はそれなりに気に入っています。


「からくり東海道」(泡坂妻夫 光文社文庫) Amazon bk1

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