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2006.07.24

「異人街変化機関」 江戸・横浜を覆う影

 竹河聖先生の時代伝奇小説第二弾は、幕末の横浜と江戸を舞台とした怪奇譚。旗本の次男坊の美青年・小三郎が、幇間の藤八と共に、異国からの奇怪な魔物と対峙することになります。
 藤八を伴って横浜の外国人居留区を訪れた小三郎は、そこで、マントにフードの巨漢が、一瞬の間に巨大な犬のような獣に変わるのを目撃します。それからほどなくして、江戸で次々と発生する猟奇殺人事件。犠牲者は皆、巨大な獣に噛み裂かれたような傷を受け、事件が起きるのは水場の近く、そしてその前後に異貌の巨漢が目撃されたことから、その怪物は「川獺天狗」と呼ばれることとなります。
 実はお庭番という前身を持つ藤八は、同じくお庭番出身の小三郎の父から、川獺天狗の正体を探るよう依頼され、小三郎ともども事件を追いますが、やがて事件は意外な展開を迎えることとなります。

 冒頭に記した通り、作者にとっては二作目の時代小説ではありますが、とてもそうとは思えないほど、幕末の江戸と、横浜とという、二つの舞台を描く筆致は安定していて、スムーズに物語世界に入っていくことができました。
 また、さすがにホラー・ファンタジーのベテランだけあって、恐怖につながっていく雰囲気の盛り上げ方や恐怖の描写は巧みの一言。特に本作の怪異の中心たる「川獺天狗」は、その時代もの的にナイスなネーミングをはじめとして、なかなかに魅力的な怪物であったかと思います。
 登場人物も、決して派手ではないのですが、地に足が着いた堅実な描写で描かれる様々な階層の人々は、なかなかに生き生きとして楽しめました(特に、小三郎に遊びを教えるという密命を背負わされた藤八の悪戦苦闘ぶりはなかなか愉快であります)。

 が――失礼ながら、どうにも中途半端な印象のある本作。ホラーファンであれば、怪異の正体はすぐ思い当たるでありましょうし(その翻案の仕様は実に見事だと思うのですが)、レーベル的に対象として想定しているであろうライトノベル読者にとっては、正直なところ「地味」の一言で評されてしまうのではないかと思います。
 何よりも、終盤で提示される敵の正体とその背後のからくりも、長編のオチとしては――シリーズ化を視野に入れていることを視野に入れても――パンチが足りないかな、という思いが拭えませんでした。

 作者の目指すところや資質というものもあり、一概にばっさりと言い切るわけにはいきませんが、色々な意味でもったいない作品であったかな、とい印象があります。
 ちなみに本作の登場人物である藤八や芸者の音丸は、作者の時代伝奇第一作「江戸あやかし舟」でも活躍したキャラクター。厳しいことも書きましたが、これからも彼らが怪異に立ち向かう姿を見守っていきたいという気持ちも、また正直な気持ちであります。


 ちなみに、作者は村垣淡路守の弟の子孫、という話を聞いたことがありますが、それって…


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