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2006.07.03

「白髪鬼」 時代を超えて在り続ける怪

 先日ご紹介した「影を踏まれた女」に続く光文社文庫の岡本綺堂怪談新装版の第二弾は「白髪鬼」。「近代異妖編」の全十三話中十話(三話は「影を踏まれた女」に収録)と、「異妖新編」から三話の、全十三話が収録されています。

 綺堂怪談と言えば真っ先に頭に浮かぶ「青蛙堂鬼談」には知名度の点で譲るところのある「近代異妖編」「異妖新編」ですが、内容の充実度、面白さ、恐ろしさといった点では、勝るとも劣らぬレベルかと思います。「木曾の旅人」「西瓜」「白髪鬼」…これまで幾度となくアンソロジー等に収録されてきた名品をはじめとする作品群は、どれも綺堂らしい、前近代的な因果因縁から解放されたところに存在する恐怖や不可思議さに満ち満ちていて、今読んでも、何度読んでも、まったく古びたところのない面白さがあります。

 古びた…と言えば、江戸時代の怪談をベースにしたものが少なくない綺堂怪談、本書の中でも「西瓜」「百物語」などがそれにあたります。どちらも、ベースになっているのは比較的有名な怪談なので、そちらをごらんになった方も多いかと思いますが、しかし並べて読むと、綺堂のそれは単なる現代語訳や翻案に留まらず、原典があろうとあるまいと、一種綺堂節とも言える味わいをきちんと漂わせているのには感心させられます。まさに自家薬籠中の物、と申せましょうか。

 と、古色蒼然たる怪談を甦らせる一方で、(作者にとっての)現代、近い過去を舞台にした怪談にも健筆を振るった綺堂先生。巻末の都筑道夫先生の解説にもあるとおり、本書は明治以降の作品が多いのが一つの特徴と言えるかと思いますが、魑魅魍魎が幅を利かせていた江戸は過去に、文明開化を経た明治はおろか大正の世に至っても、人の世に潜む怪異は尽きず存在することを、本書はまた教えてくれます。
 そしてまた――「指輪一つ」が、作者や同時代の読者にとってあまりに生々しかった関東大震災を描いた「現代」の作品であるのと同時に、平成の世に生きる我々にとっては、当時の貴重な記録の一つとなっているのには、何やら不思議な感慨を抱かざるを得ません。

 何はともあれ、古典怪談好きからモダンホラー(ってのももう死語ですわね)ファンまで、マニアから初心者まで、広く読んでいただきたい作品集であります。

 と、これはマニアのたわごとですが、旧版の表紙絵は堂昌一先生。これがまた、何気ない中に「ひっ」と思わされる素敵に恐ろしい名作で、機会があれば一度ごらんいただきたいものです。


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