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2006.07.06

「るろうに剣心」完全版刊行開始によせて

 和月伸宏先生の明治剣劇アクション漫画「るろうに剣心」の完全版コミックが、今月から全22巻の予定で刊行されることとなりました。週刊少年ジャンプに連載され、漫画としてだけでなく、アニメ化され、海外でも高い人気を誇る本作について、今更くだくだしく述べるのも野暮というものですが、完全版刊行開始を記念して本作について思うところを少し。

 かつて薩長方の人斬りとして恐れられながらも、明治の今は決して人を殺さない不殺を貫く剣士・緋色剣心の姿を描いた本作は、正直なところ、生真面目な時代ものファンからの評判はあまり芳しからぬものがあるかと思います。絵柄がアニメ的過ぎる、アクションが現実離れしすぎている、考証が云々…冷静に考えれば言いがかり同然のものもありますが、まあ時代ものファンにはとてもとても真面目な方が多いので、それもある意味やむなしかもしれません。

 さてかくいう私はと言えば、最初のうちはあまり好きになれなかったんですなあ、この作品。初期のえらく可愛らしい絵柄が正直苦手で、ちょっとなあ…と思っていた時期がありました。 が、後に剣心の無二の戦友となる、背中に「悪」一文字を背負った好漢・相良左之助の登場エピソードまで来て、その印象が一変しました。
 完全版では第一巻に収録されているこのエピソード、雇われの喧嘩屋として左之助が剣心と対決するのですが、戦いの中で、雇われた以上に、彼に剣心と戦う理由があることが描かれていきます。
 実は少年時代に相良総三の赤報隊に参加していた左之助。皆が平等に暮らせる新しい世の到来を信じ、総三と共に希望に胸膨らませていた彼を待っていたのは――偽官軍として処刑された総三の姿。以来、赤報隊を、総三を切り捨てて成立した明治政府に激しい怒りを抱く左之助は、あえて己を「悪」と呼び、無頼の暮らしを送る毎日。そんな時に現れた維新の密かな立役者たる剣心は、彼にとっては憎き新政府の象徴とも言える存在であって…

 と、ここまで読んで当時の私はかなり驚いたものでありました。歴史ファン、幕末ファンであれば常識ながら、少年漫画の題材とするにはまだまだマイナーな赤報隊を出してきたから、というのもありますが、それ以上に驚かされたのは、左之助の行動原理が、その赤報隊の悲劇を背景としてぴたりとはまって、説得力あるものとして感じられたからでありました。
 全く個人的なお話ですが、私にとって理想の、優れた「時代もの」というのは、歴史上のある時代を舞台とするのに必然性があって――そして何よりも、登場人物たちの行動原理が、その時代背景に基づいて説得力ある形で描かれている作品と思っています。どれほど作中の時代考証が行き届いていようが、この条件を満たしていなければ、それは「時代もの」としては××なのです、私的には(もちろん、そんなチンケな条件などブッちぎって優れた作品も山とあるのは言うまでもないことですが)。

 話が長くなりましたが、このエピソードに触れたことで、私にとっては本作が単なる時代ものの皮を被ったファッション時代劇ではなく、作者がこの時代で漫画を描くことに、それなりの意義と愛着とを持っていることが感じ取れた…と、そういうことです。
 その後も、登場するキャラクターのほとんどが、明治という時代、あるいは幕末という時代をしっかりと背負って設定され、作中で行動していた本作、その辺りのことを考えれば――他のメディアであってもその辺りがいい加減な作品が山とあるわけで――少年漫画として、という一定の限界はあるかもしれないものの、「時代もの」としてもっと本作をポジティヴに評価してもよいのではないかな、と私は思っています。

 と、結局くだくだしく痛々しい話を書いてしまいましたが、今回の完全版刊行を機に、少しでも多くの人が「時代もの」としての本作の魅力に触れていただければ、と心より願う次第です。


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