« 「大剣豪」 パロディーという現実認識 | トップページ | 「織江緋之介見参 孤影の太刀」 過去と現在を貫く妄執 »

2006.08.04

「BEAST OF EAST」 眩暈するほどの絢爛豪華な伝奇絵巻

 つい最近、岡本綺堂の「玉藻の前」を読み返していて、この作品をまだ紹介していなかったことを思い出しました。天才絵師・山田章博先生によるジャパニーズ・ファンタジーであります。

 本作の舞台となるのは平安時代、かつて印度・中国で猛威を振るった伝説の妖魔・金毛白面九尾の狐に魅入られた少女・藻と、彼女の幼なじみの少年・鬼王丸が物語の中心となります。
 鬼王丸に助けられながら、京の外れで病身の父と静かに暮らしていた藻が、ある日、古塚に封印されていた魔物に魅入られたのが悲劇の始まり。見違えるほどの妖しい魅力を身につけた藻は、玉藻前と名を変えて宮中に侍ることになります。一方、藻の背後に魔物の影があることを知った鬼王丸は、彼女を救いださんとしますが――

 と、ここで気づいた方もいるかと思いますが、この基本設定は、冒頭で名を挙げた綺堂の「玉藻の前」とほぼ同じ。少年の名こそ異なるものの、基本的にはオマージュと呼んで差し支えはないでしょう。
 が、本作が単なる綺堂作品の漫画化かと言えば、もちろん「否」。基本設定の部分が同じだけで、後は全く本作独自の、まさに眩暈がするほどの絢爛豪華な伝奇世界が展開されます。

 何せ、この物語に登場する京の都は、晩屍衣(バンシー)や互武倫(ゴブリン)と言った怪物たちが出没するファンタジックな世界。そこで活躍するキャラクターたちも、賀茂光栄に安倍晴明、平将門に藤原純友、菅原道真、芦屋道満と、虚実入り乱れたオールスターキャストであります。
 そしてその世界を、キャラクターたちを描くのが、あの山田章博なのですからたまらない。どこかレトロで、同時にどこかモダーンな氏の筆は、古今東西、様々な世界が入り交じった、猥雑でパワフルで魅力的な物語世界を描いて余すところがありません。

 そして主人公たる鬼王丸もまた、ひょんなことから知り合った異国からの怪人・快人たちを仲間にして大暴れ、物語世界の圧倒的なパワーに対して一歩も引かずに活躍してくれるのが頼もしい限りです(しかし鬼王丸と言えば、劇中にも登場しているあの人物の幼名なわけですが…さて)。

 と、歴史をある程度知っている方であれば、本作の登場人物たちが本来であれば一同に会するはずがない――一言で言えば生没年が重なっていない人物同士がいる――のですが、それをとやかく言うのは野暮というものでしょう。それで物語の面白さが削がれることなどないのですから…(というより、冒頭に提示される元号等を見るに、作者が敢えてやっているのは明白かと)。

 ただ一つ、本作の残念な点を挙げれば、それは連載が極めてスローペースなことでしょうか。基本的に単行本派なので、もう何年続刊を待っていることやら…いやはや勿体ない。


「BEAST OF EAST 東方眩暈録」第1~2巻(山田章博 幻冬舎バーズコミックス) 第1巻 Amazon bk1/第2巻 Amazon bk1

関連記事
 玉藻の前

|

« 「大剣豪」 パロディーという現実認識 | トップページ | 「織江緋之介見参 孤影の太刀」 過去と現在を貫く妄執 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/11251190

この記事へのトラックバック一覧です: 「BEAST OF EAST」 眩暈するほどの絢爛豪華な伝奇絵巻:

« 「大剣豪」 パロディーという現実認識 | トップページ | 「織江緋之介見参 孤影の太刀」 過去と現在を貫く妄執 »