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2006.08.15

「にっかり 名刀奇談」 刀身に映る人間模様

 奇譚もの・歴史ものを得意とする東郷隆が、戦国時代を舞台に、名刀と戦国武将との関わりを描いた短編集です。時に奇譚的な味わいで、時に史伝的な味わいで、八腰の名刀にまつわる八つの物語が収められています。

 登場する名刀は、「にっかり」「すえひろがり」「竹俣」「かたくり」「このてがしわ」「伊達脛巾」「石州大太刀」「まつがおか」と、非常にマニアックというか渋いチョイスですが、これが実に面白い。どの作品も、刀が語る戦国裏面史・意外史といった趣のある、バラエティと陰影に富んだ物語でありました。

 個人的に特に面白かったのは「にっかり」と「このてがしわ」の二編でしょうか
 前者は、享保の頃に武芸好きの御家人たちが刀剣談義をする中で、一人の老僧が「にっかり」の由来を語るという、ちょっとひねった趣向が面白い作品。
 にっかりといえば幽霊を斬ったとか、化け地蔵を斬ったなどのいかにも伝奇チックな伝説がありますが、本作ではそれをうまく取り込みつつ、浅野長吉配下の軽輩がにっかりでもって奇怪な化生と戦う冒険談の中に、秀吉配下の武将たちの暗闘模様が描き込まれる構成が実にうまいものだと感心すると共に、いかにも作者らしい人を喰ったようなオチが大いに愉快でした。

 そして後者は、細川幽斎が足利将軍家から拝領した名刀「児手柏」を通して、幽斎の生涯を描く味わい深い作品。
 細川幽斎と言えば、足利将軍家に仕えながらも、その後信長-秀吉-家康とことごとく歴史の勝者の下にあった傑物とも侫人とも取れる人物でありますが、しかし本作では、有り余る才を持ちながら、戦国乱世の中で生き抜くために表裏ねじけた生き方をせざるを得なかった幽斎の韜晦された心根が、「児手柏」の変転する運命と共に描かれており、読後に何とも言われぬ哀しさと切なさが残る印象的な作品となっています。
(それにしても幽斎というと古今伝授の印象が強かったのですが、剣では卜伝と伊勢守に師事し、若い頃から好んで牛と力比べしたとは、いやはや何とも)

 もちろん、その他六編も、名刀を物語の中心に置きつつも、それを持つ者・欲する者、遣う者に斬られる者それぞれの人間模様を描き出しており、それぞれに興味深い内容でありました。
 考えてみれば名刀というものは、元来が人を斬る道具でありながら、武士の魂の象徴となり、伝説中の妖魅を退ける利刀となり、贈り贈られして人の間をつなぐ物となり、はたまた後世の人々から見れば美麗な芸術品となり…と、時と場所によって様々にその性格を変える存在。その様々な性格を名刀の刀身に映る人間模様もまた、実に様々で、それだけにまた魅力的ということなのでしょう。


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