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2006.08.18

「天を行く女」 若さま侍、伝奇世界を行く

 これは前にも書いたかもしれませんが、私が一番あこがれる、なれるものならなってみたいと思う時代もののヒーローは、城昌幸先生の「若さま侍捕物手帖」(「若さま」でも「若様侍」でもないぞ!)シリーズに登場する若さまであります。
 この若さま、普段は柳橋の船宿・喜仙の二階で看板娘のおいとを相手に、日長一日ゴロゴロと屈託なく過ごしている呑気な人物ですが、一度難事件怪事件が起きれば、そのあらましを聞くだけで見事事件を解決してしまうという名探偵。当然のことながら(?)由緒ありげな人物ではあるのですが、その正体は一切謎、葵の御紋を平然と身につけることから徳川家ゆかりの人物とも思えますが、これは正体不明の方が面白いということでしょう。

 さてこの若さま、作品数は二百を超えるという巨大なシリーズ――あまりに膨大なためにいまだシリーズの全貌が見えないほど――で、長きに渡って長編短編織り交ぜて活躍してきたのですが、長編と短編で物語の趣向が大きく異なっているのが面白いところ。短編は、若さまが居ながらにして難事件を解決してしまう、いわゆる安楽椅子探偵ものとも言うべき推理ものですが、長編ではぐっと伝奇色・活劇色が強くなる傾向にあり、例えば以前に光文社文庫から刊行されていた「百鬼夜行」などは太田道灌の隠し財宝を巡る一大攻防戦を描いた作品でありました。

 そして、この長編「天を行く女」も伝奇色の極めて強い作品です。
 物語は、江戸城の将軍の寝所に、夜な夜な怪しの化け物が出没するという怪事件から始まります。常識外れのこの事件の背後には、島原の乱の残党にして、異国渡りの念術を操る一党の影が。将軍家に怨みを持つこの一党、しかし、本朝における念術宗家の印可を巡り、二家に分かれて相争う状態にあるのでした。この錯綜した状況に乗り出してきたて若さまは、果たして長きにわたる因縁の糸を断ち切ることができるのか!?
 と、あらすじだけ見ると伝奇アクション活劇になりそうなのですが、そうそう素直に行かないのがこのシリーズの、若さまというキャラクターの楽しいところ。

 普段は鷹揚な人柄で一種平和主義のようでありながら、一度刀を抜けば人並み外れた腕の冴えを見せる若さま、いよいよここで破邪顕正の太刀を振るうのか!? と思いきや、やはり若さまは若さま。何とも暢気で人を食ったやり方で事件解決に向けて活躍します(その顛末についてはさすがにここでは書けませんが…)

 結局のところ、推理ものであっても伝奇ものであっても若さまはどこに行っても若さま。ああ、若さまにとっては国を揺るがす陰謀も、町中で起きたささやかな(?)怪事件も同じレベルの出来事なのだなあと、妙なところに感心してしまいましたが、このマイペースさ、屈託のなさこそが若さまの最大の魅力であり、私が非常に好ましく思う所以であります。

 ちなみに本作、現時点では絶版となっておりますが、つい最近まで普通に書店に並んでおりましたし、古本屋で見かける確率もかなり高いので、興味をお持ちの方は是非一度手に取っていただきたいと思います。そして若さまにハマるのだ!


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