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2006.08.23

「闇の土鬼」 第三の術、そして骨肉の争い

 「伊賀の影丸」をはじめとする時代漫画の分野でも数々の名作を残している横山光輝先生ですが、その中でも、ファンの間では非常に評価が高いにもかかわらず、一般には知名度が低いというのがあまりに残念な、隠された名作がこの「闇の土鬼」。今般、コンビニ売りコミックでも登場とのことで、援護射撃という趣も込めてここに紹介します。

 時は三代将軍家光の頃。隻眼の少年・土鬼は、育ての父であり武術の師である大谷主水が謎の一団に襲撃され、瀕死の重傷を負ったことから、主水の秘密を知ることになります。
 主水は、幕府成立期に徳川家に仕えて暗躍した暗殺者集団「血風党」の元メンバーであり、幕府から疎まれ、闇に生きるうちに血に飢えた殺人集団となった血風党の堕落を嘆いて党を脱退したのでありました。逃避行の最中、間引きで土中に埋められながらも驚異的な生命力で生き延びた赤子――すなわち土鬼――を助けた主水は、血風党の追求を逃れつつ、土鬼に血風党の裏の武芸を仕込んでいたのでした。
 かくて父を殺された土鬼は、血風党とその首領・無明斎に孤独な死闘を挑むことを決意。一方、幕府においても、目に余る動きを見せ駿河大納言忠長(あの忠長様です)に近づく血風党を滅ぼすため、松平伊豆守は土鬼を利用せんと策を巡らせ、ここに土鬼・血風党・幕府の三つ巴の死闘が展開されることとなります。

 元々、ストイックなキャラクターの多い横山作品でありますが、その中でも土鬼は横山流ストイシズムの権化、一種の戦闘マシーンともいうべき存在。養父仕込みの戦闘術は、七節棍のような派手なアクションもあるものの、基本はリアル指向の超実戦流儀(雪山であらかじめ温石を準備して万全の体制で戦いを挑むシーンなど実にイイ)で、暗器(暗殺用の隠し武器)を主体とした血風党や終盤に登場する柳生一門との死闘は見応え十分、とにかく戦いに戦いの続く作品ですが、敵味方のバリエーション豊かな武術アクションにより、全く飽きるところがありません。

 言ってみれば本作は、剣術でもなく忍術でもない第三の術、「武術」を中心に据えた時代アクションというべきであり、ガチガチのリアリズムでも荒唐無稽なフィクションでもない、抑制とケレンの効いたアクションを創出してみせたのは、流石は時代漫画の巨匠の業と唸らされた次第です。

 その一方で、物語的にも深いものを見せる本作。死闘を繰り広げる土鬼と血風党は、元はといえば同じ流派を操る者たち。そしてまた、彼ら血風党を根絶やしにするために幕府が動かす忍者、中盤に登場する宮本武蔵、更には柳生十兵衛率いる柳生一門も、それぞれが優れた能力を持ちながらも、権力の走狗として利用されていくという点では共通の存在であります。
 一見血湧き肉躍るアクション活劇は、しかし、見方を変えればそうした権力に消耗されていく異能者たちの骨肉の争いであって、もちろんそれは例えば「伊賀の影丸」の忍者トーナメントも同様なのですが、その悲哀がより前面にされるような――そしてそれでいてアクション漫画としての面白さを損なわない――ストーリー展開の巧みさにより、単なる「ああ面白かった!」というだけではない、胸に残る読後感があるのです。

 そしてその構成の妙が、本作終盤の、ストーリーのコペルニクス的大転換につながっていく辺り、同じく異能者たちの悲痛な戦いを描いたSFアクションコミックの名作「地球ナンバーV7」に通じるものを感じる…というのは言い過ぎでしょうか。

 何はともあれ、時代アクション漫画の名作として記憶されるべき本作。時代劇ファン、横山光輝ファン、あと「ジャイアントロボ」で初めて土鬼の存在を知った方、そんな方々にはぜひ一度触れていただきたい作品として、強くお薦めいたします。


「闇の土鬼」(横山光輝 講談社KPCほか) Amazon

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